2024/05/31 のログ
ノーフェイス >  
「なんでもかんでもボクが決定す(きめ)る流れに持っていこうとするからさ」

意表を突くのも蛇の仕事なら、そうかもしれない。
釈然とはしないまでも、不満に対してはなぜか楽しそうに笑い声を弾ませた。

「たしかに――、ボクらの認識で成り立っている場所なのだとしたら。
 生々しい数字があるのはおかしいもんね……のむ?これ。
 ボクは遠慮しとくケド。帰りの運転があるしぃ、最近検問キビしーしな」

グラスもあるぜなどと告げながら、ちらり。黄金の瞳が、薄闇のなかで少女を盗み見た。
――2024年生まれ?とは聞けない。思い至っても、聞かない。聞けるはずがなかった。
いくら強引に手を取ろうが、その程度の尊重(デリカシー)はあるつもりだった。
あとは視線の意図が漏れ出していないことを祈るばかりである。

「そりゃね」

降りるのかと問われれば、肩を竦めるしかなかった。
視線を扉、入口(・・)に向けた。
階段から吹いた風が、老人のようにぎこちない動きで、扉を押し閉める。
ばた……、ん。闇。暗闇。

「どこへ繋がっていようとも、そのどこか(・・・)には」

闇のなかでも、不自由はない。
この存在は光だけに頼って生きていない。
伴に降りるため、手を差し伸べる。
この存在がどんな顔をしているのか――それは読み手のみ、同じく光に頼らぬ少女だけが覗ければよい。

「ボクらがいる場所だ、という前提がある」

ゆえに希望(・・)しかない。

シャンティ >  
「あなた……そう、いう……ところ、ある、わよ、ねぇ……?
 ま、あ……いい、わ。」

そもそもにして、この相手が落第街で行っているコトも。
誰かを熱に巻き込んでいく、というようなモノだ。
それを知らないわけではないのだ。

「おそ、らく……だけ、れどぉ……
 いろいろ……と。真、と……偽、と……混ざっ、て……いる……かも、しれな、い……わ、ね?」

生々しい数字を『視界』に捉えながら、少し首を傾げる。

「……お酒、は……よす、わ。
 必要、ない……もの」

飲むか、という問いに断りを入れて

「Attendre et espérer
 ふふ……死を、想う……の、も……いい、かも……しれ、ない、わ、ね?
 お誂え、向き、に……闇、が……きた、の、だし。」

先が見えない闇の中、差し出される手を正確に取る。
まるで、見通しているように歩みを進める。

「案外……叡智、の……実、でも……ある、かも……しれ、ないわ、ね?」

とん、とん、と
小さな音を響かせて段を降りる。

「そう、ね。地獄、だ、ろう……と。
 古来、から……あの世、から……もど、る……話、も……多い、もの。
 ああ……そう、ね。希望、しか……ない、の、だもの。
 前、だけ……みて、いきま、しょう、か?」

くすくす、という女の笑いが階段に小さく小さくこだましていく

ノーフェイス > 【此れにて中断致します。続きはまたの夜に】
ご案内:「海沿いの崖」からノーフェイスさんが去りました。
ご案内:「海沿いの崖」からシャンティさんが去りました。
ご案内:「奈落の階段」にノーフェイスさんが現れました。
ノーフェイス >  
未開拓群北西端。
弱水の海を望む岸を降ると、波飛沫にあらわれる岩肌に、脈絡もなく扉があった。

大地をくり抜く階段は、地下へ、地下へ――

ノーフェイス >  
背筋をくすぐるかのような声で囁かれたのは、"うつくしさ"を望むという、ある意味ではまっすぐで切実な応報であった。
ずいぶん前のことだ――そう感じるほど。
十代のこどもの、いや、ノーフェイスの時間の流れは、それだけ遅く、密で、熱かった。
それだけ長くともにした気がする。事実としては、人生という尺度でみても、ほんの僅かな時間なのに。

舌の肥えた読者を傍らにして、足音がいやに響く。

「あのさ」

雑談をふりたくなるほど、階段は長い。
どれほど下っただろうか――何段降りたか、などと事細かに記されることは、そこに意味合いがなくばそうそうないから。
百段くらいか。あるいはその倍、十倍かもしれない。

「変わらないコト――って、どうおもう?」

ぼんやりとして中身のない問いかけは、そう、さっきの機上と同じノリ。
しかし、こうした能動に作用する現象をまえに、いくらかの刺激を受けたがゆえの質問だった。

ご案内:「奈落の階段」にシャンティさんが現れました。
シャンティ > 闇の中に、響く音
その”音”は二人のうち、片方には実感を伴って響き。
片方には、ただ情報として書き並べられていく。

しかし
一部の感覚がなくとも女にも時間感覚はある
それが、この闇の中では麻痺してきそうな――

「……ふぅ、ん?」

ただ足音が響くだけの空間を破り
質問が届く

「……変わ、ら……ない、コト……ね、ぇ?」

気だるい言葉を切って、考える。
しばし、無言が続き……また闇の中に足音が吸われていく。

「……変わ、る……コト、にも……変わら、ない……こと、にも……
 意味、も……価値、も……ある、わ?

 ……とい、って……ふふ。あなた、の……求め、てる……のは、そん、な……こと、では、ない……か、しらぁ?」

小さく、首を傾げて見せる。
それが相手に見えているかはともかく

「そう、ね……変わ、ら、ない……こと、は……正義……だわ。
 ただ……正義、は……嫌わ、れる……ことも、ある、わ……ねぇ」

どこか、遠くを眺めるようにして答える。

「ふふ。まる、で……中学生、みた、いな……問、ねぇ……
 あな、たは……どう、なのぉ……?」

くすくす、と笑って聞き返す。

「ぁあ……それ、にして、もぉ……ふふ。
 本当、に……深、い……わ、ね?
 そろ、そろ……海、の……下、に……い、そう……だ、わぁ」
 

ノーフェイス >  
「正義はとこしえにそこにある太陽だ、と――言ったのは」

誰だったか。遠いむかしのひとだ。
歴史の授業でちらりと習うような。それでも、その言葉より、彼女からそうした思想がこぼれたことに興味があった。
そっと取り合う手の、ゆびに、わずかに力がこもった。相手に圧力を与えぬ程度、そのわずかさえ、光と音に依らぬ相手には、表情以上に伝わってしまうかもしれない。

「きらわれているのは正義じゃなくて、つごうのいいように貶めるニンゲンじゃないのかな……」

正義そのものは変わらないなら、それがだれかに働きかけることもないはずだった。

「ニンゲンの本質は罪人だ」

借り物の言葉に、実感を添えたものだった。

「んあーっもう!恥ずかしくなってきた!あんだよ!いいだろ。
 ボクだってなぁ、ちょっとまえまでは中学生(ミドル)のトシだったもん! ……ったく。
 ……いや、なんだろ。なんだろね、常にじぶんを変化し続けよう、とは考えてはいるけれど」

からかわれると、むすくれたように声があがった。
闇のなかを転がる美しい声は、本物(ナマ)の感情をともなう。

「さいきん、とくに実感があるから。
 キミは、自分が変わっていく感覚をどう受け止めていたのか――そう?」

こつん。
靴音は、乾いていた。

「海の底に、想い入れでも?ベアトリーチェ」

地獄のこともそうだった。
昇るより、深くへ――彼女の心の輪郭をなぞる。

シャンティ >   
「ふ、ふふ……あ、ら……気付い、ちゃ、ったぁ……?
 そう、よ? 正義、は……正、しい……という、名の、下……に。
 簡単、に……貶め、られる、の、よぉ……
 悪、は……変わり、よう、も……ない、けど……ね?」

くすくす、くすくす、と。
女の笑い声が響く。

「つ、まり……そう、いう……こと、よ……?」

謎かけするように、皆まで言わずに言葉を切る。
わかるでしょう?とでも言わんばかりに

「そう、ね……そう。
 あな、たは……そう、いう……ヒト、よ……ね?
 変わ、りた、い……と、いう……だか、ら……よ、ね。
 今、の……質問」

そう
熱を湛えるために。熱を放出するために。
まるで、泳がねば死ぬ魚のように。
変わり続けていこうとしている。

「私……? 私、は……
 ふふ。変わ、れ、ない……モノ、よ。
 変わ、らない……の、では、なく、て……ね?」

ほんの僅かに、肩を竦める。

「あ、はぁ……
 それ、は……エチケット、が……足り、ない、のでは……なく、て?
 ねえ、ダンテ?」

まるで女の中を探ろうとでもする問。
それに、くすり、と笑って応え。

「そう、ね。私、の……いず、れ……たどり、つく……場所、だ、もの。
 気に、は……なる、わ、ね?」

くすくすくすくす、と薄い笑いが足音に混じって響く

「ふふ。あなた、は……死を、想う……こと、は……あ、る?」。

ノーフェイス >  
「正義を声高にうたうやつに、まともな人間がいたためしがある?」

煽動者は、だからこそ失笑する。ころころと。
正義が人間の罪悪感を刺激し、簡単に他者をコントロールできると知っている。
そうであることに無自覚な者も多いほど、あまりに便利な道具(ツール)だった。
掌中に複製された正義は、そのように劣化し変質してしまう。戯言だ。

「――いや」

死についてのワードは、即答する。
僅かに視線を、無自覚に上げた。思考。闇の中で、本当に無自覚の反応。

「いつもそこにあるから」

それは、どこか、彼女の言葉に対するこたえでもあった。
いつか辿り着く場所。ともに踊る死神。
だからこそ、思いを馳せることはない。

「だから、手は抜かない。
 ボクは自分の死にも、生にも、恥じないものでありたい」

遊びのない声だった。
ベアトリーチェ。詩人の抱いた女の元型(アーキタイプ)。地獄への伴。

「キミは?」

底は近い。
漠然とそう思った。

「変われないことを恥じているのか、シャンティ・シン」

シャンティ >  
「……かつて、は……ね。
 正義、は……正義で、あれ、た……とき、も……あった、わ。
 悪、は……矜持、を……以て……正義、と……対峙、して……
 物語、の……よう、に……消えた、時代……」

気だるい声が、謳うように漏れ出る。
それは眼の前の相手に語るようでも在り、どこか遠くへ呼びかけるかのようでもあった。

正義も、悪も
世の中が進めば進むほどに、劣化し悪化していく
そうして、陳腐になっていく

「……私、は」

それは、澱のように溜まったもの

「……いい、え。
 それ、は……違う、わ。」

ああ、今日は余計なことに口が回る。
それはこのダンテのせいなのか。それとも、本当に地獄にでも続いていそうなこの空間のせいか。

「……恥じた、から……変われ、ない……
 それ、だけの、話……変え、よう……と、する、人は、いる、けれ、ど……ね。」

小さな吐息。
ああ、予感がする。この地獄行もそろそろ祝着だ。
一体どこにたどり着くのか

ノーフェイス > 未熟(・・)であったがゆえに」

そして、社会は成熟した。
夢を見てはいられない。
純粋でいられるのは、未熟(こども)であるうちだけだ。
この存在は、熱く、冷酷だった。失敗の結果に、美しい言葉は用いない。

「…………」

わずかに。
指に力がこもる。
細く、美しくしなやかな。

「死者を騙る(・・)のは、それが理由?」

冗句のように告げられた、散らばった言葉たちは、まるで――弁明のようだ。
変われないことへの、予防線かのような。

「……他人(だれか)に」

自分以外のすべては、他人だ。世界の主体は、自我なのだと。
息を吸って、吐いて。足を、踏み出した。

変えてもらう(・・・・・・)、なんて。何より恥ずかしいコトだ。
 むきあって、うけとって、かんがえて……自分で決断しなきゃいけない」

空洞がある。潮騒がきこえる。

人間(ボクたち)は」

完璧に程遠く、ゆえに現世界、大変容に耐え、多くの危難を超えた世界の霊長は。

「――――、」

そこには。
海があった。階段の終端は、地下にまで染み込んだ海水に沈んでいる。ここまでだった。

階段はここまでだった。

「……マジで?(No way.)

呆然と口にした。
その海に浮かぶものに、あまりにも脈絡はない。
闇に閉ざされた、出口も入口もない地獄の底にあったのは。

――小型船(ボート)だ。
モーターの搭載されていない、あまりに古めかしい、櫂と風で進む冒険の象徴。
帆も駆体も、なにもかもぼろぼろな。
幽霊船――船の亡骸を前にして、肩越しにひさしく、同伴者を伺った。

どうする?乗る(・・)か?

シャンティ >  
「あ、ら……ソティ、は……お嫌い?
 ふふ……私、は……軽蔑、しな、がら……愛する、わ?」

虚ろな目が、薄い唇が、酷薄に笑う。
愚者演劇を楽しむのだと、薄く、薄く

「……」

小さな吐息を吐く

「私、は……死に、損な……い。
 それ、は……事実、よ。」

事故で死に損ない。
組織で死に損ない。

残ったのは……一体なんだろうか。

「……ええ、そう……ね。
 なぜ、そっと……しない、の……かし、ら……ね?」

他人に変えてもらうことが恥ならば。
変えようとすることもまた罪ではないのか。

闇に生きるものを光に引きずり出すのは?
我を通そうとするのは?

「どこ、まで……いって、も……エゴ……で、しか……ない、わ?
 選ぶ、も……選ば、ない……も
 快、も……不快、も……ね?」

少し饒舌になっている自分に、奇妙な感覚を覚える。
ずいぶんと口が軽くなったものだ。
これは、変化、なのか……それとも

「……船、ね。
 さ、て……どこ、へ……行こう、と……いう、の……かし、ら……ね、え。
 あなた、には……見える?」

大海原に向けて置かれたそれの舳先が指し示す先を眺めるようにして……
女は首を傾げた

ノーフェイス >  
「らしくないね」

死に損ない。
そん自認を口にしてしまったら、この唇からどんな物言いが返ってくるか。
死に嫌われているなら、生きるしかない。死んでいない。
それを論って責め立てるような意地悪を、しかしするつもりはなかった。
親しい相手には、それなりに優しくもある。

「――さあ?
 そのひとのことを、ボクはしらないしな。
 本人にききなよ。そっとしておいてと――つたえる勇気を、出してみたっていい……」

想像で、彼女の親交を穢すつもりもない。
友人なのか、恋人なのか。それもどうでもいい部分だ。

「選ばない自分(わたし)を赦せるのか。
 変われない自分(わたし)を赦せるのか。
 ソト側に期待ばかりして身動きしない自分(わたし)を赦せるのか」

ざぷ。
ブーツの底が、階段の一段半分までに浸水している海水を踏む。

「いいわけばかりで……
 いまの自分を壊す勇気のない、不甲斐ない自分(わたし)を――」

詰問する語調ではなかった。
諭すような口調でもない。
ただ、静かに紡がれるそれは、だれにむけた言葉か。

「ソティは……どうだろう。思想が強く出てる感じのは、あんまりかな。
 演者のクオリティとかにもよるケド。
 ボクは風刺もなにも、まず娯楽(エンタメ)であってほしいって感じ」

ふ、と語調が柔らかくなる。否、元に戻った。

「なによりも、ボクが愚者だよ。そんな舞台で嗤われるような。
 まさかそんな、賢者にはなれない。公明正大な聖女にも。
 どこまでいっても、経験に学ぶような……ありふれた人間だ」
 
問われ、目を細めた。

「見えなきゃ動けない?」

明朗に。

「まだ見ぬものがそこにあるなら、見にいくさ。
 すべてを心に刻みつけていかなきゃ、最高の(うた)は紡げないよ」

創り出すものは、そういった。
死はいつでもそこにある。進んで死にたがるわけではないが。
自分の決断に、命を全賭けすることには一切の躊躇がないだけだ。
別離か、進むかの――分岐点に、彼女を立たせた。