2025/01/31 のログ
ご案内:「医療施設群 医療研究施設」に小鳥遊日和さんが現れました。
■小鳥遊日和 > 『小鳥遊さん、肉体面の解呪が進んでおらずすみません。
肉体が呪いとみっちり絡み合っているせいで、なかなか…。』
フル装備の防護服をまとった研究員の言葉に、車椅子に乗った少女はにっこりと笑い返した。
「ええ、ありがとうございます。良くしてくださっているだけで十分です。」
研究員は無意識のうちに彼女の頭に手を差し伸べ…慌てて引っ込める。
人間は無力な生物を愛でる”本能”がある。
例えば、子どもであったり、子犬であったり、あるいはペットであったり。
彼女が纏う雰囲気は、まさしくそれに近いものだ。
研究員が少し考え込んでいる間に、車椅子の少女は研究員の手を取って自分の頭に乗せた。
まるで「撫でてほしい」とおねだりでもするかのように。
研究員が手を離そうとすると悲しげな顔をする。
結局研究員は観念したのか、髪をそっと撫でるように手を動かし始めた。
『あの、小鳥遊さん…』
「うん…?」
目を細め、あまりに心地よさそうに撫でられてくれる相手に、研究員は天を仰ぐ。
少し前まで成人男性であったはずなのに、今やあどけない人魚の少女だ。
『小鳥遊さんは今まで色々な変化の影響で施設を訪れていますが…。
そういったものに対して感受性が高すぎるように思えるのですが、なにか理由でも?』
研究員は小鳥遊のカルテを思い出す。 何度も担ぎ込まれたことが記入されていた。
単純に性別が変わること数しれず、ハーピー(♀)、魔女、女性型獣人…。
通常の人なら抗いうるような状況にも、彼女はあっけなく反応してしまうのだ。
■小鳥遊日和 > 「研究員さんは、腕とか足を骨折したことはありますか?」
唐突な質問に面食らう。
『いえ…』
意図が読めないとばかりに首を横に振る研究員を見上げながら、彼女は続けた。
『わたしは以前、山登りしていて足を骨折したことがあるんです。
歩くのにも松葉杖が必要で、とっても大変でした。
でも骨折して初めて、足が不自由な人の気持ちが少しだけ…少しだけ分かったんです。
そう考えたら、人魚になったことも人魚の皆さんの気持ちがわかるチャンスだと思いませんか?」
研究員は悟った。
彼女は”変化を受け入れてしまう”性質なのだ。 それもポジティブな理由で。
道理で性別や種族をいとも簡単に書き換えられて、その都度医療チームの世話になるわけだ…。
『リスクが高すぎますよ…』
「そうかもしれません。 でも、こういった現象は現に起こりますし、なによりホモ・サピエンス以外…
つまり、人ならざるものはたくさんいることがわかってしまったんです。
彼らや彼女らと生きていくためにも、”体験”することはとても大事でしょう?
研究員さんだって、座学だけで研究員をされているわけではないですよね?」
彼女の言葉には答えられなかった。 一理ある。
けれど、やり込められたのがちょっと気に入らず、頭を撫でる手をちょっとだけ乱暴に動かした。
きゃあきゃあと楽しそうに声を上げる彼女を見て嘆息する。
昔、寄生虫が引き起こす風土病の解明のため、自らも寄生虫に感染した医者がいたという話を思い出す。
積極的に飛び込んで体験すべし…というのが、きっと彼女なりの…今の世界との付き合い方なのだろう。
『いやあ、なんていうか…肝っ玉が座ってますね』
「すごいでしょ」
自分の手の上に、彼女の手が重ねられてぐりぐりと動く。
相手の目を見ると、ちょっとだけ蕩けた瞳。 もっと撫でろというアピールだった。
彼女のほうを見ないようにしながら、研究員は手を動かして撫でる。
問診が終わったら精神ケアを受けよう…そう固く決意しながら。
ご案内:「医療施設群 医療研究施設」から小鳥遊日和さんが去りました。