2024/06/15 のログ
ご案内:「研究施設群」に伊都波 凛霞さんが現れました。
伊都波 凛霞 >  
──とある私立研究室にて。

「あっ、お借りしてます。ごめんね、白衣まで」

友人のツテで少し無理をいって、使わせてもらうことになった実験室。
いろいろな薬品の匂いが染み付いた独特の空気感…。
科学者などといった人間以外には本来無縁な場所だ。

「必要なもの、用意してもらえた?」

問いかけられた白衣の女性、友人の一人である君夏は頷きながら、何に使うのあんなもの、と言葉を返す。

「ふふ、色々とね。
 何のため……風紀を守るため?」

友人は怪訝な顔をして首を傾げていた。

伊都波 凛霞 >  
「えーと…高分子吸収剤は…カルボキシメチルセルロースナトリウムでいいんだよね」

『と、思うけど…わかんないよ、やったことないもん。
 でも、それが多分一番吸収率はいい筈だよ』

「だよね。じゃあやっぱりコレだ」

ずらりと研究室の机に並べられた色とりどりの瓶、そして材料の数々。
今から理科の実験でもはじめるのかと言った風情。

伊都波 凛霞 >  
『外郭は?』

「陶器。結局一番薄く作るにはこれがいいし。
 外側をゴムでコーティングすればそれだけで使い物になるから。
 作ってたらちょっと陶芸も楽しいなって思っちゃった」

『器用だね、相変わらず』

友人と言葉を交わしながら、手元はそれなりに忙しく。

やがて机の上に出来たのは、
ソフトボール大のゴム玉と小さな小さな、薬莢だった。

『なんかちょっと、頼りなさげにも見えるけど』

「まぁね。でもそれぐらいのほうが丁度良いんだよ」

伊都波 凛霞 >  
『にしてもまぁ…私でもこんなの実験で使ったことないよ。
 これ自体作るのは簡単だけどさぁ…』

「あはは、ごめんね立ち会わせて。
 でも資格持ってる人の立ち会いがないと作れないからさぁ」

テーブルから離れ、二人はいくつか並べられたドラム缶の前に立っていた。
一般人には難解な化学式のラベルが雑に貼られたそれらを見下ろして、二人は会話を続ける。

「ちなみにこれでいくら?」

『◯◯◯◯』

「わ、思ったより高くない。
 だったら遠慮なく経費にできるかな…」

『まぁ、工場とかでは普段から使ってるものばっかりだしね』

伊都波 凛霞 >  
「それじゃ、混合の比率はこれでよろしくお願いね。
 ここからはプロの仕事に期待♪」

はい、と手渡したメモを渡す。
そこに走り書きされた化学式をすらりと眺め、友人は小さく溜息を吐く。

『これめっちゃ反応で毒ガス出るやつ~~~。マスクいるじゃん!
 まぁ凛霞の頼みだし、風紀のためっていうならやるけど…』

「ごめんね、今度パンケーキ奢るから♡」

お願い、と手を合わせて。
やれやれと友人も承諾してくれる。

『立ち会っていかないの?』

「ごめん、他にも寄るところあって。
 魔法学科のほうの研究室にも寄らないと。また戻って来るから!」

『相変わらず忙しいね』

いってらっしゃい、と友人から見送られ、その研究室を後にする。

伊都波 凛霞 >  
続いて向かうのは魔法学科の研究棟。
科学関係の研究室とはエリアが違うのでそこそこ距離がある。

ぐーっと伸びをして、深呼吸。

「準備運動がてら、走るかっ」

たんっ、と地面を軽やかに蹴って走りはじめる。
長いポニーテールが棚引き、その語源を思わせるようなスピードで。

なかなかの速度。
異能の存在を考慮しなければ陸上部だったとしてもきっとトップクラスの健脚。
ただ、一般のそれと少し違うのは──。

「──ふぅっ」

目的地に到着すると、額に薄く滲んだ汗をハンカチで拭う。
違っていたのは、最初から最後まで、一切減速しなかったことだろう。

伊都波 凛霞 >  
「失礼しまーす。
 連絡しました、風紀委員の伊都波です」

魔術施錠のされた扉。
その横のインターホンのようなスイッチを押すと遠話魔術のロジック方陣が浮かび上がる。
いつみてもかっこいい…こういうの憧れるよね。

『あ、聞いてますよ。どうぞどうぞ』

入口にぼうっと光る魔法陣が広がり、光が立ち上る。
か、かっこいい……。

そこへと足を踏み込めば、視界がぎゅんっと切り替わって──研究室の中へ。

伊都波 凛霞 >  
『珍しいね。風紀委員さんからの仕事なんて』

「そうですね。普段は魔法科の生徒さんが大体こなしちゃいますから」

挨拶を終えた後、軽い会話を交わしながらラボへと案内される。
科学関係の研究室とはまるで趣の違う、自分もはじめて入る場所で少し気持ちも浮ついてしまう。
仕事、仕事…と自分を自制。

『一応は注文通りに書いたつもりだけど…これでいいのかな』

ラボにつくと、丸められた紙束を渡される。
今ではそこまで使われることのない羊皮紙。
それを受け取りながら、返答を返す。

「実験はしてくれました?」

『一応ね。簡素的なものだからまとめて使っても持続は十数分かな。
 ただ、その代わり影響範囲は結構広いよ。使う時は気をつけて』

「ありがとうございます、先輩。
 また、何か力になれることがあったら何でも言ってください!」

快く請け負ってくれた、かつての風紀委員の先輩に一礼。
魔法の研究に集中するために委員会をやめる前まで、お世話になった人の一人だった。

『そう思うならいつぞやの話を考え直してくれてもいいんだけどな…』

「それは、改めてお断りした通りで。こう見えて許嫁がいるんですってば」

お互いに小さく軽く、そんなこともあったねなんて笑いながら。

『十分注意して。あくまでも渡したそれは───』

「わかってますって先輩。
 私は魔術師じゃないけど、先輩のこの魔術には当時にお世話になってますから」

伊都波 凛霞 >  
「それじゃ、また委員会にも顔を出してくださいね?
 先輩ったらずっと籠もりっきりで顔も見せないんですから」

『性分なんだよ。またね』

丸められた羊皮紙の束を手に、ラボから外へ。
建物の外へと出ればまだまだ日は高い。

懐から端末を取り出し、先日作ったばかりのグループへと諸連絡。
僅か数人ばかりの風紀委員に共有されたグループ、そこに書き込まれるのは。

『概ねの準備は完了』

の文字。
それに、次々とレスポンスが届く。

己の異能(サイコメトリー)を駆使し、"彼"が次に現れそうな場所もいくつかにアタリをつけている。

「──目にもの見せましょ。風紀委員」

誰にでもなくそう独り言を呟いて。来た道を戻る。
きっと友人が悪態をつきながら、大量の薬剤と戦っている筈だ──。

ご案内:「研究施設群」から伊都波 凛霞さんが去りました。