2024/10/28 のログ
桜 緋彩 >  
人のものとは思えない速度で迫る――否、迫るという言葉すら生ぬるい。
これまでの十数年を全て剣を振り、打ち合い、切り伏せ、磨き上げてきた自身。
当然視る目と言うものも鍛えてきたし、それなりに自信があったつもりだった。
それでも尚、軌道が見えなかったその踏み込み。
見えはしないが、身体は反応してくれる。
消えた、と思考が反応する前に、足は動き、腕は迎撃準備を始める。
異能はない。
魔術も使えない。
自身が操るのは、人生の全てを支えた剣術のみ。
それだけが自分の武器だ。
両脚と両腕に、身体が悲鳴を上げる限界まで「神槍」を纏い、先手を取られた主導権を力尽くで奪い返しにかかる。
そこに至ってようやく、彼の姿を視認する
と言っても意識が飛んでいたとかそう言うことではない。
身体に思考が追いついた、と言う方が正しいか。
兎にも角にも。

桜 緋彩 >  
「いえ、決着(ケリ)を付けます、追影切人――!!」

桜 緋彩 >  
幾重にも重ねた剣を圧縮した「神槍参式」。
纏った斬撃を蹴散らされながら、それでも少しずつ押し返し――

追影切人 > 「――ハッ!…ハハハハッッ…!!!」

自分でも意識しない内に思わず笑っていた。…嗚呼、勿論愉しいからだ。本当に――斬り合いはこれだから。

じりじりと、少しずつだが無数に纏わせられた斬撃に凶津の刃が…じわじわと確実に押し返される。
――直感的に悟る。確かにこのままだと負ける…斬り合いに?…ああ、それは嫌だ。

彼女のように、人生全て費やせるほどに剣術に賭した訳でもはない。自分はただの”刃”…だったから。
ここに来て…そう、ここに来てやっと。面倒だと思っていた『感情』の有難みを知った。

両手で握った刃…じりじりと押し返される余波で、更に全身あちこちに裂傷が生じていく。
そろそろ身代わり人形の危険域――遠からず音が鳴る事だろう。だが。

(――あぁ、その通り…どんな形にしろ、ケリは付けなきゃ…なぁ!!)

いよいよ、神槍により威吹が飲み込まれようとする…その刹那。最後の一足掻き。
斬撃の嵐の中、左目の眼帯が千切れ飛び、閉じた左目が…とっくの昔に潰されて失った筈のソレが。

――見開かれて――真っ直ぐに彼女を見た

「――――■■■。」

何かを呟く。それは斬撃の圧と嵐の中、掻き消える程小さくて。そして――斬撃が”破裂”した。

いや、破裂なんて生易しいものではない…空間破砕とでも言うべき、斬撃の”暴走”。
彼女に押し切られる前に、ならば諸共派手に”爆発”させてしまえとばかりに。

結果がどうなるにしろ――確かな事は、少なくとも男の身代わり人形が「音」を立てた事と。
零距離で斬撃を『暴発』させた事による衝撃で、あちこちズタズタになりながら男が吹っ飛んだ事だ。

桜 緋彩 >  
笑い声を上げる彼。
対してこちらは一言も発さない。
渾身の力で押し返している、と言うのもあるが、それよりも声を出すことすらもったいないと思っていることの方が大きい。
その証拠に、彼の左目を真っ直ぐ見返すその顔は、猛獣のような笑顔が浮かんでいる。

「――ィイあああああァああアァァ!!!」

小さく呟く彼とは対照的に、絶叫と共に渾身の力で押し返す――その瞬間。
斬撃が爆ぜた。
ヤバい、と思う間もなく剣に感じる手ごたえが消え、視界に映る全てが遅くなる。
半ば反射的にこちらも「神槍参式」に押し込めた斬撃と刀身を解放させるが、僅かに遅い。
先ほどの自分のそれとは比にならない斬撃の壁がゆっくりと全身に迫り、

「ッ――」

速度が戻る。
周りの風景がとんでもない速度で前方にカッ飛んだ、と思った次の瞬間、とんでもない衝撃と同時に意識が途切れる。
後ろの壁に受け身も取れずに激突し、右手の刀を握りしめたまま、どさりと床に倒れ込んだ。
自身の身代わりは彼のそれと同時に粉々に砕け散っている。

追影切人 > (クソが…正直、腹が立つほど悔しいけどよ――)

あのままだと確実に押し負けて己が敗北していた。
全霊を込めた一刀も、無数の斬撃を束ね圧縮したソレには残念ながら及ばない。
ならば、どうするか。どんな形にしろケリを付けるならば。
死なば諸共――相打ち上等の自爆行為だ。結果的にそれは成功した…のだろうか。

吹っ飛んで地面を転がるも、握った刃は絶対に手放さない。
身代わり人形が限界までダメージを肩代わりしてくれた為、あちこちズタボロに見えるが意外とダメージはマシだ。

とはいえ、流石にこの後は保健室なりで手当てしないといけないだろうが。
お互い、握った獲物は絶対に手放していないのは…何となく似た者同士のものを感じつつ。

「……チッ…これしか無かったとはいえ……引き分け…みてぇだなこりゃ。」

隻眼を向けた先、身代わり人形はどちらも霧散している。
どちらが先に…かは分からないが、どちらもダメになったのならば引き分け…に、なるのだろう、多分。

そのまま、身を緩慢に起こせば…ゆっくりと桜の様子を確認しに歩み寄る。
彼女と違い、壁に激突していなかったのと…自身で行った自爆行為なので次にどうなるか予測済みだったのもあり…意識は割としっかりしている。

「……おい、桜…。」

呼びかけてみるが、意識は戻るだろうか?

桜 緋彩 >  
「――ッ! 、は、っ、……ぁ……?」

名前を呼ばれて上半身だけ跳ね起きる。
咄嗟に刀を構え、さっきのことを思い出し、刀を構えた腕を不思議そうに眺めた。
まるであるはずの無いものを見るかのように。

「――ぁ、身代わり、人形……」

正直腕の一本や二本は覚悟していた。
だからこそ吹き飛んだはずの腕があることに理解が及ばなかったのだ。
同時に、それすら忘れるほどに勝負に入り込んでいたと言う証でもある。
ほ、と安どした瞬間、ぐらりとバランスを崩して、

「――っ、う、げぇ」

吐いた。
幸い何も食べていなかったので、胃液を吐き出すだけで済んだが。
頭をぶつけたから、と言うより、自身の許容量を超えた大技を無理矢理繰り出した代償のようなものだ。
剣気――魔力がすっからかんになって、大変に気持ち悪い。
ついでに鼻血もぼたぼた出ている。

追影切人 > 「―――!」

彼女が上半身だけ跳ね起き、咄嗟に刀を構えた仕草にこちらも反射的に右手の刀を構え…ようとして思い留まる。
どうやら、意識が途切れた事で前後の記憶が曖昧にでもなっていたのだろうか。
ともあれ、溜息と共に左手でガシガシと己の頭を掻きつつ、右手の刀を下ろして。

「――見ての通り、どっちも砕けた…って言い方が合ってんのか知らんが。まぁ引き分け――って、オイ。」

いきなりバランスを崩したかと思えば、盛大に嘔吐してしまった桜を見て。
男も男で色々と無理をしたので反動がかなり来ているのだが、取り敢えず傍らにしゃがみこんで様子を確認。

「…こりゃ、保健室辺りに立ち寄るのは確定だな…オイ、立てそうか?」

と、一応尋ねるが流石に嘔吐ならまだしも、鼻血まで出しているとなると彼女も相当に反動が起きているようだ。
男も男で、魔術と無茶な自爆技、更に極限まで集中した派生の技をぶっつけで繰り出したので結構しんどい。

ただ、まだ歩けるだけこっちの方がマシかと判断。…むしろ、桜がどう答えようと無理矢理運ぶつもりだが。

桜 緋彩 >  
「ぎぼぢわるい……」

辛うじてそれだけ返す。
頭は痛いし胃はぐるぐるするし血の臭いが鼻の中に充満して大変に気持ち悪いし。
正直なところ、立てそうにない。

「保健室の前に、かたな……」

握ったままの大刀はともかく、途中で取り落とした長脇差は回収しないといけない。
大刀を鞘に納め、それを探す。
その辺に転がっているだけなので、すぐに見付かりはしたが、なんせ距離が遠い。
そこまで移動できそうになく、縋るような目を彼に向けて。

追影切人 > 「……。」

縋るような目線を向けられれば、黙って立ち上がりつつ…ややフラつく足取りながら転がっていた長脇差を回収しに行く。
ついでに、最初に自分が落とした布切れも拾い上げて、己の刀の刀身に乱雑に巻いてから腰のベルトに捻じ込んで。
ついでに、その布の一部…綺麗な部分をきちんと選んでから、一部を千切っておきつつ桜の元へと戻る。

「…おい、取って来たぞ。取り敢えず腰に差すか手で持っとけ。」

あと、これで鼻血とか止めておけとぺしっと彼女の鼻っ面に布を押し付けておこう。少しはマシになる筈。
さて、これから両手で彼女を保健室に運んでいかないといけない。腰のベルトに無理矢理刀を捻じ込んだのもその為だ。

「――取り敢えず、一番近い保健室は…っと。桜、取り敢えずもうちょい我慢しろ。あとまた吐くなよ?」

…と、言いつつ彼女の了解とかそういうのはサラリと無視して、彼女の膝の裏と背中に手を回して抱き上げようと。

…まぁ、両手を空けたのはこの為である。肩を貸したりとか担いで運ぶよりこれの方が負担は少ないだろう。

桜 緋彩 >  
「ありがとうございまふぶっ」

長脇差を受け取ったら、顔に布切れを投げつけられた。
言葉の最後の方が間抜けな感じになる。
とりあえずそれを退かして長脇差を鞘に納め、言われた通りにその布で鼻を抑え、

「へぁ、ふぁ、ひぁ!?」

いきなり持ち上げられた。
突然の浮遊感に思わず情けない声を出してしまう。

「はへ、ふぁ、ふぁい」

我慢しろ、との言葉にやはり変な声で返事。
そのまま妙に大人しく縮こまったまま保健室に運ばれていくのであった――。



保健室でしこたま怒られたのは言うまでもない。

追影切人 > (何か急に大人しくなったなコイツ…)

別に抱き上げたのに他意はなく、この方がコイツの負担も少ないだろうと言う判断。
あと、単純にこのスタイルの方が運びやすいと言うのもあるのだけど。

何か調子が狂うな…と、思いつつ保健室へとそのまま彼女を連行するのであった。

――ちなみに、男も同じく怒られたのは言うまでもない。

ご案内:「訓練施設」から桜 緋彩さんが去りました。
ご案内:「訓練施設」から追影切人さんが去りました。