2024/07/29 のログ
池垣あくる > 「だって……こんなの、武じゃない。何の抵抗もしない木偶相手に何をしても、やっぱり何の意味もない」

自分の極めたかった武は。
自分の惚れた武は。
自分の心を焦がした武は。

やって、やられて、思うがままにし、思うがままに出来ず、競い、奪い、叩きつけて。
己が衝動と相手の技術をぶつけ合い、お互いに命を奪い合い、ギリギリの緊張感の間でせめぎ合い、そして……奪うに至る。

そんな、情熱的なものだ。

その過程の鍛錬と言えど、木偶相手の技稽古なんぞ、本質の全てを欠いたままごとにしか思えなかった。

「戦いたい。誰かと、ちゃんと戦える人と。誰か、誰か誰か誰か誰か誰か」

衝動が高まる。
眼が爛々と光り、フラストレーションは狂気へと姿を変えようとする。

池垣あくる > 誰でもいい、と言うわけではない。
ちゃんと『戦える』相手でないと、武にはならない。
抵抗も出来ない素人をいくら抉っても、それは木偶相手のままごとと変わらないのだから。
そして、そんな相手が決して多くはない、と言う事も分かっていた。
周囲にぎろりと目を向けるが、いい感じの人は見当たらない。

――――そもそも、ダメだ。

がん、と石突で地面を突いて、深呼吸。
そして、風紀の腕章をぎゅっと握りしめる。

「今の私は、武人であると同時に、風紀委員……風紀を乱すのは、ダメ」

風紀委員である、と言う枷は今回は機能し、狂気を抑え込んでいく。

「やるなら、ちゃんと理由が必要……何もしてない人に吹っ掛けるなんて、ダメ」

ぎゅううううと槍を強く握る。
やりたい。
戦いたい。
この迸る衝動に身を委ねてしまいたい。
風紀委員とだって、以前は何度もやりあったじゃないか。
全て滅茶苦茶にしても、いいのではないか。
そんな衝動を、抑え込んでいく。

「今まではそうでも、今は、風紀……入って、頑張るって、約束、した」

今、衝動に呑まれてしまっては、そのすべてを裏切ることになる。
それはなんだか、嫌だった。

池垣あくる > 「……帰り、ましょう」

強さの意味。強くなる意味。戦う意味。
未だによくわからない。
わからない、けど。
――なんとなく、今のままなのは良くないのかもしれない、と、思えた。

「どう、しましょうね……」

己の中に燻る炎に蓋をしながら、その場を後にする。

――しようとして。

「あっ、お掃除、しなくちゃ……」

自分がそりゃあもう滅茶苦茶にしてしまったターゲットの残骸を撤去し、使用した施設を一通り掃除して帰って行ったのだった。

ご案内:「訓練施設」から池垣あくるさんが去りました。