2024/07/13 のログ
栖鳳院 飛鳥 > 「ええ。少し気を抜く時間とするのも、良いかもしれませんわ」

――貴方には、そのような場所は無いのですか。
そう、口から出そうになるのを抑え込む。
聞いた話からも、口ぶりからも、無いことが察せられるからだ。
きっと彼には、寄る辺がない。窮した時に立ち戻る、帰るべき場所が。
だが、それを自分が……他の人よりもその『帰るべき場所』が裕福で恵まれている自分が憂えたところで、それは自慢と挑発にしかならない。
素直に厚意を受け取るしか出来ない自分に、そっと歯噛みした。

「この島には、特別な事情をお持ちの方がたくさんおられますからね。
あまり気にかけるというのも、野暮なのかもしれませんわ。
――と、色々とカクテルしてあること自体は、よくある事ですのよ?
例えば、日本の警察に伝わっている剣術の流派に『警視流』というものがあるらしいのですが、それは、各派名流の中から10の流派を選り抜き、それぞれの流派の型からなる木太刀型を制定しているそうですわ」

師匠からの受け売りだが、実際いくつかの流派が混ざって新しい流派になっている、と言う例は多い。
剣聖上泉信綱が創始した『新陰流』は、陰流、念流、神道流の三流派を組み合わせて生み出したものであるし、『幕末の剣聖』と呼ばれ、『天保の三剣士』にも数えられる直心影流の男谷信友(おだにのぶとも)は、『流名に固執するのは偏狭である』とし、他流の長所を取り入れることで自流の短所を補うことを推奨していたという。
近代剣道にしても、一刀流系列をベースに色々と混ざったものであるし、チャンポン自体はよくある事なのである。

「――実は、お顔に関しては、ある程度確認することは可能ですわ。
ですが、その……流石に、許可をいただかないことには、するわけにも参りませんの」

顔もわからない、と言う言葉には、少し困ったように顔を逸らして。

武知 一実 >  
「オレは精々今年の夏はバイトして、来年あたり島外に旅行でも行けるだけの貯金でもしとこうかね」

経緯はどうあれ今や自由の身だ。もう宙を漂う羽毛の如き自由さだ。
今年の内からガイドブックでも買い込んで、来年は気儘な一人旅でもしてやろうと目論んでおくのも悪かねえな。
と、何やら複雑そうな飛鳥の前で、気にすんなという意味も込めて言ってみる。

「アンタにとっちゃ特別でも、当人からすりゃそれが当然、当たり前って事もあるしな。
 まあ耳も良いだろうアンタの事だ、相手の感情は声色からぼちぼち想像も出来るし迂闊な事ぁ言わねえだろ?
 ――お?お、おお……へえ。警視流。そ、そうなのか」

オレの場合、流派がどうのと言うよりかは、武術自体がごっちゃになっちまってる上、どれもこれもキチンと修めたわけじゃねえって方が問題なわけで。
ちゃんとした奴らから怒られっから、ホントに。いや、そこまで気にされるかすら怪しいとこだがよ。

「……あァ?何だ、確認する術があんのか?
 だったら別に構いやしねえぜ、自分の顔も分かられてない状態で話すんのもどうにも納まりが悪いって思ってたとこだしよ」

魔術か、異能か。視覚の代わりに相手を捕捉する方法があるなら都合が良いじゃねえか。
許可が要るってのが腑に落ちねえが、別に何か減るもんでもねえだろ。

栖鳳院 飛鳥 > 「ふふ、それも素晴らしいですわね。きっと楽しい時間になりますわ」

とは言え、飛鳥はあまり旅行の楽しさに関しては実感的ではない。
風景を楽しむことも出来なければ、不慣れな土地の不便が勝ってしまいがちだからだ。
それを表に出さないよう努めつつ、その後の言葉には少し困ったようなはにかみを返す。

「――はい。ある程度ならばですが、想像はつきますわ。
あまり快く思わない方もおられるのですが……気になさりませんのね」

身体の発するサインは、視覚だけでは見えづらい。
その点、音はごまかしようがないことが多く、相手の感情の推量が出来るというのはまさにその通りだった。

「よ、よろしいのでしょうか……では、しばし目を閉じてくださいまし」

少し動揺しつつも、ならば、とそうお願いする。

武知 一実 >  
「ああ、なんか面白い置物でも売ってたら土産で買って来ようか。
 ……って今から来年の話をしてどーすんだってのなぁ」

せめて来年の今頃にする話だろう。鬼が腹ぁ抱えて笑っちまうぞ。
それに旅行に行けるだけの額を一年で貯金できるかも怪しい。
色々な学校側からの支援を受けてるとは言え、何かと金は入用だ。やっぱオレも寮生になっときゃ良かった。

「だろ?気にしてる奴には気ぃ使ってやりゃ良いし、俺みたいなのには気ぃ使わねえでいりゃ良いさ。
 別にアンタはそうする必要があるからそうしてるだけだろ? 目が見える奴が相手の表情や仕草から機微を感じ取るのと変わらねえ、誰でもやってるこった。」

まあ嗅覚まで用いられるとちょっと気恥ずかしいというか、まあ、控えて貰いたいとは思うけどな。

「お、おう?目を閉じ……こうか?」

言われた通りに目を閉じる。
何だろう、あまり見せられないようなもの――門外不出の魔術とかだろうか。少しわくわくしてる自分が居た事にちょっとだけ驚く。

栖鳳院 飛鳥 > 「あら、それは楽しみですわ。どんなものでも大歓迎ですの。
ふふ、先のことを考えるのも、また楽しいものですわ」

出来るかわからない、本当にするかもわからない。
でも、そんな未来を想像して語り合うのも、楽しいものだと。そう思いながら。

「そう言っていただけると、気持ちが楽になりますわ。
どうしても、特異な感覚となれば、忌避する方もおられますから……と、では、失礼いたしますわね」

そう言いながら、そっと、一実の顔に手を当てる。
そして、目に出来るだけ当たらないように、その顔を探るように撫でていく。

普通に直接触って輪郭などを確かめる力業だった。

武知 一実 >  
「そりゃそうだが……まああんまり先過ぎてもな。
 せめて夏が過ぎてからくらいの事とかが丁度良いかもしれねえ」

まあ先の事を考えるの自体はオレも好きな方だが。
あまり将来に目を向けすぎて、足元を疎かにして転んじまったら元も子もねえ。
先の話でも、なるべく近いところから、が良いだろうと思う。

「こんな時代だ、異能だ魔術だに比べりゃ視覚の代わりに他の五感が優れたからって特異だなんてヘソで茶ァ沸かしまうだろ
 ……あ、お、おう。」

一体どんな手段を用いるのか、少しばかり柄にもなく緊張していたオレだったが。
逆に手で触れられる、というシンプルな手段は完全に失念しており――

武知 一実 >  
「―――ひょぁ!?」

武知 一実 >  
――驚きのあまり割とデカめに声が出た。
何ならついでにパチパチっと漏電すらする始末。
飛鳥の手に、ちょっと強めの静電気くらいの刺激がいくかもしれない……というか、いく。悪い。

栖鳳院 飛鳥 > 「そうですわね、少し先くらいの方が現実味があって、考え甲斐もあるというものですわ」

短期的な目標なら、より具体的にイメージを作ることも出来る。
その方が、地に足もついているというものだろう。

「言われてみれば、確かにそうですわね。気にし過ぎていたかも知れませんの」

言いながら、出来るだけそっと顔を触り、輪郭を確かめる。
ある程度はこれで分かる……と思っていたところで。

「ひゃん!?」

それはそうである。目を閉じているところに唐突に触られたら、びっくりもする。
それによる大きめの声と、強めの静電気くらいの刺激。
今度は逆に飛鳥の方がびっくりして、慌てて手を放し、そのままバランスを崩して、後ろに尻餅をついてしまう。

武知 一実 >  
「――だろ?
 ひとまず目下のところは夏休みの予定……あ。アンタは海とか川とか――は、行かねえか。危ねえもんな」

その前にテストがあるだろって?あったなあそんなのも。
まあテストはなるようにしかならんから置いといて、夏休み中のレジャーについて訊こうと思ったんだが……
水辺は普通に危険だし、人の多いところは不便もあるだろうしで完全に要らんことを聞いてしまった感。
うう、ノンデリの汚名返上が遠退く……。

「まあ、アンタも中々に人に気ぃ遣う奴だよな。
 けど、良いんじゃねえか?相手を慮れるってのは、それだけアンタは優しい人だってこったろ」

まあそんな優しい人に対して不意を突かれた形になったとはいえ驚きの声を上げてしまったし、ついでに微かな電気まで浴びせたオレである。
だ、だって、びっくりしたもんはしょうがねえじゃん!じゃん!……いやホント悪い…。

「うぁぁ……わ、悪いっまさか触られるたあ思ってなくって!
 だ、大丈夫か?怪我とかしてねえ?あと火傷とか、今パチってしたろ?」

自分の悲鳴に驚いた飛鳥の悲鳴に、慌てて目を開ければ目の前で尻餅をつくのを目の当たりにする。
あーあやっちまった、これは完全にオレの不覚、けれど動転したままだといつまた漏電するか分からないので迅速に心を落ち着かせる。

「すー……はー……、悪い、驚かせちまって。
 大丈夫か、立てるか?ほら、掴まれ、すぐ目の前に手、出してっからよ」

栖鳳院 飛鳥 > 「そうですわね、あまり自然の中には行くことは……」

言う通り、危ないから難しい。
こればかりは仕方ないので、受け入れてはいるのだが。

「そのように躾けられましたから。
そのようにお褒め頂けたのなら、お父様お母様の教えが正しかったと言う事ですわ」

誇らしげに言うが、その後にどってん尻餅である。
しかし、こればかりは自分の落ち度だ。

「い、いえ、当然の反応ですわ……せめて、先に言葉でお伝えするべきでした。
も、申し訳御座いません……恥ずかしながら、腰が、抜けてしまいまして……」

自分では立ち上がれず、おろおろと前の方に手を出し、どうにか差し出されている手を掴もうと。

武知 一実 >  
「だよなー、悪い……今のは浅慮だった」

まあオレも水辺にはあまり近付かない側だが。
となると山も当然行かないだろうし……それなら夜中に公園を散歩したくなる気持ちも、分らなくはない。
人通りの少ない時間を選んでの外出、昼間はし難いだろうから尚更だ。

「ははっ、良い両親だな。ちゃぁんと孝行しろよ。」

オレの親は……まあ、何だ。やめとこうか。
それよりも今は尻餅付いた飛鳥を助け起こす方が先決だ。

「あまり人に触れられる事が無いもんで……尚更驚いちまった。みっとねえ事して……ハー、恥ずかしい。
 けど、アンタを驚かせるつもりは無かったんだ、マジでさ。ええと、じゃあこっちから手を掴んで引っ張り上げるわ。せーのっと!」

腰が抜けるほど驚かせてしまった事に自分の迂闊さを本気で恨む。
情けないやら恥ずかしいやら申し訳ないやらでぐちゃぐちゃになりそうな感情を無理矢理抑え付けて。
差し伸べた手を探す飛鳥の手を取り、そのまま一気に引き起こそうと試みる。

栖鳳院 飛鳥 > 「いえ、お気になさらず。私としましても、受け入れていることですの」

確かに、自然を楽しみたいという気持ち自体が無いわけではない。
だが、それに身を任せて目を開けば、何がどうなるかわからないと知っている。
ならば、現状を受け入れるまで。それは、覚悟の上だ。

「ええ、自慢の両親ですわ。
――いえ、本当に申し訳御座いませんわ。いきなり触れられては驚くのは当然、どうか気に病まないでくださいまし」

言いつつ、手を引っ張り上げてもらい、何とか立ち上がる。
一瞬もたれ掛かるようにしてから、何とか自分でバランスを取り、立ってから。

「あ……申し訳御座いません。杖を、拾っていただけないでしょうか……?」

杖を取り落としていたことに気付く。
普段は周辺のものの配置は常に気にかけている飛鳥だが、流石に慌てて取り落としてしまったものの位置は分からないのであった。

武知 一実 >  
「苦労してんなあ……」

薄々分かってはいた事だが、より一層思う。
目が見えないというだけで、どれだけの不便を強いられてきたのか。
きっとオレの想像では及びもしないのだろうけれど、それを受け入れると言葉にする姿は、強いと感じずにはいられなかった。

「――いやいや。
 普通目が見えない人が、物の形を把握するったら触れる事だって想像出来たろうに、完全に抜けてたオレもオレだから……」

飛鳥を引き起こして立ち上がらせれば、少し覚束ないながらも自力で立つことに成功した。
途中凭れ掛かられて、ん゛ッッてなる瞬間もあったけど、どうにか動揺を抑え込み切る事が出来たのでセーフ。今度は漏電無し。

「……ああ、おう。 先に杖拾っといてから起こせば良かったな――渡して欲しいところに手を出しといてくれ、っと」

頼まれた通りに落ちていた杖を拾い上げる。
そしてそのまま杖を手渡せば、ようやく安堵の溜息を吐くオレだった。

栖鳳院 飛鳥 > 「ふふ、辛い事ばかりでもありませんわ。
人の温かさに触れる機会も、多くなりますもの」

思えば、ずっと『人の温かさ』に支えられてきた。
何をするにしても誰かの助けを要する身は、己が誰かの厚意によって生かされていると痛感させる。
それは、自分の周りに、温かさがたくさんある事の証明でもあるのだ。

「盲目ですと、やはり具体的な把握となれば触るのが当然になってしまっておりまして……普通はそうでないことを、私も失念しておりましたわ」

言いながら、手を差し出して、杖を受け取る。
思えば、一瞬でももたれる形で体を預けたのは、結構久しぶりだな、などと思いつつ。

「ふぅ……ご迷惑をお掛け致しました、と言いましてもきっと、一実さんはそんなことはないと仰ってくださるのでしょうね。
それに甘えて、少しお願いをさせて頂いて、よろしいでしょうか?」

ぱぱ、と服を軽く払いつつ、少し申し訳なさそうな顔で。

武知 一実 >  
「そうかい――そりゃあ、何よりだ」

微笑みながら口にする飛鳥の言葉に、自然とオレの頬も緩む。
悪い事、辛い事ばかりではない、飛鳥の様な問題を抱える人間がそう言えるのなら、まだまだこの世界も捨てたもんじゃねえなって思える。

「おう、おう……そうだよなあ、触れるのが一番手っ取り早いっつーか……もう忘れねえようにしよう」

それと、ちょっと過去に戻ってわくわくしてた自分を一発殴りたい。
何わくわくしてんだ馬鹿って。プチ惨事起こすんだぞ馬鹿って。やっぱ二発殴ろう。

「ああ、分かってんじゃねえか。今回はオレも非がある、迷惑だなんて思いもしねえよ。
 ……お願い? まあ、オレに出来る事なら何でも言ってくれ。人間に出来る事なら大抵のことは出来るぜ」

何だろう、あ、また帰り道の介添とかか。それくらい全然出来るが。
あ、でも帰る前にシャワー浴びてえな……。

栖鳳院 飛鳥 > 「ええ。世の中、思ったより悪い事ばかりではありませんわ」

いい事ばかりでもないけど。なんだかんだ、それなりにバランスは取れていくのかもしれない。

「私も、迂闊に触ってしまわないよう、気をつけないといけませんわね……癖というものは厄介ですわ」

どうしても把握のためには触る、と言う癖がついており、それは別の意味でも危険であるため、やはり気をつけなくてはならない。
胸に刻もう、と決意をして。

「汗を流してまいりますので、その後、また寮までエスコートをお願いしたいのです。
恥ずかしながら、お稽古をしっかりとした分、少し疲れてしまいまして」

杖術で戦闘をするのもあまりなければ、稽古もここしばらくはあまり出来ていなかった。
久々にしっかりしよう、と張り切って稽古していたのである。

武知 一実 >  
願わくば、これからも飛鳥の周囲が温かな人たちばかりであることを。
そんな事を思いながら、オレは少しだけ目を眇めた。

「……いや、分ってたら言われなくても驚かなかったんだ。
 別にアンタの所為じゃねえ、まあ……次は無いから問題ねえだろ! ところで、オレの顔、ちゃんと分かったか?」

はっきりと把握される前にオレが驚いちまった気がする。
まあ、あのわずかな時間でも十分なのかもしれないが……だとしたらだいぶ凄い気もするが。

「ああ、やっぱりか。 全然構わないぜ。
 オレもシャワー行こうと思ってたわけだし、どうせならシャワールーム前まで連れて行こうか?」

前までな前まで、間違っても中までなんて連れてかねえぞ、オレはまだ命が惜しいから。

栖鳳院 飛鳥 > 「いえ、実はあんまり……」

流石にあの一瞬では把握は追い付かなかった。
とは言え、さっきの今でもう一度触らせてください、は気が引けてしまった。

「あら、そうなのですね。では、よろしくお願いいたしますわ」

そう言って手を出しだす。
目の前の人に、下心がありはしないと信じ切っている様子で。

武知 一実 >  
「だよなぁ……
 ま、いずれまた機会があれば確かめてくれよ。触られるって分かってりゃこっちも驚かねえんだ」

さすがに今もう一度は驚きはしないけどさっきの醜態を思い出して恥ずかしさが込み上げそうだから無しで。
まあ、またの機会がいつなのかはオレにも分かったこっちゃねえが。

「……まあ、良いんだけども。
 あのなあ、オレも一応男子なんだから、あからさまにでなくとも警戒するとか、釘を刺しとくとかそれっくらいはしとけよ」

一切の疑念無しに手を差し出す飛鳥を見て、逆にオレが思うところあってしまった。
いや覗く気とか襲う気なんて端から無えけど、これでも一応健全な男子……なの、か?ちょっと自分でも自信無くなってきたぞ?
……まあ、良いか。帰ってから考えよう。と、僅かに意気消沈しながらも飛鳥の手を取って。
そのまま訓練施設のシャワールームへと案内していくのだった。

栖鳳院 飛鳥 > 「その時は、事前に触らせていただくことを伝えさせていただきますわ」

そう微笑んでから、その後の言葉には笑みを深めて。

「そう言う事を仰ることが出来る方だと分かっているから、信じて委ねられるのです。
誰にでも簡単にこうするわけでは御座いませんよ?」

ある程度、心音などで相手の感情の把握は実際できる。
だが、それ以上に重視しているのは、会話をして得た印象。
そして、今までの振る舞いから感じ取れた誠実さだ。
話した回数は多くはないが、色々な人間と関わってきた経験が、この人は信頼できると伝えていた。

「では、よろしくお願い致します。ふふ、こうやって手を引いていただいていると、まるでお姫様にでもなったかのよう」

なんて冗談めかして言いながら、エスコートをされていくのだった。

ご案内:「訓練施設」から栖鳳院 飛鳥さんが去りました。
ご案内:「訓練施設」から武知 一実さんが去りました。
ご案内:「訓練施設 第四訓練所」に神樹椎苗さんが現れました。
ご案内:「訓練施設 第四訓練所」に蘇芳 那由他さんが現れました。
神樹椎苗 >  
『お前、○○日暇ですか?
 暇ですね。
 期末考査は大丈夫ですか?
 大丈夫ですね。
 
 お前にいくつか教えてやりたい事、教えておく事があるから、昼食を抜いて○○時に、訓練所に来るように。
 雇用主めいれーってやつです。
 断ったら夜中に部屋に忍び込みます。
 なんなら枕元に立ってやります』

 ――なんてメッセージを送ってから数日。

「はぁぁ――」

 大規模な冷房が、暑さも湿気も吹き飛ばしてくれる、非常に快適な訓練所の一つ。
 そこで椎苗は、施設から借りた椅子の上に座って、のんびりと涼んでいた。
 呼び出した相手が時間通りに来ても、大丈夫なように、壱時間以上前から待っていた白ロリだった。
  

蘇芳 那由他 > 雇用主な某幼女さんから、突然連絡が来たと思ったら、何か強制的に日程を決められていた。
少年としては、その日は特に用事も無かったので別に構わなかったのだけど…。

(いやいや、期末考査は普通にギリギリだし、昼食抜きとか地味にきついんだけど…!)

でも、部屋に忍び込まれて枕元に立たれたら非常に困る…むしろ事案発生になりかねない!
普通に男子寮暮らしなので、寮監とかにバレたら風紀指導待った無し!…だ。僕の人生に関わる。

「…でも、訓練所…かぁ。教えておく事がある、って話だけど…。」

まさか武芸とかではあるまい。…と、なれば心当たりは一つしかない。
少年が何故か所有者となってしまっている死神の13の神器の一つ――【破邪の戦槍】。
おそらく、その使いこなし方を叩き込まれるのだろうなぁ、と薄々思っており。

「…お待たせしましたー椎苗さん。…うわ、涼しい。」

外の蒸し暑さを痛感しているから余計に。挨拶と共に指定された訓練所入りすれば。
何か椅子で寛いでいる…白ロり?姿の雇用主さんが既に待機していた。

神樹椎苗 >  
「ん、きましたね。
 おせーですよ、何時間待たせるつもりですか」

 なんて、大して怒った様子でもなく、あいさつ代わりに言って。
 それなりに広い訓練所の中央から、ひらひらの白い袖を振り回すようにして、少年を呼び寄せる。

「よく逃げないできやがりましたね、
 まあ、それだけは褒めてやらねーこともねーです」

 なんだかラスボスめいた事を言っているが、ただの白ロリである。
 なんなら、呼び出した通りに少年が来てくれて、ちょっと嬉しそうに見えるまであった、
 

蘇芳 那由他 > 「…これでも寄り道とかせずに急いで来たつもりなんですけど…。」

と、言いつつ申し訳なさそうにしつつ軽く会釈。基本的にはこの少年は礼儀正しい。
とはいえ、雇用主さんの大まかな性格は少年も理解出来ているので、口とは裏腹に別に怒ってはいないと察してもいる。

「…むしろ、逃げたら後が怖いじゃないですか。嫌ですよ枕元に立たれる以上の嫌がらせとか。」

この人は普通にやりそうだからな、とは口には絶対出さないのだけれど。
あと、セリフが完全に敵役っぽいんですが雇用主さん。
ともあれ、彼女の傍まで歩み寄りつつ、矢張り気になっていた事をまずは確認したい。

「それで、特訓…という事ですが…やっぱり【槍】の扱い方、についてでしょうか?」

自衛の為の最低限の力は欲しい、というのは少年の最近の課題の一つでもある。
今回、特訓に素直に応じたのは断る理由も無かったのもあるが、矢張りそれが大きな理由だ。

神樹椎苗 >  
「寄り道しねーのは当然ですし。
 逃げてたらそうですね――目が覚めたら首元に鎌が置かれてるとかどうですかね」

 どうですかね、じゃない。
 とても危険な行為なので、やってはいけません。
 ぱたぱた、と袖が余っている白フリルを振りつつ、そこから小さな手が出てきた。

「なかなか察しがいいですね。
 お前、とりあえず槍を貸しやがれです」

 そう言いながら手の平を上にして、早くよこせとばかりに小さな手をにぎにぎしていた。
 

蘇芳 那由他 > 「……新手の処刑宣告か何かですか?それ。」

想像してみる…全く怖くは無いが、いきなり首元に鎌があったら”あ、詰んだ”という気分になりそう。
この時点で、少々少年の思考は一部おかしいのだが、本人は悲しい事にまだ自覚が無い。

「…あ、了解です。」

取り敢えず想像から現実に帰還しまして。槍を右手に具現化させる。
青く薄っすら輝く荘厳な刃…刃渡り40センチは優にあるそれは、普通の槍とは違い斬撃も可能だろう。
ともあれ、出現させた【槍】を、催促するように小さな手をにぎにぎしている椎苗さんへと手渡そうと。

神樹椎苗 >  
「むしろ寝てる間に事故死しねーかなっていう、間接的な殺意じゃねーですかね?」

 言っておいて、適当な言い分である。
 とはいえ、ここで少年から『危機感』や『恐怖心』のような物があまり感じ取れない事には、今更ながら雇用主も眉をちょっとだけ顰めるのだ。

「――ふむ。
 ちゃんと意識的に具現化は出来てる見てーですね」

 そう言いながら受け取ると、大ぶりな槍を、重さを感じさせない様に軽く、体の横で振ってみる。
 感触として、だが。
 椎苗の手元に居る『ソレ』は機嫌が良さそうだった。

「んん、コイツ自体は調子が悪い感じじゃねーですね。
 お前が嫌われてるわけでもなさそうですし。
 ああ――おまえ、『コイツ』の機嫌や意思はどれくらい感じ取れてますか?」

 もし、相応に『槍』に宿っている思念を感じ取れていれば、今の椎苗の手元に居る状態が、『すこぶる機嫌がいい』とわかるだろう。
 それこそ、少年と一緒に居る時とはまるで違う態度だ。
 そしてソレが『槍』の性格だとしたら、少年は随分と『なめられいる』かのように感じられるかもしれない。
 

蘇芳 那由他 > 「…うーん、事故死は避けようが無いですからね。まぁ、殺意とか向けられても…とは思いますが。」

今度は明らかに少々おかしいセリフ。本当に恐怖心や危機感が無いかのようで。
何より、殺意を向けられても”平然と”受け止める素人、というのが無理がある。

「…たまーに失敗しますけどね。槍の穂先しか出現しなかったりとか…。」

それはそれで、取り回しが良いといえば良いのだけど。
彼女が【槍】を検分する間、その様子を相変わらず覇気の無い黒瞳で見つめていたが。

「…んー…ハッキリとした意思は今の時点では感じ取れませんが、漠然とどういう気分なのか、とかは分かります。」

明確に意思を理解出来てはいないようだが、大まかな機嫌や漠然とした意思は分かるらしい。
そういう意味では、多少は【槍】と同調は出来ているがほぼ最低限のレベルだろうか。

そして、改めて彼女の手にある【槍】を一瞥すれば、感じ取れたのか小さく肩を竦めて。

「…で、今感じてるのは【槍】がご機嫌だという感覚ですかね…明らかに僕が使う時より喜んでます。」

こちらを嫌悪したり失望してはいないようだが、”舐められている”のは何となく伝わってはいるらしい。

神樹椎苗 >  
「――やっぱりお前、なんかズレてんですよねえ」

 うーんと、眉をしかめつつ。

「あー――それは、なんとも言えねえ具合ですねえ」

 少年の様子と言葉を見聞きして、ふむう、と唸る。
 じと、っとご機嫌そうな『槍』を見ると、どことなく慌てているような気配が感じられた事だろう。
 言うなれば、我儘な子供が、親に叱られないかとヒヤヒヤしているような。

「――まあいいです。
 さて、お前に槍が渡った時にも話したと思いますが。
 いわゆる、これらはかつて『黒き神の使徒』が用いていた祭器です。
 で、お前はその素質があったがために、『槍』に気に入られて、所有を認められました」

 と、そこで槍を訓練所の床にザクン、と深々突き刺してから、その刀身に蹴りを一発。
 ガツン、と音が鳴ると、『槍』からまた、慌てた気配がするだろう。

「そして、その所有を認められる者――まあ、段階と言ってもいいですかね。
 大きく分けて二種類あります。
 『所有者』と『継承者』ですね。
 このうち『継承者』は、『使徒』として『黒き神』に使える事になったモノ、今のところはしいが当たります。
 で、それ以外はすべて『所有者』であって、『継承者』の素質はあっても『使徒』になっていない連中を言います」

 そう言いながら指を二本立てて。

「で、『所有者』と『継承者』では、神器から引き出せる能力に多少の違いがあります。
 簡単に言えば、『継承者』の方がより強く、もしくはより柔軟に力を引き出せるって事ですね。
 ――なお、お前は『所有者』であり、素質は十分ですが『継承者』でないのもあって、めーっちゃ、舐められてます」

 がつんがつん、と突き刺した槍を蹴る、ブーツの白ロリ。
 槍はものすごく居心地の悪そうな気配を醸し出していた。
 

蘇芳 那由他 > 「…何かそれ、医者の人にも言われましたね…あと、僕の保護者代わりの人にも。」

”…お前さん、どーも何かズレてるというか欠けてない?”

”那由他君、君はちょっとだけ他の子供たちと比べてズレているね。”

まぁ、それは今はどうでもいい、大した事じゃない
大事なのは【槍】の使い方を正しく学ぶ事、だ。
怖ろしいくらいに、己の欠けたものに無関心。自分の事なのに二の次だ。

それはそれとして、椎苗さんが【槍】をじと目で睨んでいると、何か【槍】の慌てた気配が。

(…まるで親に窘められる子供みたいだなぁ。)

漠然とそんな感想が浮かぶ。ともあれ彼女の話に意識を戻して。

「…えぇ、そこは覚えてます。僕にそういう素質があったのかは正直実感ないですけど。」

それは本当に実感が無い。ただ、曲がりなりにも選ばれたのだから本当にあるのだろう。
【槍】を深々と床に突き刺して、穂に蹴りを一発くれている幼女さんの図は何か凄い。【槍】も慌てている。

「…成程。僕は【所有者】であって【継承者】ではないから舐められている…と。」

つまりは、真に【槍】の使い手として認められてはいない、という事だろう。
所有権はあれど、その力を最大限に引き出す資格はまだ持ち合わせていないようなもの。

「…ちなみに、【所有者】から【継承者】に至るには何か条件とか試練とかあるんでしょうか?
…もしくは、【所有者】の段階でもある程度力を引き出せる方法、とか。」

何せ、今まで最低限の説明を聞いただけで【槍】を使っていたのだ。
…まぁ、殆ど【槍】が勝手に動いて少年をフォローしていたのだけれど。
それでも、勝手にフォローされるくらいには”舐められている”と取れなくも無い。

取り敢えず、【槍】を蹴りまくっている幼女さんに、「その辺にしておいてあげてください」と苦笑気味に。

神樹椎苗 >  
「まあ――そこは後で自覚させるとしますか」

 ふむ、と少し考えてから――

「実感の有無は関係ねーですからね。
 素質っていうのも、要するに、『神器』に気に入られるかどうか、が全部ですし。
 まあ一番重要な『要素』があると言えばありますが」

 と言いつつも、そこはすでに選ばれてしまった少年にとっては重要じゃない。

「んー、『継承者』じゃねーからというよりも、コイツ、『自分が面倒を見てやってる』って態度に見えますからね。
 お前が自分を上手く扱えてないってわかって調子に乗ってやがるだけです」

 どうやら、純粋に『槍』がイイ性格をしているだけらしい。

「以前も話しましたが、要するに『使徒』として『黒き神に仕える』意思があるかどうかってとこですよ。
 信仰する意思があるなら、簡単な儀式で『黒き神』と契約を交わせばいいだけです。
 ただ――いわば宗教、信仰ですからね。
 わざわざ、踏み込まなくてもいいところと言えますね」

 そう言いながら、少年に言われると仕方ないとばかりに、思い切り槍の柄を蹴り飛ばして、訓練所の床にガラン、と哀れな蒼い槍は転がった。

「今日、ちょうどお前に教えようと思ったのは、ソレです。
 『所有者』であっても、お前はまだまだ扱えてるとは言えねーですからね。
 この前の『浄化』も、本当ならお前の方が上手くやれるはずですし。
 まあ――得手不得手はありますが」

 そう言いながら、椎苗は自分の神器を、椅子の横に呼び出す。
 紅い巨剣が空中に現れ、自重で沈むように訓練所の床に1mほど深く突き刺さった。
 それでも柄まで含めて2m以上が地上に出ている。

「しいのこの剣は、『飢餓と死の剣』。
 能力としては、おそらくもっともシンプルなものと言えるでしょう。
 ――つまり、あらゆるものに『死』をもたらす事が出来る剣です」

 そう説明し、手の平で大事そうにその巨大な刀身の腹を撫でる。
 そこから少年も感じられるだろう、剣から伝わる『敬意』や『親愛』の情のようなものが。

「ただし、これに触れているだけで、凄まじく生命力を消耗します。
 あと、凄まじい飢餓と渇きを覚えます。
 こいつは大人しいですから――試しに柄を握ってみるといいですよ」

 そう一通りの事を説明してから、少年にそんな事を指示してみる。
 実際に握れば、個人差はあれど、酷い虚脱と飢えを感じるだろう。
 とはいえ、すぐに手を放せばそれも幻の様に消えるのだが。
 

蘇芳 那由他 > 「……はぁ…?」

何を自覚させるつもりだろう?と言いたげに首を傾げて。
本当に無自覚、というか自分の失ったモノに極端に無関心。
ある意味で少年の”非凡人”さの象徴とも言えるであろう点。

「…うーん、僕の事を気に入って所有者に選びはしたけど僕自身が凡人なので、面倒を見ている内に舐めた態度をとるように、という感じですか。」

色々端折ったけど、極端に要約するとそんな感じだろうか。
とはいえ、実際に少年一人では方向音痴もあって危なっかしいので無理も無い。
ついでに、【槍】の使い方も碌に学んでいないのもあって、そりゃ舐められるというもの。

「…そうですね、信仰とか宗教に偏見はないつもりですけど、今すぐに【継承者】に!は考えて無いです。」

今は、まず第一段階とも言える【所有者】として引き出せる【槍】の力を学ぶ事が大事。
あと、流石にずっと舐められたままだとこちらにも男子のプライドが多少あるので。

蹴り飛ばされた【槍】まで歩み寄れば、それを右手で拾い上げる…うん、やっぱり伝わる機嫌度合いに差があるなぁ。

「…あぁ、それは確かに願ったり叶ったりでもありますね。
僕も、いい加減に最低限の自衛の力は欲しいと思ってたので。
一先ず、【所有者】のままで引き出せる力は引き出せるようにしておきたいですし。」

将来的に【継承者】を望むかはまた別の話になるので、今はそこは置いておく。
まずは、最低限この【槍】の使い手としてマシになる事だ。

と、彼女が呼び出した…【槍】の青い輝きとは対照的な紅い巨剣を改めてみる。
確か、彼女が持つ神器だったか…勿論、見るのはこれが初めてではないが。

「…うん、能力も名前もシンプルというかド直球ですよね…いや、【破邪の戦槍】も割とシンプルか。」

名前から大まかな特性が分かるのは、こちらとしては理解しやすいので有難いけれど。
そして、彼女に促されて「え?」という表情。他の人の神器に触れて平気なのだろうか?

(…いや、でも椎苗さんの言葉だとあの剣の性格は大人しいみたいだし…。)

【槍】みたいにこちらを舐めてる訳でもなし。
むしろ、【剣】の腹の部分を撫でる彼女へと向けられる感情は敬意などが感じられる。

(…あー成程。これが使い手の差なんだなぁ。)

単純な力量よりもある意味で分かり易い。右手に持った蒼い槍を一瞥して嘆息を一つ。

ともあれ、左手を伸ばして【剣】の柄をそっと握ってみる。

「―――っ!?」

いきなり体の力が抜けるような虚脱感と、強烈な飢餓感を同時に感じた。
あ、多分これ僕は割と影響受けるタイプだ…と、察したのか直ぐに手を放して。

「…これは…僕には結構刺さりますね……ふぅ…。」

大きく一息。流石の少年もヤバいのは伝わったらしい。