本物かどうかなんてわからない。
ひとつの燃える命があるだけだ。
参加者(1):ROM(1) 
Time:18:37:40 更新
■ネームレス >
不器用な生き方の負債を払いながら、この日のために藻掻いていた。
世界をつなぎながらバラバラに引き裂いてしまったインターネットを使って、
歴史に刻まれたワンダフル・ラジオ・ロンドンの悪ガキぶりを真似て、
うらぶれた落第街から走り続けて、いや、生まれた時からずっと走り続けて、
やっと辿り着いたこの場所で。
小さい廃墟を満員にして、
大きな廃墟を満員にして、
"灰の劇場"を満員にして、
そしてここも満員にして――
次は―――――?
■ネームレス >
炙られるように熱い、スポットライトの只中で、
どこか呆然としたように、巫女であった存在は観客席を――宙空を見つめた。
遅れて破裂した、割れんばかりの喝采と歓声のなかで――……
目を閉じて、感じ入った。
恍惚感。虚脱感。
(ああ……)
自分にとってうたうということは、公演は、 なのだと。
だからあんなに気持ちよさそうだったのかと。
そう言われて、妙に腑に落ちたのを覚えている。
だったら、一年以上もずっと溜め込んできたのを、
壊死寸前のいま、一気にブッ放した危うい感覚は……思わず膝が崩れそうで。
お気に入りの機種にかけていた指に力が籠もったのは、
観客のまえで醜態を晒すまいとした意識だ。
■ネームレス >
夜に吼えたける孤独な魂の叫びを。
あまりに鋭い刃のような危うさとともに。
見果てぬ空への憧憬と苦しみを。
欲情に炙られる底なしの落下を。
醜い妬みを美しき炎の翼と変えて。
あまりに優しすぎる死へと誘って。
――二時間以上。
入神の領域、極限集中状態にあり続けたそれは、
ひとつの世界をそこに現しながら、
ほんの僅かな間の非日常を、極彩色に歌い上げた。
天国と地獄が結婚したかのような夢幻の時間の終局まで、
戻らぬ時を儚む間もなく過ぎ去らせて、
最後の一曲が終わって、
狂熱を孕んだまま、しん――と、冬のような沈黙が降りた。
■ネームレス >
熱狂の坩堝だ。
律動に合わせ、音律を綴り、韻律でもって彩られた空気の振動。
諸人を狂わせ、弾ませ、揺らし、そして束ねてひとつにする。
言語が生まれる前から寄り添ってきたとされる、古の儀式。
――音楽。
舞台に立つのは、闇の中でも輝くような美であった。
小さなガラスケースに飾られた薔薇。
流れる血のような髪は、瞳の炎のように踊る。
雪のごとき白い肌には玉の汗が浮かぶ。
それは狂乱によって上がった温度を受けてだけのものではない。
それは神を降ろした巫女のごとき聖哲さと、
衆生を鼓舞しかり立てる英雄の力強さと、
欲望を煽り難題を投げかける悪魔の蠱惑が、
どれを本性と定かとさせることもなく、
磨き上げられた数多の仮面でもって祭事を取り仕切っていた。
■ネームレス >
常世大ホールは万華鏡のように姿を変える。
ふだんは生徒たちに解放された共用施設ではあるが、
かつては技を競い鎬を削り、それを催しとした闘技場であった。
そして今や様々な祭りが、この巨大な箱の中身だ。
演者によってガルニエにも、マディソン・スクエア・ガーデンにだって姿を変える。
式典委員会内外、公認の有無にかかわらずして、
この箱を満員にしてみせる演者というのも、
この島には少なからず存在している。
今宵の常世大ホールは―――
■ネームレス >
だが、とあるカルチャーにとっては、
この日は近年、事件が起きる日となってもいる。
昨年は少し遅れて、サンタクロースとともにやってきた、
珍しく時間にルーズだった罪人が、何かを起こす日。
高らかに嗤うジャック・オ・ランタンが、
その目と口を不気味に輝かせながら、
舞台の上部に戴かれていた。
■ネームレス >
10月31日。
万聖節前夜。
菓祖祭の隣、甘い祭り。
この時代、この島においては、
様々な宗教や信仰、人種、世界の垣根すらも超えて、
調和を願い親交を深める催しが、島をあげて開かれる。
混沌からそれは誕まれる。
否、すべてが。
■ネームレス >
常世大ホールは揺れていた。
大地をどよもす衝撃に。大気を震わす絶叫に。
ご案内:「狂熱の坩堝」にネームレスさんが現れました。
ご案内:「常世大ホール 記入自由」からネームレスさんが去りました。
ご案内:「常世大ホール 記入自由」にネームレスさんが現れました。
ご案内:「3番ボックス」からシャンティさんが去りました。
ご案内:「3番ボックス」からノーフェイスさんが去りました。
■シャンティ > 「そう」
伝えない。伝わらない。
それでも、伝わることは存在する。
「巻き、こんだ、側が……腑抜け、なけ、れば……それで、いい、わ?」
くす、と笑う。
むしろ、研ぎ澄まされるのであれば好きにすればいい。
互いに、触れ合う部分と触れ合わない部分があるのは、そういう間柄だから。
「そこ、は……そう、するの、ね?」
くすくすと笑う。
この舞台だけが、守るべきもの。
それを彩るものもまた、大事なもの。
「……まさ、か……そんな、セリフ、まで……ね?」
くすくすと笑い続け
その手を取って、席をたった
■ノーフェイス > 「…………いや」
端末を閉じて、ひょいとバッグへ戻した。
呆けていた唇が、笑みを浮かべた。
「ちょっと予想外が起こっただけだから」
……笑み。それは、少なくとも。
こちらには都合の良い予想外であるらしかった。
――伝えないということは。
そちらにとっては、いかばかりか。
「……ま、好きにしなよ。キミの……キミのためだけの舞台だ。
誰にも奪われないように、誰にも邪魔されないように」
立ち上がる。観客席からも、人が掃け始めていた。
「――『飛び立とう。いますぐに!』」
都合のいいヒーローの言葉とともに、皮肉っぽく手を差し伸べるのだ。