2025/07/27 のログ
ご案内:「訓練施設」に緋月さんが現れました。
緋月 >  
「ふぅ…暑い日が、続きますね…。」

忙しいと言えば忙しく、特に何事もなければ何事もない、と言えるかも知れない日々。
医療施設にお見舞いに行ったり、孤児院の様子を見に行って子供達に振り回されたり、テストで苦労したり。
そんな日々を過ごす中の、これも一つの頁。

「――――ふぅ。」

一つ息を吐き、腰に差したままの刀袋の刀を……取り出さない。
構えを取るは、無手の構え。今年始めの頃の、
とある事件の事を思い返しながらゆらりと構えを整える。

「………………。」

千に変じ、万と化す。凡ては、流れ往く水がその形を変えるが如くに。
あの日に見た構えを、可能な限りに思い出し、己の身で以て再現する。
構えを取れば、それを体に覚えさせるように、暫しの間静止し。

「――――――――ふっ。」

息を吐きながら、ゆっくりと拳を突き出す。
放たれたのは、何の変哲もない、ただの拳の一撃。
それも、まるで所作を思い出すかのような、形をなぞるような、ゆっくりとした動き。

緋月 >  
「……もう、一度。」

拳を引き戻し、構えを取り直す。
ライトグレーのポニーテールが、体勢を整え直すのに合わせてゆらりと揺れた。

「――――ふっ。」

再び、なぞるように放たれるゆっくりとした拳。しかし、先程よりも、少し滑らかな動き。
全身の関節の連動を意識しての所作だった。

「……難しい、ものですね。」

ぼやきながらも、型をなぞるような動きの繰り返しは止まらない。
一度、また一度と、回数を重ねるごとに、動きは滑らかさを増していく。

一度、己に向けて放たれた、圧倒的な「重み」を持った拳。
その所作(モーション)の、トレースだった。

勿論、それを続けた所であの重みまで模倣出来るとはおもっていない。
所作の模倣から始まり…いずれは、自分なりの形に整え、磨き直すつもりだった。
今は、その為の準備段階。土台がしっかりしていなければ、砂上の楼閣よりも危うい。

緋月 >  
無論、書生服姿の少女の本領は刀の技。
無手の技は非常の為の備えと言った方がよい。それでも手を付けた以上は、手を抜くつもりはなかったが。
いずれにしろ、やはり慣れた技よりはどうしても習熟が劣る。

それでも、「あの一撃」をただ記憶の中にしまっておくというのは、どうにも「勿体ない」ものだった。
無論、あの拳はそれを極めた者の業。完全に模倣出来るなどとは端から思ってはいない。
だからこそ、「自分なりの形」で修める事にした。

「……ふっ…!」

拳が、少しだけ速度を増す。体の連動を自然にこなしながら、速度を出せるようにはなってきた。
今は、この辺りが精一杯。始まりの始まりも良い所だが、新しく何かを覚えようとするなら避けては通れない。
まずは、この所作をより自然に、当たり前のように繰り出せるようになってから。

(……とはいえ、やはり一度見ただけのものを写し取るのは、大変です…ねっ……!)

更にまた一打。
目にする機会に恵まれたのは、たった一回だけ。
だからこそ、焦って一足飛びを目指す事は出来ない。
石を一つずつ積んで、高く重ねるように。一打ずつ、一打ずつ。
丁寧に、所作を思い出しながら、身体を駆使してなぞっていく。

緋月 >  
「――は、あっ……!」

普段とは異なる体の動かし方をすれば、体力は思った以上に消耗される。
気が付けば、すっかり汗だくで身体の方も疲労が溜まっていた。

「まだまだ、無駄が多い…のですか、ね?」

自問。普段よりも消耗が激しいという事は、余計に体力を減らすような動きや力の入れ方をしている、という事。
つまり、まだまだ「無駄」が多い、という事だ。
後ろ向き気味な結論だが、裏返せば修正出来る点がまだまだある…より「無駄のない」技に仕上げられるという事。
次の目標は、「不必要な消耗」を減らしていく所から、だろうか。

「……身体を冷やさない内に、帰ってお風呂にでもしましょうか。」

流れた汗で、肌着が身体に張り付いてしまっている。
夏風邪は洒落にならないので、早めに汗を流しながら体を温めた方がいいだろうか。
勿論、帰る前にシャワーを浴びていくのが一番だろうが。

そんな事を考えながら、書生服姿の少女は汗を拭いつつ、帰宅の準備を整え始めるのだった。

ご案内:「訓練施設」から緋月さんが去りました。