2024/05/30 のログ
ご案内:「海沿いの崖」にノーフェイスさんが現れました。
ノーフェイス > 太陽が天頂に差し掛かる。
未開拓地区の荒れ野を、一機のモトサイクルが疾走していた。
世界が激変し、人間に魔術や異能といった新たな力が許されたところで、大型二輪車の生産が停止されるわけもない。
大手モトサイクルメーカーが新世界対応フラグシップモデルとして生み出した『B.Yakhee』は、ここ十年ほどモデルチェンジを繰り返しながらも長く愛好されている機種だ。
流線型のボディを彩る、スモークされたブラックとサンセット・レッド。この特徴を備えた大排気量のリミテッド・モデルは、設計者ブライアン・ヤーキーの入魂に敬意を表したバイカー野郎たちに、『翼持つ貴婦人』の異名で憧憬されているのだ――
――なんてことを、道中、操縦手は同乗者が興味を持たなそうだと考えながらも、得意げに振ったかもしれない。
話題が尽きた証拠だった。
落第街を抜けて、歓楽街から渡される高速道路に乗り入れ、ちょうどいいところで下道に戻り、パーキングエリアや開拓村で小休憩を挟みながらを未開拓地区へと突っ切る。
オフロードでも抜群の安定性を誇るのはさすがの技術革新だ。タンデムシートのうえでもそこまでの疲労感を与えない。
「着いたぜー。 起きてる?ヘーイ、生きてるぅー?」
フルフェイスヘルメットの奥から、肩越しに声をかける。
それでも、島を一刀両断する行路となればそれなりの長丁場だ。
憔悴してやいないかと告げた操縦手の下知を受けたように、駿馬はゆっくりと減速。エンジンの振動が緩み、停車する。
押し寄せる波濤が岸壁を洗う、鋭く切り立った地。
部員にして恩人である彼女に依頼したのは、特異な地域への同道と知見の拝借。
長いドライブのすえに到達したのは、行楽にもあまり使われないだろう未開拓地区の隅。弱水の海を望む、常世島の北西端である。
ご案内:「海沿いの崖」にシャンティさんが現れました。
シャンティ > 縁あって関わることになった顔見知りにして不明なる者。
それが女を誘いに来た。
――ぜひ共に行ってほしい場所がある
要約してしまえば、そういう話であった。
それに女は静かに首を縦に振り……そして、今に至る。
道中、あれやこれやと他愛のない話や、胡散臭い話や……様々な語らいがあった。
否
それは語らいであっただろうか。
なにしろ女は気怠く応じるばかり。
ノースフェイスそのヒトが様々に言の葉を紡ぎ続けていた。
それも終わりを告げ
「……ん」
ようやく、目的地に到着した、と。
同伴者に伝える声に、女は小さく応じる。
「ふふ……起きて、る……わ、よぉ……?
生き、てる、か……は、怪し、い……か、も……しれな、い……け、どぉ?」
くすくす、と。冗談とも本気ともつかない気だるい声が意識あることを告げる。
「……それ、に……して、もぉ……これ、が……モトサ、イクル……なの、ねぇ……
伝統……受け継、がれ、た……もの。悪く、ない……わ」
慈しむように女は自分が座していたシートを擦る。
「……さ、て……」
『ソレと女が至ったのは、未開拓地区の奥、弱水の海に臨む巌巌とした地。』
謳うように、何かを確認し
「……ずい、ぶん……めずら、しい……とこ、ろに……きた、の……ね、ぇ?」
小首をかしげて、眼の前の相手の方をみやった
ノーフェイス > 「無断の海葬はさすがに厳罰かなァ……心臓マッサージ、したげよっか?」
こちらもまた立ち上がり、メットを外す。解き放たれた頭髪は流血のようにまっすぐ降りて、さして世話することもなくライダースのジップも下げた。十代女としてはそれなりの上背をぐっと伸ばす。
だれかといるときの退屈や沈黙にあまり耐えきれないタイプなので、ひとりでしゃべくってる同然であっても応えがあるだけで全然違った。
彼女が生きているか死んでいるかはどうでもよく、そこにそうして在るのなら問題なかった。
「乗り慣れてないなら酔ったり、体痛めたりするかと思ったけど――ダイジョブそーだな。
ソイツ、キミみたいなのが好みなんだろな。帰りも世話になるから、ご機嫌とっといて」
曖昧な笑いを浮かべながら、べたつく潮風を切って歩き出す。
一歩一歩、崖ぎわへ。そのまま身投げするのかというほどに迷いのない足取りで。
ぴたりと立ち止まると。
「こっから下に降りれる」
肩越しに振り向いて。
「それ、隠せる?」
親指でくい、と機馬を示した。自分は隠したりごまかしたりの魔術は不得手なのだ。
シャンティ > 「そう、ねぇ……」
考えるようにして、モトサイクルから降りる。
細く、折れてしまいそうな肢体は音もなく、体重すらもないように静かに地面についた。
「マッサー、ジは……不要、よ。
逆、に……手遅、れ……に、なって、しまい、そう、だわ?」
くすり、と微笑む。
その顔はどこか顔色が悪くも見えるかも知れないが、もともと生気が薄いため判然としない。
「ふふ……きっと……このコ、なら……あなた、の、こと、も……好き、でしょ、う」
そういって、改めてさすって、先に立つ相手を眺める。
わずかの迷いもなく崖の際に行くのを警告するでもなく、見つめ……
「そう……下……ね、え?」
少しだけ、首を傾げる。
が、それもつかの間。続く問いかけに
「……でき、なくは、ない……けれ、どぉ……
ま、あ……いい、わ?」
手にした本を軽く一なでする。
最初から持っていたのとは異なる、いつの間にか手に現れた本である。
「……風、の……囁き、水の、瞬き……一時……彼、の……姿、を……
世の、瞳……よ、り……庇え……」
静かに、唱えると……まるで、そこには最初から何もなかったかのように
モトサイクルの姿が消えていた。
「……それ、で……?
ご案内……いただ、ける……の、よ……ね?」
静かにノースフェイスの近くまで歩み寄り、語りかける。
「……ふふ。なに、が……待って、いる、の、かし、らぁ……?」
ノーフェイス > 「流石~」
世紀の大奇術だ。こつ然と消してみせたその手腕に、茶化すように拍手を打つ。
上機嫌な顔は、しかしぱちぱちと乾いた破裂音がゆっくりと止むにつれて笑みが淀んでいく。
「ちゃんと出てくるよな?隠れたまんまだったらさすがに寝込んじゃうかも。
キミも帰り困るだろーから、そんなことはないだろーけど」
見事すぎてちょっと不安になったのだった。
しかし、それでも過ぎたことには興味がなくなる側である。
「ん」
視線を足元に向けると、岸壁から緩やかな傾斜が張り出している。
二人余裕をもって歩ける程度の幅で、ぐるりと岸の突端を回り込み、東側へと岸壁を下っていくことができる。
「壁際歩きな」
自分は崖際。様々なことができる相手とて、さすがに危険なほうを歩かせるほど酷薄でもない。
「行きましょうか、読者さま」
シャンティ > 「ふふ……出て、こな、かった……とき……は。
飛ん、で……帰り、ましょう、か?」
くすくすと、女は笑う。
先程起こした奇術も考え合わせれば、あながち嘘や冗談にも思えなくなってくる。
「……えぇ……遠慮、なく……」
本を片手に壁際により、もう片方の手は壁に沿わせる。
その感触を頼りに歩くのだ、とでもいうように。
「ふふ、それ、なら……ええ。
きっと、楽し、い……物語、を。ねえ? 紡ぎ手?」
つ、と細い指先を己の首に這わせる
「そう、で……ない、と……あぁ……
飛ん、で……しま、ぅ……か、も……知れ、無い、わ……ねえ?」
そうして、くすくすと笑う声が小さく岸壁に反響した
ノーフェイス > 絨毯の話に咲いた花をまたぎ、並び立って岸壁を下る。
波しぶきは遥か下だ。落ちたら常人ではそう助かるまい。
彼女の歩き方を一瞬盗み見る――その視線もおそらく気取られているだろうが構いはしない。
やはりと思っても、それだけだ。
その認識に自分の音がどう捉えられているのか、若干の興味はあるが――
「いままで四度来て、そのうち一度はこの途さえなかった」
男と女のはざまの音が、潮騒を劇伴に語りだす。
「そいつが姿を覗かせたのは、途を下った三度のうちの……」
白い指が、二本立つ。
「寓意を読み解くのは、キミの得意分野かなと思ってね。
べつに正解が知りたいんじゃなくて、キミの解釈がほしい。
オジーはどちらかといえばボクと近しいし、デミウルゴスは視たいものがまだ曖昧だろう。
……そのキミの興味をそそればいいと思うんだけど――ああ」
しばらく降りた。数分歩いてのち、その前途を阻むように、腕が横へと伸ばされた。
立てられた指は、ひとつ――必然、読み手の儚いてのひらがついた岸壁を指さしている。
そこから感触が変わったことがありありとわかるだろう。
「処刑されずに済みそうカナ」
岸壁に、なんの脈絡もなくあらわれた、明らかな人工物――扉だ。
猫のように悪戯な顔、まあるく開いた炎の瞳が、ご機嫌を伺う。
シャンティ > 「……」
本の力と、それに伴う情報の群れを制し、見えずとも見える。
その領域には達している。
ただ、「見える」ことと「歩ける」ことはまた別だ。
壁でも頼りにせねば、万が一、もある。
ある種弱みを見せるところではあるが、あまり気にしてはいない。
信頼と……そして、万が一、があってもいい、と思っているから
「それ、は……また、気まぐ、れ……さん、な……話、ね。」
立てられる指、表される意味を読み取り解釈しながら、つぶやく。
時に、途さえも秘匿しながら現れる、ナニカ
それを見せようというのか
「寓意……解釈……
そう、それは……また……」
言葉を切る。
それは、ノースフェイスが目の前に腕を伸ばしたからでも在り
「……へ、ぇ?」
彼女の『知覚』にさえ『忽然と現れた』としかわからない、手のひらに存在を伝えるそれに感嘆の声を上げる。
「刑を、なく、して、も……ふふ。改心、は……しな、い……けれ、ど……ね?」
軽口をたたきながらも、顔は手元に現れた扉に向けられる。
「……扉……?」
軽く首を傾げる。自分の認識にもはっきりと伝わりづらい、それ。
「……ね、え? あなた、は……これ、何、に……見え、る?
それ、と……前、と……同じ、もの?」
少し慎重に考えながら、連れに問いかける
ノーフェイス > 「そっか」
問いかけを受けて、応えるまえに得心げに頷いた。
個々人によって見え方が違う可能性があるのか――超自然的なすれちがい。
そこに扉があるという事実は共有できていても、同じ扉が見えているとは限らない。
なにせ、現れなかったりするのだ。――なぜ?
「……………、」
みずからの白い顎に指がふれる。しばらくその横顔――でなく扉を注視し。
「秘密基地……?」
何に見えるかと問われれば、そう応えるしかなかった。
「木製の内開き戸。湿気ってない。こんな場所なのに。
キミも、はっきり木だとわかったろ。
……三度ともいっしょ……キミ、ボクの認識に引きずられないか?
いや――うん、だいじょうぶか。こっちからも質問イイ?」
体を寄せる。扉に肘をついて、まじまじと観察。
変わらないもののはず。お互いの認識の齟齬。
それが起こっていることに、シャンティのほうが先に気づくはずだ。
「これ、どうやって開ければいいと思う?」
ふれて、扉だと認識できたシャンティと違って。
ノーフェイスには、ドアノブがない扉が見えている。三度とも。
シャンティ > 「……解釈、違い……ああ……」
なるほど
そもそもにして、捉え方が違う
感じ取り方が違う
すなわち、見えているものが異なる
「ふふ……おもし、ろい……質問、ねえ……?」
どうやって開けるのか、と問われ薄く笑う
認識の違い、捉え方の違い
「……そう、ね……
あな、たは……秘密基地、といった、けれ、どぉ……
下、に……くだ、り……海、に……臨む、地……なら。
地獄門、かも……?」
軽く小首をかしげる。
「それ、なら……勝手、に……ひら、く……かも、しれ、なぃ、わ……ねえ。
あと、は……そう、ね。
『扉』、に……こだわ、ら、ない……と、いう……のも……?」
おそらく、正解など論じても仕方がない。
これは、少なくとも間違いなく。普通の扉ではないのだから。
「ちな、み、に……開け、たい、の……?
それ、とも……判じ、たい……のぉ?」
ノーフェイス > 「ロダンなら青銅でつくるんじゃなあい?
丁寧なアナウンスだってあったはずだろ――詩人はそれでも進んだ」
大仰な物語を背負うには、あまりも小さくそのへんにありそうな扉だから。
だからきっと、どう捉えるかの話をするならば――
「なぜ」
問いかけに応じる。
「なぜ、だ――……現実に明滅するこの扉が。
ボクらに視えてしまっている、そう、視えてしまって……おそらく不本意なハズだ。
事故、あるいは、ペンキが剥げ落ちるかのように覗かれてしまった――
――ここには隠すという文脈があり、その前提として隠されたものが存在する。
案外ホントに、天上の白い薔薇かもな……?
ボクがどうしたいかって?相変わらず厭らしい女。とんだイヴだよキミは」
詩吟の声から不意に、その肩を抱く。
視線の向きを揃えて指をさした。そこには扉が。何者かの意図がある。
解釈はできる。ふたとおり。そして、自分だけでは至れない先へ。
「開けて、スシーラ」
甘えた猫撫で声を出した。結論は当然決まっていた。
物語を読み解く。目的は最初からそれだ。
シャンティ > 「あぁ、あぁ……
Lasciate ogne speranza, voi ch'intrate.
それ、なら……ふふ。」
あまりにも普通すぎる扉。
それが、岸壁についていなければ。
それが、明滅していなければ、
ただ、普通であるはずの扉。
それが示す先は――
「私、が……イヴ、なら……あな、たは……ヘビ、あたり、かし、らぁ?」
くつくつ、と笑う。
こんな扉、開けてしまえば何が起きるかもわからない
わからない、のに
「仰せ、の……まま、に……なぜ、なら……ふふ。
舞台、を……整え、る……の、は……私、の……仕事。」
つ、と扉に手を伸ばす。
「Hearts……like doors……will,open,with……ease」
ぽつり、ぽつり、とつぶやく
扉が、かたりかたりと音を立てる
一切、微動だにしていないのに、だ
潮の香りがする風が、急に吹き抜けていく
「さ……あとは、お好、きに……どう、ぞぉ……?」
しばし、触れていた手を離し……女は三日月のように唇を歪ませて、連れの顔を見やるように首を向けた
ノーフェイス >
「トリックスターって柄じゃないんだケドな……?」
林檎の色をした髪に、みずからの指を絡めながら笑った。
因果関係を考えるなら、自分はきっとふたりの子供たちのだれかだ。
その髪が――べたついた風に煽られる。
潮風。重たい風。懐かしい――そう感じる自分という文脈は、ひとまず横に置く。
視線を合わせた。実際にまじわる必要はない。
そうなっているという事実が認識できればよい。
「じゃあ」
離れた手の、その手首を掴んだ。
褐色のてのひらを、扉にあてがわせて。
「好きにさせてもらうね?」
扉を押させた。これで共犯だ。
そこにいるなら、どうあがいても当事者なのだ。
そして、開いた先は。天国の、いちばんうえ。
――などでは、なく。
「…………、」
薄暗い部屋。
小さな部屋だった。
崖をくりぬいた、逆光にのみ照らされた、ひんやりとした空間。
なきがらのように冷えた場所にあるものは。
壁には、首から上がかすれて伺えない肖像画があり。
ひとつだけささやかにおいてある葡萄酒の瓶には、
「シャトー・ド・コライユ。 2024年……2024年か。 ずいぶんむかしだな……」
最後のほうは、とても心にもない言葉だった。
まえ――といっても、壮大な歴史を感じる長さではない。
子供の時間間隔では、ずいぶんむかしと感じるだけだ。
ノーフェイスにとっては、シンプルに過去とはいえないものだが。
思ったより随分と歴史の浅いものに、まずはため息。
「…………、」
なびいた髪に、さらにため息。
入口の扉の、ちょうど向かい側にあるものに、視線を向けた。
地下へと続く階段。
振り向いて、アルカイックな笑みを罪人へむけた。
「これ、絶対キミのせいだぜ」
なにせ、地獄へ続く階段――内側から吹き付ける潮風という文脈を語ったのは。
シャンティ > 「あら……」
細く、か弱い腕は
されるままに、扉を押し開ける。
そこにかかった力は本人のモノではないが。
間違いなく、カノジョの手が、開けた
「ま、ったく……やっぱ、り……ヘビ、なん、じゃ……なく、て?」
自分が巻き込まれたことに不満はない。
ただ、いささかやり方が雑に過ぎないだろうか。
呆れたような小さな吐息をついて文句を述べた。
「2024? それ、は……それ、は……ふふ。
ある、意味……貴重……じゃ、ない、か、しら……ね?」
古すぎず、新しすぎず。
しかし、それは変容からの一時を乗り越えたことは確かで。
酒としてより、生き証人として価値があるでのはないだろうか
「私、は……可能性、を……述べ、た……だけ、よぉ?
なに、を……想起、する、か……は、自由……だ、し?」
自分のせいだ、と主張する相手に小首をかしげて応じる。
「そも……地獄、で、なく……と、も。
扉、は……入口、に、して……出口……どこ、か、と……どこ、か……の、継ぎ、目。
その、継ぎ、目が……どこ、に……通じ、るか……な、だけ、だ、ものぉ……
異界、か……地獄、か……もし、かし……たら、世界、の……底、か。」
面白そうに、くつくつと笑う
「どう、せ……降りる、の、で、しょう?」