2024/08/05 のログ
ご案内:「訓練施設」に灰塚トーコさんが現れました。
灰塚トーコ >  
伏し目がちの瞳はいま、真っ直ぐに訓練用のターゲットを見据えていた。
瞳の中で燃え盛る火焔が現実に成る。チリ、と、空気が灼ける音がした――その瞬間に、真っ赤な炎は瞬く間にターゲットを舐め、燃やし尽くすのだ。

予想よりも幾らか強い火力に片眉を上げながらも、慌てることなく携帯している消火器で消化。鎮火。

「ふぅ……燃やすだけならだいぶ慣れてきましたね。」

灰塚トーコ >  
言葉とは裏腹に、酷く残念そうな声色だった。
ポニーテールの先の炎もターゲットを燃した際の勢いはなく、何処か力ない様子で揺れている。

ターゲットに歩み寄り、消火剤で白く塗られた其れを親指で拭う。ぽろりと炭化した表面が剥がれて落ちた。

「燃やす方法じゃなく、燃やさない方法を知りたいんだけどな。」

汚れた指先を擦り合わせながら呟く。

ご案内:「訓練施設」に龍宮 鋼さんが現れました。
龍宮 鋼 >  
通りがかった訓練施設の前、急に室内が赤く光ったと思ったら燃えていた。
なんだなんだと覗き込めば、それを消化している女子生徒の姿。
髪の先が炎の様に揺らめいている様子から、彼女の仕業らしい。

「スゲー燃えてんじゃん」

とりあえず入り口を全開にして空気を入れる。
こういうことも想定されているからか、一応換気システムはばっちりのはずだが念のため。

「オマエがやったん?
 うっわ、ボロボロじゃねーか」

炭化して真っ黒――今は真っ白だが――になったターゲット。
並大抵の火力ではなさそう。

灰塚トーコ >  
(授業が受けたい。夏休み、早く終われ。)

こんなことを考えるなんて、幼い頃は予想すらしていなかった。
自然と湧く懐古の念。ただの子供だった、平和な時代。対するはままならない現実。現状。

――チリチリとポニーテールの先の炎が鳴く。

意図せぬ発火の兆候に気付いて、ハッと顔を上げた。周囲を窺う。
大丈夫、ターゲット以外は何処も燃えていない。燃やしていない。まだ。

が、そこに聞こえてくる「スゲー燃えてんじゃん」との言葉。

「えっ!?わ、わたしまた何処か燃やして……っ!?」

慌てふためいて室内を確認。燃えてない。
そこで漸く現れた人物が指すものがターゲットないし自身の髪のことであると気付いて、ほっと安堵しながら頷く。

「はい、わたしがやりました。……怒られちゃいますか?」

炭化しているのは表面のみとはいえ、ターゲットは既にその役目を果たしている。つまり、そう、ボロボロなのであった。
やり過ぎたかと、おそるおそる問う。

龍宮 鋼 >  
「怒る?
 なんで?
 許可取ってやっとんだろ?」

訓練施設の使用申請の時に、何をするかも申請書に書くはずだ。
それが通ったと言うことは、燃やしても問題ないと言うことなのだから。

「いやしかしスゲーな。
 バッチクソ燃えてんじゃん」

辺りを漂う焦げた臭いと、目の前のターゲットの惨状。
よほどの火力だったのだろう、ただ燃やしただけではこうはならない。

「こんな火力出して、人でも焼こうってのか、――あー、名前なんだっけ」

屈託のない割と狂暴な笑顔で冗談を飛ばす。
が、彼女の名前を呼ぼうと思って知らないことに気が付いた。

灰塚トーコ >  
「それは……まあ。」

その通りなので首を縦に振る動作を繰り返すしかない。
ただなんとなく気まずそうに後ろ手を組んで目線を逸らす。

視線の先にはボロボロのターゲット。
しかし、物騒な物言いには勢いよく其方を見た。ブラウンの瞳の中でも炎が揺らめいている。

「まさか!?ひ、人なんて焼きません!
 ていうか、本当は何も燃やしたくなんて……、」

そこまで言って、屈託のない笑顔に冗談だと悟る。些か下唇が尖るのは仕様のないこと。

「トーコです。灰塚トーコ。一年です。」

名乗り、次いで凛々しい姿を下から上へと確認するような仕草。
たしか教師だったような気がする。異能学以外には然程興味も感心もなく惰性で受けている為に、ぱっと名前が出てこなかった。

龍宮 鋼 >  
「トーコ、トーコな。
 俺ァ龍宮鋼だ。
 龍宮センセーで良いぞ」

良いも何も生徒ならば普通は龍宮先生と呼ぶしかないだろう。
そして彼女の「何も燃やしたくない」と言う言葉にニヤリと笑う。

「ははーん。
 大方上手くチカラ制御出来ずにあっちこっちで何かしら燃やしそうになってっから、ココで練習してたってとこだろ」

自分の異能をうまく制御できない、と言う生徒は珍しくない。
一年生なら尚更だ。

「オマエ舐められてんだよ、自分のチカラに。
 ま、良くあるこった、気にすんな」

ケラケラと笑いながら。

灰塚トーコ >  
「龍宮先生、そう、龍宮先生。数学の、ええ、覚えてますよ。」

目立つ容姿だ、名前が一致すれば勉学に感心のない生徒である自分とて芋づる式に思い至る。
そう、とか言ってる時点でバレバレだが、なんとか体裁を繕えてる……と信じたい。

「うぐっ!」

そのものズバリ言い当てられて胸をおさえてよろめく。
にゅにゅっと突き出した唇がより不満げ、或いは不貞腐れた様相と成らん。
しかし、

「舐められてる?……チカラに舐められてるって、どういうコトですか?
 舐められなければ制御できるようになりますか。どうすれば舐められないで済みますか。」

背筋を伸ばし、唇を引っ込めて、かわりにぐっと前のめりになる。
制御できる方法、それに至る為ならば、何にだって縋る心算だった。

龍宮 鋼 >  
「ハッハ、図星か」

よろめく様子を見て、声に出して笑う。
ふてくされた様な表情と言い、見た目の印象よりずいぶん感情的な奴だな、と。

「舐められてるってのァ、タトエ話見てェなもんだがよ。
 要はオマエがそのチカラの事よくわかってねェんじゃねーの」

部屋の隅のベンチに向かい、そこにどさりと腰を下ろす。
脚を大きく開いてそこに肘を付く様子は、不良そのもの。

「車だって乗ったことねーとどのぐらいアクセル開けりゃどのぐらいスピード出るかわかんねェだろ。
 オマエの場合は初めて乗った車がF1カーだったみたいなもん、って風に見えるな。
 ちょいっとアクセル開けたつもりが、想像以上にドカッと加速するもんだから、ビビッて尚更アクセルワークが上手くいってねェんじゃねェの」

しらんけど、と最後に適当な言葉を付けて。

灰塚トーコ >  
笑われて自身の醜態に気付いた。コホンと咳払いをひとつ。

ともすれば軽薄なようにも思える不良じみた言葉遣いと仕草に眉を顰めるも、その内容は正鵠を射ていた。
自身の能力を厭うばかりで知ろうともせずにいたのに気付いたのは極々最近の話だ。
唇を噛んでぐぅの音を殺す。

「じゃあ……じゃあ、こうして何がどのくらい出来るか……何を成せるのか、
 自分のチカラと向き合って知っていけば、自ずと制御できるようになる、と?」

努め感情を排した声色だが、ポニーテールの先は不安げに揺らめくし、手は無意識に消火器を撫でていた。

龍宮 鋼 >  
「いやそら知らんけどもな」

ざっくり。
彼女の縋るような言葉を斬って落とす。

「コレがゲームやマンガの世界だったらそうなんかもしれんけどな。
 生憎ここァ現実だ。
 努力が実を結ばねェことなんざザラにあるし、やったこと全部無駄ンなることだって珍しくもねェ」

立ち上がり、焼け焦げたターゲットに向かって歩く。
不良らしくポケットに手を突っ込んだまま、不良らしからぬ姿勢の良さですたすたと。

「けどよ、だからってやれることやらねェ理由にゃなんねェだろ。
 ああかもしれねェこうかもしれねェって血と汗と泥にまみれながらみっともなく足掻いてのたうち回ってみな」

ターゲットの目の前。
右手をポケットから出し、ターゲットの真ん中に軽く当て、思い切り右脚で地面を踏み付けた瞬間。
轟音と共にターゲットがくの字にへし折れ、拳を当てた反対側が木っ端みじんに弾け飛んだ。

「――意外とそう言うのが後から身になってきたりすんだわ」

気風の良い笑顔を彼女に向ける。