2024/10/11 のログ
ご案内:「医療施設群 委員会用病棟」に追影切人さんが現れました。
追影切人 > ――慰安旅行より数日前の出来事。

その日、退院を間近に控えた男は相変わらず仏頂面…に、些かの気だるさを滲ませて。
ベッドに寝転がりながら窓の外をぼんやりと眺めていた。
流石に退院間近なだけあって、見舞い客なども早々は来ない…と、いうか来るヤツの方が珍しい。

(…つーか、見舞い来られても何話していいかわかんねーし。)

ともあれ、さっさと退院したい…体もかなり鈍っているだろうし。
”例のブツ”も【炉神】から受け取っておかなければならない。連絡によるともう仕上がっているようだし。

「――結局、俺の”処分”通達は無かったな。」

まぁ、”誰か”が根回しをしたか処分撤回を通させたのか。あるいは――…。

ご案内:「医療施設群 委員会用病棟」にレイチェルさんが現れました。
レイチェル >  
委員会用病棟。
隅々に至るまで、丁寧に清掃が行き届いた
清潔感のある通路。
その廊下に、静かに靴音が鳴り響く。

そうして扉の前で立ち止まったかと思えば、
数度のノックが響いた。

「追影。
 見舞いに行くってメッセージ送ったが、見てねぇか……?
 入るぞ」

聞き慣れた声が、廊下の向こうから聞こえてくる。
病室の清潔感を背にして尚、空気感の引き締まる凛とした声だ。
それでいて、柔らかさも兼ね備えている。

追影切人 > 「……うげ、マジかよ…。」

ノックと馴染みの或る声に何とも嫌そうな表情を浮かべた――つもりだが。
実際の処、男は意識してはいないがそこまで嫌そうでもなかっただろう。
メッセージに関しては見事にすっぽかして碌に目を通していなかったが――

「…悪ぃがここ数日はロクに見てねぇよ。入るなら勝手に入れ。」

しかし、ここでコイツが見舞いに来るか…と、内心で僅かに思案。
”あのバカ”がどうなったのかは大まかには男も聞いているが…、そこについて深く尋ねる気は無い。
もう終わった事を蒸し返してもしょうがないし、その思いは全てとある”刀”に託している。

窓から隻眼を病室の扉へと向ける。彼女が中へ入れば、相変わらずのチンピラめいた風貌の男が居るだろう。

レイチェル >  
「……ったく、そんなことだろうと思ったぜ」

ドアの向こうからは、やや呆れ気味の声。
とはいえ、湿気を帯びた言葉ではなく、
からりとした快い、穏やかな笑いと共に発されたそれであった。

「しっかし……『うげ、マジかよ』とはな。
 せっかく見舞いに来てやったってのに、随分な歓迎じゃねぇか」

少しばかり声色を真似しつつ放った、この言葉もまた同じ。
腐れ縁であるが故の距離感から軽く交わされる、言の葉の一つに過ぎない。

扉を開けて現われたのは、金の髪を風に靡かせる眼帯の女だった。

「さて、と。どうだ? 身体の調子は」

ベッドの横にある手近な椅子に腰掛け、男の方を横目で見やるレイチェル。
その手には提げていた紙袋を机に置けば、両の腕を胸の下で組む常のポーズ。

「ま、少なくとも死にかけって訳じゃなさそうだな」

腕を組んだまま、目を閉じて冗談っぽく笑う。
紙袋の中からは、甘い香りが漂ってくるのが分かるだろう。

追影切人 > この”見透かされてる感”がイラっと来る時もあるが…何せ地味に付き合いが長い”腐れ縁”だ。
こっちの言動や態度なんて、大体彼女は予測済みだろう。
務めて仏頂面を装いながら、不機嫌そうにそちらを睨み。

「うっせぇ、つーか真似すんじゃねぇ気色悪ぃ。
…誰も頼んでねぇし、俺が素直に歓迎するタマに見えるか?」

捻くれたチンピラみたいな態度も、彼女にとっては見慣れた馴染み深いものだろう。
あのタイマンで負けた時からの付き合いだが、あの時の恨みつらみは既に無い。
――ただ、あそこで死に損なったからこそ今の自分が居る

視線の先には、金の髪に自分と同じく片目に眼帯をしたよく知る女の姿。
今は前線を引いてはいるが、それが却って貫禄を感じさせる。

「…特に問題はねぇよ。昔オマエと殺し合った時に比べりゃ全然大した事ぁねーな。」

…まぁ、何度か無断外出したのでこっぴどく怒られたりはしているが。
そこは沈黙を保っておきつつ、彼女がサイドテーブルに置いた紙袋を一瞥する。
漂う甘い香り、一瞬だけぴくり、と眉が動くが直ぐに平静に戻りつつ。

「…あぁ、そうだオマエに一つ聞きたいんだがよレイチェル…。」

そこで言葉を切ってから、携帯端末を手に取って軽くヒラヒラと振ってみせる。

「――今回俺に指令下してきた”代理”…アレから音沙汰ねぇんだけど、何か知ってるか?

まるで、彼女が何か知っているのを確信でもしているかのような問い掛けを一つ。

レイチェル >  
「いや? 最初っから期待なんざしてねぇな」

レイチェルは、反発的な彼の言葉や行動も、涼風の如く受け入れて対話を続ける。
彼の感情や姿勢を否定するのではない。
付き合いが長い彼の内面を、完璧ではないまでもある程度理解した上で、
受け入れた上での対応だ。

故に、こういった会話は小気味よく。

「お前は片目を、オレは形見の愛銃を。
 互いに失ったあの一戦。今でも思い起こせばすぐに脳裏に浮かんで来やがるぜ――」

刃を交え、銃を放つ、まさしく激戦であった。

「――ま、そんだけ無駄口叩けんならまぁ、心配するこたなさそうだな」

追影がぴくりと動かした眉は視界に入れつつも看過しつつ、
続く問いかけにはそちらの顔をしっかりと見やって、静かに答える。

「白崎 慧。風紀委員の審議を待たずしての独断専行。
 刑事課の連中と協力して洗い出した後……報告書に纏めたのはオレだからな。
 ……しかし、何だ。そのピンポイントな切り出し方をお前がするとはな。
 オレがそこに一枚噛んでること、既に知ってんじゃねぇのか?」

一瞬、表情が険しくなるレイチェル。だが、本当に一瞬のことだ。
すぐに波風吹かず、波紋も立たぬ湖面が如き静かな表情となり。
穏やかな声色で、レイチェルはそう返す。

甘い紙袋は、まだそのままだ。

追影切人 > 「当たり前だ馬鹿野郎、期待されても困るっつーの。」

一見すると険悪にも思えるやり取りだが、これが二人なりのコミュニケーション。
彼女が彼を知るように、彼も彼女を知っているからこそ…それは、誰かに言わせれば”甘え”なのかもしれないが。

「――昔は絶対にオマエをぶった斬ると息巻いてた事もあったけどな…。」

負けた直後、”こっち側”になった直後の頃だ。燻りはあれど、年月が経てば炎は鎮火するものだ。
――だが、アレを超える戦いを未だに味わえていないのは、何処か残念にも感じる己が居る。

「――オマエが俺を心配とかまずねぇだろ…つーか、俺がそう簡単にくたばるとも思ってねぇだろ。」

それは逆でも通じる。追影切人は、レイチェルという女がそう簡単にくたばるとは欠片も思っていないように。

「――俺が”あのバカ”を斬り殺し損ねた時点で、俺の”処分”は半ば確定事項だった筈だからな。
…が、何時まで経っても通達一つ来やしねぇ。凛霞辺りが動いたのかとも思ってたが…。」

アイツは【親友】との決着で手一杯だっただろう。なら、そのフォローも込みで動ける奴と言えば…。

「ま、単純な消去法みてぇなもんだ…推理ですらねぇ。」

肩を竦める仕草やその態度は何時ものもの。代理だろうが本来の”黒幕”だろうが、男の立場は変わらない。

――だが、またもや命拾いをしたらしい。…自分では無く誰かのお陰で。
それが、何処か腹が立つと同時に…虚しくなる。あぁ、だから”感情”というのは――…

「…まぁ、オマエが動いたから俺の命は少し伸びたのは事実だしな。……悪いな。」

ありがとう、とは矢張り素直に言えない捻くれ男。それでも、今の男なりの礼は零しつつ。
だが、【監視対象】――その枠組みがある限り、追影切人に未来(さき)は決して無い。

レイチェル >  
「お互い、丸くなったもんだな」

当時のレイチェルはといえば、形は違えど、やはり追影と似通ったところがある。
時空圧壊(バレットタイム)のレイチェルと呼ばれ、
風紀委員の荒事屋をこなしていた時期。

あの時期のレイチェルに比べれば、川を転がる石のように丸くなっている筈だ。
そのことは、追影から見ても十分に分かるだろう。

しかし、内なる炎が燃え続けているであろうことも、また同じ。

「……追影。お前、たまに鋭いよな。

 ま、人を道具扱いする奴は、気に食わねぇ。
 
 人殺しの道具。称賛の道具。人を人として、見ちゃいねぇ輩。
 そういう奴ら、いくらでも居るだろ。

 監視対象は道具じゃねぇ。人間で――向き合うべき存在だ。
 少なくとも、オレはそう信じてる。信じねぇ奴が居るのも、理解できるけどな。
 それに、一部とはいえ、凛霞をはじめとした刑事課連中が夏輝と向き合いたがったんだ。
 そいつを無かったことにさせる訳にゃいかねぇだろ」

肩を竦めるいつもの仕草を横目に、息を一つ小さく吐いてから、
レイチェルは語を継いでいく。

「気に食わねぇといえば、あんな過去背負って今に至る、白崎もな。
 
 向き合われるべきなのは、白崎だって同じさ。
 だから、あいつが犯罪者を憎むきっかけになった出来事に、
 きちんと向き合って――奴自身も、向き合わせてきた。
 今回の件で奴は信用も失ったし、何より――もうあいつにはねぇよ」

監視対象の前身である、犯罪者更生プログラム中に起きた悲劇。
白崎の想い人が、プログラム参加者によって殺害された事件のことだ。
レイチェルは、彼女の遺族のグリーフケアに立ち会い、
彼女が白崎へ送ろうとしていたメッセージを手渡したのだ。

「……しかし、『悪いな』、とはな。
 こいつぁ、明日は槍でも降るんじゃねぇのか?
 ……ま、良い。悪くねぇ。
 素直に受け取っておくとするが……ま、なんだ。気にするなよ」

目を閉じて穏やかにそう語った後、レイチェルは追影へと向き合う形で視線を合わせて――
笑うのだった。それは年相応の少女のような、朗らかな笑みだったかもしれない。

追影切人 > 「…だな。そこは流石に同意だわ。」

丸くなった…言い換えれば刃の切れ味が鈍った。
昔は、ただ目の前の全てを斬っているだけで良かった。
自分の生死すらどうでもいい。ただ、斬って斬って斬り尽くして。
その先には何も無い荒野が広がっているのを自覚しながら

――じゃあ、今は?今は今で腑抜けている…少なくとも、かつての自分と今では決定的に違うモノがある。

(…ま、俺は俺で切れ味鈍って、コイツはコイツで角が取れて柔軟になったってトコか…。)

――それが弱さと見るか成長と見るか。正直男自身は分からない。
ただ…まだ内側で燃え続けているものは確かにあるのだろう。

「…うっせぇ、馬鹿の俺でもそんくらいは考えるっての。
――ハッ……オマエらしい言い草だ。」

鼻で笑ったようにも見えるが、実際はそうではなく苦笑に近い。同時に、『まぁ、コイツはそういう女だしな』という納得もある。

自分は決してそんな考えはしない…一つだけ、共通項があるとしたら。
どんな形にろ目の前の相手と向き合う事…だろうか。
…コイツは心で、俺は刃で。形は違えど真正面から向き合ったのだけは間違いない。

「――だろうな。”あのバカ”はアレで人望もあったし。
…ま、俺が道具じゃねぇかどうかはさて置き。…反発はある制度だからな。」

彼女の言葉に、一言そう答えるのみだが表情は…何とも言えない複雑そうなもの。
男は男で、何かしら思う所はあるようだ。それが…彼が面倒臭がっている”感情”だ。

「――何だ、代理の牙を圧し折って来たのかよ…まぁ、”向き合う”ならそのくらいはやるか。
…どっちにしろ、所詮は代理だからな…本来の”黒幕”にゃ傷一つねぇだろうよ。」

本来、この男に汚れ仕事を命じる奴はもっと慎重派というか…隙を見せない。
法が正義――そこはブレていないが、だからこそ一切の妥協も躊躇もしない。
白崎といったか――彼のような背景があるかどうかすらも分からない。
仮にあったとしても、”奴”はそれすら犠牲にして正義を突き詰めるだろう

「―――チッ…。」

そんな笑顔を向けられれば、何処かバツが悪そうに隻眼を逸らすのだった。
こういう所がひねくれ者で――そして”甘え”なのだ。
この男は、まだ他者とちゃんと”向き合っていない”。

――それは、この数日後に同じ監視対象の男から指摘される事になるのだけど。

「――オマエや凛霞みたいに、監視対象ときちんと向き合う奴は意外と少ない。…特に相手が一級の場合はな。」

廬山にラヴェータ、あとはつるぎと所在不明の馬鹿生きてるか死んでるか分からん奴。…で、自分だ。

自分で言うのもアレだが、どいつもこいつもアレな奴らばかりで、まともに向き合うのも馬鹿馬鹿しい。
…だが、コイツや凛霞や、他の一部の連中はきっと真正面から向き合うんだろう。

まったく――…

「『向き合うという事は背負う事』…だっけかな。」

ぽつり、と呟いて視線が何となく紙袋に向いた。「んで、アレは?」とそこでやっと紙袋について尋ねる。

レイチェル >  
を剥き出して生きる。
 白刃を振り回して幸せを感じる。
 そうだってんなら、そいつにとっては一つの正解なのかもな。

 だが、牙を振り回してるつもりで、その実、牙に振り回されてる奴ってのは居るもんさ。
 そいつは本当に幸せなのか、って疑問に思うんだよ。オレ個人としてはな。

 だから、牙なんかよりもずっと大事な筈のもんを、あいつに手渡した。
 渡されなかった、想い人の言葉をな。

 それを受け取ってどう感じるか、どう生きるかは相手次第。
 オレの関与するところじゃねぇが……どうやらあいつは、牙を置いたらしい。
 
 それだけだ。ただそれだけの話なんだ。
 だから、黒幕がどうとか、その時のオレには関係がなかったのさ。
 
 ……でだ、追影。
 
 牙をなくすってのは、何もへし折るってだけじゃねぇんじゃねぇか。
 
 お前はそう思わねぇかもしれねぇが、オレはそう思う。
 ま、頭の片隅にでも置いといてくれりゃいいさ。
 ……何だかんだ、お前のことは心配してっからな」

その言葉の一つひとつは、白崎への思いを紡いだものであり、
眼前の男へ紡いだ言葉でもあるのだろう。
白崎の話をしながら、レイチェルはしっかりと追影の目を見て、そのように語ったのだった。

そうして最後の言葉を伝えた後、自嘲気味に笑うのだ。

「そんなん必要ねぇ、って言うかもしれねぇがな。
 まずは、自分を大事にする気持ちを持っても良いかもな

さて、そこまで口にして。

「中身が気になって仕方ねぇか。
 さつまいものドーナツ。作って来てやったから、これでも食って元気出しな。
 でもって、いい機会だ。改めて色々ゆっくり考えてみりゃいい。
 お前自身の、身の振り方、生き方ってやつをさ」

踏み込んでああしろこうしろ、などと言う気はない。
ただただ気持ちを置いて、あとは考えてみりゃいい、と伝えるだけだ。

「……迷った時は、凛霞が力になってくれるだろうさ」

そうして、彼自身を変えるかもしれない、パートナーの名を出して。
レイチェルは立ち上がる。