2024/09/12 のログ
ご案内:「医療施設群 委員会用病棟」に伊都波 凛霞さんが現れました。
■伊都波 凛霞 >
委員会病棟の一室…個室の一つに、少女が二人。
一人は真っ白なベッドの上で、点滴を受けながら。
もう一人…伊都波凛霞は、ベッドの脇の椅子に腰掛けて。
『…すいません、伊都波先輩…私のせいで…』
新人の風紀委員だった彼女…遠藤秋穂は申し訳なさげに綴る。
時折、苦しげに眉を潜める様子に、無理しないで、と言葉をかけた。
「ううん。命が助かってくれただけでも良かった。
『でも…そのせいで先輩は──』
「いいんだってば。
気にしないで、私も全然、気になんかしてないんだから。
風紀委員なんてやってると、失敗することなんて一杯あるもの」
元気づけるように、優しい声色で。
だからまずはしっかり身体を治して、と言葉を続ける。
はい、と小さくもしっかりとした返事がもらえれば、うん、とにっこり頷いて…。
「それじゃ、報告書も書かなきゃいけないし、私がいても休まらないだろうから、もう帰るね」
『ありがとうございました…… あの…』
「心配しないで、悪いようには書かないから♪」
明るくそう締めくくれば、手をひらりと振って、「お大事に」とその病室を出る。
■伊都波 凛霞 >
「………、ふぅ」
病室の扉が締まり、音が隔絶される。
時間的に閑散とした廊下には、自分一人。
歩みだせばコツコツと響く足音が妙に物寂しい。
「…痛っ……」
ズキン、と脚が痛む。
一発、避け損ねた銃弾は深めに掠めた。
命にも運動機能にも問題はないけど、跡は残るらしかった。
それも、後々の魔術治療で消えるらしいけれど。
痛みも消え、傷も消えて…忘れてしまえるだろうか。
"わたしのことは忘れて、そっとしておいて"
「(……忘れる、って)」
「(どうすればいいんだっけ……)」
ぽつりと零せば、それとは正反対に込み上げるものを感じる。
彼女も酷だ。
人一倍、記憶力がいいって、知っているくせに。
■伊都波 凛霞 >
整形の先生の表情が、印象的だった。
『大丈夫、これくらいなら魔術治療と併用すればちゃんと傷の跡も綺麗になくなる筈だから』
「………」
『…? どうしたの?
女の子なんだから、痕なんて残さないほうがいいでしょ?』
消したくないの?と、言外に問われた気がした。
───……。
■伊都波 凛霞 >
気持ちを切り替え、やるべきことはたくさんある。まずは報告書の作成。
彼女の容疑の確定…ギフターとの接触、異能の覚醒…。捜査チームに共有できる情報は一気に増えた。
ギフト騒乱の一件とタイミングが同時だったのは、彼女にとって文字通りの天恵だったのだろうか。
「………」
足が止まる。
「どう書けばいいのよ…バカ」
いなくなって、心配をかけて、事件が明るみになって、
親友だった私は当然捜査に関わらせてもらえず、口を出すわけにもいかなくて、
やっと出会えたと思ったら、銃口を向けられて、後輩を人質にして、撃って…逃げて──。
それで忘れろ…? 放っておいて欲しい…? ……自分勝手すぎる。
■伊都波 凛霞 >
そのまま記したって、凶悪犯罪者という印象を増長させるだけだ。
……風紀委員は優秀な人間が揃ってる。……きっと彼女は、逃げ切れない。
そして、大人しく投降するわけがない。
彼女の捜査チームに加えて欲しい、なんて陳情してみたところで、却下されるのも目に見えてる。
そういうことに関して、私が如何に甘いかなんて上はしっかり理解っている。
これは仕事で、私情の介在する余地はない。
何より今回の件で。将来を有望視された風紀委員が一人、死にかけた。
人質を取られると動けなくなる…よく私のことを理解った上で、利用された。
それを危惧してギフト騒乱まわりでは単独行動をしていたことすら見抜かれてた。
私が彼女を追ったところで、自他に危険が増えるだけだ。
自分でどれだけ考えてみたってそう結論がでてしまう。
■伊都波 凛霞 >
組織に属する以上は、耐え忍ぶ必要がある。
風紀委員という立場である以上、私が彼女を追うことは出来ない。
それが歯車になるということ。
自らの身体を抱きしめる様に、腕を抱える。
手に触れるものは、もうニ年以上もその腕に通された、腕章だ。
本当にそれでいいの?
誰かが囁く。
それとも自問自答か。
「…わからない」
ぽつり。
雨音のように静かな、呟き。
「……もう、わかんないよ」
歩き出す。前へ。
足取りはどこまでも重苦しく。
自分自身を引き摺る様に、それでも前へ進もうとしていた。
ご案内:「医療施設群 委員会用病棟」から伊都波 凛霞さんが去りました。