2026/03/11 のログ
ご案内:「医療施設群 委員会用病棟」に青霧在さんが現れました。
■おぼろげな夕焼け > 火傷しそうなオレンジ色。
蚯蚓腫れや擦り傷に沁みこむような熱に照らされた夕焼けの下、
二人の男女と男児が歩いていた。
幼い男児は男に手を引かれ、大人の歩幅に引き摺られまいと必死だ。
男女は振り向いたり声をかけることなく、ただ歩き続けている。
………何度も見た光景だ。飽きる程見た悪夢だ。
この後男児は恐ろしい場所へ連れていかれる。
恐怖と絶望に満ちた場所へ連れていかれるのだ。
俺はそれを何も出来ずに見ている。
そして目覚めが来る。最悪な目覚めが。
■おぼろげな夕焼け > 何度も同じ光景が繰り返されてきた。
今日も同じだろう。
男児は抵抗出来ず、連れ去られる。
そろそろ男児が抵抗を見せるころだ。
半歩下がり、それを男が睨みつける。
女がヒステリックに叫び、男児は抵抗を諦めるのだ。
……ああ、男児が半歩下がった。
でも無駄だ。
直ぐに男に睨まれて脅される。
それが怖くて諦めるのだ。
そう、思っていたのに。
男児が、此方を向いた。
俺の方を見た。
……気のせいか?
こんなことが過去にあっただろうか。
分からない。
あったかもしれないが、これまでの俺には気づけなかった。
男児の目は確かに俺を見ている。
助けを求めるように、今にも泣きだしそうな涙目を此方に向けている。
男が男児の手を引いた。
そして、飽きるほど見聞きした光景が上映され―――
■おぼろげな夕焼け > 足が前に出た。
一歩出れば、二歩目も出た。
三歩、四歩。
気付けば駆け足になり、
あっという間に三人の近くまで来ていた。
男が此方を睨みつけた。
何のつもりだと言いたげな目だ。
女がポケットに手を突っ込む。
スタンガンを取り出すつもりだろう。
怖い。
その目も、ポケットに突っ込まれた手も。
その後に何が続くかよく知っているから、恐ろしくてたまらない。
それでも、俺は
この機会を
失いたくない!
がむしゃらに振り上げた腕で、男の腕を打ち付ける。
痛みに男が怯み、男児から手を放し―――
そこで、光景は途切れた。
■青霧在 > 「………っ」
朧気な意識と共に瞼を開ける。
そして飛び込んできた光に目がくらみ、怯んでしまう。
少しずつ瞼を開けて、明るさに慣らしていくと、白い天井が目に入った。
今回は間違いない。
病室の天井だ。
……随分と長いこと眠っていた気がする。
最初の時以来―――
「………カタストロア」
そうだ、俺はカタストロアとの戦いの果てに気を失ったんだ。
ふとそのことを思い出し、あの怪人の名前が漏れた。
すると、声をかけられる。
応じたところ、看護師だった。
何度か言葉を交わすと、医者を呼びにいった。
■青霧在 > 医師の説明はこうだった。
俺はどうにも、一時は呼吸と心臓が止まっていたらしい。
そこからどうにか持ち直し、無事に峠を越えたとのことだ。
確実にとは言えないが、恐らくはもう大丈夫だと。
『今回は前のようなズルは出来ませんでした。というより、あなたの同僚さんに止められました』
『代わり……という訳ではないですが、新宮さんという人が特殊な治療を取り付けてくれていました』
負傷のうち、特に脳と左肩周辺が酷い状態であったらしい。
特に脳は多数の血管が破裂し、頭蓋の内が目も当てられない状態であったと。
そのままだと植物状態や廃人もあり得たらしいが、友人が何らかの手段で治療したとのことだ。
そのついでになのか、何か所かも綺麗に治っているらしい。
『脳程ではないですが、左腕も酷かったですよ』
『問題なく治る筈ですが……一応、後遺症を覚悟しておいた方がいいかもしれません』
左腕は神経がほぼ断絶状態。
筋肉や骨も千切れ砕け、繋げるのに苦労したと。
『いずれにせよ、当分はここにいてもらいます』
『前みたいに三日で出られるとは思わないでください。一週間以上は何があっても出しません』
そう念押しすると、医者は去って行く。
■青霧在 > 医師が去った病室。
目覚めてまだそれほど時間も経っていない。
ぼんやりとした意識の中、医師の説明なんかよりも気になっていることがあった。
「あいつは……」
「カタストロアは死んだのか……?」
誰もいない病室で独り言ちる。
医師にもそれとなく聞いたが、望んだ答えは返ってこなかった。
捕縛されたと報道されていることは聞けたが……
恐らくあの時、最後の一撃。
俺の予測が正しければ、最後の核を撃ち抜いた筈だ。
確証はない。
そもそも核があるというのが確実な情報ではない上、場所も個数も勘頼り。
予測が正しかったとしても、最後の一撃が正しく命中したかは分からない。
だがもし、当たっていたとすれば。
死んでしまっているかもしれない。
「……」
考えても答えは出ない。
ただ一つ望むのは、それを知る誰かの来訪であった。
俺が目覚めたことは風紀に連絡済みとのことだ。
誰か説明に来るだろうか。
来るとしても、まだ何時間か先になるだろうか。
早く来るといいのだが。
■青霧在 > 直ぐには来ない。
そう思っていたが、来訪は意外と早かった。
病室の扉が開き、間髪入れずによく知る声で話しかけて来る。
■新宮翔太 > 「やあ在。調子はどう?」
普段通り、気さくに話しかけて来たのは数少ない友人と呼べる人物。
扉を閉め、ベッドの横の椅子に腰かけながら続ける。
「流石に死んだかと思ってヒヤヒヤしたよ。生きててくれてよかった」
笑顔で、手ぶりを伴って。
何事もなかったかのように青霧を覗き込む。
■青霧在 > 「体は動かないが、話すぐらいなら」
先程水分を補充したお陰で喉は潤っている。
それでもかすれた声で精いっぱい返す。
「随分と……早かったな。まだ十分も経ってないだろ」
目覚めてからは分からないが、医師が来たのはついさっきだ。
目覚めたと連絡を受けてからこの時間でここに来るには、余程近くにいないと無理だろう。
■新宮翔太 > 「偶然近くにいたからね。そうじゃなくても最速で来るよ」
「まあ直ぐに帰るけどね。ほら、もうすぐ卒業だから」
「卒業式には来て欲しかったけど……その様子だと厳しいかな?」
答えつつ、話題を逸らす。
手振りを交えつつ眉を顰めるが、冗談めかしていて本気かどうかは分かりづらい。
■青霧在 > 「……そうか」
「来てくれて嬉しいよ」
嘘だ。
直感だが、間違いない。
新宮は多忙だ。
風紀委員会刑事課はただでさえ忙しいうえに、今はカタストロアの後処理もあるだろう。
その上、卒業間近だ。多忙に多忙を重ねて更に忙しい。
更に役職持ちの新宮が、このあたりをうろついていると言うのは考えにくい。
偶然ということにしておきたいのだろう。
付き合いが長くてよく知り合っているというのはお互いだというのに。
「卒業式……なるべく早く退院する」
「行けたら……本当に行くよ」
行けたら行きたい。
本当に。
「……聞きたいことがある」
少し間を空けて、口を開く。
「カタストロアは、どうなったんだ?」
首は動かない。
天井を見つめたまま、尋ねた。
■新宮翔太 > 「ああ……話してもいいって言われてるよ」
少し考え、ポケットから携帯端末を取り出す。
起動し、何かを操作しながら続ける。
「結論から言うと生きてるよ」
「まあ―――」
端末の画面を見せる。
「こんなになってるけど」
画面に映るのは、見るも悍ましい肉塊。
四肢や頭部、尾が乱雑に生えた冒涜的な物体。
「こんなだけど、生きてはいるよ」
こわいねーと、端末を仕舞う。
■青霧在 > 「…………」
言葉が出ない。
画面に映ったのは、恐らくあの日の大時計台の下での録画。
映像資料として残されたものだろうが、これは恐らく
「……なるほど、報道されない訳だ」
悍ましい肉塊。
カタストロアは常世神との関与も指摘されていた。
なるほど、常世神とはそういう存在か。
「だがまあ……生きていて良かった」
安心の吐息。気の抜けたような尻すぼみの言葉が溢れた。
■新宮翔太 > 「まあ、そう言うと思った」
肩を竦めて答える。
「どうせこれが気になってると思ってたよ」
「殺す気でやらなきゃ勝てない相手だっただろうし」
「あと、在にしてはかなり必死だったからね」
そこまで言えば立ち上がる。
「そんじゃ、俺はここで」
「特殊な治療についてはちょっと話せないからね」
「お大事に~」
顔を再度覗き込み、手を振って去っていく。
青霧の目覚めを待っていたおかげで、後の予定がおしている。
ここから先は不眠不休も覚悟しなければならないだろう。
■青霧在 > 「ありがとう、翔太」
治療についても聞きたかったが、話せないと言われれば仕方がない。
それに、カタストロアの生死と比べれば、些細なことだ。
去る背中に声をかけて見送った。
そして再び静寂が訪れる。
「……そうか、生きてたか」
原則、殺しは行わない。
信条としても、風紀委員会としても。
「暗い牢獄から二度と出れないように、と決めたからな」
二度と出れないかどうかは不明だが。
まあ、あの様子では出て来ることはないだろう。
殺してしまっては、決めたことの一つが果たせないことになる。
そんな、個人的な理由
■青霧在 > 「あぁ、そうか……」
そこで気づく。
「果たしたのか……」
俺が決めたことを
俺の手で。
カタストロアを止めると決め
牢の奥に閉じ込めると決めて
その通りに、果たしたのだ。
「……」
腹の底から、未知の感覚が溢れる。
空室で沸き上がったマグマのような熱とは違う。
暖かく、心に染み渡るような。
それでいて激しく、力強い感覚。
■青霧在 > 俺がこの島に来た理由を思い出す。
言いなりになって、言われた通りにしか出来ない俺が
自主的に動けるようになるために。
そんな理由でこの島に来たのだ。
「五年か……」
それから五年。もうすぐ六年。
長かった。
切っ掛けは最悪だった。
だというのに、この感覚は……
「人前では、話せないな」
被害者多数。風紀委員会も数多の対価を支払っての結末。
そんな状態で、1人だけこんな満足したかのような感覚を得ているだなんて。
……翔太を引き留めて、話せばよかったな。
■青霧在 > そうしていると、ふと眠気が襲う。
そうだ、今の俺は重傷者。
峠を越えたばかり、身体もロクに動かない。
「寝るか……」
どうせ一週間はここにいるのだ。
好きなだけ寝てしまっても、文句は言われないだろう。
瞼を閉じて、うとうと―――
そのまま、安らかな表情で眠りについた。
ご案内:「医療施設群 委員会用病棟」から青霧在さんが去りました。