2024/12/10 のログ
ご案内:「医療施設群 医療研究施設」に焔城鳴火さんが現れました。
焔城鳴火 >  
「――任せなさい」

 息を切らせてやってきた少女の頭に手を乗せて、自分に言い聞かせるように努めて力強く声を鳴らした。
 研究施設を兼ねた、試験的処置室。
 その扉を潜れば、鳴火は医師ではなく――

「おかえり、『あるか』」

 ただ、親友が帰って来るかもしれない――ただその淡い期待に縋るだけの、泣き虫な子供に戻ってしまいそうになる。
 鳴火は、あの日、彼女を失ってから、一歩も前に進めていない。
 そうした一面も、隠しようがなく存在していた。

「――心臓の状態を確認するわよ。
 各種計器の準備、急いで!」

 そう声を上げた時には、医師の顔に戻っている。
 それは意地でもあり、なにがあっても『彼女』を取り戻すという意志の現れだ。

「同期のズレを修正して。
 星核のデータはこっちで計測する。
 少しのズレも許されない、結合処置よ。
 貴重な研究データを提供してやるんだから、この島の最先端の技術力、見せて貰うわ」

 そう激を飛ばした鳴火の声に応じて、医師や技師、様々な専門家がモニターと向き合い、慌ただしく駆け回る。
 その処置は、完璧とは言えなかったが、ほぼ、理想値と言える結果となった。
 

焔城鳴火 >  
 処置室から出た時には、随分と時間が経っていた。
 鳴火は疲労の濃いため息を漏らしながら、ポケットを探る。
 処置室前の長椅子には、少女が一人、また疲れ切ったように眠っている。

「――慕われてたのね、あの女も」

 『彼女』ではなくとも、認めないわけにはいかない、『ポーラ・スー』の継ぎ接ぎだらけの半生。
 子供たちに懐かれ、スラムから行き場のない子供を引き上げ、様々な方法で子供たちを助けてきた。
 この少女もまた、『ポーラ・スー』を慕うだけの縁があったのだろう。
 こんな、機密の塊のような場所に飛び込んでくる程には。

「ほんっと――笑える」

 疲労で表情筋すら強張ったまま、少女の横に腰を下ろす。
 ポケットから取り出したシガレットチョコを口に咥えて、天井を見上げた。
 行った処置に問題はない。
 鳴火に出来る事は全て行った。
 後は、時間をかけて、細かな誤差を修正し続けるだけだ。
 その対応に、鳴火が付きっ切りになる必要はない。

「そろそろ、一度帰らないと、か。
 瑠音にも要らない心配させそうだし――ん、ぽっぽちゃんはなんとか連徹は止めて貰えたのね」

 だらだらと、未読のままほったらかしていたメッセージを眺めながら、隣の少女を一瞥する。
 そのどこか苦し気な寝顔に、少し胸が痛み、頭に手を伸ばしてしまった。

(――まったく、随分と情熱的な子を寄こしてくれたわね)

 静かに撫でていると、心なしか、少女の表情が和らいだように見えて、鳴火の頬も少しばかり緩んだ。
 

XXXXX >  
『To:xxxxxxx
 随分と元気な娘を寄こすじゃない。
 あんたなりの筋の通し方ってやつ?
 可哀そうだけど、この子の期待と、私の望みは一緒じゃないわよ。
 まあ、なんにしても賭けなのは変わらないけど。

 ――一応、処置は出来る限りの事はした。
 後は只管、数値の誤差を修正し続けて、目が覚めるのを待つだけ。
 その時には私は居ない方がいいだろうから、スタッフに細かく伝えてある。
 あんたと、この子に関しては自由に入れるように話を通しておくわ。
 私は、以降、病院には近づかないつもり。
 院内にも監視がある以上、私が離れた方が安全だろうしね。

 本当は私たちも接触すべきじゃないんでしょうけど。
 年内には一度、後のことを話しておくべきかしらね。
 死ぬ気はないけど、流石に正面からやりあえる相手じゃない。
 だから、私の星核が持っていかれるのを前提として、方策を考えるべきでしょうね。
 
 ――ごめん、あんたに甘えてる事は自覚してる。
 無関係な相手を、内輪の喧嘩に巻き込んで、ほんとバカみたい。
 でも、もう少し。
 あと少しだけ、あんたを頼らせて』
 

焔城鳴火 >  
 メッセージを入力して、とある特殊なネットワークを経由して送信する。
 そうして、鳴火はゆっくりと立ち上がった。

「後は、運次第か。
 クリスマス――準備、しないとね」

 ぼさぼさの髪を掻きながら、立ち去ろうとして、眠っている少女に視線を向けた。

「――はあ」

 研究施設を去る前に、担当研究員の一人を捕まえて、少女の出入りを許可するように伝える。
 ついでに、仮眠用のブランケットを持ってこさせた。

「帰って、寝るか」

 体力に自信はあるが、それでも気を張りすぎた。
 やるべき事も、考える事もあるが、それでもまずは休むべきだろう。
 そうして鳴火は病院を去り、自室に帰ると泥のように眠るのだった。
 

ご案内:「医療施設群 医療研究施設」から焔城鳴火さんが去りました。