2024/12/10 のログ
ご案内:「医療施設群 医療研究施設」に焔城鳴火さんが現れました。
■焔城鳴火 >
「――任せなさい」
息を切らせてやってきた少女の頭に手を乗せて、自分に言い聞かせるように努めて力強く声を鳴らした。
研究施設を兼ねた、試験的処置室。
その扉を潜れば、鳴火は医師ではなく――
「おかえり、『あるか』」
ただ、親友が帰って来るかもしれない――ただその淡い期待に縋るだけの、泣き虫な子供に戻ってしまいそうになる。
鳴火は、あの日、彼女を失ってから、一歩も前に進めていない。
そうした一面も、隠しようがなく存在していた。
「――心臓の状態を確認するわよ。
各種計器の準備、急いで!」
そう声を上げた時には、医師の顔に戻っている。
それは意地でもあり、なにがあっても『彼女』を取り戻すという意志の現れだ。
「同期のズレを修正して。
星核のデータはこっちで計測する。
少しのズレも許されない、結合処置よ。
貴重な研究データを提供してやるんだから、この島の最先端の技術力、見せて貰うわ」
そう激を飛ばした鳴火の声に応じて、医師や技師、様々な専門家がモニターと向き合い、慌ただしく駆け回る。
その処置は、完璧とは言えなかったが、ほぼ、理想値と言える結果となった。
■焔城鳴火 >
処置室から出た時には、随分と時間が経っていた。
鳴火は疲労の濃いため息を漏らしながら、ポケットを探る。
処置室前の長椅子には、少女が一人、また疲れ切ったように眠っている。
「――慕われてたのね、あの女も」
『彼女』ではなくとも、認めないわけにはいかない、『ポーラ・スー』の継ぎ接ぎだらけの半生。
子供たちに懐かれ、スラムから行き場のない子供を引き上げ、様々な方法で子供たちを助けてきた。
この少女もまた、『ポーラ・スー』を慕うだけの縁があったのだろう。
こんな、機密の塊のような場所に飛び込んでくる程には。
「ほんっと――笑える」
疲労で表情筋すら強張ったまま、少女の横に腰を下ろす。
ポケットから取り出したシガレットチョコを口に咥えて、天井を見上げた。
行った処置に問題はない。
鳴火に出来る事は全て行った。
後は、時間をかけて、細かな誤差を修正し続けるだけだ。
その対応に、鳴火が付きっ切りになる必要はない。
「そろそろ、一度帰らないと、か。
瑠音にも要らない心配させそうだし――ん、ぽっぽちゃんはなんとか連徹は止めて貰えたのね」
だらだらと、未読のままほったらかしていたメッセージを眺めながら、隣の少女を一瞥する。
そのどこか苦し気な寝顔に、少し胸が痛み、頭に手を伸ばしてしまった。
(――まったく、随分と情熱的な子を寄こしてくれたわね)
静かに撫でていると、心なしか、少女の表情が和らいだように見えて、鳴火の頬も少しばかり緩んだ。
■XXXXX >
『To:xxxxxxx
随分と元気な娘を寄こすじゃない。
あんたなりの筋の通し方ってやつ?
可哀そうだけど、この子の期待と、私の望みは一緒じゃないわよ。
まあ、なんにしても賭けなのは変わらないけど。
――一応、処置は出来る限りの事はした。
後は只管、数値の誤差を修正し続けて、目が覚めるのを待つだけ。
その時には私は居ない方がいいだろうから、スタッフに細かく伝えてある。
あんたと、この子に関しては自由に入れるように話を通しておくわ。
私は、以降、病院には近づかないつもり。
院内にも監視がある以上、私が離れた方が安全だろうしね。
本当は私たちも接触すべきじゃないんでしょうけど。
年内には一度、後のことを話しておくべきかしらね。
死ぬ気はないけど、流石に正面からやりあえる相手じゃない。
だから、私の星核が持っていかれるのを前提として、方策を考えるべきでしょうね。
――ごめん、あんたに甘えてる事は自覚してる。
無関係な相手を、内輪の喧嘩に巻き込んで、ほんとバカみたい。
でも、もう少し。
あと少しだけ、あんたを頼らせて』
■焔城鳴火 >
メッセージを入力して、とある特殊なネットワークを経由して送信する。
そうして、鳴火はゆっくりと立ち上がった。
「後は、運次第か。
クリスマス――準備、しないとね」
ぼさぼさの髪を掻きながら、立ち去ろうとして、眠っている少女に視線を向けた。
「――はあ」
研究施設を去る前に、担当研究員の一人を捕まえて、少女の出入りを許可するように伝える。
ついでに、仮眠用のブランケットを持ってこさせた。
「帰って、寝るか」
体力に自信はあるが、それでも気を張りすぎた。
やるべき事も、考える事もあるが、それでもまずは休むべきだろう。
そうして鳴火は病院を去り、自室に帰ると泥のように眠るのだった。
ご案内:「医療施設群 医療研究施設」から焔城鳴火さんが去りました。