2024/08/10 のログ
ご案内:「医療施設群 一般病棟」に五百森 伽怜さんが現れました。
■五百森 伽怜 >
穏やかな陽光が窓から差し込む。
一般病棟の廊下を、五百森は自分の両足で歩いていた。
松葉杖を使って歩き回るのも、もう随分と慣れてきた。
彼女が目指すのはリハビリテーション室だ。
入院中に、何度も通ったこの廊下を通るのも、今日が最後だ。
リハビリテーション室では何人もの生徒達が、理学療法士のサポートを受けながら、身体を動かしていた。
少し前までは、五百森もその中に居たのだが、今はもうサポートを受ける必要はない。
怪人テンタクロウと葉薊 証の戦いに巻き込まれ、
大怪我を負った彼女は、
一時期はもう二度と自分の足で歩けないのではないか、
とも言われていた。
それでも、学園の医療技術と、持ち前の自然治癒力、
そしてめげずにリハビリを続けてきた成果が、
完全復帰への道を開きつつあったのだった。
■五百森 伽怜 >
「……こんにちはッス!」
視界の端に映る、患者の車椅子を押している竜人。
彼女が、今まで五百森の面倒を見てくれた理学療法士の
ヴァルサラだ。
『おお、五百森ちゃん。
もうリハビリ室には用事ないやろ?』
笑いながら気さくに話しかけてくる彼女の翼が、
ぱたぱたと踊っている。機嫌が良い時は決まってこうだ。
「いやぁ、今日が退院の日ッスから」
五百森はそう口にして、数歩近付いた。
車椅子に座っている男子生徒からは、少し目を背けつつ、だ。
サキュバスの魅了の力を抑える薬は今朝もしっかり飲んでいるが、それでも気を抜くことはできない。
『そかそか、今日が退院の日やったか』
自慢の赤髪を撫でて男子生徒にすまんな、と断りを入れてから、
ヴァルサラは歩を止めた。
■五百森 伽怜 >
「そうッス。
ほんと、今日までありがとうございましたッス」
ぺこり、とお辞儀をする五百森。
一人では抱えきれない不安や痛みがあったが、
彼女の的確なリハビリ指導と、
楽しいお喋りにどれだけ救われたことだろうか。
その感謝を伝える為に、今日はこの場へ足を運んだのだった。
『ええって、お礼なんか!
仕事でやっとるだけや』
いやいや、と立てた手のひらをスイスイ、と横に振るヴァルサラ。
『これからは気ぃつけてな。
もうこのリハビリ室の世話、ならんようにしときや。
新聞記者やったら危ない橋渡ることもあると思うけど、
ほどほどにな。
ええな? ヴァルサラちゃんとの約束やでぇ!』
両腰に手を当てて、豪快に笑うヴァルサラ。
口から覗く鋭い牙は、真っ白だ。
『このヴァルケイル・サラーン・ドラクルウ。
顔あわせんようになっても、関係あらへん。
いつでもあんたを応援しとる』
ふっと優しい笑みを見せるヴァルサラ。
それに対して、笑みを返す五百森。
「それじゃ、あまり邪魔しちゃ悪いッスから、この辺で!
あ、その、リハビリ頑張ってくださいッス!」
改めてもう一度、ぺこりとお辞儀をする五百森。
車椅子に座っている男子生徒にも、そんな風に伝えて。
松葉杖と共に、五百森はリハビリ室を去っていくのだった。
今日からまた、学園を歩き回れる。
そう思うだけで、
まだ少し重い身体が、軽くなるように感じられた。
リハビリ室を出て、いっぱいの陽光を真っ白い制服に受ける。
澄んだ青空と輝く白が、眩しく辺りを照らしていた。
常世学園は、夏真っ盛りだ――。
ご案内:「医療施設群 一般病棟」から五百森 伽怜さんが去りました。