2024/12/11 のログ
ご案内:「研究施設群 とあるラボ」に『研究員』さんが現れました。
■『研究員』 >
そのラボのPCモニターの傍には無数の『検査結果』と思しき紙が貼られていた。
PCの前に座るのは一人の眼鏡をかけた優男、疲れが取れ切っていないのだろうか、目の下には小さな隈が見える。
手元に置いた珈琲を飲み干しながら、マウスを操作する視線は、何処か険しいものだった。
「―― 人を招くのは久しぶりですね」
送られてきたメールの『発信者』を待ちながら、必要な資料を急いで纏めたのが昨日の事。
さて、何から話すべきか―― 男は、之から来るであろう来客を待ちながら思案に暮れていた。
ご案内:「研究施設群 とあるラボ」に焔城鳴火さんが現れました。
■焔城鳴火 >
連絡を取り合った通り、混沌とした研究施設群の中を抜けていけば、目的のラボにはすぐに辿り着けた。
この日ばかりは白衣を着ず、私服に薄手のコートだ。
「――ここか」
到着を知らせるためにブザーを鳴らす。
先日送ったメールへの返答は、『直接話をしたい』という内容だった。
そのために、やってきたのだが。
(――、いない、か)
周囲に視線を巡らせ、気配を探るが、あのやたらと子供好きな『黒い義体』は見当たらない。
元々彼らは約束は必ず守る。
つまり、クリスマスが過ぎるまでは確実に己の身は安全なのだが。
(監視は、されてるでしょうね。
でも、瑠音だけは巻き込まないようにしないと)
そう考えると、重たい吐息が漏れるのも仕方がない。
別件とも重なり、緊張せずにいられるだけの余裕は、鳴火にはなかった。
■『研究員』 >
「どうぞ」
言葉と共に立ち上がり、中に入って来るであろう相手へと視線を向け、一度会釈する男。
「焔城鳴火先生ですね?どうぞお座りください、飲み物は珈琲と紅茶、どちらがお好みですか?」
柔和に微笑みながら用意しておいた席に案内し、飲み物を用意する。
相手が纏う緊張感を微かに感じつつも、さもありなん、と言った所か。
「さて、黒羽瑠音… 瑠音さんから何度か話は聞いています
何度も『お世話』になっているとか、一緒に遊びに行ったとか…
随分と仲良くしてくださっているようで」
■焔城鳴火 >
声に従って、遠慮なく部屋へと入る。
会釈する相手に、軽く手を上げるだけで返すのは、礼節の問題よりも、性格の問題だ。
互いに頭を下げ合うような立場でもない、という認識である。
「あー――、悪いわね。
カフェインは摂らないようにしてんのよ。
適当に水道水でもくれたら十分だわ」
丁寧な対応を見せる男に、どうにも気まずそうに頭を掻く。
そのやり取りで、どことなく緊張が和らいだ気がする。
進められた通りに、大人しく椅子に腰を下ろした。
「私も瑠音から少し聞いてるわ。
瑠音の異能研究を担当してるとか。
瑠音との関係はまぁ――どちらかと『お世話』されてる方かもね」
そう言って肩を竦めて、自嘲するように笑った。
■『研究員』 >
「そうですか、ではノンカフェインの麦茶ならあるので」
目を細めて代わりのものを用意しながら、彼女の姿を一瞥する。
少女から聞いた人物像と照らし合わせているのか――
「ええ、瑠音さんはとても意欲的な子ですから、此方も助かっていますよ
… おや、そうなのですか? … ともあれ、本題に入りましょうか」
自嘲するように笑うあなたを見ながら眼鏡の蔓を撫でる。
「瑠音さんの異能について… でしたね、メールの内容は確認させていただきました
そして一つ、焔城先生に確認しておいていただきたい実験結果があります」
「之は先日、このラボの実験区画にて、瑠音さんが『橘壱さん』という生徒に協力を願い行った実験の結果です」
簡略化された実験結果を提出する、その内容は『橘壱の旧い携帯端末及びタブレット、過去の受賞楯』に対して異能を使用した場合の実験結果だ。
内容としては
『携帯端末→スマホからガラケーに変化
タブレット→内部の容量限界までアプリが詰め込まれる
受賞楯→本人の知らない記録映像に本人のオーディオコメンタリー付きのUSBが追加される』
といったもので、更に受賞楯の変化の部分には
『変化時に楯を取り落とし、偶々取り出していた黒羽瑠音のゲームカードが破損、本人も足の指を打ち付ける』
と言った起こった事象の注釈がつけてあるようだった。
■焔城鳴火 >
「へえ、準備がいいのね。
それじゃあ遠慮なく貰うわ」
答えつつ、足を組んで目を細める。
「意欲的ではあるけど、あの年頃にしては素直すぎて不安になるくらいよ。
純朴って言えばいいんでしょうけど」
そう少女に対する印象を口にしながら、本題に関しては頷いて答えた。
「橘――名前だけは知ってる。
確か風紀委員の鉄砲玉でしょ」
あくまで書面上だけの印象である。
同じ異能を持たない『地球人類』としては、多少興味があり、部外者の教員としてわかる範囲での、表面的な活動記録程度は把握していた。
「――なにこれ」
研究結果を眺め、話を聞いた上で出てきたのが、これだった。
眉をしかめつつ、こめかみを指先で叩く。
「これも学園に申告されてる内容と、随分違う作用が出てるわね。
これじゃあ『下位互換』とは言えない。
けど、間違いなく下位互換、置換されてる部分もあるし」
言いながら、三つの記録と、自身が遭遇した現象を照らし合わせる。
また、申告されている研究記録と異能の内容を頭の中でパズルのように組み合わせては、組み直し。
何かしらの共通点は無いかと、『総合診療医』として普段の少女の様子、過去、それらを加味して推測。
「――思い入れの強さ?」
ふと。
頭に浮かんだのが、一つの仮説だった。
とはいえ、例が少なすぎるためにイマイチ確信に至らず。
零れた声も、独り言のようなものだ。
■『研究員』 >
「ありていに言えば『育った環境』が良かったとも言えるのでしょう
実際今時珍しいくらい素直な子だと私も思いますよ」
「ええ、メタリックラグナロク、ご存じですか?
あれの元世界トッププレイヤーで、瑠音さんもファンだったようですよ
大分興奮してお話してくれましたね」
僅かに世間話も交えながら、焔城先生が書面に目を通すのを眺めている。
「… やはり、あなたもそう思いますか?」
しかし、その零すような小さい声を聞き逃さず、男も重ねるようにそう告げる。
「橘さんとの実験の映像も後でおみせしますが、段階が進むごとに瑠音さんの『変化させる物』への思い入れ
或いは理解度が高いものとなっています、橘さんは恐らくそれも実験に役立つだろうと考えて行ってくださったのでしょうね」
「――三つ目に至っては、『この世界には存在しない物』を作っている
後に映像を確認しましたが、この映像に映った事象自体はこの世界で起こっていると思われます
ただ、この映像がどうやって撮られたのかは… 」
「ただ、之とは別に、焔城先生が送ってくださった『結果』の中で、更に特異なものが一つあります
何か分かりますか?」
残りの情報を紙面に認めたものを渡しながら、真剣な表情で眼鏡の奥を光らせる。
渡した紙面には、三つ目の実験の際、実験区画内の無数の検査機…
その『全て』がほんの一瞬だけ反応したという結果が記述されていた。
■焔城鳴火 >
「善い子、と、危うさは比例する。
もう少し警戒心を持ってほしいわ」
じゃないと理性が持たない――という事は流石に口にしなかった。
「ああ、メタラグのチャンピオンだったわね。
世界を獲った人間どうし、一度会ってみたいとは思ってたけど」
直感的なものだが、性格的な相性が悪い気がしている。
もし年度末までに帰って来れたら会ってみるのも悪くはない、とは思うが。
「――他に、これ、って表現が浮かばなかっただけよ」
どうやら、偶然同じ部分に注目したらしい。
となると――鳴火自身が少女に相当慕われているという事に成ってしまうのだが。
急にこの後の話を、聞きたくなくなってきた鳴火であった。
「そうね――幾つか思いうかぶけど。
明らかに異質なのは、一点」
とんとん、と自分の額を示し。
「私の怪我を直した、って所かしらね。
報告されてるデータにも、この研究データにも、『生きている人間』そのものに作用した例はなかったと記憶してるけど」
さらに目つきが鋭くなり、レポートをにらんでいるようにすら見える。
「――少なくとも、『互換』じゃない。
そして『置換』でもない。
ましてや『再生』とも違う。
その上、存在しない物を創造――は言い過ぎか。
ただ、瑠音自身が知り得ない物を『引用』してる。
単純な、物質干渉、生体干渉じゃないのは確かね」
なら、少女の異能は何を引き起こしているのか。
鳴火としては不本意だが――少女の異能は、想像以上に底が深く、危ういのかもしれない。
■『研究員』 >
「本当に… 随分とあの子の事を気にされているようだ」
確か、一緒に祭りにいったりもしたと聞いている。
『世話をされている』というのもあながち謙遜だけではないのだろう。
「ええ、少なくとも本人や周辺の人物への聞き取り
此方での実験に置いても、そういった事象が発生する事はありませんでした
例外を言うなら、変化した結果『怪我』をし得る状態になる事はありましたが
『治す』といった結果は… あなたの例を見るまでは確認が出来ていませんでした」
「ええ、起こりうる現象が余りに多岐―― 言い換えれば『無作為』過ぎる
一応は変化先の『分類』は変わらないように思えますが…
それにしても不可解だ なので、此処は逆に… 変わらないものに着目してみましょう」
「―― 焔城先生や壱さんの時のような『特例』の場合を含め、必ず起こる事
… 言うまでもなく、それは『瑠音さんにとっての不幸』です
之だけは、今まで一度たりとも覆された事の無い『ルール』だ
どんな結果が起ころうと、この事象だけは必ず発生している、此処までは良いでしょうか?」
■焔城鳴火 >
「――良くはないけど」
苛立った様子で、目を閉じて、眉間を揉んだ。
これまで確認できていなかった『異質』な特例。
引き起こされる現象の『無作為』さと、『不安定』さ。
唯一変わらないのは、かなりおおざっぱな『分類』や『属性』。
そして、どんな例に置いても共通している、絶対の不文律。
『黒羽瑠音に不幸が訪れる』という、代償とも言える結果。
ここから推測出来る、いくつもの仮説は、どれも面白い物ではない。
ともすれば――『医師として』、対応を考える必要すらあり得る。
「はあ――いい、続けて」
気の重いため息を吐きながら、続きを促した。
■『研究員』 >
ずず、と珈琲を飲み下しながら、別の資料を手に持つ。
「この事象はとても厳密かつ確かなものだ、場合によっては… ではなく、確実に瑠音さんにとって不都合な事が起こる
そして、それは他者のために使用した場合も変わらない、いやそれどころか…
焔城先生、不躾とは思いますが、一つ質問をさせて貰っても構いませんか?」
「この『特例』が発生した時に起こった事象は、恐らく… あなたが瑠音さんに知られたくなかった
或いはそうですね、例えば… 『巻き込みたくない事』に関わるものではありませんか?」
苛立ちを隠せない様子のあなたに対し此方も一つため息をつきつつ。
詳しい事はおっしゃらなくても結構ですから、と続け。
■焔城鳴火 >
「――やっぱり、そういう事」
一番、的中してほしくなかった仮説の一つ。
『黒羽瑠音が不幸になる』事が、絶対のルールだとしたら。
そして――『黒羽瑠音に、焔城鳴火が慕われている』と仮定したら。
現象だけに囚われると、一見無秩序な異能でしかない。
だが、不文律のルールから逆算するのなら。
『黒羽瑠音が大きな不幸に遭う事が決まっている』のなら。
異能によって引き起こされる現象は、それに比例する物になると、仮定する事が出来てしまう。
「参ったわね」
そう呟いて、背もたれに寄りかかり天井を見上げた。
「――クリスマスまでの執行猶予」
詳細までは話せないが、少女のためにも、この研究者には話す必要がある。
「年内、あと半月の内に、私はほぼ確実に死ぬ」
正しく言えば、消息不明という形になるだろうが――。
その日が来れば、確実に。
『焔城鳴火』という『人間』は、存在しなくなる。
それは――少女にとってどれだけの不幸になるのだろうか。
■『研究員』 >
「瑠音さんが不幸になる事が異能の『核』なのか
それとも代償が『不幸』でなければならない理由があるのか
其処まではまだ判断ができませんが… 少なくとも
この異能における彼女の『主観的不幸』は絶対的なものでしょう」
背もたれにもたれかかる姿を見て、さもありなんと考えていたが
其処から零れだす続きの言葉に、流石に面食らう
「… それは」
話してもいいのですか?と続きかけるが、それは野暮というものかと首を振る姿。
「… 一つ
一つ、あなたにはお伝えしようと思っていたことがあります
恐らく、あなたにとっては更に負担を増やす内容になるでしょうが
… 聞きますね?」
此処で聞かない、という選択が出来る女性ではない
僅かな間だが、醸し出す雰囲気からそれは予測出来ていた
だが、それでも形式というものは大事だと考えている。
「―― もう一例だけ、『特異』な結果があります
『人の体に影響を及ぼした例』が」
■焔城鳴火 >
「いい、どうせニュースになるのは避けられないだろうし。
瑠音に黙っていなくなる、って選択が出来なくなっただけだから」
ポケットから箱を出して、シガチョコを咥える。
「――その特例ってのは?」
荷物が増えるのはいつもの事だ。
それで少女の異能研究に役立つなら、是も非もない。
■『研究員』 >
「… 」
また一度、息を吐く、大分気が進まない内容を話す事になった、という表情だ
「―― あなたからの連絡を聞いて、一度瑠音さんに関する情報を全て洗い直しました
焔城先生、あなたは、瑠音さんから自身の異能が『何時』発現したか、聞いたことはありますか?
瑠音さん自身は『物心ついたころには』と言っていましたが… 」
「実際は、もっと早かったのだと私は予測しています
それを踏まえて此方を見てください」
彼女に渡すのは一枚のカルテ▽
■『研究員』 >
妊娠9か月時点で胎内で死亡したと思われる胎児が、奇跡的に息を吹き返したという内容だ
恐らくは診断ミスと記載され、診断により受けた母親のストレスから状態の悪化が懸念されたが予後は良好
来月には予定通り出産の予定、と記されている
患者の名字は―― 黒羽
「私は―― これが、瑠音さんが最初に異能を『使用』したタイミングだと考えています
焔城先生… もしそうだとしたら、瑠音さんはこの時、何を『代償』にしたと思いますか?」
■焔城鳴火 >
「――、は」
かすれた笑い声が短く漏れた。
「はは――笑える」
その表情は、まったく笑っていない。
「もう15年前か――父さんに着いていった勉強会で、重大な誤診の一例として検討がされた症例。
あの頃は気にも留めなかったけど」
まさか、というほかにない。
勉強会では患者の名前は伏せられていたが、こんな誤診の記録が幾つも存在するわけがない。
「――謎かけはいいわ。
結論から話して。
瑠音は――」
そこからは言葉にならなかった。
ただ、ガリ、と。
シガレットチョコの砕ける音が、静かな部屋に響く。