2024/07/14 のログ
■神樹椎苗 >
「ん、いい心がけじゃねーですか。
まあ――男の子ってヤツですもんね?」
目元をにやにやとしながら、くすくすと笑う白ロリ。
余っている幅の広いフリル袖で口元を隠しているが、間違いなくにやけている。
「シンプルでなくては意味がねーですからね。
何の用途と能力があるか、それがわからなければ『祭器』としては不便ですし」
そんな事を言いつつ、剣に触れた少年の反応を見て、目を細めた。
「お前でなくても、一般的な人間はそうなります。
しいは――ああ、説明していましたっけ。
剣に生命力を吸い尽くされても、『死ぬ』だけですから。
実質的な不死であるしいにとっては、代償が無いと言えます。
――理屈で言えば、ですが」
そう言いながら、椅子の横の剣を抱くように凭れると、凄まじい勢いで生命力が消費されていく。
そして、椎苗の顔色から血の色が消え失せ、血肉がやせ衰えてミイラの様に変わっていき――数十秒の間で、椎苗の身体はボロボロと崩れて、砂の様になってしまった。
その光景がどの程度少年に衝撃を与えられたかはわからないが――何回か瞬きをした、その次の瞬間には、先ほどと変わらない様子で椅子に白ロリが座っていた。
「――とまあ、こんな具合で。
『実用性』を考えると、まともに扱える『代償』ではねーんですね。
『死』を直接もたらすという、問答無用の能力の代償ですから、まあ妥当と言えば妥当といえますが。
ああもう、お前は毎度、そうやって落ち込むんじゃねーですよ」
そう言いながら、剣の腹を優しく撫でる。
剣からは、悲しみや申し訳なさ、それらが合わさって『落ち込んでいる』ような気配を感じ取れるだろう。
そんな白ロリと、剣の様子から見ても、『継承者』と『神器』の間の絆が深い事が伝わるだろうか。
「というわけで、神器の力を発揮するには、ある程度の代償が存在します。
まあ、その『代償』が何になるかは、所有者を選んだ時に『神器』自身が所有者に合わせて決めるのですが。
まずはお前がソイツを使うのに、なにを『代償』としているか確認しないといけねーんです」
そう言いながら、フリルの袖で顎を撫でつつ。
「なので、まずはその槍の能力を最大限まで強めてみないといけねーんですが。
――お前、現状でどれくらいそいつの力を引き出せますか?」
じぃ、と少年を見ながら、首を傾げた。
■蘇芳 那由他 > 「…椎苗さん…絶対にからかってるというか愉しんでますよね?」
少年、流石にそこは気付いたのかやや半眼になって雇用主さんを見る。
幾らフリルの袖で口元を隠しても、目元でバレバレですよ!
「まぁ、僕も複雑なやつよりはシンプルな方が把握しやすいので有難いですけどね…。」
そして、少年は基本的には”ただの人間”なのか、一般的な人間とはそう変わらない結果に落ち着いた。
つまり、あくまで”死ぬ”人間である事に変わりは無く、人の理から外れた【何か】ではない証左。
「不死――死んでも蘇生するなら、確かに代償は打ち消されたようなものですけど…。」
僅かに眉を潜める。不死がどうだとか言いたいのではない。
幾ら慣れていても元通りになるといっても、不死身だろうが再生しようが。
確実に何かが摩り減っていく筈…そう少年は思っている。死ぬのはそんな簡単な事ではない筈だ。
(…まぁ、僕は死んだら一発アウトなので確かめようもないけど)
と、思っていたら目の前で”その光景”を見せられて。
流石の少年も黒い瞳を見開いて固まる。幾ら何でも目の前で呆気なく塵になる知己を見ればそうもなる
(…嘘だろ…何でこんな…こんな――…!?)
気が付いたら、次の瞬間にはさっきと変わらぬ白ロり姿の幼女さんの姿が。
それに更に目を見開く。ここまで露骨に普段驚く事が無いので、珍しいと言えば珍しい。
「……よく分かりました……不死身ではないと、そもそも扱える神器ではないんですね…その【剣】は。」
若干顔色が悪いながらも、大きく深呼吸をしてゆっくりと気分を落ち着かせる。
幾ら一部異常な一面があるとはいえ、割と常識的な思考や感性を持っている少年だ。
それなりにショックは大きかったらしく、彼女の説明を聞きながらも黙り込んでいたが。
(…【剣】から伝わってくる感情…そうか、まぁそれはそうだろうね。)
彼?彼女?そもそも性別無いかもしれないが、”落ち込んでいる”のは何となく共感できる。
そして、今自分が感じているこれは…恐怖ではない、驚異ではない、ただ――■■■悪い。
ただ、それは絶対に口に出さない。彼女に失礼だし何よりそう思った自分を認めたくない。
気を取り直すように、ゆっくりと口を開く。明らかにテンションが何時もより落ちているが。
「…つまり、僕もこの神器の力を引き出すに当たって代償が必要で…それが何かを確認する必要がある、と。」
右手に持った槍を一瞥する。現状自分に出来る事は殆どないけれど。
「…殆ど何も。槍の浄化の力をバリアーみたいに前面に展開して攻撃を緩和したり、あとは槍の穂先を擬似的に”打ち出す”とかですかね。
あと、奥の手としては――…」
そこで言葉に詰まる。これは完全に我流で思い付いたもので、多分イレギュラーな神器の使い方の一つだ。
「…神器の意志に一時的に肉体の主導権を委譲して、【槍】に戦闘を肩代わりして貰うっていうのを思いつきました。
ただ、肉体は僕のままなので無茶な動きをした後は反動で多分あちこちダメージを負います。」
まだ試してないだけマシだが、ぶっちゃけ自爆技に近かった。
■神樹椎苗 >
「――ふふ、とてもいい表情です。
まあ『不死』に関しても話すべきでしょうが、身の上話になっちまいますからね。
それにこの後、散々、見る事になりますから心の準備はしておくことです。
とはいえ――おまえのその感性は、好ましいもんです。
――うっかり、忘れてしまうんじゃねーですよ」
少年の表情を見て、なぜか白ロリは嬉しそうに笑う。
その反応は、椎苗にとってはとても、好ましい物だったからだ。
――椎苗が失って久しいものだったからだ。
「ふむ――何もってほど使えてねーわけじゃねえんですね。
その『奥の手』も、今の時点で言えば、悪くねーでしょう。
まあ、つかわねーに越したこたぁねえですが」
少年の自己申告は、思ったよりも雇用主としては好印象だった。
とはいえ、それで十分だとは思わないが。
少なくともそれだけ出来れば、『試験』は出来る。
「ならまずは、そうですね。
浄化の力を放出出来るなら、それだけに集中して、とにかく広く、大きく展開してみますか。
限界を感じても続けて、自分が何を消耗しているか、体感できるまでやってみましょう」
そう提案しながら、槍を指さした。
要するに、体で感じて覚えろという事らしい。
■蘇芳 那由他 > 「……分かりました……一応、覚悟はしておきます…。」
これは意地でも我慢するが、気を抜いたら”吐きそう”だ。
少年にとって、不死身というのはここまで忌避感を抱かせるものがあるらしい。
しかも、よりにもよって自分の反応をこの人は”好ましい”と言う…何なんだ一体。
(…忘れませんよ……僕は絶対に”それ”は御免ですから)
どんな形だろうと当たり前に生きて当たり前に”死ぬ”。
それは少なくとも少年にとっては多分とても大事な事で。
だからこそ、そこから外れたモノには忌避を感じてしまう。
…分かっている。これは自分の感性の問題だというのは。
(…知りたくなかったな…遅かれ早かれ、だったんだろうけど。)
だが、一度こうして自覚してしまったからには目を逸らしてもいられない。
取り敢えず、気を取り直すように己の頬を軽くパンっと叩いて気合を入れ直す。
おそらく、彼女にはバレバレだろうがそれを気にする余裕はあんまり無かっただろう。
「…紅い鮫…えぇと【紅き屍骸】でしたっけ?あれと交戦した時は、殆ど【槍】の判断で僕自身は殆ど何もしてないですけどね。
この『切り札』も、結局反動が酷いのでとても実用的とは言えませんし。」
ただ、少年は自身の戦闘能力は正直雑魚なので、【槍】に代わりに戦って貰うこの手しか思いつけなかった。
ある意味で究極の他力本願だ…終わった後の反動から何までこちらが引き受けるとしても。
「……分かりました。やってみます。」
右手に持っていた【槍】を改めて両手で持つ。
まるで儀式のように穂先を床へと向けて出来るだけ集中。
イメージは【青い炎】。激しく荒れ狂う炎でなく、静かに広がるようなものがいい。
そして、それだけでは一押し足りない。少年は未熟な自分をよく理解している。だから――あと一押し。
「――【静なる浄化】。」
言葉をトリガーにしてイメージを補強する。
そして、一度強く槍の穂先を床へと打ち据えた。
瞬間、打ち付けた床を中心に静かに広がる小波のように浄化の青い波動が炎のように揺らめきながら一気に広がる。
相当集中しているのか、目は固く閉じたままで既に雇用主が傍で見守っている事すら忘れている。
範囲は確実に、決して速い速度ではないが周囲全体へと広がっていく。
「……うっ…!」
不意に呻き声。どうやら少年の限界らしい。だが、限界を超えていかないと代償すら分からない。
更に集中、ダラダラと脂汗を流しながらもう一息――!!
今までにない集中と力の引き出し具合に、【槍】も輝きを増して感情を表現しているようで。
―――そして、本当の限界が訪れる瞬間、静かに締めくくるように口にした。
■蘇芳 那由他 > 「―――【涅槃寂浄・凪】。」
■蘇芳 那由他 > ――そして、青い浄化結界が完成…したが、直ぐに霧散して少年は仰向けに【槍】を手放してぶっ倒れた。
■神樹椎苗 >
「――良い覚悟です」
少年のその当たり前がどれだけ尊いものであるのか。
それを手にする事が出来なかった椎苗にとっては、羨ましくすらある。
けれども――『どうか君の未来が色鮮やかな願いで溢れていますように』――死ねないなりに、生きると約束したのだ。
だからこそ、少年の事がとても好ましい。
「『アレ』に関しては、ソイツの領分でしたからね。
お前が居たからソイツはその『切り札』を使えたわけです。
当然、頻繁に使うべきじゃねえですけどね」
実用的かどうかで言えば、少年の基礎体力次第になるだろうが。
――突き詰めれば、より強力な『奥の手』になるようにも思える。
とはいえ。
(――浄化の結界、想像以上ですね。
それに集中力も大したもんです。
ただ――)
「――涅槃寂浄、ですか。
好い名です」
ゆっくりと立ちあがって、倒れた少年の頭の横にそっと座る。
放り出された槍は、どことなく『満足そう』に淡く光っていた。
そして、倒れた少年の頭に、小さな手を伸ばして労おうとするだろう。
「どうでしたか。
自分が何を『代償』としているか、感じられましたか」
と、柔らかく笑みながら問いかけた。
■蘇芳 那由他 > 覚悟というほどの大袈裟なものではない。
単純に、少年の死生観や考え方の結果、そうなっているだけ。
【死にたくはないけど、死ぬ時は死ぬ】というドライな達観。
【当たり前に生きて当たり前に死ぬ】という平凡でありきたりな考え。
記憶が無くても、恐怖心が欠落していても、不死身を■■■悪いと思う感性。
少年が度々口にする”凡人”というのは能力や技能のあれこれではない。
その生きる姿勢や考え方、感性についてを示している。
際立った思想も感性も理念も思考も無いが、だからこそ当たり前を大事にしていきたい。
「―――そもそも『切り札』を頻繁に使ったら本末転倒…ですよ。」
悲しい事に、基礎戦闘能力が低すぎる少年の場合、最初から切り札を切るしかないのだけど。
だからこそ、その負担を軽減する為にも【槍】の扱いを少しでも習熟する必要がある。
本来、槍というのは祭器という点はあれど攻撃の為の道具だ。
浄化の放出、というと攻撃的なイメージもあるだろうが、少年が用いたのは防御的なもの。
攻撃よりも防御に比重を置いているのは独自の判断か、少年の適性がそちら寄りなのだろう。
――だからこそ、素人にしては異常な範囲の結界を、ほんの少しの間だけとはいえ展開可能にしたのだが。
「……はぁ…はぁ…お、お褒めに預かり光栄…です…はぁ…。」
息も絶え絶え、といった感じで仰向けに倒れたまま彼女に答える。かなりしんどい。
相当な集中力を要したようで、顔は汗まみれですぐ横にそっと座る雇用主さんにも意識があまり向いていない。
「……えぇ…何となく、ですが。…既に僕にとっては一度失っているものですけどね…。」
そう、息を整えながらやっとこさ彼女に顔を向けて。その代償を答えよう。
「――僕の神器の力の代償は…【記憶】です。実際、不自然に一部記憶が飛んでいる感覚があるので。」
皮肉にも、記憶喪失の少年が祓う代償がそれだ。記憶を失ってから今までの記憶のどれかを消費する。
■神樹椎苗 >
「――それは、また」
それは一瞬だけ、とても鋭く、怒りにも似た視線が槍に向いた。
それだけで、満足げだった槍は光をひそめてしまうだろう。
「なら、お前は二度と、その力をふり絞るんじゃねーですよ。
その『槍』も大概クズですが、それだって出力を抑えれば然程の代償とまでは行かないでしょう。
とはいえ、力の放出はよくできていました。
あの規模の力が扱えるなら上出来ですよ、『非凡人』」
そう言って――少年の頭を持ち上げて、自分の膝の上に載せるだろう。
そして、嬉しそうに微笑んで見下ろしながら、優しく頭を撫でる。
「一先ず、今のを見て確信した事があります。
お前は神器を扱う者として、間違いなく非凡な才能がありますよ。
とは言え、代償の重さを考えれば、その才能を『拡大』ではなく『収束』へ育てるのが良さそうですね」
少年を労わるように撫でながら、少し考えて。
「――例えば、今の結界を槍の穂先だけに、極小に展開するとか。
例の切り札を、完全にあの『クズ槍』に任せるんじゃなく、戦い方や動きだけを引き出して、お前自身の思考と制御で動けるようにする、とかですね」
そう言いながら、少年を撫でていない左の袖口から、樹の蔓が滑り出し、椅子の下に置いてあった蓋つきのバスケットを引き寄せて、蓋を開ける。
「ほら、よく冷えた『雇用主特製栄養ドリンク』ですよ。
そこらのエナジードリンクより数倍効くって保証してやります」
ふふん、と自慢げにしながら、水筒をそのまま少年に差し出す。
なお、特製ドリンクの主成分は、有名な高麗人参を軸に各種漢方を混ぜ、アルギニンにシトルリン、スッポンエキスやローヤルゼリー、他諸々を混ぜ合わせているトンデモネエ飲み物であった。
その上、それらの効力を増強する、椎苗の樹液が混ざっている。
幸いなのは、味だけは非常に飲みやすく爽やかである事だろうか――。
■蘇芳 那由他 > 【槍】が何か”大人しくなった”のを感じ取りながらも、現在ぐったり中の少年はそれ以上は分からない。
「…く、クズ扱いは酷くないですかね流石に…。
まぁ、僕もあまり記憶を削りたくは無いのでなるべく最小限が理想とは思いますけど。」
【槍】に同情する辺り、少年のお人よしさが伺える。地味に重い代償を背負わされながらも。
あと、雇用主であり神器の扱いの師匠的存在でもある幼女さんに褒められると素直に嬉しい。
(……って、何か気が付いたら膝枕されてる…!?何で!?)
それはそれとして、どうしてこうなってるんだろう。普通に恥ずかしいんですが。
取り敢えず誰かに目撃されない事を祈ろう。クラスメートとか友達に見られたら死ねる。
と、思いつつなすがままに頭を撫でられている少年であった。
「…ひ、非凡なんですかね…他の人や歴代?の所有者とか継承者の人に比べたらまだまだかと思いますが。
…拡大より収束、となると浄化の力を広げるより束ねる集中型が良いって事ですか?」
膝枕は恥ずかしいが、彼女のアドバイスには直ぐに真面目に検討する。
力の拡散では無く収束。槍の穂先に乗せるくらいなら、少し訓練すれば多分出来ると思う。
あとは、そこから応用を幾つか編み出して”手数”を増やしていけば最低限戦えはするか。
とはいえ、あくまで少年の身体能力は何時ものそれだ。そこが鬼門でもある。
「…切り札も、少し改良していかないとですね。【槍】に任せきりだと確かに反動も代償も大きそうですし。」
リソースの割り振り、という意味ではもう少し少年自身が引き受けるべきだろう。
特に、槍の戦闘経験を引き出して自分自身の意志や思考で制御して用いる、というのは大きな示唆だ。
「…雇用主特製栄養ドリンク…?あ、ありがとうございます。」
この人、何だかんだアフターケアとかきっちりする人なんだなぁ、と改めて思いつつ。
口が悪いだけで世話好きなんだろうな…と。うん、本人には言えませんが。
ともあれ、差し出された水筒を受け取りつつ、その栄養ドリンクを頂こう。
「……あ、意外と飲みやすい…。」
てっきり、とんでもない味かという予想をしていたがそこは良い意味で裏切られた。
…少年がその栄養ドリンクの成分を知らないのは幸いだったかもしれない。
「…ありがとうございます。取り敢えず、【槍】については大体方針が固まった気がします。」
あとは、まぁ少年自身もうちょっと体力と筋力を付ける必要があるだろうが。
最後に頼りになるのは矢張り自分自身の肉体だ。いざという時に動けないと意味が無い。
■神樹椎苗 >
「いーんです、『神樹椎苗』にとって、その代償は喧嘩を売っているのと同義ですから。
生意気なだけじゃなくて、クズな性格だとまでは思いませんでした。
所有者が見つかってなかったなら、処分を検討していたところです」
ふんっ、と。
とっても不機嫌そうに白ロリが憤慨していると、槍が抗議するように光る。
――とても頼りなく、へなへなとした淡い点滅だったが。
「ん、『クズ槍』も扱い方さえ間違えなければ、しっかり役に立つでしょう。
今から戦技を身に着けるのも無茶な話でしょうし――まあ、まずは、体力づくりを日課にすると良いんじゃねーですかね。
そうすれば『切り札』を、『基本戦術』に出来るかもしれませんし」
出力と代償、槍の制御と、自己制御。
そのリソース分配のバランス感覚さえ掴めれば、少年にとって大きな助けになるのは間違いなさそうだ。
「――さて、休憩にして、昼食にしましょうか。
本当はもっといろんな使い方を教えるつもりでしたが。
小技をアレコレ覚えるよりは、今使える事の精度を上げた方が良さそうでしたし」
そう言いながら、バスケットから小さな一口サイズのサンドイッチを取り出す。
チーズと生ハムのサンドイッチだ。
「ほら、これもしいの手作りですよ。
味は保証します。
沢山作ってきましたから、たっぷり食べると良いですよ」
そう言いながら、少年へサンドイッチを差し出す。
どうやら、昼食を抜いてこい、という理由はこれだったらしい。
■蘇芳 那由他 > 「…よく分かりませんけど、【記憶】が代償っていうのは、椎苗さん的には許せないんですね…。」
処分まで検討とか、そこまでのレベルなのか…と、若干引いた表情で。
とはいえ、ある意味で【死】と同じくらい重い代償には違いないが。
しかも、代償なので強制的に消費されてそれが二度と戻る事も無い。
不機嫌そうな雇用主さんに【槍】が抗議しているが、気のせいか光が弱い気がする…頭が上がらないのかな。
「…多分、戦技はさすがに年単位で鍛錬しないと無理かと。
ですね。体力と筋力を底上げして少しでも動けるようにしたいな、とは検討してます。」
彼女のアドバイスに頷く。そこは彼女と同意見なのでコツコツやっていくつもりだ。
そして、現状は『切り札』のそれを『基本戦術』に出来れば心強い。
異能も無く、魔術も使えない。特殊能力も戦闘に役立つものが何一つない。
そんな少年にとって、この【槍】が正真正銘、命綱であり唯一の戦闘手段なのだから。
「…昼食…あぁ、成程。だから昼食は食べずに来いって…。」
てっきりスパルタ特訓で胃の中身を吐き出すほどのアレかと思っていたので。
それは見事な勘違いというか早とちりではあったが、今は滅茶苦茶空腹なのは間違いない。
流石に、もう動ける程度には回復したので…ドリンクの効果もあろうが…よっこらせと起き上がって。
「…そうですね。他の使い方も余裕が出来たら教えて欲しくはありますが。
今は、取り敢えず今日学んだ事を中心に色々やってみます。」
この少年の”危なっかしさ”は彼女がおそらく一番理解しているかもしれない。
なので、まだまだ雇用主さんの悩みの種の一つにはなりそうだが。
それでも、少しずつ成長はしているのは確か。長い目で見て貰うしかあるまい。
「…おぉぉ…結構沢山ありますね。じゃあありがたく頂きます。」
と、差し出された生ハムとチーズのサンドイッチを受け取ってから一口。
「……美味しい…。」
一応、自炊もする少年だがやっぱり誰かの手作りは格別だと思うのだ。
■神樹椎苗 >
「――許せない、というのとは少し違いますね。
しいにとって、記録ではなく『記憶』というものは――」
そこまで口にしてから、どこか寂しそうに口を噤む。
「――覚えていてもらえる事、覚えている事。
それこそ、『生きている』事に他ならない、そう思うのですよ」
少年を見下ろしている表情は、どこか泣きだしそうにも見えたかもしれない。
「ん、体力作りはあらゆる物事の基本です。
んん――そうですが。
他に何か理由が?」
起き上がった少年を首を傾げて。
「他の使い方は、そんなに難しくねーですよ。
基本的に、神器は所有者の想像力に呼応しますからね。
案外、やってみたら出来たってなりますよ」
そう言いつつも。
雇用主としては無理や無茶をしては欲しくない。
とはいえ、本来の『使命』は誰かがやらなければいけない事ではある。
――少年の場合、不意に迷い込んでしまう事が問題なのだが。
「ふふん、そうでしょう。
たっぷり作ってきましたから、好きなだけ食べるといいですよ。
――ほら、『非凡人』、腕をどけやがれです」
そう言いながら、白ロリは起き上がった少年の膝をぺしぺしと叩く。
少年が言われるまま、腕をどければ、満足そうにしながらその膝の上に座ってすっぽりと脚と腕の中に納まってしまうだろう。
■蘇芳 那由他 > 「―――そう、ですか。」
少年はこの雇用主の過去や不死の経緯などは殆ど何も知らない。
そして、それは決して好奇心などで聞いてはいけないと思っている。
”過去が無い”少年だからこそ、その人の積み上げてきた過去をおいそれと聞く無粋は出来ない。
泣き出しそうな表情をしていた幼女さんには、思わず手を伸ばして頭を軽くぽんぽんと撫でてしまったかもしれないが。
「あぁ、いえこっちの話なのでお気にせず。
…ん?という事は。ある程度の「形状変化」とかも対応してるって事ですか?」
使い手の想像力次第、となると制限はあろうがある程度形も一時的に変化したり出来るのだろうか?
そうなると、また戦い方に幅が出来るというものだが。
何せ、少年は槍術なんてサッパリなので、基本の形状以外にも変化球が欲しいのだ。
ちなみに、方向音痴や恐怖心がゼロの問題は解決していないので、少年の受難は今後も確定かもしれない。
「はい?腕……って、ちょっ、椎苗さん!?」
膝を不意にぺしぺし叩かれた。言われるがままに腕を退かせば、幼女の体がこちらの膝と腕の間にすっぽりと。
…うん、ジャストフィット…違う、そうじゃない…!!
(膝枕の次はこれ!?どういう事なの…!?椎苗さん、割とスキンシップが好きなタイプ…!?)
少年混乱中。でも、それはそれとしてその状態でも器用にサンドイッチは食べているが。
■神樹椎苗 >
「ん――」
少年の手が頭に触れると、泣き出しそうだった表情が、くすぐったそうに緩んだ事だろう。
――そして、白ロリはすっぽりと少年の腕の中におさまると。
非常に満足そうに、背中を少年にすっかり預けてしまうのである。
「ん、なにかありましたか?」
なお、少年が狼狽えている事には気づいていても、気にしない。
なにせ居心地が良いのだから仕方ないのだ。
「ああ、そうそう。
その形状に関してですが、本当に発想次第ですよ。
あんなふうに――」
そう言って、呼び出したまま放置されていた可哀そうな紅剣は、ふわりと宙に浮いて、数十の小さなナイフに分裂する。
そして二人の周りを、魚の群れがするように旋回し。
今度は二振りの日本刀の形になって、転がっている槍の前で交差するように突き立った。
やや暗い色の紅は、ぼんやりと自慢げにおぼろげな光を放つ。
「とまあ、かなり自由自在と言った所ですか。
とは言え、刀剣であれば刀剣、槍なら槍の範疇を超えた形にはなれませんが。
――ああ、一部の『クソゴミ神器』は、なんにでもなれますが。
それはあくまで例外中の例外ですね」
なんて言いながら。
本人は少年の腕の中で心地よさそうに身じろぎして、少年の胸に耳を当てるように体を預ける。
病院で触れ合った時とはまた違い、余計な懸念がない分、本当にどこか甘えるような触れ合い方だ。
■蘇芳 那由他 > ちなみに、撫でたのは完全に無意識というか条件反射なので、やってから「あ!」と、思ったが不快では無さそうなので良しとした。
そしてこの状況である――兄妹とかでもこういう密着しない気がするんですが。
ちなみに、人生経験とかでは遥かにこの幼女さんの方が上である。
「……あぁ、いえ…まぁ、うん。何も無いです…。」
めっちゃ歯切れが悪いが、致し方あるまい…こういう状況に慣れてないので。
かといって居心地悪そうでもなく、単純にどうしたらいいか分からないだけなのだろう。
「おぉぉ…凄い、ナイフに…刀?制限はあっても割と自由自在なんですね。」
彼女の神器である紅剣の千変万化の様子に、素直に驚きと感心の声を漏らして。
心なしか、紅剣は自慢げである…今気づいたけど、これ他の神器の感情もある程度分かるんだなって。
おそらく、神器の使い手なら割と共通項なのかもしれないなぁ、と思いつつ。
「…槍の範疇を超えたものになれない…そうなると、棒状の形状から過剰な変化は出来ないぽいですね。」
多節棍とか出来そうだけど、鎖の部分が問題だ…神器パワーでどうにかなりそうな気もするけど。
槍の利点の一つがそもそもリーチの長さなので、それに加えて別の特性も欲しい所。
そして、矢張り『収束』を生かせる形状がベストだろう。
代償も考えると、広範囲よりも一点集中したのを狙い当てるイメージか。
(それはそれとして、こっちの鼓動がバレバレになるんですがね…!!)
緊張もしているので、心臓の鼓動は心持ち早いかもしれない。確実にバレるだろうこれは。
病院の時も似た状況だったが、あの時と違って甘える意味合いが強い触れ合い方だ。
少年もあまり拒めない性格なので、割となすがまま彼女の好きにさせている。
ちなみに、【槍】は先ほどからずっと放置である。後で回収するから大目に見て欲しい。
■神樹椎苗 >
「ふふん、しいと、こいつは長い付き合いですからね。
こうして多くの不死の怪異を討伐してきたのですよ」
腕の中にすっぽりでも、相変わらず自慢する時は自信満々に鼻を鳴らす。
持ち主に似るのか、二刀になった剣も得意げで、再び宙に浮くと、小さな短剣になって二人のすぐ隣まで飛んできて、地面に転がった。
「はいはい、お前がいつも頑張ってくれますからね」
そう言ってくすくす笑いながら、短剣を撫でる椎苗も、どこか優し気だ。
神器の方からもアピールして見せるあたり、この一人と一器の関係性は対等であり、とても気安いのだろう。
「ええ、基本的にはその認識でいいですよ。
ただ神器の性格によって、意外な事が出来たりもします。
あのクソ槍も、まあ、性質は浄化と破邪ですから、そう言った事に特化した事もできるかもしれねーです。
――できねーとはいわねーですよねえ?」
と、笑顔で圧を掛けられた槍は、必死に蒼い輝きを放っていた事だろう。
なお、こうした神器の感情や意思の動きが感じられるのは、あくまで『認められている間柄』に限られる。
つまり、少年は紅い剣にもまた、それなりに気に入られているのだろう。
「ん――ふふ、やっぱりこの音は心地いいですね」
そう、少年のやや早い鼓動を聞いて、どこか甘く幸せそうに呟く。
「なんですか、『非凡人』
しいに欲情でもしてるんですか?
まあ、しいは美少女ですから、それも仕方ねーですけど」
くすくすと、楽しそうに笑いながら少年を見上げる。
その表情には、間違いなく信頼と、親愛の情があるだろう。
「――お前にも、ちゃんとしいの事、話さないといけませんね。
今度は、部屋にでも遊びに来るといいです。
その時はお前が気になる事、知りたい事、全部答えてやりますから」
そう言いながら、椎苗は少年の食欲が満足するまで甘え――そのうちにうっかり安心しきって寝入ってしまうのだった。
不運な事に、少年はそんな白ロリの雇用主を抱きかかえて、訓練施設の休憩所まで運ぶ事になってしまうのだろう。
■蘇芳 那由他 > 「…そうか、死を与える特性だから不死の相手も殺せますもんね…。」
矢張り不死、というのにはどうしても思う所が出てしまうが、先ほどの反応よりは平静だ。
自分が不死身という存在に忌避感を抱いている、というのをきちんと自覚したからだろう。
二刀になっていた紅剣が、今度は小さな短剣になって隣まで飛んできて転がる。
(…うん、信頼関係の差もあるんだろうけど、うちの槍とは大違いだなぁ。)
とはいえ、先ほどの浄化の結界で多少は舐めた態度も鳴りを潜めるだろう。
つまり、ある程度は前より認められたという事でもある。
まぁ、その槍は今は転がって淡い光を明滅させていたりするが。
…椎苗さんの圧が相当効いているんだろうなぁ、と思う他人事の現所有者であった。
(まぁこの一人と一器みたいな対等の関係が理想だけどまだまだ道のりは長いね…。)
まぁ、そこは凡人なりに頑張ろう。コツコツやっていくしかないからだ。
「…破邪と浄化だから、本当に”怪異殺し”な特性ですよね…不死の怪異相手にはそちらの紅剣でしょうけど。」
他の神器の特性も好奇心という意味で気になるが、今度大まかに彼女に教えて貰おうかなと思う。
自分が使う事は出来ないが、他の神器の特性を知っておくに越した事はないからだ。
――あと、完全に椎苗さんの圧に押されてるなぁ、うちの蒼い槍は。
ちなみに、紅剣の感情の動きが分かるのは、ある程度気に入られているのと――…
おそらく、基本は大人しい理知的なその意思と相性が良いのもあるのだろう。
「…美少女はまぁ否定しませんが、欲情とか色々問題ですからね!?」
そこはしっかりツッコミ入れておきたい。危うくサンドイッチ落とすところだったよ!
しかし、彼女の表情や態度からして、僕って思ったより信頼されているんだろうか?
割と謎な気がするのは、自分が鈍感なのか自己評価があまり高くないからか。
「――そうですね、一度きちんと聞いておきたい気もしますし。」
自分から尋ねるのは憚られるが、彼女から語ってくれるなら迷いなく聞くだろう。
まぁ、それはそれとしてこの状況は心臓に悪いのだけど。鼓動が収まらない…!!
そして、最終的に幼女はスヤァ…してしまった。…このパターンは覚えがありますよ!?
ともあれ、紅剣には頼み込んで?彼女の中に戻って貰いつつ。
少年も槍を回収してから、バスケットと白ロり幼女を抱えて退散する事になるのだろう。
ご案内:「訓練施設 第四訓練所」から神樹椎苗さんが去りました。
ご案内:「訓練施設 第四訓練所」から蘇芳 那由他さんが去りました。