2025/09/15 のログ
■橘壱 >
『気難しくて横暴な可愛い女の子』
どう思っているかなんて、それ以外何があると言うのか。
相変わらずそういう口の軽さは変わらないらしい。
鋼鉄の体が、空を切り重力に引かれていく。
頃合いを見て全身のバーニアを吹かせば勢いが殺され、ゆるりと互いに並走するように落下していく。
深い、想像以上に深く、そして予想以上に広い。
『本当に広いな……レーダーのマッピングも追いつかないだ。
地面もまだ……いや、流石に地面はあるみたいだ。流石に奈落じゃないみたいだね』
最悪底なしの闇も考えていたところにありがたい。
どれだけ落ちていくのか、と考えている頃合いに漸く石畳が見えた。
重苦しい音を立て、鋼の両足が石畳を踏みしめる。
辺りは変わらず、暗闇のまま。
『明かり、つけるよ』
言い終わると同時にバックパックから飛び出す小型ドローン。
飛行音と同時に周囲をまばゆい光が照らし、全貌を映し出す。
辺りは素材もわからない石のような作りであり、壁は見えないほど広い。
ただ、目の前には巨大な何かが鎮座していた。一言で言えば、塔。
巨大な岩の塔が二人の目の前に悠然と立っている。先端も見えないほど巨大だ。
『大きいし、此処は広いな。どこがどこまでだ?』
ドローンを使いマッピングを開始するが、これは時間がかかりそうだ。
■クロメ >
「……度し難い」
相も変わらない軽薄な言葉。
いや……昔よりも更に軽薄になっただろうか。
ブレない、という意味では立派なものである……と、いえるのか
返す言葉はいつもどおりだが、どこか緩かった
「ふむ……」
超常の感覚で探ってみる、が。
どこか歪んでいるようでもある。
みえている通りの空間ではないかもしれない。
案外、見た目よりも小さいかもしれないし
見た目通りかもしれない
「……そもそも。事前の情報はないのか?」
今更だが、基本的なことを突っ込んでみる。
「いわれだの、厄介ごとの匂いだの」
■橘壱 >
『いつも通りどうも。……事前情報があるなら、此処は未開拓地区にはなってないさ』
その事前調査一つだって命がけになりえるのだ。
凡その事は機械が偵察も可能だろうが、最終的な部分は人の手になると思っている。
容易く開拓できるのであれば、今頃住宅地の一つや二つ立っているだろう。
『その厄介事かどうかを調べに来た。謂わば、僕等が先遣隊……、……!』
不意にセンサーに反応。軽い音とともに、目の前の塔が光り輝いた。
エネルギー反応を検知しているが、それがどんなものかはわからなかった。
塔の全身を血管のように貼り巡る赤い光は、文字通り周囲の壁や地面に広がっていく。
まるで、それら全てが一つの生命体のように鼓動するかのようだ。
その超常の感覚ならば感じるかもしれない。
余りにも旧い、魔力に近いエネルギー根源。
これは一瞬の瞬き、命なき命の輝き。
放っておいてもやがて朽ちるものである。
そんな古木めいた塔が、"敵意"を以ていることも。
それらを感じ取った瞬間、閃光が視界を埋め尽くす。
赤い閃光、か細いレーザー光線。当たれば瞬く間に真っ二つになってしまうが…?
■クロメ >
「道理か」
わからないから調べる。そういうことだ。
あまりにもそのままではある。
となれば、最近存在が知られた、とかそういうことだろうか。
考えても今は意味のないことか
「む」
眼の前の塔が輝く。魔力の光。それが、全体へと広がっていく。
なるほど、まだ"生き"ていたか。
それはいい。いい、が
「歓迎か」
どうやら認められていないらしい。当然の帰結ではある。
なにしろ、こちらは向こうにとっての侵入者だ。
弁解の余地もない。
問題は――
「……」
無数の殺意。あらゆる場所から、こちらに向けられる糸よりも細い、それ。
詳細までは読み取れないが、自分であればたとえ細切れになろうと死ぬこともあるまい。
だが、人間などはひとたまりもないだろう。
となれば、その鋼鉄の鎧がどれほど役に立つか、だ。
そこまではわからない。少なくとも、通常の鉄鎧であればバターにナイフを当てるがごとく、となろう。
「面倒な」
瞬時に手が崩れる。崩れた手が瞬く間に赤い霧となって両者を包みこむ
その間、わずかに0.01秒。
遅れて、赤い光が二人に達した。
死の嵐が吹き抜け、地が裂け、壁が割れる。
しかして
赤い霧に触れた光は、ねじれ、曲がり、跳ね
目標へと到達することはなかった。
「防衛機構かなにかか? 好かれてはいないな。
どうする?」
鋼鉄の鎧を見上げる
壊すだけならできるだろうが、それを自分で判断する気はない。
なにしろ、紐付きなのだから
■橘壱 >
橘壱の反射速度は常人のそれを凌駕する。
機械の冷たい殺意を感知することは出来ないが、視界を埋め尽くす光が何かは理解できた。
咄嗟にエネルギーフィールドを展開…する前に、赤い霧が視界を埋めた。
赤と赤が交差し、凄まじいエネルギーの本流が周囲に逃げ場を求めて拡散する。
音もなく焼ききれ、周囲にまるで獣が焦げたような臭いが充満する。
『ごめん、助かった。わからないけど、そういうモノかもしれない。
あるいは何かの管理システムなのかもしれない。攻撃してくる以上は……、……』
だが、携行された武器を取ることはなかった。
『……いや、もう終わったみたいだ』
視界が晴れる頃には、張り巡らされた光はまるで生気を失うように消えていく。
音もなく、終わりを示すかのようにやがて赤い光は消えていく、残るのは探索ドローンの光だけ。
その超常の感覚にも"敵意"と呼べるものはなく、二度と動く気配も感じない。
正しく、最後の一撃だったのかもしれない。
『何かを守っていたとしたら、最後まで忠実に命令を実行したのかもしれない』
ある種機械らしい。鋼の足音を響かせ、塔の付近まで近づいた。
見上げてみると、何とも大きい建造物だ。上が見えない。
スキャンセンサーが分析を開始すると、壱は僅かに目を見開いた。
『……ゴーレムの類かと思ったけど、これは機械みたいだ。
なにかはわからないけど、恐らく制御中枢みたいな……ん、なにかデータが……』
モニターに映る解析結果の数々は今の技術系統とは違うものだ。
少なくとも壱の知る機械技術には存在しないものだ。
この岩肌の奥には緻密な鉄が血管のように張り巡らされている。
興味深そうに眺めていると、読み取り、ドローンがそれを映し出した。
それは、何時かの光景、何処かの景色。
知らない無辜の人々の日常が映し出された写真データ。
顔も名前も知らない。何時の時代、何処の世界かもわからない。
ただ、この機械だけが覚えていた景色なのだろう。
『…………恐らく、コレが守っていたもの。なのかもしれない…………』
■クロメ >
赤い霧が集まり、腕に戻る。
辺りに残るのは、力の本流が荒れ狂い無惨な姿を晒した瓦礫のあとだけ
「……最後の抵抗」
敵意はすでに消え、気配はなにもない。
残ったものは敵と認定したものと、崩れた周囲。
すべてを振り絞った結果だとすれば、実に皮肉な話だ。
そして、あとに残ったものは
鋼鉄の鎧が何かを調べている。
「機械?任せた」
理解の及ばない範囲であるし、任せるしかない。
のだが、案外とあっさりと解決できたようだ。
そして
「……………」
ドローンが映し出したもの。
誰とも知らない人が見える。
どことも、誰とも、わかるわけもない。
ただ――
幸せそうだった
「……もう、ないだろうに」
そして、もう一つだけわかるのは。
それらは、すでに失われて久しいだろう、ということ。
虚しい とても 虚しい
「……健気、というべきか。愚か、というべきか。
機械……だったか。では、どちらでもない、のか」
もう守るものもない。もう得られるものもない。
そんなもののために、今の一瞬を生き。絶えてしまった。
皮肉にもほどがある。
「これが守っていたもの、なら。
あとは、なにもなさそう……か?」
それであれば、仕事も終わりだろうか。
「……何も出ず、だな」
出てはいたが、結局何も残らなかったのであればないも同然だ
■橘壱 >
『……最後の抵抗、と言うよりは……いや、何でもない』
あまり言及するのも無粋な気もする。
ただ、機械は与えられた役割を全うしたのだろう。
『時代に、世界に取り残されてしまったもの……なのかもね』
ある意味では彼女と似たようなものかもしれない。
この混迷となってしまった世界で生き永らえる事、去っていく事。
どちらが幸せかなんて、決めるのは傲慢だ。
どうなるかは、きっとこれから先わかるはずだ。
『……そうだね。うん、これでおしまいかな。
後はもうなにもない。このデータも、持ち帰るほどじゃない』
ならばせめて、此処に残しておくべきかもしれない。
何も知らない部外者である自分にできるのはその程度だ。
ドローンの抽出データを削除し、外部の写真だけを撮っておく。
此処にはなにもない、調査の必要もないことを示すための証拠だ。
『僕はどちらとも思わない。ただ、この機械には守りたいものがあった』
それは全てをかけてでもすべきものだった。それだけだ。
モニターの奥で、僅かに笑みを浮かべれば視線を少女へと移した。
『無駄足ではなかったけどね。少なくとも、意外と悪くないデートだったかも。……なんてね』
冗談めかしに言えば、鋼が熱を帯び始める。
バーニアが光を宿しはじめ、飛び立つ準備だ。
『さて、帰ろうか』
■クロメ >
「……」
見てしまえば、そういうことなのかもしれない。
だが、それもまた無粋か。
答えは、別に知る必要もない
「人ならば――思い出に縋り付いた、とでもいうのだろうが。」
機械であれば、そういうものでもないだろう。
ただ、残されてしまったもの。置いていかれてしまったもの。
いや、そこにあるものは大差ないのかもしれない。
自分もまた――
「……守りたいもの、か」
ずきり、と痛む
―…ミ…
声が、聞こえた気がした
「……自分だけ永らえたところで意味はない」
ぽつり、と言葉が漏れる
どこか疲れた声だったかもしれない
「……度し難いな」
一転、デート、などと浮かれたことをいう鋼鉄鎧に冷たい目を向ける
お陰で、意識が覚める
「……もういる意味はないな。戻る」
帰ろう、という言葉に答え。
ともに飛び、戻っていくだろう。
ご案内:「遺跡群」から橘壱さんが去りました。
ご案内:「遺跡群」からクロメさんが去りました。