2024/06/24 のログ
ご案内:「訓練施設」に武知 一実さんが現れました。
ご案内:「訓練施設」に桜 緋彩さんが現れました。
武知 一実 >  
「……たく、もう一日安静だなんて大袈裟なんだっつの」

常世渋谷での喧嘩から2日。 オレは鈍った身体を動かそうかと訓練施設を訪れていた。
額の傷を診て貰った医者からは二日間は絶対安静を言い渡されたうえで頭を包帯でぐるぐる巻きにされたが、こんな程度は絆創膏で充分だろう。
安静にしてても退屈だが、喧嘩なんてして追加の怪我を負おうもんなら何言われるか分からねえ、ってことで訓練施設で怪我に響かない程度で何かしようと思ったわけだ。

「……ついでに道場覗いてみっか、とは思ったけど」

色々とあって時間的に遅くなっちまった。
もう稽古終わってる頃じゃねえかな……ま、稽古つける奴が来てれば、の話だけど。
そんな事を考えながら、オレは普段稽古場として使用されている部屋を覗いてみる。

「まだ誰か居るかー?」

桜 緋彩 >  
覗いた先の部屋、複数の生徒が思い思いの武器を手に打ちあっている。
そんな生徒たちを、椅子に座って真剣な目で見ていれば、部屋の入口に見知った姿。

「――おや一実どの。
 いらっしゃいませ」

立ち上がり彼に一礼。
休んでいる生徒たちも立ち上がり、同じく礼をしながら挨拶。

「今日は――見学ですか?」

彼の額にある絆創膏に視線が行く。
またケンカだろうか。
とりあえず椅子をもう一つ持ってくる。

武知 一実 >  
「まだやってやがったか――……なんだ、居んじゃねえか」

相変わらず熱心な事だ、と思いながら部屋の中へ足を踏み入れる。
こちらに気付いた道場主が椅子から腰を上げオレへと一礼すれば、他の生徒たちもそれに倣う。
……何だかむずむずして据わりが悪い。

「あー……いや、指導者が怪我したって聞いたんで。
 それじゃ稽古もさぞ身が入らんだろうと思って来たんだけどよ……杞憂だったみてえだな。
 ンー……そんで、まあこれ見ま……差し入れだ」

オレは後ろ手にぶら下げていた袋を緋彩へと差し出す。
中身は商店街で限定販売のプチシュークリーム。 これ買ってたら意外と遅くなった。

「っつーか、怪我してんだろ? 自分の椅子くらい自分で持って来るってのに」

しかし持って来られてしまったもんはしょうがねえ。
椅子に腰掛けながら改めて彼女の腕の包帯を見る。 両腕ともか……。

桜 緋彩 >  
「私ひとりが怪我した程度で気が抜けるほど、ここの皆はだらけてはおりませんよ」

へにゃ、と笑顔を見せて。
他の生徒は再び稽古に集中するだろう。

「あぁこれはこれは、どうもありがとうございます」

差し出されたシュークリームを受け取り、深々と頭を下げる。
あとからありがたく頂こう。

「――ん、あぁこれですか。
 大した事ありませんよ、少し焼かれた程度ですよ」

彼の視線の先、自身の両腕の包帯。
医者からあまり動かさないように、とは言われてはいるが、普段使いには特に不便はない。
ひら、と振って見せる。

武知 一実 >  
「――みてえだな」

――それでも士気には関わるだろ、と思ったが言わんでおく。
参加者(こいつら)だって思うところはあれど師範(緋彩)を信じてんだろうから、外部のオレがとやかく言うのは筋違いか。

「大した事ねえわけねえだろ。
 ……嫁入り前の娘が痕の残る傷なんかこさえてんじゃねえよ」

視線を気取られて思わず顔ごと背けてしまった。
そして何と言うか随分と古臭い小言を言ってしまった。 いや違うだろ、もっと他に言う事あるだろオレ。

「――今まで通り剣を振れるまで、どれくらい掛かるんだ?」

そうそうそう。 そっちの確認の方が大事。
顔は背けたまま、横目で先輩を見遣る。
別に顔を逸らしておく必要は無いとは思うが……何となく、だ。

桜 緋彩 >  
「ははは、それは今更です」

元より細かい傷跡が山ほどある。
今更気にするようなものではない。

「そうですね、とりあえずは今週いっぱいは難しいでしょうか」

言っても表面が焼けた程度なので、簡単な治療魔法でどうにかなる。
今使うと痕が残ってしまう、とのことで、患部がある程度落ち着くまではこのままだ。

「少なくとも7月に入る頃にはお手合わせ出来るかと」

武知 一実 >  
「笑いごとかよ。
 ちったぁ気にしろ、そんなんじゃ嫁の貰い手つかねえぜ」

再びそっぽを向きながらオレは言う。
視線の先では生徒たちが各々稽古に励んでいた。

「今週いっぱい、か……まったく、要らん時間取りやがって。
 人にはとやかく言っといて、その怪我の原因も喧嘩(私闘)だろ?」

一番納得いってない事を言及する。
ここ1週間、ずーっとモヤモヤと蟠ってたことをやっと吐き出せた……と、思うんだが。やっぱりスッキリしねえ。

「まあ、気持ちは察せんでもねえけどよ……。
 そんで――本気で()れたのか?」

桜 緋彩 >  
「あっはっは、いざとなれば見合いでも致しますよ」

けらけらと笑って見せて。
男女の恋愛にはすぐ狼狽える癖に、嫁とか結婚とかそういう話は平気らしい。

「いや、申し訳ない。
 自分の力を試したくなってしまいまして」

彼にケンカは良くないと語っていたくせに、自分が率先してしていてはどうしようもない。
まして先約は彼の方にあると言うのに、言い訳のしようもないだろう。

「ん――いや、どうでしょう。
 立ち合いは楽しかったですが、満足したか、と言うと」

自分の持てる力を全てつぎ込み、存分に剣を振るった。
ただ、満足出来る立ち合いが出来たかと言うと、少し怪しい。

武知 一実 >  
「ふぅーん……」

見合い、ねえ……
こうは言ってるが、実際その段取りになれば狼狽えるんだろうか。 そんな事を思う。

「万一の事も考えろよな、アンタに何かあったら道場の連中(こいつら)どーすんだよ。
 ホントに、鉄砲玉じゃねえんだから……次同じ様な事すンなら、無傷で勝つか退くかしろよ」

もうするな、とは言えない。 言っても聞かないというか、そういう性分だろうから仕方ない。
だから圧勝か負傷前に撤退にしろと釘を刺す。
どこまで聞き入れて貰えるかは分からんし、正直あんま期待もしてねえ。
――繰り返しになるが、その気持ちは分からんでもねえし。

「そっか、……そっか。
 チッ、ホントにズルいよな。 先輩ばっか楽しい喧嘩しやがってさ」

楽しかったけれど満足はしなかった、か。
その理由を深く詮索するほど野暮じゃないつもりだ、代わりに不平を投げ掛ける。

「……次、オレが()る時、満足させられっかね」

本心からの不平を投げてたら勢い余って零れた。
はっとして咳払いで誤魔化してはみる。 誤魔化せてる?

桜 緋彩 >  
「そういう意味では、私は当主には向いていないのでしょうね。
 どうしても、その為に腕を磨いている、と考えてしまうので」

流派自体、個人個人で戦い方が違う、と言うのもあるのだろう。
自分が練り上げた戦術を、実戦で試したい、という気持ちが強い。
ある程度の怪我を織り込んでいる、と言うのもあるから無傷でと言うのは難しい。

「喧嘩、ですか。
 一実どのはどうして喧嘩をなさるのですか?」

責めるような口調ではない。
ただ喧嘩をしたがる理由を尋ねている。
満足させられるのか、と言う言葉に対し、じっと彼の眼を見て。

武知 一実 >  
「ホント、自律心を養った方が良いんじゃねえか? ……まあ、オレが言えた義理じゃねえけど。
 まあ武術の腕なんて使ってなんぼ……って訳じゃねえんだろうけど」

その辺りの心境も理解出来なくもない。
とは言え本人も言っているが、仮にも道場開いてる(他者を指導する)奴が抱えてていい衝動じゃないだろ。
まあまだ若い身空なんだから無理もないっちゃ無理もないんだろうが。

「あン? ………前に言ったろ、喧嘩でしかコミュニケーション取れない奴らと話をする為だって。
 ――って、前と同じ答えだと思ってたら改めて聞いたりしねえわな」

何だか心内を見透かされてる様な気がして、先輩の眼を直視しづらい。
勝手に気まずくなりながら、オレは目を逸らして続ける。

「――喧嘩してる時はよ、相手はオレの事をちゃんと見てくれるじゃねえか」

前に問われた時から、何とはなしに考えてはいたんだ。
前はそれっぽい理屈を並べてみたけれど、それも本当に理由ではあるが、多分オレの根幹じゃねえ。
その結果行き着いたのは、どうにも幼稚でお粗末な理由だった。

桜 緋彩 >  
「返す言葉もありませんね……」

全く持ってその通りだ。
とは言えこれが自分だ、という気持ちもある。

「ふむ」

見て欲しいから喧嘩をする。
なるほど、気持ちはわからなくはない。
戦いの最中で相手のことを見ないものはいないのだから。

「一実どのが満足いく喧嘩を出来ていない、と思うのは、それが原因かもしれませんね」

言ってしまえば見て欲しいから喧嘩をする、と言うことだ。
しかしそれは気を引くために悪さをする子供とある意味では変わらない。

「自分のために剣を交える、と言う意味では私も同じでしょう。
 ただ私は見返りを相手に求めているつもりはありません」

自分のための立ち合いとは言え、相手に見て欲しいからと言うわけではない。
あくまで自分がどこまでやれるかの確認作業に近い。
彼が満たされないと言うのなら、理由はそこにあるのかもしれない。

武知 一実 >  
「別に悪いとまでは言う気はねえよ。
 ただ、当主になるんだったら必要なもんなんだろ?」

一介の剣術使いなら今のままでも良いのかもしれない。
あるいは、当主の座なんて蹴っちまうのが先輩にとって良いのかもしれないとすら思う。
ただ、それを決めんのは先輩だ。 オレがああだこうだ言えるのはここまでだろう。


「オレだって別に見返りを求めてるわけじゃ――……ん?」

別に相手に見て欲しいだけで喧嘩をしてるわけじゃないし、自分から喧嘩を吹っ掛ける事も無い。
ただ喧嘩の最中は間違いなくオレを見てるから、売られた喧嘩は買ってるわけで――と、ここまで考えてふと首を傾げる。

「オレが満足してない……?」

何でそういうことになって……?
――あ、えっと、そっか。いや、けど……マジか。

「――プッ
 ふ、ふくく……はっはははははは!
 
 ……ああ、いや悪い先輩。真剣に言ってくれてるとこ悪いけどさ、そりゃ勘違いだぜ。
 ――先輩がオレを満足させられんのかじゃなくて、オレが先輩を満足させられんのかなって独り言だ、ありゃ」

桜 緋彩 >  
「そうですね、肝に銘じておきましょう」

少なくとも、命を落とすようなことはしない。
命さえあればどうにでもなるのだから。

「あぁいえ、そういうことではなく」

そこに関しては心配していない。
自身が求めているのは満足する立ち合いではなく、立ち合いそのものなのだから。

「私のことではなく、一実どの。
 あなた自身のことですよ」

自分の話ではなく、彼の話だ。
それで悩んでいるわけではないかもしれないが、「楽しい喧嘩」と言う言葉が気になった。

「まぁしかし、悩んでいるわけではないのならば構いません。
 少なくとも、私は一実どのとの立ち合いには不安を感じておりませんので、大丈夫ですよ」

武知 一実 >  
「ああ、なんだ。 笑って損した。勘違いしてんのはオレの方か。
 ……でも、何で先輩がそこまで考えてくれんのか不思議ではあるけどよ」

うわ恥ずかしい、けどまあ悩んでる様に取られたオレに非があるか。

「オレが悩んでるとすりゃ……そうだな、実ンところ先輩を満足させられんのかってのは割とガチだぜ?
 だってこないだの立ち合い(喧嘩)、あんな楽しいの初めてだったからな。
 アレでオレん中で満足の基準が変わっちまったくらいにはさ」

突然の笑い声に反応しこちらの様子を窺う生徒たちにしっしっ、と手を振って稽古への集中を促しつつ。
要らん心配を掛けた、と先輩の頭を撫でておこう。詫びの気持ち。

「だからまあ、そんな価値観変わる経験をさせてくれた先輩に満足して貰いたいってだけなんだ。
 そこに先週のドンパチだろ、ああうん有体に言っちまえば――

 ―――ちょっと、嫉妬してたんだと思う」

多分、どちらにも。

桜 緋彩 >  
「そりゃあ、友人ですから――わ、っぷ」

急に頭を撫でられた。
身を捩って逃げる。

「……ええまぁ、立ち合いと言うのは喧嘩とは違いますからね。
 喧嘩、と言うのは言ってしまえば自分を通す手段です。
 こうして欲しい、こうしたい、こうされたい。
 どれも自分が、と言う感情です」

基本的には自分のエゴを通すものだ。
結局のところ相手を屈服させるためのもの。
彼の言うところのコミュニケーションの一つと言うのには間違いはない。

「しかし立ち合いと言うものは相手があってのものです。
 自分を通すためだけではなく、相手の通したいものも受け止め、お互いに技術や思考などを交換し合うものですから」

そういう意味では喧嘩よりも相手とのやり取りは多いだろう。
勿論彼が武と言うものと初めて出会ったから、と言うものもあるかもしれないが。

「そういう意味で、自分を見て貰うためではなく、お互いに視るために拳を交えれば変わるかもしれませんよ」

武知 一実 >  
むーん……
あ、逃げられた。 チィッ。

「喧嘩だって一人じゃ出来ねえのよ先輩。
 それに……何て言うかな、前提がちょっと違うんだ。
 見て欲しいから喧嘩するんじゃねえんだ、喧嘩してる時は相手がちゃんとオレを見てくれてるから喧嘩してんだ。
 だからオレも相手の事は見てるよ、ちゃーんと。 先輩との時だってそうさ」

まあ立ち合いと喧嘩を同じにするのは申し訳無いので同じ括りにはしな……してるけども。
エゴとエゴのぶつかり合い、それこそ拳を通じてお互いのエゴを分かり合うのが喧嘩だ。
大抵は最中よりも、決着がついてから理解する、という遅延(ラグ)はどうしても生じる。

「けどまあ、大抵喧嘩売ってくる様な奴はエゴの塊みたいな奴らばかりだしなあ。
 日頃からそういう風には出来ねえよ、やっぱ」

まあ楽しかった理由の一端が掴めただけでも収穫か。
次に手合わせする時は、もうちょっと分かれば良いんだが。

「――ま、その辺も込みで次の手合わせ楽しみにしてっから。
 先輩は今んとこオレに不安は無くとも、オレの方は不安大有りなんだからな?」

それ、と腕の包帯を指差して。

桜 緋彩 >  
「ええ、わかっていますよ。
 その上で、見るのではなく視る、知るのではなく識ると言う違いがありますよ、と言うことです。
 やってみればわかりますよ」

拳を通じてわかり合う、と言うより、拳から意思を読み取る。
向いている矢印の向きが違う、と言うと近いだろうか。

「日頃からすればいいではないですか。
 出来ることは出来るのですから、出来ないことをやろうとすることこそ鍛錬ですよ」

人差し指を立ててくるくると回しながら。
その腕を指され、そこに目をやる。

「あぁ、本当に大丈夫ですよ。
 痕も残らないと医者からのお墨付きですので」

武知 一実 >  
「やってみりゃあねぇ……
 まあ当人の感覚の問題な気がしねえでも無いけど。
 ……ちょっとは考えてみっか」

オレは自分の掌を見つめ、握ったり開いたり。 分かった様な、分らん様な……。
まあきっと普段相手にしてんのがチンピラや不良だからかもしれんけど。

「日頃からっつっても、オレはその気でも向こうがそうじゃないと上手く行かんでしょ。
 そんな意識で喧嘩売ってくる奴、普通居ねえのよ?」

簡単に言ってくれるなぁ。 そして別にオレは鍛錬を積みたいわけじゃないんだが。
まあ、それは良いとして。

「痕が残らんとしても、安静にしてた期間で多少なりと腕が落ちてないか不安なワケよ。
 オレぁ本気の先輩と()りてえんだ。 万一、その怪我で少しでも本調子じゃなかったなんて……まあ言う訳ねえと思うけど」

信用してないわけじゃない。 単に安心出来るだけの担保が欲しい。
……これなら先輩も全力で勝ちに来るだろう、って何か――あー。

「じゃさ先輩、怪我して手合わせ延期したお詫びとしてで良いんで一つ約束をしてくんねえ?」

桜 緋彩 >  
「私と手合わせをして基準が変わった、と言ったでしょう?
 一実どのがそうしていれば、そういう人が出てくるかもしれませんよ」

勿論技術の違いと言うものもあるかもしれないけれど。
それでも喧嘩の仕方を変えれば、それで意識が変わる人が出てくる、かもしれない。

「それについてはご心配なく。
 身体を動かさなくとも出来る鍛錬はありますから」

運動は出来ないが、頭の中でならいくらでも動ける。
身体を動かすのが一番ではあるが、それが出来ないからと簡単に鈍るような鍛え方はしていない。

「約束ですか?
 私に出来ることであれば、構いませんが」