2024/06/18 のログ
カロン > 感謝の声が止んだ。…それでいい。『渡し守』にそういうものは不要だ。
その分、貴方が誰かに助けられたのならば、その感謝を私の分まで捧げて欲しい。

ただ、最後にまた一度だけ感謝の念を感じた。それも不要…なのだけれど。

(――分かりました、その一つの感謝だけはお受け取りさせて頂きましょうか。)

小さく吐息。自身が本当の『渡し守』になれるのはまだまだ先のようだ。
言葉には出さず、根負けしたな念をそちらへと送る。届かなくとも感謝を”受け取った”のは朧気に伝わるだろうか。

「――?……あぁ、すみません。そういえばそうですね。」

おそらく理解が出来ていない、といった感じの灰色の影の様子にややあってから頷いて。
これは、こちらからリアクションを取るのが手っ取り早いという事だろう。

「なにかを、きる…ふむ、じゃあ矢張りこれですね。」

徐に、右手の人差し指をそちらへと向けて。
何の前触れも無く、皮膚が裂け鮮血が滲み、やがて雫となり滴り落ちる。

(…まぁ、私のような影法師の血がどの程度のものかはさて置き。)

この存在の糧になるなら、それはそれで良しとしよう。
灰色の影の上に命の輝きを垂らしながら、そう思う。

『』 > 渡し守が感謝を受け取った事は、それにも確かに伝わった。

それの内でざわめく意思達が、僅かに和らいだように静まった。

外には聞こえぬ声でもあり、読み取れないノイズのような群れだが…その変化は確かにそれの在り方に影響するだろう。

(■■■!)

それだ!

そんな風に少々興奮気味の声が聞こえるだろう。

血を貰うという事は、ほとんどの場合傷を伴う。その傷が出来た事に対して興奮を以て応じるのは少々不義理であるようにも感じるだろうが…それがそれを理解するのは、まだである。

そして、滴る赤い命…もとい血に向けてそれが身体を伸ばす。

少しの背伸び程度の動きではあるが、不自由な身体を限界まで伸ばして渡し守の血を受け取る。

灰色の身体に落ちた血は、じんわりとそれの表面から体内へと浸透し、溶ける。

まとまりのない喜びの声が数度聞こえ、それを表すように踊るような動きを見せるそれ。

そして、数秒間踊り続けたそれが突然動きを止める。

(■■■■■■)

聞こえるのは、まとまりのない声。

歓喜、悲哀、待望、絶叫。様々な概念が一つの声として聞こえる。

まとまりがない中で一つだけ言えることは…悲願の達成への感情であるということ。

声の中からその統一された意思を見出す事は難しいだろうが、それでも数多の声が同じ方向を向いている事は分かるだろう。

そして、声と共にそれの体内から、淡い光が発生する。

青と赤が混ざり合わずに共存する光がそれの中で数度瞬き、消滅する。

目に見える変化こそないが、渡し守に見えるソレには僅かな変化が見えるだろう。

その変化はそれ自身も気づいているようで、先ほどまでよりも僅かに滑らかな動きで踊るように再び動き出すだろう。

カロン > 僅かに和らぐような意思達の気配を感じ取れば、やれやれと安堵ともつかぬ吐息。
『渡し守』の特性が、自然とこの存在とのコミュニケーションの手助けとなっている。

例えノイズ群のようなはっきりしないものであろうと、確かに彼/彼女は感じ取れる。

己が垂らした鮮血の雫に、灰色の影が体を伸ばす。
自らの血を受けて、多少なりともその存在が”先”へと進めるだろうか?
纏まり無き喜びのソレを感じ取りながら、小躍りするような動きを見せる存在を静かに眺めていたが。

「…!」

突如その動きが制止する。僅かに訝し気に首を傾げるが、答えは直ぐに来た。
無数の感情の、概念の、さまざまなソレが一つの”声”として『渡し守』の脳内に響く。

(感情の奔流が凄すぎて、逆に束ねられているような…ただ。明確に分かるのは。)

悲願の達成への強い思い。そこはむしろクリアなくらいに澄んでいて、そして強い。
その統一された意志を感じ取れたのは、雑多な奔流に見出した違和感と規則性。
”流れ”にもある意味で精通しているからこそ、読み取れたと言えるだろう。

そして、灰色の影の体内から生じる淡光にフードの奥の、見えない目を細める。
赤と青、だが交わらず共存する奇妙な光。数度、瞬いたそれは直ぐに消えた。

「…少しは足しになったみたいですね。」

明らかに動きが少しだけだが滑らかになっているのが分かった。
どうやら己の血は少しは糧にはなったらしい。それが喜ばしいかは今は何とも言えぬが。

『』 > (■■■■!■■■■!)

歓喜の叫びをあげるそれ。

内の意思達の声が聞こえてくる程の興奮は収まったが、それでもまだ歓喜の波は収まらない様子。

本当は、感謝を伝えたい。だが、渡し守が不要だというのであれば伝え続けるのも逆に悪いと判断し伝えないだろう。

そして、渡し守の方を見上げれば、再び声が聞こえてくるだろう。

(■■■■■■■■■?)

その声は、渡し守の存在について尋ねるもの。

名前や職業を尋ねたのではない。どんな存在であるかを尋ねた声。

その根底にあるのは、渡し守の事を覚えていたいというそれの意思。

カロン > (…正直、ここまで喜ばれるとそれはそれで戸惑いますね。)

『渡し守』にも感情の概念は存在する。ただ、その特性の一部が激しい感情を抑制している。
だが、細かな感情の波は矢張り存在し、精神堅牢の特性もその細波にはさして干渉しない。
そもそも――『渡し守』なんて、誰にも知られず影法師の如く在ればいいのに。

「……私…ですか?」

フードの奥、外からは見えない瞳を瞬かせて困惑するような
名前や職業を尋ねられるなら分かるが、『存在』を尋ねられるとは思わなかった。

「私は――魂を運ぶ者ですよ。善悪問わず。誰かが死んでも…出来るだけ道に迷わないように。」

そう、『渡し守』の職業でなくても。自分は魂を運ぶ者として存在している。
死んでも道に迷わぬように、歪んで消えてしまわないように。
――そして、次はきっと良い道を進んで欲しい。中庸、と嘯きながら彼/彼女の根は”善性”なのかもしれない。

『』 > (■■■■■…■■■■!)

あんないにん…おぼえた!

言語化が難しい声ではあるが、強いて表現するならこうだろう。

それは渡し守の事を、案内人と表現した。魂を道に迷わないように運ぶことを、案内と称した。

行く先を違わないように、出来るだけ良い道へ行けるように。

人を助け、救うような。案内という言葉では収まり切らない。導く、という表現の方が正しいかもしれない。

そんな意味のこもった、案内人。

(■■■■、■■!)

そろそろ、いく!

それは、早くもこの場を去ってしまおうとしているようだった。

本能の欲求に従い、次なる進化を求め、新たな血を求め…

だがそれは永遠の別れではない。渡し守の存在を尋ねたのは、いずれまた出会う為。

次会うときはなにものかになってから。そういう想いをひそかに込めて。

さようならではなく、また出会おうという意味を込めた別れの言葉。

そして、渡し守の隣を通り過ぎ、それが去っていく。

新たに得たちからが、こちらに命があると言っているのだ。

その知覚に従い、街の方へとゆっくりと、去って行った。

カロン > 「……まぁ、間違いではない…ですかね。」

魂の水先案内人、という表現もされるのでむしろ正解、なのだろう。
勿論、影法師でしかない己は『案内人』としては未熟もいい所なのだが。
――だからこそ、影たる身であっても。いずれ正しい『渡し守』になれる時が来ればいい。

――私は人は助けていない、救ってもいないけれど。
救うのは、助けるのは、既に死して彷徨う魂くらいだ。
それは、別の誰かが相応しい。決して己であってはならない。

「…分かりました。お気をつけて。」

言葉は短く、『渡し守』もあっさりとしたものだ。
お互い名乗っていない…今は名乗る必要も無いだろう。
灰色の影たる貴方が、いずれ名前と知性を得た時に会う事がまたあれば。

(――その時に改めて名乗らせて頂ければ。)

だから、貴方が”何者か”になっている事を期待…するのはらしくない、か。
静かに、己の隣を過ぎて去っていく灰色の影に小さく会釈を一つ。

「――貴方の旅路がきちんと終われるように。」

――それは祈りか、激励か、または別の意味か。
言葉を向けた『渡し守』だけにしか分からない。


やがて、彼/彼女も再び静かに宙に浮かぶ黒い櫂へと飛び乗り、何処かへと去っていくだろう。

ご案内:「転移荒野」から『』さんが去りました。
ご案内:「転移荒野」からカロンさんが去りました。