2024/06/19 のログ
伊都波 凛霞 >  
「Drイーリス…じゃ、イーリスさん…でいいかな?」

小さい子のようにも見える…。
でもDr、なんてつけて名乗るということはそれなりに立場がある子に違いない。
この島だと見た目が宛にならないことも多々あることですし。

「あはは…見られてることには気づいてたんだけど。
 初動をはじめちゃってたから…」

こちらもダミーへと視線を向けて、早足でそちらに向かうと、よいしょと元の場所に戻す。ぽんぽん。
位置を戻すと、またイーリスの元へと戻って来る。

「データ集積…ってことは、その子は戦闘用の…?」

と、漆黒のそれへと視線を向ける。
…壱くんのAFにも驚いたけど、こんなのを作っている子もいるんだ、と。

Dr.イーリス > 呼び方に関して、こくんと頷いた。

「凛霞さんはとても集中しているように思えましたが、ちゃんと周囲の把握もしていたのですね。気が散って技への集中が削がれてしまっていたら、申し訳ございません」

畳みに座りながら軽く頭を下げる。
部屋には静かに入ってきたけど、漆黒のアンドロイドは大きさもあり目立ったりもする。あんなに集中していたのに、気が散っていたら申し訳ないという気持ち。

「戦闘に優れておりますが、他に様々な機能を有した汎用型ですね。戦闘以外でも、私の助手をこなしてくれます」

アンドロイドの方を向き、そう解説しつつ、胸を張った。

伊都波 凛霞 >  
「いえいえ。集中しすぎて気配に気付けないなんて本末転倒ですので」

頭を下げる様子に手を振りながら気にしないでね、と笑う。

「へぇー…すごい…。
 最近の科学って進んでるんだ…」

なんだかおばさんじみた言い回しになってしまった。
なんとなく漆黒のそれに近づいて、まじまじと見てしまう。
あまりそういうものに触れたことがないゆえに。
ふと、手を伸ばして

「さ、触っても大丈夫?」

興味深々、である。

Dr.イーリス > 「確かに、実戦ですと目の前の相手以外にも警戒が必要な状況は多々ありますか」

風紀委員だと特にそういった状況が多そうだと思案する。敵の援軍による不意打ちって多分多そう。

「技術は日々進化していきますからね。今や、VR技術は人が仮想世界にダイブする時代。蓬莱オンラインが大人気。AIの発展もまた目を見張るものがあります。そして、そういったものを駆使したメカの開発も進んでおります」

あまり表情の変化が乏しいながら、嬉々として科学技術について語るメカニック。
好くな事を語る子供、そういった雰囲気だった。

「どうぞ触れてみてください」

こくんを頷く。
特に動作の指示がされていないため、じーっと突っ立っているだけのアンドロイド。その漆黒のボディは、ひんやりとした金属の手触り。表面は固く、中に様々なものが詰まっているのを感じさせるような重圧感がある。

伊都波 凛霞 >  
おお…と、少し緊張しながら、手を触れる。
それは冷たく、固く…いかにもといったような感じ。

「戦闘用…どれくらいの戦力が想定されているんだろう…」

彼女の言う通り技術は日々躍進を続けている。
こういった技術も、いずれもっと常世の島の秩序を守る力などに活用されるのだろうか。
もちろんあってはならないけど、その逆も。

「こんなのを扱ってるなんて、イーリスさんは凄いんだね」

触れていた手を離して、笑みを向ける

Dr.イーリス > 「なんと、最近話題としてよく聞く機械……怪人? 機界魔人……でしたっけ。甚大な被害が出ているようですが、この《試作型メカニカル・サイキッカーMk-Ⅲ》が護衛についていればいざ襲われても安全です」

戦力を聞かれて、胸を張ってそう答えた。
直後、ちょっとだけ青ざめる。

「いえ、噂の怪人さん……風紀委員の凄い人達にも手傷を負わせていると聞いた事がありますので、実際に出会ってしまったら、気がついたら黄泉の門を叩く事になるかもしれません」

噂を聞く限り、とても怖い怪人らしい。
ちょっとだけ震えてる。
なお、秩序を守る目的とは逆の使われ方もされていた。

「凛霞さん程の達人にお褒めいただきとても光栄です」

こちらもほんのりと微笑んでみせる。

伊都波 凛霞 >  
機界魔人、の名が出ると少し身を強張らせる。
もう誰でも知っている名前ではあるものの──。

「ごめんね。本当は私達が安全を提供しないといけないのに」

苦笑する。
彼はまだ討伐されていない。
当然、捕縛も。
こんな噂で、小さな子を震えさせている。

「…でも、実際にそれくらいの戦力が見込めるなら、スゴいことかも」

かの怪人と実際に戦ってみた身としても。
当たれば生身の人間ではタダでは済まない攻撃ばかりだった。

「ふふ、私は機械のことはあんまりよくわからないけど、ね」

Dr.イーリス > 「いえ、むしろ風紀委員の皆さんは怪人をどうにかしようと命懸けで頑張っているとも聞きます。私はしながい不良少女、元より風紀委員に守られる立場にはいません。しかしながら、風紀委員が皆さんのために奮闘している事は島民にちゃんと広まっていると思います」

凛霞さんの謝罪に、いえいえ、と右手を左右に揺らす。
島の住民という立場からすれば、風紀委員の奮闘は賞賛こそすれど非難するところなどない。
とは言え不良というアウトローなので、暗に風紀を乱す故に、風紀の庇護を受ける立場にないというのも合わせて伝える。

「万が一かの怪人に出くわした場合は、風紀委員が到達するまで被害を最小限に抑えつつ足止めするぐらいはやってみましょう。風紀委員には先日、いっぱいお肉やお野菜、焼きそばを食べさせていただいたり、あと敵対する組織をいくつか壊滅して助けてくれた、そういったご恩もあります」

しながい不良。されど、決して風紀委員に追われる事もあるというだけではなく、風紀委員に対して貫きたい仁義もまたある。

伊都波 凛霞 >  
自己紹介の時にも名乗った、不良少女という言葉。
素行が悪い自覚がある、程度なのかなとなんとなしに思っていたけれど、違うらしい。
彼女が言わんとするのは要するに、公にその存在を認められていない…いわゆる、二級学生だということ。
二級学生という立場に身を窶すには様々な理由がある──色々、見てもきていた。
だからか、彼女の言うように風紀委員の庇護の下にいる資格がないというのは、疑問を覚える。

「私は───だけど」

風紀委員の生徒にも、色々な考え方があるから。

「ああやって懇親会に来てくれたりする子だったら、ちゃんと守るよ」

そう言って、笑う。

ほら、恩がある…なんて、そんなことを言う子が。
何らかの事情はあるにせよ。守らなくてよいわけがない。
理央くんあたりに聞かれたらまた甘いことを、なんて言われそうだ。

「こうやって学園の施設にだって出入りしてるくらいだし…やましいことはそんなにないんじゃない?」

Dr.イーリス > 凛霞さんの“守るよ”という言葉に、目を丸くしてしまう。
これまで、誰かに守られる立場ではない事は自覚していた。
ストリートチルドレンとして生まれ、生きるためとは言え色んな人に迷惑をかけた。
法に守られずにいて、自ずと法を犯した立場だ。
学生証だって、身分を偽るためだ。

「私よりも……ちゃんと秩序の枠組みで生きる人々を守るべきです。あなた達を必要している人達は、この島に多くいます。“私達”はちゃんと理解しています。善人が差し伸べられる救いの手の数には限界がある事を──」

気持ちの限界ではなく、物理的な限界の話。
世界に広がる貧困問題。恵まれない子供達を救おうと頑張る人達がいる。とても立派だと思う。反面、現実として救い出せる数には限界がある。

「懇親会に来たのだって、お腹が空いていたからです。単に、タダ飯をいただこうとした乞食です。いえ、参加者を乞食と言いたいわけではなく純粋に楽しんでたばかりだと思いますが、私は美味しい物が食べたかっただけです」

結局のところ美味しい物を食べたというだけでは済まされない程に楽しんだし友達が出来たわけだが、それは結果論。
元の目的は、本当に乞食のようなもの。

「それは……あくまでこの施設に来る目的にやましい事がないというだけで……普段の素行の全てにやましさがないというわけではありません……」

伊都波 凛霞 >  
「手の数はどうにもなんないけど、もっとどうにもなんないことのほうがあってさ」

そう言うと、ちょっとだけ苦笑い。

「どっちかというと足りてないのはこっち」

少女に向けてその手を伸ばす。
届くか届かないか、すごく絶妙な距離で。

「みんな手の届く範囲を守るので精一杯だから」

手が足りない、よりも。どちらかといえばそっち。
助けなきゃいけない人でも手が届かなければ意味がない。
だったら今手が届く範囲の誰かを。そう思っている。

「それはそれでいいんじゃない?
 やましいことがまったくない人なんていないよ」

それこそ正規の学生であったって、自分であったとしても。

漆黒のアンドロイドを見る。
この存在がかの怪人のような戦力を持つとしたら…それを悪用することは容易い筈だ。

Dr.イーリス > 「もっとどうにもならない事……?」

きょとんと首を傾げた。
差し伸べられる手。その手は、イーリスが精いっぱい手を伸ばしてやっと届く距離だろうか。
そっ、と凛霞さんに右手手を伸ばそうとしたけど、すぐに引っ込めてしまう。自身の右手を左手で掴んだ。

かつて、“イーリス達”は救いを求めた。だが現実としては、どれだけ無情であっても自分達で生きていくしかなかった。法の外に生まれ、法の外に生きた。世の中善人がいる事自体は理解していたけど、全ての恵まれない子供達を救うなんて非現実だから。
凛霞さんは、不良少女のイーリスに手を差しのべてくれる程に、とても優しい人だ。
だからこそ、迷いが生じてしまう。
彼女の手の届く範囲、その中に果たして私を入れてしまってもいいのだろうか。
道を踏み外してしまった私に、心優しい凛霞さんの差し伸べられた手を掴む視覚ってあるのだろうか……。

「(私は……)」

「……手を差しのべてくれた事には感謝しています。しかし、守っていただこうとする立場でありながら、少し失礼な事を言ってしまいます、申し訳ございません。……あなたに、“私達”が守れるでしょうか……? これまでどうにもならなかったからこその現状で、現実です」

達観と諦観は既に持ち合わせていた。
下手に希望を見出せば、絶望に突き落とされた時の傷が深くなる。
なら、最初から割り切ってしまえばいい。
大切な仲間が食糧不足や酷い環境であるが故の病気で亡くなっても、ちゃんと切り離していけるように。

伊都波 凛霞 >  
「今はいいよ」

手を引っ込める少女に、そう笑顔で言葉をかける。
その行動には迷いを感じたし。思うところもあるのは理解るから。

「イーリスさんのいう"私達"。それが手が足りない…ってことだと思う」

手は、まだ差し伸べたまま。
きっと手が届かず、差し伸べられず…そんな光景も見てきたんだろうな、と。

「きっとそれを守り切るにはもっと大きな力や人数がいるんだろうと思う…けど。
 それでもやっぱりその相手が目の前にいたら、私は手を伸ばしちゃうから」

「つらい思いをするくらいなら、手をとって欲しいな…と思って」

全てを掬い上げる、なんて言葉はきっとおこがましい。
もちろん理念はそう在るべき。けれど現実はそれを許す程甘くない。
目の届かない場所での悲劇には気付けない。
手の届かない相手は助けられない。

だからせめて目に見える範囲には駆けつける。
だからせめて手の届く範囲には差し伸べる。
それを徹底する…それだけを心がけていた。

「どうしようもなくなったら頼ってくれる…くらいでもいいから、ね?」

その行為を批難はしない。ただいざという時に駆け込めるくらいの場所であれたら…と。
なんとなく、懇親会での、そして今日の少女を見てそう思っての言葉だった。

Dr.イーリス > 「……私には、一人で助かろうという考えはないもので……」

そう口にして、目を伏せる。
イーリスの属する《常世フェイルド・スチューデント》は、似たような境遇の人達が集まり、寄り添って生きていくための不良集団。つまり、“私達”。
凛霞さんの手を、“一人”のエゴで掴む事は叶わない。

「……あなたは、とてもお優しいですね。感謝しています。私にさえ、手を差し述べてくれて」

イーリスは緩慢に立ち上がった。

「あなたの手はとても綺麗です。だから、ちゃんと救える人達に差し伸べてあげてください。現実として、この世界にはもう救う事が困難な人達が多くいます。自分で生きていく力がなければ野垂れ死ぬだけですが、少なくも私達は今のところ自分達で生きています。いえ、盗んだ物で生きていて“自分達で”というのはないですね」

ほんのりと微笑みを向ける。
他者から何かを奪わなければ生きていけない時点で、結局自立なんて何もできてない……。

「凛霞さん、ありがとうございました。しかし、やはり私達はあなた達を頼れる立場にありません。先程“盗んだ物”と言ったように、本当に可哀想と言うのなら私達よりもまず被害者でもありますね」

何の罪もないのに盗まれる。それはもう可哀想だ……。
《常世フェイルド・スチューデント》は、そういった戒めを心に刻んで生きていた。

「風紀委員に凛霞さんのような方がいるというだけでも安心しますね。改めて、凛霞さんには感謝しています。それでは、私はそろそろ行きます」

伊都波 凛霞 >  
「そっか」

少女の言い分を理解できないことはない。
運命共同体、と言う言葉は行き過ぎかもしれないが…そういった感性もわかる。
みな同じく苦しい思いをしているのに、自分だけ、などと。

盗んだもので生きる。などというのも…命には変えられない。
褒められるべきところではないが、その生き方を納得しなければいけない環境は確かに存在するのだから。

ゆっくりと差し伸べた手を戻す。
少なくとも、今の彼女にはとってもらえることはない、手を。

「ううん。でも、立場とか資格とかは…私はそんなこと考えないから。
 それにきっと。そういう風紀委員は結構いると思うよ?」

そう言葉を帰して、小さく微笑む。
だからいずれ考えが変わる時が来たら───来るかはわからないけど、その時は。
自らが幸せになるためにも手を伸ばして欲しいと思った。

「うん、それじゃあ。
 今度はそのアンドロイド?の子の力も見てみたいな」

よかったら、ね。
と、去ろうとする彼女に小さく手を振って。
バイバイ。
またね。
と。

Dr.イーリス > 「元々、風紀委員に悪印象はありません。風紀委員に善人が多くいらっしゃる事はなんとなくながら分かります」

凛霞さんが手を差しのべてくれて、イーリスの気持ちは揺れ動いた。
それに、凛霞さんの事を拒んだ形になった事には、罪悪感が募る……。

「あなたが手を差しのべてくれて、とても嬉しかったです。その……私は風紀の方に守られるべき立場ではありませんが、それはそれとしてこれから仲良くしていただければ嬉しく思います」

そう口にして、立ち去る前に今度はこちらから手を差しのべる。
凛霞さんが差し伸べた手とはまた別の意味合いを込めた、これから仲良くしていきたい、という意味での手。

「そうですね。機会あらば、模擬戦などもやってみましょうか」

伊都波 凛霞 >  
差し伸べられた手を見れば、ぱっと花咲くような笑顔。

「もちろん!!
 私ももうちょっと、対人戦以外も頑張らないとなって最近思ったし…」

どうしても人対人を想定してしまうのは、武術を修めているある種の弊害か。
そう言ってもらえるのはとてもありがたい。心を込めて、差し伸べられた手をとって。きゅっと握手…。

「よーし、そうと決まればやる以上は負けてられないし、俄然燃えてきたっ…!」

明るく快活な表情。
畳の上で集中していた印象とはまた違った、顔。

「っとと…引き止めちゃった。…ありがと、イーリスさん」

改めて手をとらせてくれた彼女に、感謝の言葉と微笑みを。

Dr.イーリス > 「これから、よろしくお願いします」

差し伸べられた手を握ってくれた事に、ほんのり笑みを浮かべて。

「ふふ。戦うとなれば私も後れを取れません」

そう口にした後、先程の凛霞さんの遠当てを思い出した。
あの技は、凛霞さんの強さの片鱗だろう。
実際に模擬戦した場合を考えて、少しだけ青ざめる。

「……いえ、模擬戦と言っておきながら、先程のあれを見ると勝てるか危うしですね。もちろん、やるからには勝てるように頑張りますが」

そうして、凛霞さんに一礼して、手を振った。

「それではまた。今日は本当にありがとうございました」

そうして、漆黒のアンドロイドと共に畳のエリアを後にするのだった。

伊都波 凛霞 >  
彼女の連れたアンドロイドはバージョンアップを繰り返し更に強化されるのだろう。
やるからには勝てるようにと口にする彼女。
たった一撃の技を見てそう感じるあたりはそういったセンサーは敏感そうだった。
それも環境が培ったものなのかな、なんて思うと少しだけ感じるものがある…。

「うん。こちらこそ───」

背を向け去りゆく少女と漆黒のアンドロイドに手を振って。

……その手をじっと見る。

綺麗な手。と少女は言った。
あの子が言うほど、汚れていないわけでもない。
かつて結果的に命を落とした子は…二級学生だった。
振った手の指をぎゅっと握り込む。自然と、少し力が入ってしまう。

「──やっぱり、私なんかまだまだ」

そう独り言を零すのだった。

ご案内:「訓練施設」からDr.イーリスさんが去りました。
ご案内:「訓練施設」から伊都波 凛霞さんが去りました。