2025/01/16 のログ
ご案内:「魔術学会 名無しの研究室」にネームレスさんが現れました。
■あらまし >
――いち学生の身分では持ち出せない資料がある。
放課した頃に緋月をそう呼び出したのは、学園地区から北東に位置する研究区。
駅ではやたら視線を集めた緋の魔導衣姿の出迎えがあった。
いわく、所属をあらわす制服のようなもので、自分の趣味というわけではないと。
研究機関という性質上、魔術学会本部も多くの区画は部外者立ち入り禁止だが、
いち学生に割り当てられたカジュアルなキャンパス内の研究室ともなれば、
色んなルールとグレーゾーンの上であれば、一般学生の入館は十二分に可能だ。
親しげにすれ違う学徒と挨拶を交わすことをよそに、
見慣れぬ書生服姿の少女は奇異と好奇の視線に晒されることになったのだが――
さておき、複数ある研究棟のひとつ。
集合住宅のような装いの奥、掌紋と魔力認証で開く扉の奥が目的地である。
■ネームレス >
「――どぉ?ココがボクの新しいお城。
綺麗で落ち着く感じだし、可愛い女の子も連れ込み放題。
さっそく、けっこう気に入ってんだよね」
落第街に複数の隠れ家を所有してはいたが、表舞台ではここがふたつめ。
とはいえ自宅より狭く、壁一面の本棚には難しげな厳しい背表紙が並び、
ホワイトボードには何かの図面や設計図が貼り付けられなぐり書きされ、
簡素なソファとテーブルセット、デスクには最新式のPC……と。
『研究室』という仰々しい言葉に対して地味に小さくまとまっていた。
「お嬢様ー、お飲み物はエッグノックでイイ?」
小さな流しのほうに向かいがて、そう問いかける。
話が長くなるかもしれない、ということだった。
ご案内:「魔術学会 名無しの研究室」に緋月さんが現れました。
■緋月 >
「……何と言いますか、本職が何なのか分からなくなる充実ぶりですね。」
研究室に通され、その中身を見回す書生服姿の少女が漏らした第一声がこれである。
実際、この様子を見てまさかこの部屋の主が音楽家であると思う人間は、そうはいないと思われるだろう。
ともあれ通された以上は、ソファに腰掛け、刀袋に収まった半身を傍らに立てかけて。
「あ、はい、お願いします。」
飲み物のオーダーは二つ返事で。
何分寒い季節である。室内は暖房が効いているだろうとはいえ、暖かい飲み物は欲しくなる。
「――――それで、」
用意中の部屋の主に軽く声をかける。
こんな所まで態々お呼び出しの理由。
聞いた話は「お仕事の時間」。了承はしたものの、詳しい事情は訊かなかったし、話されなかった。
「お仕事については…此処までご案内されたという事は、「込み入った案件」なのですね?」
シンプルなお話ならそれこそどちらかの自宅ですれば済むお話。
其処を選ばず、此処に通されたという事は、一筋縄ではいかない難易度か、
厄介な事案となるだろうという可能性。
しゅる、と首に巻いていたプレゼントのマフラーを取り、丁寧に畳んで刀袋の近くに置いておく。
■ネームレス >
「本業は音楽家だケド……兼、学生かな。キミとおんなじだよ」
学生、という言葉に含まれる意味合いは、想像以上に多いのだった。
それでも、デスクの上に広げられたままのメモに、雑然と書き殴られた英文。
生まれる前の詞の嬰児が放られているあたり、学生業はついでだ。
部活に友人。そういった日々を謳歌している緋月とは、どこかずれた場所にいるような。
「……そゆコト。話がはやくて助かる」
請けるか否かも護衛の判断に委ねていた。
やりたくないことをやらせるつもりは、少なくともなかった。
ローブをがばりと脱ぐと、ソファに放った。ワイシャツとスラックスの後ろ姿。
小さいカセットコンロに置かれた小鍋に、クリーム色の歓迎を準備しながら。
「未開拓区のほうで車両事故あったの知ってるか?
運搬してたヤバいものが漏出しちゃって、環境汚染が起こってる」
ひょい、と宙空に指を踊らせると、PCがひとりでに立ち上がった。
ホログラフィックモニタに浮かび上がるのは、島内の時事を取り扱ったニュースサイト。
公示されている情報だ。いまも志願者を募って調査と対処が行われていると。
■緋月 >
「…あまり言いたくないですけど、ホントに年下なのか、また疑いたくなってしまいます。」
ふぅ、とかるくこめかみに片手を当てて困り顔。
こんな部屋を持ってる時点で、自分とは「学業のランク」が違う事を嫌でも理解する。
人生二周目をやってるのではないか、と、最近暇潰しに読んだライト向けの小説のような事を考えたり。
ともあれ、振られた話には短い肯定の返事と首肯。
「昨年末…の少し前、でしたか。
緊急のお知らせ、という体で話だけは聞きました。
各委員会が、人手不足を理由に有志を募っているとも聞いています。
終結宣言は聞いてませんでしたが…まだ続いていたんですね。」
久々に見た、というものを見るように、ホログラフィモニタに軽く手を伸ばす。
規模だけだが、結構な大事故だとは地図を見て知った。
人手募集がされる位の事はある、と思わざるを得ない位には。
「危険性が強いというので、除去活動に応募した人には謝礼も出る、とは聞いてますが。
……まさか、それが目当てな訳が――あるわけないですよね。」
口にしたところで、馬鹿げた事を考えたという自覚はあった。
そもそも、この部屋の主がそんなものに困っているという事態が理解できない。
となると、善意のボランティア活動、とも言えそうにはない。
「――何か、掴んでたりします?
まさか、学園からの心境稼ぎのボランティアでもないでしょうに。」
最もあり得そうにない可能性を潰しながら、そう質問。
■ネームレス >
すこしだけ、ぴく、と肩が反応したような。
「………、まァ、要領はイイほうかもな。
あとは、常世島がわりと実力主義なトコあるから。
合衆国じゃ、ボクみたいに経歴がフワフワしてると大学どころか高校も入れない。
一年か二年はいなきゃいけないから……その間に、取っとくと便利そうな資格を集めておこうってね」
至上主義、というわけではないのだけれども、年齢ではなく能力と適性を見てくれる環境だ。
異世界の訪客である自分や緋月が学生として生活できているのも、この学校の懐の深さ故なのだと。
「……ボクとしては。
キミがけっこうまっすぐに学生してるコトが、いまでもけっこう意外だよ。
なんかキミらしくない部活はいったり、授業とか友達……あとごはんのハナシも。
楽しそうに話すからさ。そういうの、さいしょは苦手というか……遠ざけそうだなって思ってた」
非凡になろうとするもの。普通に近づこうとするもの。
在り方は千差万別で……この島でなければ、交わることもなかったかもしれない二人だ。
「だいぶ調査は進んだみたいだけど、肝心の感染源の除去に至っていないんだってさ。
所在の探知が困難で、大型の幻獣種と来た。いろいろ対策は準備されてるみたいだケド」
ネコマニャンの耐熱マグに手製のエッグノックを満たすと、
あらためてソファの隣に座った。自室のそれより距離が近くなる。
片割れを渡した。なぜかふたつある。
「甘めに淹れといた。頭使うかもだから。
ボクも、キミと同じで『話だけは聞いた』くらいだったんだケド。
この話のウラ側を密告してきたのは、ポーラ先生の病室にいたヤツだよ」
背もたれに手を乗せて、エッグノックの甘みを堪能しつつ。
黄金の視線だけを横にすべらせた。
「見舞いに行けって言ってたのは、あいつと会わせる目的もあったんだろ?
肝心の先生はぐっすりとおやすみのまんまだ。いい夢見れてるといいケドね」
そして、方舟関係者が情報を伝えてきた、というコトは――。
■緋月 >
「資格、ですか。
確かに取っておくと良い、と聞いた事はいくらかありますが。
……生憎、私が今取れそうなのは…漢字検定位でしょうか。」
資格のランクが違う。
それはさておいても、やはり頭の切れやら理解力やらが違っているんだな、と実感。
最も、人間だれしも向き不向きはあるし、得意な方向性もあるというもの。
それが偶々、多方面に大きく突出しているだけなのだろう、と納得。
「――まあ、部活については色々とありまして。
部長から直々に勧誘を受けてしまいましたから。」
暗に、迂闊に口に出せない裏事情がある、という事を仄めかせておく。
本当はすっかり喋ってしまいたい所だったが、それが難しいという事情も込めて。
「…それに、学生生活も悪くはないです。
この前は偶然、神技武練塾という部活を覗いて、中々の使い手と手合わせが出来ましたし。
世界は広いです、本当に。」
危うく仕合になりかけた際どい手合わせではあったが、戦いの勘を保つには丁度良い。
そんな事を話しつつ、ネコマニャンマグカップの片割れが置かれれば、頂きます、と手に。
軽く息を吹きかけつつ、ちびちびと飲みながら、隣のひとのお話に耳を傾け。
「――はい。あなたなら、私が出来なかったり、思いつかなかった質問が出来るかと思ったので。
…先生は、今頃「切り分けられた」ものを拾い集めているんでしょうか。
それとも、あなたが言う通りにまだ夢を見ている所なのか……。」
そこまで話を振られた所で、すい、と紅い視線が向く。
流石に此処まで露骨に話題を誘導されて、気付かない程、鈍くはなかった。
「……「方舟」案件だったんですか、あの事件。
確証もないし、現場にも行かなかったので、ぼんやりとした可能性程度にしか
考えていなかったったんですが。」
エッグノックをまた一口。色々とあったお陰で、「方舟」案件も冷静さを保って受け止める事が
出来る程度には、精神が落ち着いていた。
■ネームレス >
「常世学園を卒業した……っていう証書も資格になるよ。
だからって島外で就職できるかっていうといろいろあるみたいだケドな。
……ボクからみてると、こんな難解な言語絡みの資格を持ってるってだけで。
ああ、違う国のひとだなーって思っちゃうケドね。短歌も奥が深い深い」
返歌を受けてからはまり込んだ文化だが、喋るのと違って読解や記述はまるで話が違う。
人称ひとつをとってもあまりに多岐にわたりすぎるため、常世島に来た時はだいぶ苦労した。
「あ。 最近は翻訳アプリなんかも充実してるケド。
英語教えたげよっか。日常会話くらいなら、キミならすぐじゃないかな」
彼女の頭の回転が鈍いとは、思ったことがなかった。
来歴を鑑みれば当然の人生経験の浅さに、どこかお人好しな武人気質が見え隠れする。
そしておそらく実践主義だ。強めに仕込めば覚えるタイプだと、ボコボコになっていた姿を思い出す。
「そう。あの道場。キミはあそこに行くと思ってたから、つい――……うん。
――――島の外は、もっとずっと、広いハズだ」
込み入った事情は、詳しくは踏み込まない。必要なら相手から来るだろう。
時を経て、彼女がここに残るのか、それとも――とは。今でも時折考えるけれど。
「……脳科学や精神科の領分になるからな。
とにかく、いろいろ落ち着いたら、一時的に身体の代替を用意するつもり。
キミにも手伝ってもらうけど……いまは汚染区域が先」
怒り狂ったらどうしようかと構えてはいたが、ひとまずは安堵する。
くい、と指でホロモニタのうえをフリックしてみると。
「黒い液状の物質の漏出。接触すると心身に影響を及ぼす。
動植物の変質や生態系の変化が確認されている……資料や、あの村でみせたアレだ。
推測になるケド、黒幕が目眩ましに星核を撒いたんじゃないかって話でね。
……知らずに巻き込まれてるヒトたちがずいぶん増えてる」
報酬のためだったり、日常を守るためだったり。
決死で臨んだものもいれば、疲弊し、負傷したものもいるだろう。
それに対して義憤を覚えることはない人間ではあるが。
「ここまでの規模になったのは想定外かもしれないケド。
――まァ、要するに人災……いや、意図的に引き起こされた事件なんだよ」
そのうち明るみには出るだろうが、と。
どこか冷めた感慨とともに吐き捨てると、肩を竦めた。
■緋月 >
「私にしてみれば、他の言語は規則が違い過ぎて目を回しそうです…。
これも育った場所の違い、なんでしょうね。」
日常的に使って「頭と身に染み付いている」言語と、ある程度育ってから新たに「学び始める」言語は
難易度が別物のように感じられてしまう。
まあそれも無理からぬこと、と、英語の教授のお話についてはお互い時間が空いた時にでも、と提案。
前向きな返答である。
「時間が許せば、また見学にでも行ってみようかとは思います。
掛け持ちはアレですが…見学位なら許して貰えるでしょう。」
まだ見ぬ武術に触れる機会は貴重である。
取り入れられるかは…流石に分からないが、新たな対応法などを思いつく余地は十分にある筈。
そして、また改めて「事件」の方へと向き直る。
「…では、身体の方はお願いします。
今の先生に私が出来るのは…それこそ、「砕けず」に、目を覚ましてくれるよう祈る位なので。」
専門の事柄は専門家に。門外漢が下手に手を出して、台無しにするのは本末転倒。
其処の所は、確りと弁えている少女だった。
故にこそ、自身の動くべき場に注力が出来る。
「確か……えっと、星骸、でしたっけ。
触れ過ぎると大変なことになる、という。
それに汚染された動植物が増えている…という訳ですか。」
またエッグノックを一口。
甘さが脳に程好い刺激を与えてくれる。
「目眩まし…にしては、また随分と派手にやらかしたものです。
その間に何をやっているのか……私には予想し切れないですが、大方碌でもない真似でしょうね。」
こちらは小さく苦虫を噛み潰したような雰囲気。
奪われた「先生が使っていた身体」の使用の準備期間稼ぎ辺りだろうか、と考える。
……心がざわつく位ですんだが、やはり良い気持ちのするものではない。
「……そういえば先程、大型の幻獣種が…と聞きましたが。
それも「汚染された」相手なのですか?」
素直な疑問。どんな手合いかは分からないが…大型となると、撒き散らす
被害の範囲も冗談ではないレベルだろう。
場合によっては、そんな大物を相手にしないといけないかも知れない、という警戒を強める。
■ネームレス >
「それが、ちょっとややこしい感じなんだよな。
一概に汚染体だと言い切れないというか――」
ここからが本題だ。穏やかな話に後ろ髪を引かれども、前に進む意思を見せた。
しっかり確認してもらって、請け負うか否かを判断してもらわなければならない。
「持ち出し厳禁なのはこの資料でね。
元は映像なんだけど、肝心なのを切り抜きしといた。
くわしいトコはあとで視てもらうとして……」
ホロモニタを再び操作し、パスワードを入力してフォルダを深化していく。
そこに映り込んでいたのは、博物館に飾ってありそうな竜の白骨だ。
「縮尺わかりづらいかな。尾から頭頂まで、メートル法でざっと30メートル前後。
竜種としても大型なほうで、おそらく成体、それも随分と長命の……白骨死体だと思う。
こんな巨体が見つからなかったのは、なんでも地中でグッスリしてたらしくてね。
叩き起こしたら反撃してきたって話なんだケド――ココ!」
とんとん、と擬似的な質感を再現した画面を、白くながい指が叩いた。
鎧のように展開された死せる竜の胸郭のなかに灯った、四つの光。
大仰に声をあげてから、血の色の髪を揺らして振り返る。これが何かわかるか、と。
■緋月 >
「――――――なんですか、コレ。」
最初に出て来たものを見て、思わずそんな言葉が口から転がり出て来る。
常世博物館には、何度か足を運んだ。
大抵は「先輩」への用事だったが、単純に休息の為に見て回りたいという事もあり、
その時に「恐竜」という生物の存在と、その骨格だという骨を見た事もあった。
――確か、其処で見た中で大きいのが10メートルから少々、という所だった筈。
「……博物館で見たものの、大雑把に3倍、ですか。
でも、アレとは全然似ていない…本物の「龍」…という事…?」
ホロモニタに映し出された「それ」と、「それ」に対する解説を、思わず口を
半開きにしながら耳にしている書生服姿の少女。
そこに、急に大きめの声をかけられ、少しびっくりしながら目を凝らす。
――――確かに見える、4つの光。
胸の中にあるそれは、心の臓のようにも思える。
「……臓腑、ではないですよね。骨だけになって、心の臓だけ残ってるのは不自然過ぎる。」
であれば、一体これは何だ。
骨の竜を動かせる、力あるもの。
聞いた知識を、「方舟」の案件に関わる出来事を、頭の中から総ざらいにして、
「……もしや、」
「到底生きている筈にない状態の存在」を生かす事の出来るモノ。
それに、予想が行き付く。
「先生の心臓」に埋め込まれていた、「妖精さん」の本体。
「「星核」…!?
これ、4つ全部が、ですか…!?」
流石に、少し声が震える。
もしそれが本当なら――この「骨竜」は、相当に厄介な代物だ。
■ネームレス >
「そう! クラインが撒いたのは星骸じゃなくて、星核だったワケ。
それもこのうち二基は特別な代物らしいぜ。豪華な撒き餌もあったモンだよな」
正解を言い当ててみせた緋月にまた声をあげる。
ずる、と肩にもたれかかり頬を寄せ、同じ映像に食い入るように。
68kgは重たいだろうが、慣れた重みでもあるだろうし遠慮はない。
「あいつの情報を信じるなら、になるケド――
このなかの一基、無限――仮称『メビウス』の星核が、汚染源の正体。
これがなきゃ、ただの兵器か変異体で終わるハズだったんだろうケド。
ひたすら星骸を生産し続けるっていう、迷惑極まりない代物らしくてね」
星骸が生物の成れの果てとするなら、やがては物量が尽きるはずだ。
しかし、残量の概念が存在しない蛇口から湧いて出るなら、
これをどうにかしなければ根治しない。
「で、地中潜航を可能にする液状化能力の『流動』、
ひたすらカタくなる『堅牢』ってのもくっついてるみたいなんだケド。
この、ララミディアの暴君よりもずっとご立派な竜の本体は、
不死を授ける『浮生』の星核。これの影響で、この化石が動き出したんだと思う。
……汚染体が増えてるのも、寝てたのも、原始的な自己保存本能の結果だと仮定すれば……」
大元の竜の人格が残っているかは怪しいが。
まさしく屍が動いているのだ。動かされているようにもとらえられよう。
「このうち、『無限』は暴走してて、壊したら壊したで厄介なことになるんだって。
ぶっ壊してイイんだったら、ボクでもどうにかはできるんだケド……
逆に言えば、こいつをうまく回収できれば、すくなくとも汚染源は取り除ける。
あとはこの野生の『星の鍵』を討滅すればイイだけ」
と、そこまで言ってから。
間近に置いたつくりもののような顔が、じっと緋月の瞳を覗き込む。
「――でも、この回収作業は。
ボクがやらなくってもいいこと、でもあるんだ」
自分にしかできないからやる、とか。
そういう使命感的なものではないと言った。
回収し、汚染源を鎮圧する意図はあるが――あくまで個人的な利益のため。
そう前置きをする。要するに、他人に任せても解決はするだろう、という見立て。
■緋月 >
「はぁ――!?」
「無限」の星核。その性質に、思わず上擦った声が出てしまう。
さもありなん。あの厄介な黒い水を蛇口開きっぱなしよろしく垂れ流すとか、冗談ではない。
そして、後に続く他3つの特性も――単独ならば兎も角、それぞれを組み合わせたら、厄介極まりない。
「……これが目眩ましの撒き餌とか、悪い冗談もあったものですよ…。」
ぐらん、と、思わず変な方向に首が傾いでしまう。
最早これは歩く災害だ。
いくら汚染された生物を処理しても、これが健在である限りただの一時凌ぎにしかならない。
そこまで考えて、作り物めいた瞳が自身に向けられるのを確かめる。
「………まあ、そうでしょうね。
やろうと思えば…まあ壊すのは大変でしょうけど、「他の誰か」でも、不可能ではない、とは思います。」
其処までに、どれだけの被害が広まるかは分からないが、少なくとも「自分たちにしか出来ない」と
いうような事柄ではない――だろう、とは思う。
「……でも、この話を私にしたという事は、」
だから、その「裏」を読んでみる。
まだあまり得意な分野ではないのだが。
「「私たちがそれを回収する」事に、何かしらの利点…「使い道」みたいなものがある、という事では?」
まず最初に出て来たのが、その可能性。
■ネームレス >
じっ、と見つめていた瞳が……彼女の問いを受けて数秒。ぱっと明るく見開かれた。
「フフフ」
大きい手が、細い指が、グレーの髪をくしゃくしゃと撫でる。
あまり他人の髪には触れない手ではあるけれども、時と場合と相手による。
彼女が正鵠を射ってみせたことが、嬉しく、そして楽しかったらしい。
「――そ。 ボクたちの利益となるコト。
用心深く計算高いクラインにとって特大の未知数になることができれば。
計画をめちゃくちゃにしてやれるし、もしかしたら接触しに来るかもしれない」
抱き込もうとするか、排除しようとするかはわからないが。
少なくとも黒幕に一言をぶつけてやれる機は巡ってくる……"可能性がある"。
「女の子ならボクとお近づきになりたいと考えるのはごく自然なコトだし?
そうやって注目をさらってしまえば、その間にうごきやすくなるヤツもいる」
そして、自分の主目的たる計画の阻止の一助にもなる。
賭けにはなるが、あえて自分がやる名目はそれ。
「――――それに、ボクを逮捕したヒトがね。
ここに関わってたってのもあるしな。多分、なにも知らないまま」
乗じて引っ掻き回してやろう、と思うには、十分。
それを発言したときは、視線をそむけていたが。
あらためて赤い瞳を覗き込めば、ずい、と近づく。鼻先がふれるほど。
「……それで」
静かに。性の別のはざまにあるような、甘い声が。
「キミに、打ち明けたのは――、」
■緋月 >
「わっぷ。」
頭を撫でられると、思わずそんな声。とはいえ嫌ではないらしく、大人しく撫でられている。犬っぽい。
「つまり、敢えて撒き餌に引っ掛かって「場」を荒らしてやる、って事ですか。
――確かに、全く予想外の場所から餌に引っ掛かってくる獲物がいたら、驚くは驚くでしょう。」
可能性はあくまで可能性。
もしかしたらその予想も裏切られるかも知れない。
だが――最低でも、「無限」の星核を、可能ならば4つ全部を確保出来れば…
それを使って、「妖精さん」や、頭を撫でてる人が何かしら「悪戯」の一つでも思いつくかも知れない。
書生服姿の少女としては、寧ろそちらの方に期待があった。
「……何も知らない、という事は委員会の人、ですか。」
特に嫉妬とか、以前に笑いながら連行されていった時のような怒りは、なかった。
その件はもう終わった事であるし…拘り続けるのも、何か器が小さい気がしてくる。
「――――言葉の裏を読んだりするのは、慣れてないんです。
間違ってたら違ってるよ、って笑って下さいよ。」
ちょっとムスッとしながら釘を刺して置き、
「……私に、あの「骨竜」が、斬れるか…ですか?」
「お仕事」として、真っ先に思いついたのがそれ、というだけ。
直感頼みの裏読みだった。笑われるか、お説教も覚悟の回答。