2024/05/30 のログ
霜月 雫 > 「ふむふむ、なるほど……」

確かに、斬撃を飛ばすだけだと、正直そこに追加の理合いは発生しづらいため、決定打にはしづらい。
そこがネックだと感じていたが、中遠距離に対する牽制と割り切るならば、便利なのも頷ける。

「対多数、そして飽和攻撃ね……そっちは寧ろ、自分の技でやってたからわざわざ、って感じがしちゃうけど……性能で出来るってのは便利だね」

こちらが『性能』でやっていることを『技術』でやっている桜華刻閃流もとんでもないと思うが、そこは一旦置いておいて。

「と言う事は、両方ともそれで仕留める前提ってよりは、使って詰めていく感じになるのかな?」

桜 緋彩 >  
「後は単純に手数を増やせるのは利点ですね。速度も手数も多いものを相手取る時には非常に便利です」

斬撃はどうしても線か点の攻撃にしかならない。
それを疑似的とは言え面の攻撃に出来るのは利点だ。

「と言うよりは手段の一つですね。持ちうる手札をどう切って、どう詰めるか、選択肢の一つ、と言う感じです」

仕留める一手として切ることもあれば、そこまで追い込む一手として切ることもある。
特定の型と言うものを持たない流派故に、その時その時最善の型をアドリブで組み上げていく。
それが桜華刻閃流と言う流派だ。

「あとはもう一つ。我が流派のもう一つの技、神槍なのですが。これは嵐剣と本質的には同じものでして。これは受けていただければわかると思うので、構えていただいても?」

言って、刀を上段に構える。
彼女が構えれば、まずは普通の打ち込み。
軽い打ち込みで、見た通りの威力と重さ。
刀を引き、もう一度。
先ほどと同じように打ち込むが、威力と重さはその三倍ほどに感じるだろう。

「二度目の打ち込みは三つの斬撃を束ねて打ち込みました。嵐剣も神槍も理屈は同じです。斬撃を分け、それを広げるか束ねるか」

その刀のそれに同じことが出来るかどうかはわかりませんが、と言い、納刀。

霜月 雫 > 「なるほどね……流石、リアルタイムでの組み立てって言う点では、桜華刻閃流には中々及ばないね」

霜月流は、様々な技、戦型を型として継承し、練磨してきた流派。
多くの武術流派がそうだが、それぞれ一刀流は中心を取り制す、新陰流は転身により相手の攻撃を捌き返す、などと言った風に根底に流儀の軸となる思想があり、それに基づいた型の複合、連結によって戦型を組み立てていく。
だが、桜華刻閃流は基本三技を軸に、遣い手の創意によってその場その場で戦型を組み立てていく流派。
それ故に『型と言う形での予習』が出来ない分、型に囚われない発想力が養われる。
遣い手の資質に左右される傾向が強い、ともいえるが、その分相手取った時にも経験が活きづらい。
何とかして取り入れていきたいなあ、などと考えつつ、言われるがまま、二度の斬撃を鳥居に受ける。

「っ……斬撃の集約、ってことだね。
うーん……出来るかな、イメージ的なコツとかある?」

明らかに違う衝撃に、直感する。
これは、使えると。
それこそ、他流で実用されている技なのだから当たり前ではあるのだが、これに関しては霜月流の理合いの中にそのまま取り込んでも、使いやすそうだと感じたのだ。

桜 緋彩 >  
「盗人剣術だのなんだの、揶揄する輩は少なくはないですが、我々から言わせて頂ければ「浅い」の一言にございますね。剣の道と言うのは「技を覚えれば勝てる」ような簡単なものでもないでしょう」

使える技が多ければ取れる手段は多くはなる。
しかし使える技が増えれば勝てる、と言うことでもない。
それもわからず、桜華刻閃流のことを「勝つために節操なく技を盗んでいる」と嗤う連中が如何に浅慮かを、逆に嗤われているとも知らずに。
そう言いたげな、少し物騒な笑顔。

「そも技術と性能と言う違いもありますし、イメージは個々人で違うとは思いますが、そうですね。私の場合は絞るイメージでしょうか。練り上げた気で作った刃を外に広げず、内側に絞り、剣に纏わせるような」

上段に構え、気を練る。
「振られていない斬撃」が刀の周囲にぼんやりと浮かび上がり、それが掲げられた刀に重なる。
実際に見えるわけではないのだが、気、魔力などと呼ばれるそれを感知できるならば、そういう風に感じるだろう。
それら全てが完全に重なったところで、刀を振り下ろす。
刀が空気を斬る音が、複数重なった様な、素振りとは思えない音が響いた。

霜月 雫 > 「そうだね。
増えた手札は時に迷いを産む。いくら技を盗もうとも、それを使いこなす技量あってこそ。
そもそも、古流だって他流の技を参考にして取り入れてる流派は多いんだしね」

物騒な笑顔に対して、こちらは素直な笑みを浮かべる。

剣聖上泉信綱が創流した新陰流は、陰流、念流、神道流の三流を元に編み出されたものであるし、『幕末の剣聖』『天保の三剣豪』と謳われた直心影流の男谷信友は『流名に固執するのは偏狭である』とし、他流の長所を取り入れて短所を補うことを主張していたという。

伝統は大事だ。受け継がれた技術は文化的側面も持ち、それを護持することは間違ってはいない。
だが、実戦に耐えうる『剣術流派』として運用していくのであれば、時勢、流行りに合わせた変化は不可欠だ。
その際に他流を取り込むことなんて、基本とすら言える。

その、ある種の基本を突き詰めた流派を笑うなど、まさに笑止千万だとシズクは考えていた。

「なるほどね……収斂、集約……分かれていく剣閃を、一つの太刀としてまとめるイメージ……」

瑠璃月を抜き、上段に構える。
普段、複数斬撃はいくつもの軌道を同時になぞるイメージだった。
その散らしていたイメージを、一つに集約する。

「ふっ!」

わずかにバラけが見られるが、通常の素振りとは違う、強烈な音がした。

「こんな感じ、かな?」

桜 緋彩 >  
「おっ、流石雫どの、筋が良いですね!」

一度手本を見せただけでこれほどまでに形に出来るとは。
複数の斬撃を刀の性能に任せているとは言え、一度広げたものを束ねる、と言うイメージは中々出来ないものだ。
次期当主は単に血統だけではないと言うところか。

「これが出来る様になれば色々出来ますよ! ある程度まとめた斬撃を複数出したりとか、束ねた斬撃を途中で炸裂させたりとか!」

ぶんぶんと何度か素振りを繰り返す。
その一つ一つがそれぞれ違った斬撃を繰り出している。
習熟すればこんなことも出来る、と楽しそうに。

霜月 雫 > 「ふふ、ありがと。手本があるとやっぱり違うね」

言いつつ、じわりと滲む汗をぬぐう。
――『瑠璃月』は特異な性能を持つ刀だが、当然無からその性能を発揮するわけではない。
斬撃を飛ばす、増やす、伝播させる。それぞれ放出するタイプの性能だから余計だ。
そのためのエネルギーは、自分の精神力。
性能を発揮するたび、精神力を結構ごっそり消費するのである。
ありていに言って、とても、疲れる。

「うわ……ほんっとうに色々あるね……えっと、纏めた斬撃の数を散らして増やす……のは分かるとして、炸裂させるのはどうやるの……?」

集約したものを途中で解き放つイメージだろうか?
あまりあれもこれも、と試すのは疲れすぎるため、イメージを先に組み立てようとしつつ。

桜 緋彩 >  
「神槍も嵐剣も本質は同じですから、纏めていた斬撃を途中で散らしてやるのです」

振り出しは纏めたまま、振っている途中でそれを弾けさせているだけだ。
言葉にすれば簡単だが、神槍から嵐剣への瞬時の切り替えが必要。

「こればかりは修練ですね。纏めたものを瞬時に散らす。神槍から嵐剣への素早い切り替えが――雫どの、大丈夫ですか? こころなしか顔色がよろしくないような」

喜々として技の解説をしていたが、ふと見れば彼女の汗が凄い。
気を練り上げる必要があるとはいえ、そんなに疲れる技ではないはずだが、と言うところまで考えて、

「――もしかしてその刀、気力を消費する類のものでしたか」

だとすれば調子に乗ってしまった、と眉尻を下げる。

霜月 雫 > 「はは、隠せないね。ご明察。
私がこの『瑠璃月』をあまり使いたがらない理由の一つがコレなんだ」

困ったように笑みを浮かべて。
心の炎を燃やして、それを注ぎ込むイメージ。
シズクはそれで瑠璃月を使っているのだが、この際、本当にごっそり『持っていかれる』のだ。
気力が尽きれば単に性能を発揮しなくなるだけなので、使い過ぎて死ぬ、なんてことはないのだが……戦闘中に気力が尽きる、なんて死と同義である。
そもそも間合いの広い大太刀の扱いに習熟しているのもあり、そっちの方が遥かにやりやすいのだ。

「とはいえ、持たされたものだし、大太刀の『凍月』を使うよりはこっちの方がいい場面もあるからさ。練習は、しとかないと」

桜 緋彩 >  
「なるほど……」

自身の技も気力を練り上げて放つものではある。
魔力や闘気などとも呼ばれるものではあるが、理屈自体は魔術に近いもの、らしい。
使えば使うだけ消費するものではあるが、気そのものを刃にしているわけではない。
しかし彼女のそれはそう言うものなのだろう。
刀を通して気そのものを形にする。
こちらの技とは似て非なるものだ。

「であればあまり大規模には使わない方が良いですね。多くて三本程度に留め、要所要所で隙間を埋めるように使う方がよいかと」

何も常に全開で振り続ける必要はない。
普段の剣撃にたまに一本混ぜ込む程度でも、相手からすればかなり嫌だろう。
同じ挙動なのに、斬撃が増えるか増えないかの択に対処し続けなければならないのだから。

「大太刀、と言うことでしたら剣に纏わせるのではなく、剣を伸ばすような使い方もいいと思いますが」

完全に重ねるのではなく、刀の先にもう一本刀をくっつけるようなイメージ。

霜月 雫 > 「確かに……消費が激しい技を乱発してもねぇ」

それは、自分から死にに行ってるようなものだ。
必要な状況で、適宜ピンポイントに使う。それを前提にした型を考えておくべきだろう。

「ああ、そんな使い方も出来るんだね。これ、思ったより応用の範囲が広いなぁ」

閉所での戦いのために練習していたが、場合によっては凍月の間合いを応用できる。
使いこなせば、かなり幅広い武器なのかもしれない。

桜 緋彩 >  
「三つ、嵐剣と神槍を同じ技とすれば実質二つの技で戦おうと言うのですから、それなりの応用力はある技だと自負してはおりますよ」

むん、と胸を張る。
たまたま同じ現象が起きると言うだけで、彼女が使うのがその技と言うわけではないのだけど。
とは言え「応用を効かせる知見はある」と言い換えることも出来るだろう。

「いっそ桜華刻閃流を学ぶと言うのはいかがでしょう? その刀を使う時の感覚を養えますし、大太刀での戦闘にも使えます。いざという時にその刀と併用することで大技を繰り出すことも出来るかと」

そして抜け目なく勧誘。

霜月 雫 > 「ほんと独特だよね……一応、知ってる槍の流派に、三つの技だけで戦う流派があるけどさ」

そこは、寧ろその三つの練度を究極にまで高めて制圧する流派だった。
大身槍の流派であることもあり、機動性は乏しいため、系統としてはかなり違う。

「うーん、実は結構興味はあるんだよね。
基本のところ、習ってみるのはアリかなって……とはいえほら、私は霜月流次期当主候補だからさ。どうしても桜華刻閃流を軸に据えることは出来ない。
そんなんで習っていいものかなってのもあって……」

うーんと腕を組んで考え込む。
実際、桜庭神刀流剣術などを初めとし、いくつかの他流と技術交流をしている。桜華刻閃流もそのうちの一つだ。
だが、あくまで交流に留めているのは、一門を継ぐものとして、他流から学ぶことこそすれ、軸は霜月流でなくてはならないからだ。

桜 緋彩 >  
「勿論人によっては他流派から学んだ技を使う者もおりますが、我が流派の軸はむしろ戦術にありますから。どういう技を使うかより、どう戦うかを重視しております故」

ただ刀を振って戦ったとしても、思考や戦術が理念に沿っていればそれは立派な桜華刻閃流だ。
それはそれで独特と言われれば確かにそうではあるが。

「他流派の技を取り込むと言うのもそれはそれでアリなのではないでしょうか? 先ほど雫どのが言ったように、流派のあり方と言うものは時代によって変わるものですし」

その流派が生まれた当時はなかったとしても、後の世で新たに生まれた技、と言うものもあるだろう。
余所の流派の技を使ったとして、その流派に取り込まれるのではないのだ。

「今まさに雫どのが仰ったように、今私が言ったように。どこに軸を置くか、が大事だと考えます。使えるものは使う、その程度の意識でよろしいのではないでしょうか?」

まぁ盗人剣術だからこその考えかもしれませんが、と笑う。
ハッハッハ、と豪快に。

「なんにせよ雫どのが学びたいと仰るのであれば、惜しむことなく全てをお伝えいたしましょう。桜華刻閃流は誰にでも門戸を開いております故!」

霜月 雫 > 「あくまで、三つの技と、他流から学んだ技を使って如何に組み立てるか……そっちが本質ってことなのかな」

そういう意味では、剣術と言うよりも戦術の流派と言った方がいいのかもしれない。
やはり独特ではあるが。

「そうだね……霜月流を広げる意味でも、私自身の成長のためにも。桜華刻閃流、習うのはアリかも」

あくまで、桜華刻閃流として学んだ戦術を、霜月流で遣えばいいのだ。
霜月流の持たない視点を学び、流派を成長させる。独特故に、食い合わないとも言える。

「盗人剣術、なんて言わないでよね。いい流派だと思うよ、ほんと。
それじゃあ、今度しっかり教えてもらおうかな」

桜 緋彩 >  
「はっはっは! 雫どのにそう言っていただけると嬉しい限りでございます! その時は仰っていただければ、時間はいくらでもお作り致しますし、放課後にこちらで門下生と稽古もしております故、ご都合合えば来ていただけると皆も喜びます!」

ばしん、と両の掌を打ち合わせる。
門下生になる、と言うわけではないが、それでも共に剣の腕を競い合う仲間が増えるのは喜ばしいことだ。
逆にこちらから霜月流に興味を持つ人もいるかもしれないし。

「どこでもそうだとは思いますが、特にうちの流派はとにかく持久力が第一ですから。学べば嫌でも体力が付きます故、そう言う意味でも損はさせません!」

なにしろ多少の休憩挟むとは言え、稽古はほぼぶっ通しで身体を動かし続ける、と言うものだ。
続けていれば一日中走り回っていても平気なほどの体力が付くだろう。
続けることが出来れば、だが。

霜月 雫 > 「ん、りょーかい。ありがとね」

実際、稽古の場が増えるというのは悪い事ではない。寧ろ良い。
一緒に稽古をするのを楽しみにしつつ、次の言葉には苦笑を浮かべる。

「うわ、キツそう……大事なのは間違いないんだけどね」

かくいうシズクも、普段からトレーニングでひたすら体力を鍛えているタイプなので、持久力はかなりのものだ。
とはいえ、静的トレーニングを多く取り入れているため、動的トレーニングを増やすのもいい刺激になるかもしれない。

「それじゃあ、今日はこれくらいにしようかな……瑠璃月、ホント疲れるんだよね。
鍛えまくったらこれもマシになるかなぁ……」

汗を拭いつつ、瑠璃月を鞘に納める。

桜 緋彩 >  
「まぁ私も幼少の頃はすぐ動けなくなっておりましたが……」

苦笑。
今では二、三時間打ち合っても全然平気ではあるが、慣れていないと集中力が続かないのもあってキツいだろう。
でもそれも修行のうち。

「それに関しては、体力もそうかもしれませんが、精神鍛錬も必要かもしれませんね。瞑想や滝行のような、気力を鍛える修練も並行して行った方が良いかもしれません」

なんせ使うのが気力なのだ。
どちらにせよ体力と気力、両方鍛えておいて損はないだろう。

「私はこれから鍛錬して行こうかと思いますので、私のことはお気になさらず!」

彼女が上がるのであれば、ここはそのまま使わせて貰うとしよう。
刀を袋から出し、大小を腰に差す。
そのまま走ったり筋を伸ばしたりしてウォーミングアップを始めるだろう。

霜月 雫 > 「こういうのは積み重ねだからね……」

なんせ、スタミナだけは努力が極めて直接的に物を言う。
天才だろうが、鍛えてなければすぐ息切れしてしまうものだ。

「あー、そっちはちょっとおろそかにしてたかもなあ。精神鍛錬か、やって行かないと……」

タイムスケジュールをどうしようか、とうーんうーんと考えつつ刀を仕舞い、緋彩に一礼。

「うん、先にあがるね。お疲れ様。今日はありがとうね」

そう言って、その場に一礼して帰っていった。

ご案内:「訓練施設」から霜月 雫さんが去りました。
桜 緋彩 >  
「はい! お気をつけてお帰り下さい!!!」

ぶんぶん刀を素振りしながら彼女を見送る。
その後たっぷり時間をかけて身体を温めた後、的を多数出しての嵐剣の訓練を始めた。
結局今日も十六本の壁を超えることは出来なかったけれど――

ご案内:「訓練施設」から桜 緋彩さんが去りました。
ご案内:「訓練施設」に橘壱さんが現れました。
橘壱 >  
常世学園訓練施設。
異能や魔術、自らの素養を高め制御するための施設であり
それ以外にも自己鍛錬の基礎的なトレーニングマシンも揃えた施設だ。
ここに来る連中の凡そは異能の制御訓練が目的らしい。
今やそういった異質な力は、この世界では"普通"になりつつあった。

「……ッ!!」

だからこうした"普通"のトレーニングというやつは案外、目的がなければやらないらしい。
利用者の少ない施設の屋内。ダンベルやらランニングマシンやらが並べられている
"自分にとっては"よくあるトレーニング施設の一角での筋力トレーニング。
ショルダープレスに座り込み、一心に両手でサドルを上げては下げる。
マシンによる筋力増強効果だけに頼ってはいられない。兵器は道具。
使い手のそもそものフィジカルが伴わなければ意味がない。
一呼吸、一呼吸、筋肉の悲鳴を感じながら、大きな汗粒が弾けている。

橘壱 >  
上半身を酷使する事に、黒光りする重しが上下する。
重量40kg。非異能者の一般的な平均重量より倍増。
こんなもの、AFの総重量に比べれば遥かに軽い。
とは言っても、何処までも非異能者であり筋肉お化けというわけでもない。
半身に伸し掛かる重み、重量。負荷に歯を食いしばって一心に何度も上下する。
こんなものだ。こんなものにだって歯を食いしばってしまうものだ。

「ハッ…!ハッ…!」

そうして何度か上下した後、息を切らしながら一度周囲を見渡した。
汗で濡れた前髪の奥に見える景色は、なんとも寂しいものだ。
無論、身体強化目的でトレーニングする生徒も何名か見える。
中にはダイエットとか運動不足解消とか、そういう生徒もいるだろう。
ただ、ここに"特別なこと"は何も無い。異能訓練だの、魔術訓練だのと比べれば少なく見えてしまう。
"隣の芝生は青い"んだろう。一非異能者としては、そう見えてしまう。

「全く……。」

妬み、嫉み。だが、腐る暇はない。
無いものはない。いつだってあるカードで勝負するしかないんだ。
努力は報われる訳では無いが、高みを目指すには積み重ねるしか無い。
トランクの上に置いたスポドリをかっさらうように取れば、すぐに喉へと流し込んだ。

橘壱 >  
無い物ねだりする気はない。
世の中には"非合法"であれど異能や特別な術を後付する手段はあるらしい。
勿論リスクもつきものだが、そんなものはゲームで言うチートと変わらない。
ルールの穴は突けど、ルール自体を破るのは主義に反する。
AFの操縦を最優先とはしても、無法者になる気ならとっくになっている。
汗の滴っている眼鏡を外し、メガネ拭きで拭きながら辺りを見渡した。

「…………。」

我らの本分は"学生"であり"戦士"ではない。
此れはそもそもの思考が根本的な間違いではあるが、少年はそう見てしまっている。
まばらにいるこの連中が、どれだけ強大な異能を持って戦士としての資質があるのだろうか。
そして、自分はこのAF(ツバサ)で何処まで羽ばたけるのだろうか、と。
彼等が何かしらの違反行為を行わない限り、訪れることはない。

「…………ふ。」

そう知っていても疼いてしまう。
このトランクを着込むことを考えるだけで興奮する。
まぁ、思わず周囲を見渡してニヤけるなど、怪しい人物以外何者でもないのだが…。

橘壱 >  
「さぁて、と……。」

人ばかり眺めていても、自分は育たない。
もうワンセットだ。再度レバーを握りしめ、限界までいこう。
今日のメニューが終わるまで、ひたすらトレーニングを続けたという。

ご案内:「訓練施設」から橘壱さんが去りました。