2024/09/09 のログ
ご案内:「訓練施設」にフィスティアさんが現れました。
フィスティア > 私は今、細剣を握っています。
人を模した星型の訓練案山子を前にして立っています。
それで何をしているかと言えば、何も出来ずにいます。
何も、出来ずにいます。

「何も…」

細剣を強く握ったって何も起きません。
何もしてこない案山子に何をすればいいか分からずにいます。
敵意を持たない案山子に、人間ではない案山子に何もできずにいます。

情けない表情で、情けなく細剣を握って。
私は一体何をしているんでしょうか。

フィスティア > 「どう攻めれば…」

右手で握った細剣をゆっくりと持ち上げて案山子に向けてみます。
切っ先が案山子に触れて止まって、結局案山子には傷1つつきません。
訓練用ですし頑丈なのでしょう。こんな甘えた切っ先では傷なんてつくわけがないのでしょう。

「せっかくいい物をいただいたのに…お父様…」

細剣はとてもいい物です。お手入れだって欠かしていません。
故郷からこちらへ持ち込めた数少ない品の一つです。

「申し訳ございません…」

皆さんはどうしているのでしょうか。
故郷の事を思い浮かべると、もう会えない顔が浮かびます。
お父様、お母様、騎士の皆様…

「トミィ…」

形見として、これぐらい置いてきた方が良かったかもしれません。
目頭が熱いです。本当に…なさけ…

フィスティア > 細剣を見ているだけで故郷を思い出して
勝手に泣いて…

「何もかも…私が何もできないばがり"に"…」

子供の時も、狩猟祭の日も、部屋から出られなくなった日も。
海藤さんを捕らえられなかったのも、魔法少女を止められないのも。

「全部…ぜん…ぶ…」

水中のように視界がぼやけます。
細剣が落ちる様子がぼやけたフィルター越しに見えて、案山子が上にフェードアウトして―――

「うぅ……ぁぁあ……」

ぼろぼろと涙がこぼれおちます。
何もできないからって、泣く事は出来るとでもいうのでしょうか。
情けないです。せめて、声ぐらいは…抑えて…

フィスティア > 何もできない事なんて、分かっていた筈です。
守るだけではダメなんです。もっと攻めた事が出来ないと、このまま何もできないまま。

そう分っていたから、攻めを覚えようと思って…こうやって…訓練しに…

落してしまった細剣を手探りで探します。
今は少しでも心の支えが欲しくて…
床に座り込んだまま、ぼやけた視界と、冷めない頭で必死に手繰り寄せます。

大事なものなのに、落としてしまって申し訳ございません。

抜き身の刃が危ないなんて冷静なら分かるのに、私は細剣を抱きしめて泣いています。
必死で声を抑えて…

ご案内:「訓練施設」に桜緋彩さんが現れました。
桜緋彩 >  
「どうされましたか?
 どこか痛めましたか?」

そんな彼女に声を掛ける。
部屋の外から見ただけだったが、何やら思い詰めているらしい雰囲気だったから。
ただの通りすがりではあるのだが、通りすがりだからと見て見ぬふりが出来るほど薄情ではない。

「怪我は……していないようですね。
 抜き身の剣をそんなに抱きしめては危ないですよ」

彼女の目の前にしゃがみ込んで、出来るだけ優しく声を掛ける。

フィスティア > 涙が止まる気配はありませんでした。
この涙を止めてくれるものは私の中には残っていないのですから。

「ぅ…ぇぐ……はぃ……」

そんな出口のない悲しみから逃れられずにいた私に手を差し伸べてくださった方が居たのです。
聞き覚えがあるような、でもおぼろげな記憶…
泣き腫らした顔を上げれば、女性の方がいらしました。
座り込む私の前にしゃがみこんで、優しく声をかけてくださります。

「……グスン…すみまぜん……そうですよね、危ない……ですよね。」

抜き身の剣は危ないなんて当然のことすら分からずにいた私は、素直に一度細剣を置いて、涙を裾で拭います。
視野がなんだか狭いです。

「いろいろ……思い出してしまっただけで…ぇぐ…すみません、まともに訓練しないのに…居座ってしまって…」

まだ少し止まらない涙をぬぐいながらゆっくり話します。
どうしてもえぐえぐ詰まってしまいます。泣くといつもこうです。

桜緋彩 >  
「はい、大丈夫ですよ。
 ゆっくり深呼吸しましょう」

彼女の横にまわって背中を擦る。
涙でぐしゃぐしゃの顔だが、確かに見覚えがあった。
確か、

「フィスティアどの、ですよね。
 焦らずとも大丈夫です。
 泣きたいときには思い切り泣いてしまいましょう」

今年から入った風紀委員の後輩だ。
新人名簿が擦り切れるほど何度も見返したので間違いない、はず。
背中を擦りながら落ち着かせるために大丈夫、と繰り返す。

フィスティア > 「…ずみません…ぇぐ…ありがとうございます……」

背中に伝わる手の温かみに安心したのでしょうか。止まろうとしていた涙がまた我慢できなくなりそうになります。
こうして誰かに触れてもらうのはいつぶりでしょうか。
此方に来たばかりの頃以来かもしれません。半年ぶり…でしょうか。

「…はぃ…そうです…ぇぐ…どこかで…お会いしましたでしょうか……
覚えておらず…すみ…すみませ…ん……ぁあ……」

背中をさすってくださる女性の手と言葉の温かみ、名前を知っていていただけたこと。何よりも優しい言葉に我慢できなくなった涙が溢れ出します。
背中を摩ってもらう度、大丈夫と言葉をかけていただく程に涙が出て…

「ああぁ…ひぐ…あぅ、ああああ」

結局、大粒の涙を流しながら5分ほど大声で泣いてしまいました。
背中をさすっていただいて、声までかけていただいて。
余程安心したのだと思います。5分で済んだのは背中をさすってくださった方のお陰でしょう。



「ぇぐ……すみません……ご迷惑をおかけしました……」

ようやく泣き止めた私は背中をさすってくださった女性に頭を下げます。
この方が来て下さらなければ、きっともっと泣いていたでしょうから。
喉が渇いているせいかうまく発音出来ませんが、しっかり伝わっているでしょうか。

「ところで…どこかでお会いしたでしょうか……
すみません、覚えておらず……」

目元が痒くて袖で擦りながら尋ねます。
でも、どこかで聞いた声のような気もするのです。どこでお会いしたのでしょうか。

桜緋彩 >  
彼女が泣き止むまで五分ばかり。
その間ずっと大丈夫ですよと声を掛け、背中を擦り続けて。

「いえいえ、お気になさらず。
 困った時はお互い様ですので」

泣き止んだ彼女から離れ、謝罪の言葉に気にするな、と返す。
声がガラガラなので、持ってきていた水を差し出す。

「風紀委員、三年の桜緋彩と申します。
 以後お見知りおきを」

名簿で見た以外にも、確か何度か本部などで顔を見たことはある。
ちゃんと話すのは初めてなので、彼女が覚えていなくても無理はないだろう。
改めて名乗り、深々と一礼。

フィスティア > 「ありがとうございます…」

持ってきていただいた水を、感謝の言葉を伝えてから受け取り、ゆっくりと飲みます。
乾ききった喉と乾燥気味だった口内が潤って、少しばかし気分が良くなります。

「風紀委員会……そうでしたか…委員会の…」

同じ委員会の仲間だったようでした。
という事は、きっと庁舎などで声を聞いていたのでしょう。
名前も…思い出しました。誰かが話していたのを聞いた事があります。

「ご存じかと思われますが、私は風紀委員会所属で一年生のフィスティアと申します。
よろしくお願い致します。桜さん」

こちらも姿勢を整えてしっかりと頭を下げます。
とても親切で礼儀正しい方です。

「桜さんも、訓練でいらしたのでしょうか?
邪魔をしてしまったのなら申し訳ございません」

頭を上げて、また下げます。時間をとらせてしまって申し訳がないです。
それも、桜さんは先輩です。

桜緋彩 >  
「こちらこそ、よろしくおねがいします」

挨拶がしっかり返ってくる。
礼儀正しい子だな、と言う印象。

「邪魔などと、そんな滅相もありません。
 辛そうにしている方の介抱より優先されることなどありませんので、お気になさらず」

再び下げられた頭。
流石に慌てて顔を上げてと言う様な動き。
自分の鍛錬など後でいくらでも出来るのだから。

フィスティア > 「そこまで言っていただきありがとうございます…
本当に…ありがとうございます」

本当に長らく触れる事の無かった温かみでした。
お父様の大きな手に撫でていただいたのを思い出します。トミィが背中を優しくさすってくれたのも…。


視線を少し落として、置かれたままの細剣を拾い上げます。
少しめまいがしましたが、ゆっくり立ち上がって細剣を鞘に仕舞います。
後でしっかり手入れしましょう。…傷があるかどうかではなく、落としてしまいましたから。

そうやって細剣を少し持っていた間に、ここに来た理由を思い出したんです。
鞘に収まった細剣を見つめてから、桜さんの方を向き直って――

「一つお伺いしたいのですが。
…桜さんは、とても強いとお聞きしたことがあります。
どうすれば、強くなれますか?」

泣き腫らした顔では格好がつかないですが、そんなことはどうでもいいのです。
案山子にすら何も出来ない私ではかっこつけても何にもなりません。
これは、些細な事で泣いてしまった、未だにかすれた声の、情けない問いです。

桜緋彩 >  
少しふらつきながらもレイピアを拾う彼女。
それも一時的なものだろう。
体調は大丈夫そうだ。

「強く、ですか?
 う、――ん、難しい質問ですね」

腕を組んで考える。
強さと言うのも色々ある。
確かに自分は剣の腕には自信はあるが、それは異能がないと言う弱さがあったからとも言える。
心の強さと言う精神的な強さもあるし。
腰の刀に手を添え、立ち尽くしていた案山子に向き合う。

「――少なくとも、努力を続けることは間違いなく大事なことです。
 努力は必ずしも報われるわけではないですが、努力をしなければ成長することはありませんし」

そのまま剣を抜き、案山子を袈裟に一刀両断。
勢いを殺さず、滑り落ちる案山子の上半分を更に半分にし、納刀。
流れるような淀みない動き。

「例えば剣の腕があれば強くなる、とは言えません。
 ただ、何か一つ自分の芯になるようなものがあれば、それが支えになるとは思います」

フィスティア > 腕を組む桜さんをじっと待ちます。
何も出来ない私は、そうではないであろう桜さんに甘えていたのかもしれません。
勿論そんなことを直に考えていた訳ではありません。ですが、何か強くなるための具体的な方法のような、分かりやすい道しるべを求めていたように思います。
ですが、そんな甘い考えは打ち砕かれました。

「努力と」

綺麗な断面を晒して切り裂かれた案山子のように、切り伏せられ

「芯、でしょうか?」

そして更に一撃。

大変失礼な事に、私はがっかりしていたのだと思います。
何せ…努力はしてきた気でいましたし。
芯だって持っていると、勘違いしていたのです。
きっと表情にも出ていたと思います。大変失礼で、申し訳ない限りです

「難しそうですね…。芯、ですか」

その時の私は言葉に詰まっていました。
努力は、更に重ねればよいかもしれません。
ですが、芯はどうすればよいのか、悩んでしまいました。
不殺という、これまで掲げてきた芯をどうしようかなんて、思っていました。

桜緋彩 >  
芯、と聞き返す彼女に頷きを返して。

「私の場合、ですが。
 私は幼少の頃、少なくとも物心ついた頃にはもう剣を振っておりました。
 そう言う家だったと言うのもあるのですが、とにかくひたすらに剣を振り続け、今でもそうしているつもりです」

異能を持たぬ身ながら、異能蔓延る常世学園で風紀委員をやっていられるのは、剣に掛けてきた時間と密度によるものだ、と思っている。
ただひたすらに剣を振り続けてきた十年余り。

「ですが、それでもまだまだ至らぬことばかりです。
 ようやっとこの間、友人との立ち合いに置いて、ようやく技の一つ先へ踏み出すことが出来ました。
 それでようやく引き分けと言う有様です」

それでもたかだか十年と少しだ。
人生八十年にも九十年にもなろうと言う世の中。
まだ半分の半分にも至っていない。

「フィスティアどのは何のために強くあろうとしているのですか?
 誰かに勝ちたいとか、何かを守りたいとか」

フィスティア > 「そんなに昔から剣を…とても長い、ですね」

桜さんの言葉は、ボロボロになっていた甘えを完全に打ち砕きました。

私の持つ不殺なんてものは…精々半年程度です。
桜さんを支えるそれは、短くとも10年はあるでしょう。それと比べれば…なんと弱弱しい芯なのでしょうか。
慢心は瞬く間に戸惑いとなり、そして恥へと変わりました。
物心ついた時…私は何をしていたでしょうか…
剣を握る事なんて…考えても……

桜さんが…10年貫いた桜さんが至らないと言い、ようやく進めたというのです。
それに比べれて私は…

「私は……誰も殺させない為に…理不尽に命が奪われる事があってはならないと思って…」

こんなものが芯と呼べるのでしょうか。
立ち上がった時とは違った眩暈を感じます。

「誰かの命を…守る為に…」

曖昧な…こんなものが芯と…

「…私には…芯が…ないのかもしれません…」

フィスティア > こんなものを芯と呼べるわけがない。
フィスティア > 私は俯く事しか出来ませんでした。
恥ずかしさと、己の未熟さに。

桜緋彩 >  
「ふむ」

不殺。
なるほど、確かに難しい。
自分を倒そうと、場合によっては殺そうとしてくる相手を殺さずに制圧する、と言うのは本当に難しい。
よほどの実力差があるか、よほど運が良くないと殺さずに済むと言うことは難しいだろう。
剣に生きる自分であるから良くわかる。

「確かに、それは芯とは呼べないかもしれませんね。
 芯とは自分が今まで積み上げてきたものであって、自分がこれから成そうとしていることではありません」

不殺は目標だ。
目標のための手段、それを選ぶ時の判断基準が芯だと思っている。
だからそれは芯ではない。
それを芯にしてしまうと言うのは、目標と手段が入れ替わっている。

「フェスティアどのは殺さないために不殺を選ぶのではないのでしょう?
 だれかが傷付くのを防ぐために不殺を選ぶのではないですか?」

俯く彼女を真っ直ぐに見る。
それは恥ずかしいことではないと言う様に。

「であれば、自分の中心に置くのは不殺(それ)ではないと私は思います。
 不殺(それ)は目的であり、手段ではない。
 不殺を貫くために何を積み上げるのか」

微笑みを向け、

「それが芯だと私は思いますよ」

フィスティア > 「何を積み上げるか、ですか…」

私は目を丸くしていました。
桜さんの言葉は厳しいものでした。
ですが、私の誤りを正して、私が進まなければいけない道を少し鮮明にしてくださりました。
これまで進んでこれていたと思えていた道のりが誤りであると教え、正しい道へと引き戻してくださったのです。

「私の目標は不殺と、理不尽に奪われる命を無くすこと…。それはこれからも貫きます。
だから、その為に積み上げるものを…芯を作ろうと思います。」

目標は変わりません。ですが、それを為すための芯が足りていないのであれば、作らなければなりません。

「桜さん、ありがとうございます。桜さんのお陰で私に足りない物が分かりました」

向けて頂いた微笑みに力強い笑みで返しましょう。ちゃんと笑えていたか、自信はありませんけども。
そして、深々としたお辞儀と感謝の言葉を告げます。

「しっかり考えて、芯を得る為に努力します。
そして…桜さんのように強くなるために、頑張ります」

具体的な事はまだ何もわかりませんが。
それでも、道しるべはいただきましたから。
まだ顔は赤いでしょうが、元気になる事が出来ました。