2026/02/19 のログ
麝香 廬山 >  
一瞥する黒い手枷(アクセサリー)
同じ監視対象何だから嫌と言うほど理解している。
意識か無意識かはわからないが、廬山もまた自身の首を軽く撫でた。
無機質で冷たい、長い付き合いの制御装置(アクセサリー)を。

「ふぅん……。」

返事自体は素っ気無い。
しかし、意外と言わんばかりに目を見開いていた。
かと思えばすぐに人当たりのいい笑みに戻った。
何処となく、ではあるが嬉しそうな雰囲気は感じる。

「いやねぇ、もうちょっと放っておけば"良い画"が見れたんじゃないかって。
 『彼方よりの恐怖』って映画知ってる?戦争末期に忘れられた化学兵器の怪物が大暴れする話。
 パニックホラー、って奴なのかな?結構グロテスクで、後味の悪い映画だって言うのは覚えてる。」

「もう、何時見たかも覚えていないけどね。」

おもむろにパイプ椅子から立ち上がる。

「少なくとも、ああ言う惨状にはなったんじゃない?
 それとも、他人の芸術(サクヒン)には興味が無かったかな。陰翳礼賛(キアロスクーロ)。」

敢えてその名を呼んだ声音は嫌に優しく、
見透かすような瞳は何処となく冷ややかだ。
有り体に言えば、気味が悪い。
患者の容態はよく知っている。
そう、知っているからこそ手を伸ばした。
抵抗出来ないことを良いことに、冷たい指先が彼女の顎をなぞる。

「切ちゃんもキミも、そう思うのは良いとは思うけどね。
 けど、キミ達の本質はどうかな?どう折り合いをつけるのかな?
 監視対象(このシステム)を以て、どう精算する?」

ヒトはヒト。怪物は怪物。
社会に溶け込もうともその本質は変わらない。
怪物がヒトになるというなら、必ず過去はつきまとう。
静かに顔を近づけて、鼻先寸前。廬山の表情は変わらない。

「……完全な密室状況。男と女と二人きり。
 凶器は少ないけど、きっと死ねばとびっきりのミステリーだ。
 本来なら殺人鬼(カイブツ)被害者(ヒト)の立場は逆だけど、
 難解さから成り立つ"芸術"って言うのに……ヒトは惹かれたいしない?」

キミは、どう思う?

牛丸 瑞璃 >  
「……全然興味がなかった。
 な~んて、言えるような善人じゃないのは知ってるでしょ?
 怪物(あたし)は本来、血が大好きだからねぇ」

一部の委員会の病室には、強固なプロテクトが掛かっている。
この病室に掛けられたプロテクトは、徹底したプライバシーの保護だ。
機械的にも魔術的にも、監視チーム以外から録音・録画が行われることはない。
表向きは配信者としのプライバシー保護ではあるが、
委員会がこの部屋を宛てがったのには、無論他の理由もある。

麝香 廬山もよく知る、彼女の持つ裏の顔故だ。
故に、彼女は語って聞かせる。

「確かにスプラッター映画は好きだけど。
 あたしが心の底から本当に求めてる創作は、
 アクション・ペインティング(無秩序な血飛沫)じゃないからなぁ。

 カタストロアが何故あんな風に暴力を振るうのか。
 その裏にあるであろう情動に、芸術家として興味は惹かれたけど……」

対して、瑞璃は冷静そのものだ。
見透かされるような瞳も、どこ吹く風と言わんばかりに受け流している。

「あたし自身の本質は、他でもないあたしが一番理解してる。
 社会があたしをヒトとして求めるなら、監視対象の制度に従って、
 ヒトとして在るだけなんだよねぇ。
 それにあたしは、それなりに発散して折り合いつけてるからね」

そして、顎に触れられながら、それを示唆されれば。

牛丸 瑞璃 >  
「……それに引き替え、廬山クンは欲求不満かな?
 絞める。刺す。殴る。
 それとも、キラーレイク風(突き落とす)
 ――どんな風にあたしを仕上げて(やって)くれるか、
 台本(スクリプト)を聞かせてほしいところだねぇ」

くすり、と笑うだろう。 

麝香 廬山 >  
互いの笑みが、交差する。
冷たい指先が顎をなぞり、頬に手を添える。

「ボクはキミほど、芸術家(シリアルキラー)じゃないからなぁ。
 どちらかと言えば、化け物(カタストロア)に感性は近いかも?まぁ、でもそうだね……。」

「美しいキミをそのままに、
 薬物で綺麗に殺して剥製にするか。それとも……。」

するりと冷たさが頬をなぞり、首に添えられる。

「もっと綺麗に、丁寧に関節を壊すのはどうだろう?
 接合部の至る所を丁寧に、一つずつ、時間を掛けて折っていく。
 痛みと時間で精神を摩耗させながらゆっくりと、ね。」

包帯(シロ)血液(アカ)に塗れた壊れたお姫様(ビスクドール)っていうのも、綺麗だと思うよ?」

それこそ今力を入れれば、折れてしまいそうな綺麗な首。
口説き文句としては廬山好みではあった。
融和な眼差しの奥に、隠し切れない"好奇心"。
親指を喉仏へと押し当て────……。

「────────けど、ねぇ。」

麝香 廬山 >  
あっさりと、手が離れる。

「そんなキミも見てみたいけど、
 ボクはファイナル・ガール(ヒト)としてのキミの方が興味あるかな。
 ……にしても皆、意外としっかりしてるね。日常への憧れって奴かな?」

困ったことに、と笑みに苦い感情が混じった。
その心底は何を考えているのかはわからない。
ただ、どす黒い感情も、彼女達を見守るような物言いも、
どれも嘘ではない。二律背反の二面性。

トントン、と自分の持ってきた紙袋の縁を叩く。
手品(マジック)のつもりなんだろうか、紙袋から取り出したのは袋詰めの茶葉。

「安心した。……っていうのは、少し違うかな。
 思ったよりも楽しんでるようで何より、と言うべきかな。
 変わらない瑞璃ちゃんも変わっていく瑞璃ちゃんも、とっても見応えがある。」

「それこそボクは、キミのファンって奴なのかな?」

なんてね、と僅かに首をかしげた。

「食欲は無いって聞いたけど、お茶はどう?
 『ハンプティ』ってとこの新しい紅茶。
 今なら淹れてあげますよ?瑞璃お嬢様。」

牛丸 瑞璃 >  
「ん~」

彼の語る台本を聞いて、人形は口元を緩める。

「あたしの美的センスで言えば……前者なら70点かなぁ。
 後者は……ん~、絵面は悪くないけど30点ってとこ?
 
 ま、どっちも……できればの話だけれど……ね?」

プライバシー保護の病室とはいえ、監視の目は行き届いている。
要するに、密室は最初から破綻しているのだ。

そうして喉を圧迫し始めた手は、すぐに己の喉から離れていく。
気道が確保されて、ほんの少しだけ深く息を吸って、吐いた。
あまり深く呼吸すれば、肋の痛みが増してしまう。

どの程度の呼吸までなら問題ないかについては、ある程度掴めていた。
何かを取るべく手を伸ばすにしても――次は失敗しないだろう。

「配信者やってて大変だなーって思うのが、
 こちらからファンをお断りできないってとこだね」

天井を見ながら、そう口にして。

「いただこうかなぁ。
 ちなみに、ただの毒殺でおしまいってのは15点ってとこかな」

そんなことを言いながら、壁に映し出された殺人鬼が窓から落ちていくのを
瑞璃は可笑しそうに口元を緩めて見届けるのだった。

ご案内:「医療施設群 委員会用病棟」から麝香 廬山さんが去りました。
ご案内:「医療施設群 委員会用病棟」から牛丸 瑞璃さんが去りました。