2024/11/22 のログ
ご案内:「訓練施設」に御崎 眞さんが現れました。
御崎 眞 >   
指抜きされた白い手袋を両の手に付け、しげしげと手の甲に書いた魔法陣を眺める。
それは自分なりに踏ん切りをつけて受けた呪術の授業、その中で目についた一つの術式。

「… 呪いとは、自らの望む結果を招くための信念…だったか」

捉え方は人により、一口に呪術と言っても様々なアプローチが存在する、と前置きされた上で聞かされた言葉。
呪い(のろい)というとおどろおどろしいイメージがあるが
例えば願掛けを含めた縁起担ぎのあれそれも呪い(まじない)と言う事で呪いの一種と言えるのだと。
其処から発展し、他者の幸運を祈り、身を助けるための術も呪術には数多く存在する。

「そして、禍福は糾える縄の如し… 呪い(のろい)であっても、使いようによっては人を助けられる
まぁ、真っ当に人に教える立場としてはそう言わざるを得ないって所もあるだろうけど」

手袋をそのまま自分に当て、静かに『呪い』を発現させる。
ずくん、と体の中で何かが脈動するような錯覚と共に、体内が煮沸されていくかのような熱を感じ…。

「――  !!!」

間髪入れず、そのまま指先を噛み、皮膚を千切る。
どぷり、と溢れ出す血が口内に入り込もうとするのを吐き出しながら、指を下に向けた。

予め用意しておいたバケツに、だくだくと赤いものが溜まっていく…。
それは見るからに、通常の出血をはるかに超える速度だった。)

御崎 眞 >   
『増血――』

人とは、須らく血の嚢である。
皮膚の下にあるそれは、たしかに体内をめぐり、その脈動は生を象徴する。
皮膚が破れれば、赤きそれは命を損ないながら流れ落ち、何れ濁り、黒い染みへとかたちを変える。
血とは肉体が損なわれる瞬間であり、その生が喪われた後になお遺される、最後の痕跡でもある。

「即ち、血とは人にとって最も身近な液体であり、それ故に呪いにおいて最もポピュラーな媒体の一つである」

勢いよく漏れ出す血が、指先の傷を開いていき、僅かに眉を顰める。
そして大きめのバケツ半分程を血が覆い尽くした所でその勢いは収まり、一つ息を吐いて。

「… 成程、こんな感じか」

体に感じるのは僅かな疲労感、本来、この量の血液を出せば、命に係わるのは間違いない。

【呪い:増血】
対象の魔力の一部を、体内に流れる血に強制的に変換するシンプルな呪い。
使用者の血で描いた魔法陣を接触させる事で発動する。
血を過剰に増やすことにより強制的に出血させる、献血に役立つ等、様々な用途に使用出来る、のだとか。

「シンプルだけど、この量の血液が勝手に増えたとすると… 出血先を自分で作ってやらないとかなり危険だな」

魔力を血液に変換するという性質のため、之によって一時的に血液は増えるが…。
生まれた傷口がふさがるわけではない以上、増えた以上の血液を失う事になれば当然失血死のリスクがあり。
血が体からあふれ出ようとする際、既に開いている傷口が更に開く事にも繋がるだろう。

御崎 眞 >   
「… 見た目も本当にただの血だ、確か、触媒として使う血を之で賄う事もあるんだったか」

しかし、今の自分にそれらを【大量に使う】ための呪術はまだ無い、之は後で洗って捨てることになるだろう。

「ハ、これがすっぽんの血だったら、欲しい人もいたかもしれないけど、そんな価値はないな」

香る匂いは不思議と気にならなかった、自分自身のものだからか、【慣れ親しんだ】ものだからか。
呟きながら、ぺらりと持ってきた教本を眺め、次の授業の予習をし始める――。

御崎 眞 >   
「血は、即ち喪失の象徴であり――」

バケツの中の血を掬い取る様にして触れ、広がった指先の傷口に垂らす。

「同時、命を繋ごうとする人の望みを託すものである」

傷口に血を塗り付け、二の腕に血で陣を描く、それもまたごく単純な呪い… 凝固。
血を増やすのではなく、血を固める、それを自身の体から溢れた血に向けて行使する。

それによって出来上がるのは、謂わば呪いによってつくった瘡蓋だ、絆創膏でも貼っておけば治るものではあるが。
こういったものは少しでも『練習』しておくのが上達のコツだという事は、一般的な勉強と変わるわけでもないだろう。

「… そういえば、俺は血は怖く無いんだな」

ふとそう呟いて、口元を引くつくように笑わせた。

御崎 眞 >   
そのまま暫く『練習』をした頃には、指先の傷も治っている。
之なら、実際に使う時が来ても役に立たない、と言う事は無いだろう。

「… とはいえ」

一つ、ため息を吐く。

「俺一人じゃ、多分入れて貰えない、だろうからな… 誰か
誰か、丁度いい相手が……」

軽く額に手を当てて、また眉を顰めるようにしながら持ってきたものを片付ける。
訓練場を出る頃には恐らく日も傾いている事だろう。

「探してみるしかないな、俺が… 誘えそうな相手」

小さく呟いた声は、片手に持ったバケツの水音にもかき消されそうな程小さなものだった。

ご案内:「訓練施設」から御崎 眞さんが去りました。