2025/01/09 のログ
ご案内:「訓練施設」に緋月さんが現れました。
■緋月 >
「――――はっ!」
気合の声と共に、ずばん、と、炸裂するような音。
少しおいて、バラバラと破片が散り、落ちる音。
訓練施設で、多数のターゲットを相手に打ち込みに励む人影がひとつ。
暗い赤の外套に、書生服姿の少女である。
何故稽古着の類に着替えないのかの理由は単純。
普段着ている服でしっかり動けなくては、いざという時に意味がないからである。
つまり、課題などではなく自主訓練。
それも――掌撃一発でターゲットとなるヒトガタを粉砕する程の力と技量で、である。
「――ふっ、はっ!」
残心の間も取らずに一息に踏み込み、今度は蹴りを連続で。
破壊音と共に、ターゲットがぐしゃりと大きくひしゃげて頽れる。
やはり間を置かず、肘、膝、裏拳、正拳、踵落とし、投げ、手刀の打ち下ろし――――
それらが振るわれる度に破壊音が響き、ターゲットが粉砕、あるいは大きく変形していく。
「……よし。」
一通り身体を動かし終わり、ようやく動きを止め、軽く息を吐く。
破壊されたターゲットを見渡すと、軽く手を握り、開く。
「お正月の休みで鈍っていないか、心配でしたが…意外と、身体は覚えてるものですね。」
豪快に壊して回ったが、これも復習。
鈍っていないかの確認である。
既に過ぎた年、公安の男から文字通り体に叩き込まれた無手の技は、しっかりと生きていた。
ご案内:「訓練施設」にセロさんが現れました。
■セロ >
訓練施設、という場所に来ている。
元いた世界でいうところのスウォーグだろう。
しかし、文明が発達したこの世界において。
施設の類は近代的かつ効率的すぎて目が回ることが時々ある。
鎌を持って入場する。
簡素な区切りが成されたお隣さんを見る。
「!?」
あ、あの赤い外套のヒト!
素手でなんか人型のもの破壊してる!!
理力? じゃないの?
「すご………」
思わずジロジロ見てしまった。
あっと、これはさすがに失礼か…?
「あ、いや、失礼しました」
慌てて言い訳をした。もう自分の番が来るのに。
■緋月 >
壊れたターゲットの片づけを行うと、次は別の稽古に。
訓練用の器具置き場に向かうと、持ち出して来たのは一振りの木刀。
鉄刀木で作られた、重く堅く丈夫な一振りだ。
「――――――――」
ホォォ、と呼吸を整えながら、木刀を構え、新たなターゲットへと向き直る。
呼吸と共に少女の身体からは陽炎のような気の揺らぎ。
それが少しずつ縮み――否、収束し、手にした木刀に集中する。
一見しただけでは、何処が変わったかも分からない調子。
ゆるりと目を見開き、新たに配置されたターゲット群の一つに目を向け――
「――ふっ!」
たん、と踏み込み、木刀を逆袈裟に振り上げる。
通常ならば、刃のない木刀とターゲットが打ち合いとなって音が響く――筈が、そうはならず。
ぞん、と、形容し難い音を立て、ターゲットが木刀の軌道に添って「切断」される。
「…やぁっ!」
先と同じように斬撃が振るわれ、更にいくつかのターゲットが斬り裂かれ、あるいは突き刺されてガラクタに。
幾らかをそうして分断した所で――ようやく視線に気が付く。
「――ああ、訓練の方でしたか? 気を散らせるような真似をして、申し訳ありませんでした。
あ、どうぞ私にはお構いなく。」
そう声をかけつつ、軽く汗を拭う。
先程までと違い、少し息が上がった様子。
■セロ >
今度は木製のブレードだ。
さすがに寸止めとかで型の練習とかだろうか。
と思ったら何か空間のゆらぎを感じる…
「えっ」
木製のブレードでまた破壊したー!?
き、斬れないでしょさすがに!?
斬ってるー!!
「ああ、いえ……その、すごいですね…」
「すごく……すごいですね…?」
私より上背が少し高い。12モール差くらい?
でも私が同じ身長になっても同じことはできないだろう。
集中、集中。
出てきたターゲットを前に大鎌に理力を通す。
何も斬れない道具から鋭利な刃となったそれを。
ゆっくりとターゲットに振り下ろした。
一定の速度で。
何があっても一定だ。
人型のそれを切り裂きながら、万力のように力を込め。
都度フォームを意識しながら。
時間をかけて、一閃を行う。
袈裟懸けに斬れたそれは、軌道が歪んでいた。
迷いがある。
理由は明白、転移荒野でゴブリンから助けた少年に怖がられたこと。
「ふぅ……」
次のトレーニングの前に少し気持ちを切り替えなければ。
■緋月 >
「…………。」
以前、正体不明の仮面の剣士に叩きのめされた時。
あの剣士は「刃の無い刀」で自分の技を往なしていた。
いくら技が凄かろうが「斬る」には「切断力」がないといけない。
「剣気」を乗せれば、木刀であっても斬る事が出来るのでは、と思い、始めていた訓練であった、が。
(……やはり、思った以上に氣をすり減らす。
こればかりは、訓練で容量を増やすしかないですね…。)
正直、手荒いながら教えを受けた無手を用いた方が、よっぽど消耗が少ない。
これは今後の課題だろう。
そんな事を思いつつ、不躾にならない程度に、今度はこちらが先程声をかけて来た人の様子を眺める番。
大鎌。重心のバランスが普通の得物とはまるで違うだろう。
当然重量もある。扱いの難しい武装だ。
それを、一定の速度――決して素早くない速度で、時間をかけて一振りを振るっている。
(……体勢や、型は、決して悪くない。いえ、理想的――ですね。)
振るう間に思考を挟んでいたような所はあるが、それでも決して素人ではあるまい。
時間をかけて一挙動を行うという行為の難しさは、同じような訓練をよくやるので身に沁みている。
もし、難があったとするなら、微妙に歪んだ斬撃の軌道。
「………迷い、ですか。」
思わず、口に出てしまう。
自分も一時期、迷った身の上だ。それもあって、意識せぬままに言葉に出してしまっていた。
■セロ >
迷い、と少女が口に出せば。
少し表情を歪めて答えた。
「わかりますか」
薄く笑うとこの惑星の彼方にある星空と接続、スターコンジャクション。
身体能力を高める。
そのまま上方に体を捻りながら跳んだ。
離れた位置にあるターゲット、理を曲げて空中で斬る。
ディメンションスラッシュ。
「どうあっても」
着地と同時に前方に空間の断裂を飛ばす。
スターダストエンド。
「切っ先には」
着地と同時に白い光の輪が広がる。
その輪に沿って刃を振るえば、光の輪に触れていたターゲットが切断される。
スターリィブレイク。
「出るものです……」
状況の終了を宣言し、練習場から出る。
そして少し離れた少女に声をかける。
「強いってなんですか」
曖昧に笑って、鎌を下ろす。
「なんの意味があるんです」
■緋月 >
「――――ふむ。」
大鎌を手にした、翼の生えた少女が動きを変える。
――距離のあるターゲットが、斬れた。
更に大鎌が振るわれれば、前方のターゲットが次々とバラバラに。
最後に着地点から広がる、白い光の環。
其処に刃を添わせるように振るえば、環に触れていたターゲットがこれまた真っ二つに。
一目で、超常の力だろうとは分かる。
常世学園に通う者に、そんな力を持つ者は多い。
自分も、やろうと思えば似たような事が出来る。
(翼が生えているという事は…異種族なのでしょうか。
頭の上に妙な環もありますし、西方の教えに在る所の「天使」というものに似てます。)
そんな事を考えつつも、幾らか背の低い少女の言葉に真剣な顔。
「強いとは何か」「何の意味があるのだ」。
(…成程。よくある――そして重い問題ですね。)
その悩みにも似た問いに、軽々しい言葉は出さなかった。
力を持つ者が、あるいは高みを目指す者が、何らかの拍子に疑問を抱けば、
容易く入り込んでしまう…難解な迷宮だからだ。
「……生憎、その問いに、あるいは悩みに、私が軽々しく答えを出す事は出来ません。
その悩み…迷い込んだ迷路に出口を見つけるのは――他者が道標を出す事は出来ても、
辿り着くのは、自分自身でなくてはいけませんから。」
そう言葉にしながら、少女から軽く距離を置き、自分の方に配置されている
ターゲットを見据えると、軽く木刀を構える。
一呼吸の後。
『――斬月・醒。』
木刀の一振りと同時に己の異能を発動させる。
直後、不可視の斬撃は同じく不可視の無数の小さな月の如き刃を引き連れながら、
多数のターゲットをズタズタに斬り刻み――ある距離まで進んだ所で霧散する。
――異能を用いたとは言え、その一太刀に、迷いはなかった。
■セロ >
「ですか」
迷路。迷子。
今の私は道化にも等しい異世界からの迷子なのだから。
しかし彼女が言っているのはそういうことではない。
私は思想に飢えているのかも知れない。
肉でしか満たされないものがあるように。
花でしか満たされないものがあるように。
今の自分は思想でしか満たされない何かに苛まれているのだ。
ターゲットを引き裂く彼女の太刀に迷いはない。
木製のブレードであろうと。
迷いなく振り切れば、即ち刃也。
「すいません、初対面の相手に言うことではなかったかも知れません」
「私はモルテの死神、セロです。あなたの名前を聞いても?」
少し離れた場所での会話。
不慣れな距離感。不慣れな場所。
■緋月 >
振り抜いた刃と、その先にあったものを見据え、呼吸をひとつ。
――未だに自由に扱えるのは此処までだ。
「真」の方はまだ集中が必要になるし…「絶」に至っては、極限の、無我、
あるいは忘我の境地まで踏み込まなくてはいけない。
(……「在りたい形」は、未だ遠く。難儀なものです。)
そんな事を考えつつも、改めて向き直り、小柄な少女からの自己紹介を受け取る。
「ご丁寧にどうも。
私は、緋月と申します。こちらで言う所の「異邦人」というものです。」
折り目正しく、一礼。後頭部で括られた髪が軽く揺れる。
「しかし――死神、ですか。
初見…ではないにせよ、私の知る御方とは随分と異なる印象です。」
暫く顔を見ていない、黒き御神とその使徒である少女の事が軽く頭に浮かんだ。
■セロ >
「よろしくお願いします、緋月さん」
「私も異邦人です、2アークト前にここに転移してきたばかりの」
いや緋月さん髪キレイだな……
邪念が交じる。
足もキレイなんだろうけど露骨に視線を向けるのはハレンチで憚られる。
ごほん。
「私のいた世界、ベル・エポックとここではだいぶ死神という概念に違いがあるようです」
「私にとっての死神は魂を管理し外敵から民を守る職業に近い概念ですよ」
異邦人仲間。
この世界には異邦人がたくさんいることは識っている。
それはそれとして……皆、孤独に耐えているのだろうか。
それとも、望郷に囚われているのは私だけなのか。
「緋月さんの知り合いにも死神の御方が?」
■緋月 >
「こちらこそよろしくお願いします、セロさん。
――ふむ。聞きなれぬ単位。
此処や、私の元居た世界とは本格的に異なる世界から来られたみたいですね。」
軽く顎に手を当てて、小さく首を傾げる。
郷でも、この学園都市でも聞いた事のない単位だ。
それを息をするように持ち出すだけで、確かに異なる世界からの転移者だろうと理解できる。
……何故か袴を見られたような気もしたが、恐らく気のせい。
「ええ、知り合い…と言いますか、色々と恩を受けた方、と言いますか。
ですが…セロさんの言う所の死神とは、随分異なると思います。
あの御方は――文字通り「死の神」、ですから。」
言ってみれば、冥府の神が一番近いか。
「私も直接お話をした事は少ないです。
どちらかというと、あの御方の使徒…色々な意味で先輩である人に、お世話になる事が多かったです。
それこそ、道を見失った時に、ひどく叱られもしました。」
■セロ >
「すいません1アークトは35日で70日と言いたかったんです…」
何度やらかしても元の世界の語句を使うクセが抜けない。
誰にも理解はされないのでこればかりは直すしかない。
「死の神」
ゆえに死神。
なるほど、剣呑ながら彼女が敬意を持つ(と勝手に推察した)に相応しい存在だ。
「叱ってくれるのは優しい気もします」
「本当に失望した人は何も言わずに去りますからね」
この世界でも恐らくそうなのであろう。
だから人は信頼を損ねることを朝食を食べ損ねることより恐れる。
「私は……この世界では厳密に言えば死神ではないのかも知れません」
「魂を管理することも」
視線を下げて。
「人を守ることも満足にはできませんから」
■緋月 >
「いえ、謝る事はないですよ。
染み付いた習慣や言葉遣いを変えるのは大変な事ですから…。」
何年か、何十年か。
少なくとも、長い年月を過ごして身に付いた言葉や知識を別のものに
置き換えるのは、決して簡単な事ではないだろう。
ともあれ。
優しい、と評した死神の少女の言葉に、軽く微笑みを浮かべながら、書生服姿の少女は頷きをひとつ。
「言葉は色々と悪い人ですけれどね。
でも、実際優しいと思います。言い方は厳しくても、見捨てられはしなかったから。」
年を越して、あの小さな先輩は何をしているだろうか、とふと考える。
随分ご無沙汰してしまった。後日に何か美味しいものでも持って挨拶に行かねば。
そんな事を一度考えてから頭の端に寄せ、どことなく深刻そうな死神の少女に、
書生服姿の少女は少し考え、口を開く。
「――セロさんは、どうして人を守りたいのですか?
…いや、少し訊ね方が意地の悪い方向でしたね。
聞かなかったことにして下さい。
……今でも、誰かを守りたいと、そう思っているのですか?
此処は、セロさんの世界ではありません。
別の生き方…過ごし方を考える事は、それでも…やはり難しいですか?」