2024/07/02 のログ
ご案内:「医療施設群 委員会用病棟」に伊都波 悠薇さんが現れました。
伊都波 悠薇 >
ひといきついた。
ひとまず、いろいろが片付いた、とする。
解決していないものもしたものとして、着替える。
汗をかいたから、用意して貰った濡れタオルで身体を拭いて。
「ふーっ」
気持ち良さに息を吐いて、過ごしていた。
ご案内:「医療施設群 委員会用病棟」に黒條 紬さんが現れました。
■黒條 紬 >
「お邪魔しまーす」
廊下を通る、足音。柔らかなノックと共に、
続いて聞き覚えのある声が、ドアの向こうから響いてくる。
紫髪の少女――黒條 紬の声であった。
「やっぱり寝ちゃってますかね……」
つい先程軽く連絡を入れていたのだが、返信はなかった。
寝ていたのかもしれない、と。
そう思った紬は、ドアの向こうでうーん、と。
腕組みをしていた。
伊都波 悠薇 >
「わぴゃ!?」
ドンガラガッシャーン。
驚きすぎて、濡れタオルを洗う桶を落としてしまった。
どどど、どうしようと、わたわたすると、服が変になって半脱ぎになったりして、大変な格好に。
「きゃん!?」
そして、つい、悲鳴をあげてしまった。
変に捻った、のだ。
■黒條 紬 >
「……な、何事ですかっ」
流石に何かが落ちた音と悲鳴が上がれば、
胸元のポケットに手を入れ、
鋼糸を収納したグローブを中で塡めると、
急ぎドアを開ける。
「……って、へ?」
目の当たりにしたのは、半脱ぎの友人。
思わず、間抜けな声を出してしまう紬。
「しゅ、襲撃ですか……?」
そんなことをぽつ、と口にしながら周囲を見渡す。
部屋内に荒らされた様子などはない。
そのことを確認して。
「そういう訳でもなさそうですね……
であるなら、私が返信を貰ってないのに、急に来てしまったのが
悪かったですかね……驚かせてしまったようですみませんっ」
以前に来訪した時のことを思い出しつつ、そう口にして。
そのまま、桶を拾うべく病室内へと入っていく。
伊都波 悠薇 >
「…………」
てんてんてん。
言葉が出てこない。魚の口パクのように動かして、顔が真っ赤になっていく。
なんてことないようにしている友人? に、どうしてそんな冷静なのだろうという疑問が浮かんで、消えた。
そんなどころじゃない。
「び、びっくりして、その、おとしちゃいました」
びゅん、と露になった鼠径部とかを隠して。
「お、お見苦しいものをお見せしました」
ぷしゅーっと、湯気だらけの顔を手で覆った。
■黒條 紬 >
「……いや、まぁご無事なようで何よりですが……
私でよろしければ、お手伝いしますよっ」
襲撃でないと分かれば、ある種の硬さは失われてきて。
桶を拾いながら、すっ、と悠薇に近付いて。
艷やかな蒼紫の髪を揺らしながら、にこり、と困ったような笑顔を見せたものの。
その白く瑞々しい頬――肌は、悠薇のあられもない姿を間近に見ることで、
少しだけ赤くなっていって。
「えーっと、その……そちらのお手伝いは要りません、よね?」
じー、と横目で身体の方を軽く見やった後に、改めて悠薇の方へ目線を戻して、にこり。
もしかしたら一人でシャワーが浴びられない状況で、
濡れタオルだけ渡されて身を清めていたのかもしれない、と。
そう感じたからこそ、提案したのであろうか。
伊都波 悠薇 >
「へあ!?」
お手伝い、といわれると某3分の巨人のような声が出てしまった。
ててて、手伝い!!?
おおお、おちつけ。いま、おちついたところだろ、こんなところで、妄想に耽っていてはだめだ。
「ひっ、ひっふー」
息を吐いて。
「だ、大丈夫、です。あ、あとでもいっかい、します、ので」
ぎこちなく、笑みを返したあと。
少しの沈黙。き、きまずい……
「あ、あの! 先日は、ありがとうございました」
改めてお礼をして、空気を変える作戦。
■黒條 紬 >
「ははぁ、あとでもう一回……。
私も入院した時は何度もやってましたし、
気持ちは分かりますけど、やり過ぎには注意ですよっ!」
何度も身体を拭くなんて、綺麗好きなのだなぁ、とでも合点したのだろうか。
そのように口にすれば、紬は人差し指をピンと立てるのだった。
「……」
謝罪を受けて、はぁ、と一つ息を吐く紬。
もう事件直後に言うべきこと、怒るべきことは伝えた訳で、
彼女からすればもう、やるべきことは決まっていた。
「ほんっっと、無事で良かったですよっ! 悠ちゃん!」
そう言って、ベッドの横へすっ、と近付いて。
腰を屈めて視線を合わせれば、細腕で抱きついて、嬉しそうに笑うのだった。
「ほんとだったら、友人が無事だったことを喜ぶべきだったんでしょうけど……。
いや、なんかごめんなさい……。
あんな話をした後だったから、危ないことしてほしくないなーって……
気持ちの方が強くなってしまって……色々言っちゃいましたけど……」
こちらも謝罪。これでおあいこだ。
伊都波 悠薇 >
よしっ、なんとか気まずい空気はどこかへいった!
ぼっちにしては、うまくやった。
計画通り。
「でぇえええ!?」
だ、だからきょりぃ!?
スキンシップぅ!!?
「わわ、わぷ。いえ、その……私がものぐさだっただけなので。ほんと、黒條さんや姉さんだったら起きなかったことですから……その、きに、なさらず」
なんとか途切れ途切れに返答した。
■黒條 紬 > 「病院でずっと寝てたら気も滅入るでしょうしねっ!
ついでに元気チャージ、元気チャージっ」
そんなことを言いつつ、ぎゅ、ぎゅ、として。
ようやくベッド脇の椅子へと座る距離感バグ女であった。
「……悠ちゃん、その。
ものぐさ、というと?」
途切れ途切れの言葉。
そこへ、首を傾げて問いかけて、
ようやく会話を始めていく。
伊都波 悠薇 >
「あ、えと。巡回してたら、スリにあってしまって」
ぽつぽつと、話し始める。
椅子に座ってくれたことにほっとしながら。
「子供が、逃げたのを追っていたらいつの間にか、落第街に。自分の、不注意で」
このあたりは、本当に自分じゃなければと思う。
「私じゃなければ、落第街に入る前に捕まえられたでしょうから」
■黒條 紬 >
「それは災難でしたし、辛かったでしょうね」
紬としては、
そもそも病み上がりで見回り、というのも如何なものか、とは思ったのだが。
それは姉の凛霞の方がかなり燃えに燃えていたところだったからか、
彼女自身はそのことについて深く言及するつもりはないようだった。
「……でも、ちょっとだけ安心しました。
悠ちゃんが自分の意思で、落第街に足を踏み入れたのではないかと、
ちょっと心配していましたので」
テンタクロウの件がある。
憧れの対象は姉だ、とは言われても、紬の中ではどうしても諸々の言動から、
心配が拭いきれていなかったのだ。
「誰だって取り逃す時はありますよっ!
たまたま、当事者が悠ちゃんになってしまっただけで……。
それがたとえば私でも、同じ結果になっていたかも……
いや、もっと酷い結果になっていたかもしれませんしっ!」
最後の発言に返す時には、
真剣な眼差しで、少しばかり語気が強まった。
決して怒っている訳ではないが、
それでも必死に眼の前の少女(友人)と会話をしようという、
その気持ちが込められた色が感じられるものであった。
伊都波 悠薇 >
「あはは、そう、言ってくれるのは嬉しいですけれど」
間違いなく、言える。
「少なくとも、姉なら絶対大丈夫でしたよ」
その言葉は、淡々と。どこか、冷たくも聴こえる。
寒気さえ感じる、言葉だった。
「……実は、私、つい最近なんです」
苦笑するように。
そう、これは罪の、暴露だ。
「自分が、まともにいろいろ、できるようになったの。だから、多分、黒條さんが思っているより
私は酷い結果を、起こしてしまうんです」
■黒條 紬 >
姉なら絶対大丈夫。
紬は、その言葉を否定することはしなかった。
できなかった、と言ってもいい。
確かにあの人ならば、スリの子どもをさっさと捕まえるくらいはわけない、だろうし。
こうして紬が、此処にやって来たのは、謝罪を受ける為などではない。
様子を見ることに加え――励ましにやって来たのだ。
だが、その励ましは、虚飾ばかりを並べ立てて行うつもりは、
少なくとも彼女としては無いらしかった。
「つい最近? 最近、何かがあったんですか……?」
そう、友達、などと言っても。
彼女のことはまだまだ知らないことばかり。
特に、こうして直接話して出てくるものなどは。
伊都波 悠薇 >
どうして。
今彼女に、こんな話をしているのかといえば。
贖罪だ。死んでしまった、子供への。
自分がしがみついていなかったら。
姉の言う通りにしていれば。
『風紀委員』じゃなければ。
姉に、ぶつけてはいけない、罪を。
姉が頼ったという、女性に。
暴露して、楽になりたいから。
「私は、姉に置いていかれたくないことを願って、それが、異能力として宿ったんです。
『天秤』。姉が、起こった逆のことが、私には釣り合いとして身におこる。
姉は多大な才能があります。なら、その、逆は?」
懐かしい。
これに気づいたとき、私は歓喜して、姉は絶望した。
「それが、最近。姉のお陰で機能しなくなったんです」
ーーせいで、と、思うときもあるけれど。
「だから、ようやくテストで0点を取らなくなったり、なったんです」
■黒條 紬 >
もっと早く捕まえられていれば。
そこに込められた意味に気づかない紬ではなかった。
しかし、命の問題だ。簡単な言葉で、慰められるものではない。
仕方がなかったね、で終わらせられたら、どれだけ良かったか。
だからこそ紬は、『他の誰かだって、私だって、そうなっていたかも』などと。
そのような言葉を投げかけるに留まった。投げかけるしかなかった。
懺悔室は、時に嫌気が差すくらいに真っ白い壁で、二人の会話を包みこんでいる。
ふぅ、と。紬は少しだけ俯いた後に、小さく息を吐いて、改めて前を見る。
「そんなことがあった、いえ。
そういうことが起きているんですね」
この話は、現在進行系だ。
真意の全ては掴めないまでも、彼女が必死に伝えようとしてくれていることは理解できる。
だからこそ、しっかりと向き合って話を聞いているのだ。
「つまり、その『天秤』の能力で、凛霞さんと悠ちゃんは対極の存在になっていて。
それが何かしらの理由で機能しなくなった今、悠ちゃんは異能の制限がなくなって、
様々な面で成長をすることが、できている、と。
逆に言えば、今までは鎖に縛られた状態だったと、そういうことでしょうか」
人間関係に起因する異能の事例は、聞いたことがある。
それでもこのような異能の情報は、初耳だった。
齟齬がないように、相手の言葉を噛み砕きながら、問い返して話を聞いていく紬。
伊都波 悠薇 >
「そんな感じです。姉は喜んで、くれたんですけど。
結構、『天秤』ってスゴくて。姉が出来ないことが出来るんですよ。例えば、姉は人を生かすことに特化してたりしますが、殺すことに特化する、ことができたりして」
そうやって、釣り合いをとって。
「隣にいれたらなって、思ってたんですけど。それもなくなって、自分がスゴく凡人だって気付いて」
右手と左手を合わせて、すりすりと擦りあわせる。
手が冷たかった。
「だから、ちょっと焦ってました。姉に風紀委員やめたらって言われて、姉にはできない方向で頑張ろうと思って頭を捻って。『対話』、なんてことしようとして」
でも。
「自分が傷つくのは、慣れてますから。どうでもいい。でも」
あの場では追い詰められてたから、考えなかった。
でも今は、時間がありすぎた。
「見殺しは、違いますよね」
他人が死ぬのは、辛いを、通りすぎて。
絶望で。
どう考えても。
「私のせい。お姉ちゃんを、憧れ続けてなければ、あの子は死ぬことなかった。成長すればいつかなんて、思わなければ」
きゅっと唇を、噛んだ。
たらりと、赤が、落ちてシーツを汚した。
■黒條 紬 >
「……両極端であったからこそ保てていた均衡が、崩れてしまった。
それで、完璧に思われていた、両隣に居た二人の関係性が、崩れてしまった、と。
悠ちゃんは、そう感じているのでしょうか」
自身の気持ちとも向き合いながら、
紬は時折頷いたり、相槌を打ったりしながら、
彼女の話を受け入れていく。
擦り合わされる、悠薇の両手を見る。
紬の内側にある何かが、確かに軋む音がした。
――やっぱ、思ったより深入り、しちゃってますよねぇ。
こういった話は、スラムや落第街なら当たり前のように転がっているはずなのに。
公安委員として違反部活に接している自分は、聞いたことがない類の話ではないのに。
それでも、いつもより心がきゅっと痛むのは。
「それは、見殺しなんかじゃない。
憧れることだって、悪いことじゃない。
悠ちゃんは――」
本当は、もっと言葉を並べ立てることだって、できた。
それでも紬は、口をつぐんだ。
それは違う、と否定ばかりしても、きっと意味は薄い。
こうじゃないか、と一つの考えを伝えたところで、支えにならないかもしれない。
それを受け入れるだけの器は、今の悠薇という少女には備わっていないように
思えた。
それを、彼女なりに理解したからだろうか。
小さな小さな少年の命。
それでも、ちっぽけな少女一人が背負うのは難しい。
分かりきっていることだ。
それなら。
紬の手は、いつの間にか動いていた。
先ほどまでの、浮ついたものとは全く異なる、穏やかなその手。
今にも壊れてしまいそうなものに、そっと重ねて、支えるように。
手を、重ねるべく――触れようとする。
一人で震える貴女に、ほんの少しのあたたかさを渡すことくらいは、できるから。
それはほんの少しの温かさかもしれないが、
いろんな言葉を並べ立てるよりもそれは、きっと。
伊都波 悠薇 >
「私じゃない」
才能があるのは。
「私じゃない」
誰かを助けられるのは。
「私じゃない、私じゃない。私、わたし、わた……ーー」
彼処にいるべきだったのは。
風紀委員であるべきだったのは。
生きているのは。
あの場で横たわるのは。
ーー錯乱。
しかけた、とき。手が重なった。
「お姉ちゃんは、怒る。私が頑張っても、怒る。やり方が違うの? 選んだのが違うの? なんで、私はいつも、上手く行かないの?」
それは。
天秤を身をもって、あると実感したあの日と同じ状態だった。
「頑張っても、形にならない。風紀委員になれない。ホントなら身を犠牲にしてでも守らなきゃいけなかったのに!
私だけ生き残った!! 誰かを殺そうとした!! なのに、安心した。生きてたよかったって、逃げれて良かったって」
暖かいから、それが余計に。
痛かった。居たかった。
「異能なんてあったって! なにも、私にはなにもできない! なにも、プラスに、できない。どうして」
私は。
「お姉ちゃんじゃないの?」
■黒條 紬 >
全てを聞いた。
彼女の心の奥底にあった言葉を、聞いてしまった。
しかしそれは風紀委員の紬にとって、間違いなく望んだことだった。
その手を重ねたその瞬間から。
―――
――
―
まるで、子どもだった。
彼女の心の内。異能の効力を経て、この心境に至るまでの経過。
胸が、心が、重くて。痛くなった。
でもそれ以上に、胸の内にこみ上げるものがあった。
「これは、私の身勝手な思いです。本当に、ただの、我儘な思いなんです。
でも私は悠ちゃんの我儘な言葉を聞いたから……聞かせて貰ったから……。
私の言葉も、聞いて欲しいと思います」
そこまで口にして、私はすう、と息を吸い込んだ。
そうして、一度吐いて。眼の前の少女の目を、しっかりと見つめた。
「悠ちゃんに思うことがあるのは、分かります。
異能のこと、凛霞さんのこと……そして、あの子のこと。
沢山沢山ありますけどっ! それでも!」
嘘だらけの私だけれど。
それでも、この子と友達ごっこをしたつもりは全然ない。
だからこそ、放っておけなかったし、いつの間にか、言葉も。
胸の内から勝手に出ていた。
■黒條 紬 >
「私は、伊都波 悠薇が帰って来てくれて良かった、と思います。
帰ってきてくれたのが、伊都波 悠薇で良かった、と感じてます。
せっかくお友達になれたのに、これからお話沢山しようって思ったのに。
いきなりお別れなんて、嫌ですから」
一呼吸を置いて。
そうして私は、一番伝えたかったことを、改めて伝えることにした。
「だからその――悠ちゃん、帰ってきてくれて、ありがとう」
それだけはしっかりと伝えた後に、少し視線を外す。何となく、何となくだ。
それでもこれだけは、と。
もう一度だけ前を向いて、我儘を伝えきることとした。
「……思うことは、沢山あるかと思います。
簡単に整理がつく話でもないですよ。
でも、そういう時に……一緒に悩んだり、苦しんだり、
逆に……楽しんでしまったり、そして前を向いたり。
色々するのが、きっと友達だと思うから……。
だからこそ、改めてこれは……めちゃくちゃ我儘、なんですけど。
私を伊都波 悠薇の友達にしてくれませんか。
困った時は、いつでも頼ってくれれば良いんです、今回みたいに。
そんなに……辛そうにしてるのに、放っておけないですよ」
唇から滴る血を、そっと眺めて、目を細めた。