2024/09/10 のログ
ご案内:「転移荒野」にイクトミスさんが現れました。
イクトミス > 「ーーー」

「ふ、おッ、 …とっ!と! とぉっ!?」

いきなり投げ出されたように前につんのめってしまいながらどうにかブレーキを掛けて転ばないように踏みとどまる。


「………、 …?」

奇妙な渦の様な歪みが見えたと思ったら見えるもの全ても自分も…引きずり込まれれる様に飲み込まれた、のだろうか?

そしてここは一体どこだろう?
こんな暗くて荒れ果てた雰囲気の場所は見たことがない。それにまだ空も明るかったはずなのに。もう薄暗くなりはじめている。それとも雨が降りそうな空なのだろうか?


「くたびれた感じの場所ぉ…」

まるで大きい戦が起きた後のようにも見える。だけどなんというか空気が違うような気がする。転移門から別の場所に移動したような事が今起きてるのだろうか?


「えぇぇー…」

周りを見てみるがそれを誘発させたような物体は見当たらない。これでは元居た地点に戻れない。そもそも今はどの辺りにいるのだろうか。この地図の
どの辺りかさえ分かればまだ人のいる場所を目指すことも出来るのだが…。

「どこぉここぉ…?」


それともまさか別の大陸に転移した?それだととても非常に困ったことになる。それが北西の大陸だとすれば尚の事悪い。


「雨が降りそうな…」

ふと見上げた空模様を見て呟く。こんな開けた場所では魔物に襲われるかもしれないし、雨風さえ凌げない。いや、まいった。

とにかく…、うぅむ
あっちに何か遺跡のような何かが見えるしそこを目指してみようかな?

せめて雨くらいはそこでやり過ごせるだろう。魔物も潜んでいるかもしれないが…。

イクトミス > てくてく歩く。
まだ今朝は一晩休んだ街から出てそれほど経っていないから体力的にはヘーキだけども。当て所なく進む、というのはなかなか勇気がいる事だと思う。

「こんなに枯れた地面の色…なんなんだろ?」


荒れ果てた様子の景色ばかりが視界に流れてきて、それだけで気分も沈んでしまいそうになる。

土、岩、石ころ。

そらもくすんでいてまるでこの大地が空まで呪っているから同じ様な鈍色になってるかのように見えてくる。


「向こうの山は、遠そう。
あっちは地平…ぇ…真っ平ら」

そっちに進めば海だろうか?
港町なんてあるようには思えない。

やはりこのまま遺跡らしい場所に向かって行くしか無いだろうか。

イクトミス > 「んぃー…………」


なんだか、不思議な感覚だ。
あの時は、確か転んでた気がする。
あの時、あの時…って…いったいいつの時だったか…?



まだ遠いがやがて遺跡の輪郭が間近に捉えられるようになってきた。だがそれを見ても「立派だ」とかすごいと思うよりもその寂れ朽ちた様を見ていると物悲しい気持ちにさせられる。

いつもならあんな歴史を感じそうな建造物を見かければ喜び勇んで調べに行くのだが…。

もう何もそこには残ってないような、そんな空になった侘しさのような雰囲気を感じる。
何故だろう。


「草も、生えてない。」

ふと足を止め、その場で足元の地面を見てみても黒く焦げたように枯れた葉なのか根っこなのかもわからないものが落ちていてそれをつまんで拾うとしゃがんだまま眺める。


「あっ」


少し指にほんの少し力が加わっただけでポソっ、となんだかわからないソレは崩れ落ちた。

イクトミス > 「あーあらぁ、らぁ…」

少し指先に付いた土を親指と擦り合わせながら落とし膝から自分の体を持ち上げるように両手で起こす。



「今日は野宿かなァ〜…」
あぁーあぁ。

ため息を付く。
野宿、野営は嫌いじゃない。

けどこんな奇妙なロケーションでなければの話だ。あまりにも普通ではない状況も重なり異様さが引き立って余りある現状。雨を凌ぐのにそこの遺跡に向かうのは良いが、このあたりで夜を過ごすのは出来れば御免被りたい。


「あー、あー…」

「だれかだれかきこえてたりしませんかー」


投げやり気味に声を張りあげる。ここならいくら騒いでも誰の迷惑にもならなそうだ。しかし魔物が寄ってくるかもしれない、とは考えなかった。

何故なら魔物さえここには生息していないのではないかと思うほどこの場所が生命の息吹を感じられない…そんなふうに思えたから。


「いい名前でしょー?」


「いい名前だねー」


一人で二役を演じるように見えない妖精と語らっているように肩を揺らしながら歩き続ける。

イクトミス > 恐らくこの不安感の原因はこの場所だろう。なんらかの脅威が迫りくる気配もないが同時に命の気配もない。


だからこんなにも奇妙な場所に居ながら…どこか警戒を解き油断しきっている。


「どこか、向こうに居るかなぁ」

遠くの空から青みが薄らいでいく代わりに濁った暗闇が滲んでいく。


ずっと歩いているがあっちも、こっちも見える景色は代わり映えしない。もしかしたら同じところをぐるぐると回ってるだけなのかも。




「困った…」


何度後ろを振り返ってもここに来る直前まで歩いていた高原や街道が広がっているでもない。
あの風の匂いもまるでしない。


考えてもしょうがない。
考えたって分からないことは分からないままなので何かが、変化が起きればまたどうにななるんじゃないかと思う。


いざという時には本格的に何か手を打つ必要があるだろうが。今はまだ少なくとも自分は元気いっぱいだ。
強いて言うなら…すこしさびしい気がするだけなのでつまりセーフ。

遺跡で雨を凌げそうな場所についたら一度荷物を広げてできる事を考えてみよう。

イクトミス > 「あ」


周りが段々と夜に近づいてからその暗さが自分の知っている夜の暗さとは違うのだと分かる。


「星も見えない」



こんなに暗くなっているのに星の光がごくわずかにしか見えない。これでは空を辿って北がどっちにあるのかも分からないままだ。


「ほんとにどうしよ」


まずいなー、と思い完全に真っ暗になる前に背嚢を肩から下ろすとその中からお手製のエーテルランプを取り出しカシャンと音を立てて上下に伸びるように開く。

もう一度背嚢を背負い直す右手にランプを持って左手で火付け石の機構を操作する。


カキッ、 カチッ


「んんん?」


付きが悪い。
何度も試している内にようやく明かりが灯って辺りを照らすがその灯りがどうにも不安定だ。

イクトミス > ………


しばらくランプの明かりだけを頼りにして遺跡に向かって進んだイクトミスは苔も生えていない遺跡の入口付近の胸ほどの高さの石段に一度荷を下ろす。


そして振り向いて後ろの方を見遣る。

やはり明かりは見えない。
人里から大分離れた位置なのだろうか?静けさが余計に響きそうな暗闇の中、ランプも傍らに置けば両手両足を伸ばしながら屈伸をして体を解す。


「あつい…」

そう口にしてみてから「そういえばそうだ」と感じる。空気が重く感じるくらいにこの辺りはやけに暑い。熱帯地域でもないのにやけに周辺は蒸し暑いのだ。



喉が渇くがここがどこかもしれないままで下手に水分を消費するのもどうかとは思ったが前向きになるために、と自分を甘やかしながら鞣した皮を内側にして外側からまた別の動物の皮を張り合わせて作られた水筒を取り出すと蓋を開けて温くなった水を含む。


その時に少しこぼした水は地面に落ちたがすぐにその痕跡は乾いてしまうだろうなと思った。


「…へぇ…」

手のひらで自分を仰ぎながら
その時、近くでなにかの気配を感じた。

地面に何かこすれたような音が聞こえたのだ。これだけ静かな中でその音はイクトミスの神経を刺激するには十分だった。

とっさに段差に振り向いて排膿の中を漁り武器を取り出そうとしながら、視線は後ろに向けたまま緊張が走る。

ご案内:「」にイクトミスさんが現れました。
イクトミス > どうやら聞こえたその音の気配は1つだけではないらしい、…のと

なんだか耳鳴りも感じる。
どうにも嫌〜な雰囲気だ。


風がざわざわとゆったり流れていく
棒状の武器を取り出すとランプはそのまま、石段の上へと飛び乗ってさらに光源を前にしたまま身を低くして後ずさる。



魔物、本来であれば居ない方がおかしい筈だがどうにも居心地が良くない。


「人だったら、声掛けて来ますよねー
たぶん…そうだよねー」

湿っとした空気のせいか
額にうすらと汗がにじむ


ぎゅう、と武器を握りながら
影の向こうの気配にただ意識を向ける



“…………”

唸り声1つ上げずにランプの光に照らされた獣の姿が映し出される。


見たこともない四足獣
全身が固めたタールで出来たかのような異形の姿。それが恐らく一体以上は【すぐ向こう】から躙り寄っている。


あの街道沿いであればそれほど警戒する魔物は居なかった。だからこの武器だけでやってこれた…が。


「見たことない…のが…」

なんならそれは獣らしくなかった。
自然に生まれた動物でも魔物でもなく、もっといえば意図的に作り出されたような不自然さを纏っている。

冒涜的なまでの異形
異形らしすぎて乾いた笑いが出てきそうなまさに怪物に見えた。


「ヴェニダの怪物が可愛く見える気が…」


する、と言いかけた時
獣のこちらへと近づく速度が上がる。

イクトミス > 四足獣は四足獣らしくその前傾を前足に"掛け”れば
後ろ足はまるで撃鉄の様にその身を弾く如く疾駆。
この初速を一息で繰り出せるのが四足獣の恐ろしさだろう。


3mは優に超える高さの跳躍を最後に織り交ぜながら狙うはイクトミスの喉笛か、手足か。



「 ――― つ、  ッ   え” えィイィ…!」


受け止めた。
打ち払う、ではなく両手でしっかりと握った棒状の武器を全力で突き出して獣の喉を強く『圧』す。


ガフゥ、と低すぎる悲鳴なのかゲップにも聞こえる様なうめき声を挙げて獣は石段の下方へと落下していく。だがまるで致命には至らない。


その「至らない」―――事に疑問を覚えたのは
イクトミスだった。



なんで?と、不思議そうにその武器を握る手に視線を落とす。周囲のマナを利用して雷撃エネルギーを発する、いわばこの武器は『スタンバトン』ともいえる殴打用の武器だ。

それが何故か電撃を発さない事に目を見開いて動揺する。


「あ、 あれ…」


まずい
この武器の長所こそは「打撃力」ではなく
電撃による相手の失神か致死であるからして、特別腕力があるでもないイクトミスは多少頑丈な棒を手に自分を守っているだけの被捕食者にまでその立場を落としてしまっているのだ。

イクトミス > 考えてるだけの余裕はない。
既に残る2体がごく僅かな間で交互に迫ってきている。


トリガーは何度も引いている、しかし僅かな電気すら発しない。このままなんとか攻撃を受け流し続けていてもヤツらは元気イッパイのまま。

背嚢の中には他に仕えそうな道具はあったか?
そう考えを巡らせる余裕も与えられない。

こちらに襲い掛かってきた二頭目の大きく開かれた口腔へとバトンを突っ込もうとして、エサを目前にしたソイツは避けようともせずにバトンを強く嚙みつぶそうとする。

その勢いに流石に血の気が引いてしまいながら鋭利に尖った牙をへし折るつもりで石段の上に着地したそいつの口の中のバトンを一気に横に振り払う。

ガチッとぶつけた衝撃は手元に届くが苦しむでも居たがるでもなく、その丸くぎらついた眼は飢えながらイクトミスを睨み、まるでどう調理するか、それだけが思考の全てであるかの様にハァハァと白い蒸気が噴き出しそうな程に舌を揺らしながら見据えてくる。



武器なんて他にはない。
荷の中の食料をバラ撒けばそっちに食いついてくれるだろうか?



1歩また1歩と追いやられていく。
もう後がない。

これ以上ランプから離れれば獣の姿さえも視認できなくなる。
そうすればもう一方的に食い殺されてしまうだけだ。

ランプが不調だった時にもう少し気を付けていればよかったと思っても後の祭り。遺跡の入口から奥へと追いやられながらも崩れた柱を盾するように距離を取るも、あちらの方がすばしっこい。いつまでもこの状態が持つ筈もない。

ご案内:「転移荒野」に武知一実さんが現れました。
武知一実 >  
「―――そこのアンタ、伏せろッ!!」

転移荒野に佇む遺跡の奥、その中に異形の獣の影が複数と襲われていると思しき人影が一つ。
灯りも持たずに入った暗闇の中で、オレが捉えられたのはそれだけの情報だった。
もしかすると襲われてるわけじゃねえのかもしれんが、それはそれで真っ当な状況でも無いので文句を言われたら言い返すことにして。

暗闇の中を駆けながら、オレは人影へと声を投げながら右腕に意識を集中させる。
バチバチと肘から拳に掛けて火花が散るほどまでに帯電を終え、そのまま拳を振り被り、一足飛びに獣へと躍り掛かる。

「まずは一匹ィ!!」

闖入者(オレ)に対して獣がどんな反応を見せるかなんざ気にも留めず、そのまま横面へと雷を纏った拳を叩きつける。

大抵の生き物なら即死まではいかなくとも昏倒くらいはしてくれるはずだが、果たして――

イクトミス > 逃げるばかりではどうにもならない、というのは分かっているのだがまるで決定打となる攻撃の手段が無い。今からあれこれ考えたとしてソレを準備する暇がないのも事実。


「はっ・・・・ はぁーっ…」


肩で息をしながら、冷静に努めてはいる。
しかしこちらは一撃でもまともに受ければ…考えたくもない。しかしこちらにあるのは食料と寝袋…後は少しの薬品だとか、火を起こす為の道具と少ない賃金だけ。

この機能しない電気バトンもこのままではいずれへし折られる。


「あ―――」


やばい、まずい。
考えすぎだ。



目の前にも居るのに、もう背後にも回られた?
そんな荒々しい息遣いが聞こえて背筋がゾッと凍り付く。


ふりむ、くか?
それともがむしゃらに前を突っ切ってランプの方へ戻って…ってそれじゃフリダシに戻るだけで何も変わっていない!



「へひゃーぁえッ!?!」



なんとも素っ頓狂な声を上げてしまったのは、突然誰かの声が聞こえて驚いたのと安心したから。驚きの声に弱音を叫びそうな声が混ざったのだろう。咄嗟に背中を丸めてその場に蹲るとすごい音が聞こえた。その音に驚いてブルッとなったのはナイショだ。

そして眼前に迫っていた2匹の内1匹が強烈な一撃、というか拳?素手で殴り飛ばされたのだ。
 空気が灼ける様な音が爆ぜると殴り飛ばされた獣は石の地面の上で痙攣を起こしながら四本の足を震わせながら口を開けたまま乾いた呻き声を上げる。その口からは白い煙が上がっているように見えた。




「すッ   …ご …い !」



残る二匹の獣は『狩り』を邪魔された事に毛を逆立てていた。明確な『脅威』である来訪者に憎しみを伴った眼光を向けて強く強く荒げた怒りで威嚇をする。しかし喰ってしまえば、それで終わりであると言うかの如く現れた者の戦力など気にも留めずに爪を、牙をむき出しにして飛び掛かる。

目の前にいるのはただのヒトでしかない。
つまりはエサだ、と。


獣は狂った様に顎を大きく開けてその喉元へ飛び掛かる。

武知一実 >  
「――はッ、今のを見て尻尾巻いて逃げんじゃなくて、まだ()る気かよ。
 上等じゃねェか、喰えるもんなら喰ってみやがれァ!!」

同種が倒れ伏したにも関わらず、ひりつく様な戦意を向けて来る獣たち。
ここんとこ狩り甲斐の無い雑魚ばかりだったから、思ったよりも興奮してきちまう。
夏休みに入ってからこっち、喧嘩らしい喧嘩もしてなかったしな――

「悪ィがこっちはこんな辛気臭ぇとことっとと出て行きてェんだ。
 速攻で片ァ付けさせて貰うぜ」

腕に纏わせたように、今度は両脚、膝から下に雷を帯びる。
空気が震え、小さく爆ぜる音に充填を確認し、一拍をおいて―――

バンッ!!――砲撃めいた音と共に踏み込み、オレの喉元を狙って掛かって来た獣の下顎目掛け蒼白の軌跡を残した蹴り上げを見舞う。これで二匹。
残る一匹は二匹目を蹴り上げた足でそのまま薙ぐように蹴り抜いてやろう。
どれもそれなりに高圧電流を伴う一撃だ、即死は免れてもただでは済まないだろう。
……まあ耐えれたら耐えれたで電圧上げるだけなんだけどよ。

――っと、油断も慢心も駄目だな。ええと、残心ってこういう時に使うんだったか?

イクトミス > 「うおーーー!わおーーーー!!」

「どこの誰かとは知りませんけど助けて助けてくれt…っで、アウアアアア!まだ、まだ居ますねェ…!きっ、来てますねェ…!?」



お礼を言おうとしたのもつかの間、その人物の方へいそいそと近づこうとすれば滅茶苦茶さっきよりも怒ってらっしゃる二匹の黒い異形の獣がその命の恩人へものすごい前傾になりながら唸っている。
 これにはイクトミスもブルってしまいながらもなんとか役に立とうとしてバトンを構えて威嚇には威嚇で返す。


「2匹同時に戦うなんて危ないです!ここはワタシもいっちょうやりますので…!」



が、相手にされない。
ムカツクなーこの獣どもめ。


「こっちこっち、こっちでーすよー…」


二匹来たら怖いので少し気を引くだけでも役に立てるだろうと屈みながらバトンの先端で石畳を小突く。だが強者のオーラに引き寄せられているのだろうか、それともワタシよりもあっちの人の方がおいしそうなのだろうか?それはそれでどうなんだ?と複雑な心境に至るイクトミス。

「こっちですってば!!」


ガツン、と強くバトンを打ち付けると同時に二匹がダッ、と武知へ低い姿勢のまま接近する。まるで蛇の様に地を這う動きだがとても速く、瞼を閉じるよりも先にその腿を嚙みちぎろうと顎を開けて―――。

もう一匹は左から、少年の肩へと鋭い爪を振り下ろしにかかる…!




 「危ない…です!」


そんな事を言う事くらいしか出来ない。
だがもし彼が噛みつかれてしまってそのまま抵出来なかったら、と考えればその噛みついた獣の頭を叩く役割として自分が居なければ、と勇気を出してその後を追い走る…!

武知一実 >  
「ンだよ、まだ居やがんのか。
 数が多いってのはそこらのチンピラと変わりねえが……牙と爪は厄介だな、ったく……しち面倒臭ェ」

言葉とは裏腹にオレの口角は上がりっぱなしだ。
人との喧嘩とは勝手の違う魔物との戦闘にも、この夏のバイトを通してすっかり慣れちまったみたいだ。
むしろ、こっちの方が性に合ってる気すらしてくる……まあ、実際ガキの頃はデータ収集を名目に色んなもんと戦わされたっけ。

「――向かって来るってんなら話は早え。
 おいアンタ、巻き込まれねえ様に、それ以上オレに近付くなよ!」

襲われてたと思しき人影へと声を掛け、こっちに向かってくる獣二匹に狙いを定める。
意識を澄まして……集中を高めて、無駄のない様にイメージを固めて……

「――っと、こう!」

地を這い迫る獣へは左手を向け、掌から一点に出力を狭めた放電――と言うより……うん、レーザーを放つ。
思ったより物騒な感じになった……と反省してる暇なんぞなく、ほぼ同時攻撃に爪を振り下ろしてくる獣へはその胴体目掛け右手から普通に放電。
オレの異能の大盤振る舞いを食らわせてやろう。さて、これで腹いっぱいになってくれりゃ良いんだが……。

「……いっそ奥目掛けて粒子砲でもぶち込んでみるか……」

まあ、そんな事すりゃオレ自身もタダじゃ済まねえから絶対やらねえケド。

イクトミス > あああ、恩人が食べられてしまう。
この非力な腕では何も出来ないというのか。

獰猛な獣はその顎で彼を嚙み千切り――――


千切ッ、て ない。
何か強い光が発したと思えば二匹ともプスプスと焦げ臭い煙を上げながら動かなくなってしまっていた。一体何が起きたのか分からない。彼は少し手を動かして、それで何かが光って…えぇと。


「あのぅ~、 ありがとう
 ござァいましたぁ・・・」


信じられない。
あんな素早い獣を同時に二匹相手にして、それを一瞬で無力化してしまった。しかも武器もなにも手には持ってないのにだ。


「あのー、あのーあのそのー…。
 ケガとかはしてないですか?」

武知へと歩みよればどこか負傷していないかを確認しつつ、間近で倒れた獣からただよう焦げ臭いにおいに思わず鼻を摘む。そしてせっかくこんな物騒な場所で出会えた相手に聞きたかった事を尋ねる。


「あのー…ここが…何処だかわかりませんか…?
 なんと…迷ってしまったみたいでして…はぁ~…」

武知一実 >  
「―――よし、もう残ってねえみてえだな」

追加の二匹をノした後も、一応は警戒を解かずにおいたものの。
どうやら今ので打ち止めで間違い無さそうだ。良かった、これ以上の電力の消耗はちと困る。
まあ、思いの外いい運動にもなったしプラマイゼロって事で良しとするとして―――

「あァ? そういや人も居たんだったな。
 心配ありがとよ、この通り至ってピンピンしてる。アンタこそ、怪我ァねえか?」

人影の方の仔細なんざ気にしている余裕も無かったが、改めてこんな辺鄙な場所に居た奴へと目を向ける。
……何だか珍妙な出で立ちの女子だなあ。学院の生徒って感じじゃなさそうだが。

「――ここが何処だか分らねえって?
 あー、なるほどな迷子……か。
 ここに入って来る時のことは覚えてるか? それとも、気付いたらここに放り出されてたとか?」

場所が場所だ、異世界から転移して来たって可能性も大いにあり得る。
というか十中八九その手合いとみて間違い無さそうだ。
他の可能性としては瞬間移動系の異能の持ち主ってとこだけど……それならさっき襲われてた時に逃げられるだろうし。

イクトミス > 良かった、危険な人ではなさそうだけども…。
仄かにランプが照らし出すその人物の姿は…というか恰好は大分変った格好だった。やはりここは遠いどこかの国なのだろうか?


「・・・・」


彼の出で立ちを見た所で、此処が一体どこに位置する場所なのかは掴めそうにない。


「っあ、 はい。 ケガとかは、大丈夫です。してないです。」


「――――けど…」



彼の言葉にコクンとはっきり頷く。
迷子、と言われれば自分が間抜けに思えてしまって気恥ずかしいが否定できないのが辛い所だ。しかしどうにか無事で生きて居られるのも彼が助けてくれたからだ。いくら路銀にそれ程の余裕はないとはいえ、宿で夕食が食べれる程度のお礼はしたい所だ。



「…そ、そうなんです。そうなんですよ…!
 気づいたら、なんか、そのーえー・・・どこか違う遠い国に来たみたいな感じで…景色も全然違うし、ワタシ寝てませんでしたし…。意識ははっきりしてますよ…!間違いないです…!」



「だから、せめて近くの街や村でもいいので…お礼は払います…!そこまで連れてってくれませんか…?この辺りはさっきみたいなのが居るみたいですし…持ってた武器もこれじゃあ・・・役に立ちそうもないですし…。」


手にしていたバトンはついにその機能を発揮する事なく…。ただやけにボコボコになってしまった。壊れてしまったのだろうか?せっかく貴重な属性石を利用して作ったのに…。

付近の柱をバトンで軽く小突いてみるが、やはり反応は無い。
壊れているのか、それとも…。

武知一実 >  
ふぅむ……嘘をついてるようには到底見えないし、そもそも獣に襲われる様な目に遭った上で嘘をつく理由もオレには思い付かん。
となるとやっぱりこの女子は異邦人、としておくのが安牌だろうか。
時も場所も選ばずポンポン開いたり閉じたりする門にも困ったもんだな、全く。

「別にいーよ、礼なんて。大したことしたわけじゃねえし。
 とりあえずここから出るのを優先すっから、簡潔に伝えるが――アンタは別の世界に迷い込んでる可能性がある。
 詳しい話は道すがらにで良いな、出口は分かるから後ろついて来てくれ」

さてどう説明したもんか。 歩き出しながらオレは考える。
生まれも育ちもこの世界であるオレには異世界に飛ばされるという事態がいまいち実感として無い。だから説明したところで要領を得ないもんになりかねない。
……まあ、都度向こうが訊いてくれることに期待しよう。

「初めに言っとくと、ここは地球の日本って国の常世島って島にある地域の一つだ。
 ――なんか聞き覚えのある地名とかある?」

イクトミス > 「は~~~・・・」


お礼を求めないだなんてなんて親切な人なのだろう。
まるで助けるのは当然といった雰囲気ではないか。

この人はこの国の騎士か何かなのだろうか?服装からではそうは見えなかったが、実は貴族だったり…?一見すると傭兵…うーん、にしては少し顔立ちが幼くも見えるが…。


「はいぃぃ?」


別の世界、って。
・・・。


朽ちたように見える荒れ果てた大地。
まるで神々からも見放されてしまっているかの如き遺跡の荒れ様…。まさか、まさかここは…。



「もしかして、ここは魔界…ですか…。」


わなわなと震えるイクトミス。
魔界といえば人間が迷い込んだら二度と生きては戻れないという最悪な場所ではないか。あんな見た事もない異形が居たのも、気っと…。


「あああああああ!ここは魔界なんですかァー!
 魔界!?嘘だと言って下さいぃいいいいいいィィ!!」




喚きながらささっと急いで背嚢とランプを取って歩き出した彼の後に続く。



「――――――え?」


「にほぉー …ン?」



ここで、この世界の国の名前を告げた所で普段の異邦人であれば首を傾げたり聞いたことはないと言ってそれで終わりだろう。だがイクトミスには聞き覚えがあったのだ、というよりも…『思い出した』のだ。そんな国で自分が住んでいたという記憶を。今となっては夢だったのかとも思っていた時代がフラッシュバックする。


「日本、て… ここ、日本なんですか?
卵かけごはんとか、お味噌汁が長所の国の日本ですか?」


あの記憶は幻ではなかったのだ。
 かつて大変容が起きた頃に異世界へ飛ばされていたイクトミスはそれまでの自分も世界も全てが夢だったかの如く、ただ異世界で生きて、暮らし続けていた。


「あと・・・あと・・・」
「えっと・・・」


急に日本だと言われても、あるのは10歳までに見聞きした狭い知識や経験ばかりだ。まだ遊びたい盛りの頃だ。幼い記憶と知識しかないままなのだ。


「そっ、 かぁ~~~…」


神妙そうに空を見上げる。
もしかしたら今この瞬間も夢なのではないかと思いそうになる。いきなり頬をつねったりするイクトミスは彼から見れば異様だろうか?


「そっかそっか…ぁ」

「聞き覚えのある……オーサカ、とか…。ホッカイドーとか…。」



あの日、何をしていただろうか。
すぐには思い出せない。

イクトミスにとっての幼い頃の記憶というのは殆どが今となっては異世界で過ごした日々が覆っているからだ。

武知一実 >  
「―――ああ、その日本だ。
 と言っても、全く同じものとは限らねえけどな」

何つったっけ、並行世界? そういうものもあるらしい。
同じ名前を持ちながら全く異なる歴史を歩んだ世界。 授業か何かで聞いた覚えがある。
そういうのも異世界として認識されて、転移荒野に吐き出されたりする事もあるとか無いとか。

「この地域は別の世界から人や物が流されて来たり、流されていったりって事が良くある地域らしい。
 だからアンタもどっか別の世界から流れ着いたんじゃねえかって思ったんだが……どうやら話は思ってたより複雑(めんどくさ)そうだな」

日本という国名、そして地名には覚えがあるらしい。
けれどどうにも要領を得ない。 他人事、というか別世界のことの様に単語を口にしてる様な……

「ま、詳しいことは委員会の奴らが説明とかしてくれんだろ。
 とりあえずアンタは異世界からの漂着者、異邦人って事で過ごして貰う事になると思う。
 ……オレは武知一実、かずみんって呼んでくれ。アンタの名前は?」

そういや名前を聞く機会を喪っていた。
普通移動し始める前に聞いとくもんだとは思うが、まあ今でも遅くは無いだろ。……無いよな?

イクトミス > 「そう、なんですか・・・」


驚いてはいるが、それ以上に理解というか
気持ちが追い付かない。

突然今になってそれらが全て本当の過去だったと言われても。


「なんとなく、ですけど。
 ここがどういう場所なのかは分かりました…。」

つまり、少なくともここは。
いや・・・ここだけじゃなくて、ここから広がる世界の全てがはもう自分が居た場所や世界とは違うらしい。

それに過去にいたかもしれない世界、日本とも同じかどうかも分からない。



「あぇ、え、いやでもワタシはですね、やらなければならない事が…」

「あ、イヤハヤ。丁寧にどうも…タケティさん。
 あ、カズミンさんって呼べばいいんですね。」


夜の風が吹けば、暑い時期にも涼しくなったが。
この世界の風は重くそして暑い。

「えっと、ワタシはイクトミス=アルカス…です。
 周りからはトミィって呼ばれてました。」

「カズミンさんは、この世界の人、なんですか?
  ―――この 、世界にある…日本の。」