2024/08/10 のログ
ご案内:「医療施設群 一般病棟」に五百森 伽怜さんが現れました。
五百森 伽怜 >  
穏やかな陽光が窓から差し込む。
一般病棟の廊下を、五百森は自分の両足で歩いていた。
松葉杖を使って歩き回るのも、もう随分と慣れてきた。

彼女が目指すのはリハビリテーション室だ。
入院中に、何度も通ったこの廊下を通るのも、今日が最後だ。

リハビリテーション室では何人もの生徒達が、理学療法士のサポートを受けながら、身体を動かしていた。
少し前までは、五百森もその中に居たのだが、今はもうサポートを受ける必要はない。

怪人テンタクロウと葉薊 証の戦いに巻き込まれ、
大怪我を負った彼女は、
一時期はもう二度と自分の足で歩けないのではないか、
とも言われていた。
それでも、学園の医療技術と、持ち前の自然治癒力、
そしてめげずにリハビリを続けてきた成果が、
完全復帰への道を開きつつあったのだった。

五百森 伽怜 >  
「……こんにちはッス!」

視界の端に映る、患者の車椅子を押している竜人。
彼女が、今まで五百森の面倒を見てくれた理学療法士の
ヴァルサラだ。

『おお、五百森ちゃん。
 もうリハビリ室には用事ないやろ?』

笑いながら気さくに話しかけてくる彼女の翼が、
ぱたぱたと踊っている。機嫌が良い時は決まってこうだ。

「いやぁ、今日が退院の日ッスから」

五百森はそう口にして、数歩近付いた。
車椅子に座っている男子生徒からは、少し目を背けつつ、だ。

サキュバスの魅了の力を抑える薬は今朝もしっかり飲んでいるが、それでも気を抜くことはできない。

『そかそか、今日が退院の日やったか』

自慢の赤髪を撫でて男子生徒にすまんな、と断りを入れてから、
ヴァルサラは歩を止めた。

五百森 伽怜 >  
「そうッス。
 ほんと、今日までありがとうございましたッス」

ぺこり、とお辞儀をする五百森。
一人では抱えきれない不安や痛みがあったが、
彼女の的確なリハビリ指導と、
楽しいお喋りにどれだけ救われたことだろうか。
その感謝を伝える為に、今日はこの場へ足を運んだのだった。

『ええって、お礼なんか!
 仕事でやっとるだけや』

いやいや、と立てた手のひらをスイスイ、と横に振るヴァルサラ。

『これからは気ぃつけてな。
 もうこのリハビリ室の世話、ならんようにしときや。

 新聞記者やったら危ない橋渡ることもあると思うけど、
 ほどほどにな。
 ええな? ヴァルサラちゃんとの約束やでぇ!』

両腰に手を当てて、豪快に笑うヴァルサラ。
口から覗く鋭い牙は、真っ白だ。

『このヴァルケイル・サラーン・ドラクルウ。
 顔あわせんようになっても、関係あらへん。
 いつでもあんたを応援しとる』

ふっと優しい笑みを見せるヴァルサラ。
それに対して、笑みを返す五百森。

「それじゃ、あまり邪魔しちゃ悪いッスから、この辺で!
 あ、その、リハビリ頑張ってくださいッス!」

改めてもう一度、ぺこりとお辞儀をする五百森。
車椅子に座っている男子生徒にも、そんな風に伝えて。

松葉杖と共に、五百森はリハビリ室を去っていくのだった。
今日からまた、学園を歩き回れる。

そう思うだけで、
まだ少し重い身体が、軽くなるように感じられた。

リハビリ室を出て、いっぱいの陽光を真っ白い制服に受ける。
澄んだ青空と輝く白が、眩しく辺りを照らしていた。

常世学園は、夏真っ盛りだ――。

ご案内:「医療施設群 一般病棟」から五百森 伽怜さんが去りました。