2024/06/17 のログ
ご案内:「転移荒野」に『』さんが現れました。
■『』 > 『門』が開く。
この常世島ではそう珍しくもない現象。異邦人や怪異がやってくる前触れ。
大抵の場合はひっそりと開き、なにかしら落として消えていく筈の『門』だが今回は違った。
■『』 > ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ…
■『』 > 転移荒野の空気が震える。
荒れた大地が揺れ、空間に大きな歪が生じる。
ただ事ではない事態に、辺りをうろついていた怪異が慌てて逃げ出し、遥か上空を飛ぶ鳥すらも逃げてゆく。
揺れが大きくなっていく。空気が軋むような錯覚を覚える程の鈍い音が響き渡る。
そして―
『門』が、開く。
■『』 > 開いた『門』は渦巻状のものだった。
ブラックホールの様な威圧感と、光すらゆがめてしまいそうな程の漆黒のと共に空中に佇む。
ただ一つブラックホールと違う点は、その『門』が「吸い込む」のではなく、「吐き出して」いる事だろう。
その『門』は、莫大な生命エネルギーを吐き出していた。
周辺の空間を渦巻くようにゆがめ、大量の生命エネルギーを吐き出す。
一体どれほどの人間がいればこれほどのエネルギー量になろう。
数千、いや数万、数十万…数百万はくだらない。
それほどの莫大な生命エネルギーが、枯れた大地に溢れ出す。
ご案内:「転移荒野」にカロンさんが現れました。
■『』 > 生命エネルギーが溢れ出す。そして同時に、溶けてゆく。
開いて十秒。『門』はまだ残っている。
『門』から溢れ出した生命エネルギーは、その形を保てず世界に溶けてゆく。
力なく、馴染めず、世界に拒絶され、霧散してゆく。
そんな中、『門』の中央が突然、勢いよく逆回転を始め、生命エネルギーの放出が緩やかになる。
その逆回転は『門』全体へと広がり、順回転と重なり合い、相克しあう。
吐き出す順回転と、それを止めようとする逆回転。
その力が拮抗した時、『門』の端からヒビが入り砕け散ろうとする。
あまりの莫大なエネルギーを抑えきれず、『門』自体に限界が来たのだ。
■『』 > バキイイイイイイイッ!
■『』 > 転移荒野中に響き渡るような破砕音。
莫大な生命エネルギーを放出していた『門』はヒビから一気に砕け散り、消滅する。
この間大凡30秒。莫大な生命エネルギーを放出した『門』は自壊し、あふれ出た生命エネルギーも全て霧散してしまった。
しかし、何も残らなかったわけではない。
門があった場所から落下する、一つの灰色の影があった。
自由落下し地面にたたきつけられたそれは、ぐったりとした様子でその場に佇んでいた。
■カロン > 『渡し守』がそのソレに気付いたのはただの偶然。
彼岸に魂を渡すのを己の業とし、島のあちらこちらを流れる水のように。
そして、漂う内にこの荒野へと流れ着いた矢先の異常事態。
「……『門』が開きましたか……ですが。」
自分が知っているものと今回は少々様子が異なる。
フードでその顔は見えないが、僅かに見える口元は訝し気に。
滑るように、翔けるように、黒い櫂に乗ってその付近まで接近する。
近付くたびに感じる…死者の想念や魂とは真逆に近いとも言えるそれは。
「……凄まじい生命エネルギー…尋常ではない存在が?」
―否、どうやら少々事態が変化したらしい。徐々に溢れた生命エネルギー反応が緩やかになっていく。
流動…あらゆる流れに渡し守は敏感だ。それが形あるものであれ、無きものであれ。
尚の事、このまま素通りする訳にもいくまい。幸い、この辺りに渡すべき魂の存在は殆ど無い。
「……これは好奇心、というものなのでしょうか。」
呟く声は平坦。その伺えぬ視線の先、『門』に罅割れが出来るのを見た。
自分がどうこうせずとも、この島の機構が調査をするだろう。だが。
「……限界…のようですね。」
『門』まであと100メートルを切ろうとする辺りで、渡し守の視線の先でとうとう砕け散り霧散する。
そして彼/彼女は見た。既に霧散した門から落下する灰色の影を。
「……アレは…?」
『門』から落ちてきた?地面に叩き付けられるそれを暫しの沈黙と共に観察。
やがて、緩やかに黒い櫂に乗ったまま渡し守は灰色の影へと近付いていく。
■『』 > 灰色の影が僅かに揺れる。
スライムのような不定形でありながら固体のような、緩やかな流動。
地面に叩きつけられた痛みに震えるように、ぷるぷると揺れる。
そして、灰色の影がひっくり返る。
ひっくり返ってしまい、起き上がろうともがいていたようだ。
起き上がったスライムのようなそれは、周囲を見渡すように周り始める。
顔も目もついていないそれは、状況を理解出来ていない様だった。
それでも、こちらに近づいてくる存在には気づけた様子。
こちらへと近づいてくる知らない存在に、怯える様に逃げようとする…が、上手く動けない。
動き方も分からないのか、動いていると言えるのか微妙な速度でゆっくりゆっくりと離れていくだろう。
■カロン > 「……ふむ?」
灰色の影から少し離れた位置にて、黒い櫂に横座りの態勢で緩やかに静止。
観察するように上から見下ろしていたが、先ほどの『門』から出て来たにしては…。
「……さて、どうしたものですかね。」
倒れた状態から必死に起き上がり、周囲を探るように蠢く灰色の影。
スライム…だっただろうか?アレに酷似しているが、おそらくそれとは別の何か。
「……こちらに気付きましたか。」
怯えか警戒心の表れか。非常にゆっくりと、じりじりと距離を取る灰色の影。
敵意などが無いのを示すように、静かに櫂から飛び降りて音も無く着地する。
「――驚かせてしまって申し訳ございません。貴方に危害を加えるつもりは――……?」
謝罪の言葉が途中で止まる。灰色の影からソレを感じ取ってしまった。
『渡し守』のこの感覚に誤差は殆ど無い。ならば――”そういう事”なのだろう。
(さて、前言撤回…と、言いたいですがここは様子見を優先しましょうか。)
どうやら、ここに『渡し守』が来たのは完全なる偶然、という訳でもなさそうだ。
■『』 > ぷるぷると揺れながら逃げるスライムのようなそれ。
だが、渡し守が近づき声をかければその動きを止める。
耳がない故、言葉としての理解は出来ていないだろうが、渡し守の伝えようとした言葉の意味は確かに伝わった様だ。
未だ動き方を知らないその流動的な体を引きずるように、渡し守の方へと旋回してゆっくりと近づいていく。
何か仕掛けてくる様子は全くないし、渡し守と同じく敵意などさっぱりない。
ただ、渡し守との距離が3mほどになった時から、渡し守の頭の中に声が聞こえるだろう。
(■■■■、■■■■、■■■■)
それは、概念。少なくとも渡し守の知る言語ではない何かが渡し守の頭の中に繰り返し響くだろう。
何を言っているかは分からずとも、何を伝えたいかは分かるだろう。
渡し守の頭の中に響くそれは、『なりたい』という欲求。
何かに対する強い欲求が、渡し守の頭に響き続ける。
■カロン > 「……これは…?」
こちらの言葉は通じたとは言い難いが、敵意が無い意志は通じたらしい。
ゆっくりと、流動する灰色の影が旋回する動きでこちらへと近づいてくる。
それを見守る『渡し守』も、灰色の影と同じく――つまり互いに敵意、害意、殺意などは全く無し。
しかし、距離が縮まれば不意に頭の中に響く”声”が…。
(これは……言葉?…いや、概念ですか。私では翻訳は無理そうですね。)
声は聞こえてもその内容を聞き取る事は出来ない。けれど。
貴方が何を訴えているかは感じ取れる。
「――なりたい、ですか。…それは…貴方は”誰か”になりたいのですか?」
それとも、何者でもない一つの個として確立したいのだろうか?
今、出会ったばかりの『渡し守』に分かる事は少ない。感じ取れるものは数多くとも。
■『』 > 渡し守の言葉を受け取り、しばし沈黙する。
流動する身体を緩やかに揺らし、放ち続けていた声も止まる。
そして、数秒の間止んでいた声が、再び聞こえ始めるだろう。
(■■■、■■■■、■■■、■■■■)
だれか、なりたい。
渡し守の放つ言葉の意味のみを借り、同じ意味の概念で返す。
それが示すのは肯定の意思。”誰か”に”なりたい”という意思の表明。
そして、それに続いてまた違った声が響く。
(■■■■、■■■■、■■■、■■■)
ひつよう、ください、あかい、いのち。
欲求に従い、本能的に伝えられる概念の声。
だが、本能とはいえその声は荒々しくも暴力的でもない。切実で、祈るような声。
それと同時に、無意識に能力を使う。
(■■■■、■■■)
わかって、ほしい。
それは、精神に干渉する声。
ほんの僅か、突然のそよ風に身体が僅かに傾いてしまうような些細な干渉。
渡し守が目の前のそれをどう思うかは分からないが、助けてあげたい、そのように僅かでも思ってしまうかもしれない。
■カロン > ―――”声”がぴたりと止まった。
数秒の静かな沈黙の時間。『渡し守』も急かす事はしない。
そして、再び聞こえてきた”声”。
「――肯定、ですか。…誰かになりたい…と。」
先ほど…そして今もずっと感じ続けているソレが。
もし、誤差の無い正しいものなら矢張りそうなのか。
(あかい…いのち?……血液?)
また別の”声”が訴えてくる。最初、意味が分からず少し戸惑ったが、直ぐに気付いた。
暴力的でも威圧でも無く、切実な祈るようなその”声”。
同時に、こちらの精神をほんの僅かに揺さぶられる感覚に…成程、と息を吐く。
「…すいません、私に”そういうもの”はあまり効果が無いんですよ。性質、みたいなものなので。」
精神堅牢。精神に干渉する異能、魔術、概念を無効化。あるいは弱体化させる性質。
『渡し守』が心を揺さぶられてしまっては、魂を正しく彼岸へと渡せないから。
「――なので、無条件でお渡ししますよ。幸い、『こちら側』で活動する為に血肉はある身ですので。」
中性的な、あるいはどっちつかずな。白い手指を緩く振ってみせながら求めに応じる。
■『』 > (■■■?)
不思議。
渡し守の効果がないという言葉に、理解出来ないといった反応を示す。
それもそのはず、それは意図して能力を使ったわけでもなければ、自分がそういう能力を持っている事すら知らない。
そもそも、その能力は稚魚の臍嚢のようなもの。生まれたてのそれがすぐに死んでしまわないように備わっているだけに過ぎない。
(■■■■■、■■■■■)
ありがとう。
渡し守に伝わるのは、深い感謝の念。ありがとうという言葉では収まらない深い感謝。
それこそ、感涙を流し、膝から崩れ落ちる程深い感情。
その小さく不自由な身体に、一体どれだけ強い欲求が収まっているのかは常人では計り知れないだろうが…
渡し守なら、見えるかもしれない。
■カロン > 不思議、困惑、そんな意志を感じ取れる。
どうやら、この存在は無意識にそれを行使しているらしい。
完全に己の意志に関わらずそうしている、としたら。
(危険……とは言いませんが。ある種、己を守るための本能みたいなものと思えば。)
少なくとも、それに近いものだと『渡し守』は推測する。
感謝の念には、緩く左右に首を振った。フードの下はそれでも見えない。
「――感謝は不要ですよ。その感謝は…そうですね、別の誰かに捧げて頂ければ。」
淡々と物静かにそう答える。感謝されるような事をしているつもりも自覚も彼/彼女には無い。
(――しかし、この小さく不自由な身でこれだけの欲求と願い…さぞ窮屈でしょうに。)
哀れみではない、同情でもない。ただ、この存在が早く”個”になれればとは思う。
――嗚呼、もしかして。これは矢張り精神に影響を受けているのだろうか?
「…それで、どうやってお渡しすればいいでしょうか?」
肝心の渡し方だが。指先を切って血を垂らせばいいのだろうか?
誰かに血を提供した事など無いので、そこは少々無知とも言える。
■『』 > (■■■■■)
渡し守が感謝は不要、そう伝えれば一度感謝の声は止む。
それでも、最後に一度だけ感謝の声を伝える。この感謝は、伝えても伝えても尽きる事がない。
小さな柔らかい身体の内に秘めたる意思達が鎮まらない限り、止むことはないのだ。
そして、渡し守が赤い命の渡し方を尋ねると再びぷるぷると揺れ始める。
今度の沈黙は少し長かった。それもそのはず、生まれたてのそれが内に流れるものを外に出す方法を…そもそも赤い命が内に流れる事も、理解出来ている筈がないのだから。
(■■■、■■…?)
なにか、きる…?。
確証がない。自信のない声が聞こえるだろう。
何かというのは、身体の一部を示しているのが伝わる筈だ。
それが、どう血を知ったのか、どう血を出す術を知ったのかは…それ自身も分っていない。
それでも、熟考すれば分かった、というのは確かである。