2024/06/07 のログ
緋月 > 「えーと――。」

少し考え、言葉を選びながら返事を返す。

「私の住んでた里、すっごい山奥の…そうですね、田舎っていう言葉がまだ優しい表現の奥地なんです。
だから、こう…都会の常識が通じなかったり、服装が古かったりで…。」

少し困ったような表情で、そう返事。
だが、否定的な雰囲気が声にないので、「里」を嫌ってる訳ではないのだろう。

「あ、荷物、ご飯とかなんですか。確かにそれなら食べれば軽くなるか…。
えっと、ナユタさん、ですね。ご丁寧にどうも。
私は――――」

数瞬、言葉が途切れ、

「――緋月【ひづき】、と申します。」

そう、名乗り返す。

「……常世、学園。」

思わず声に出る。やはり、聞いた事のない名前。

(学園という以上、学問を学ぶ場…で間違いはないんだろうけど…やっぱり知らない名前だ。)

ご案内:「青垣山 廃神社」に蘇芳 那由他さんが現れました。
蘇芳 那由他 > 「…そうですか。でも、”故郷がある”というのはいい事だと思います。」

過去の記憶がすっぽりと抜け落ちている少年には故郷というものは無い。
まぁ、失ったモノを気にしてもしょうがないので、この島が己の故郷という事にしている。

彼女の語り方も、少し困り顔ながらも否定的なニュアンスが感じられない。
その里を嫌っている訳ではないのだろうし…なら、それはいい事だ、十分に。

そういえば、とリュックサックをおもむろにゴソゴソと探り始めれば。

「少し余ってるのでもしよろしければ。シンプルなおにぎりですけど。」

と、ラップに包まれたおにぎり(具は鮭と明太子)を彼女にお裾分けしようかと。
少年は少し前にある程度食事は済ませてあるから問題ない。

「…成程、緋月さんですね、よろしくお願いします。」

彼女の名前を覚えるように何度か頭の中で繰り返しつつ。
少しの間が気になったが、そこを追求する性格ではない。

「えぇ、常世学園……もしかしてご存じないですか?」

あれ、この島の人なら一応は知ってる気がしたんだけど、と思いつつ。
もし、知らない可能性があるとすれば――…

緋月 > 「…そう、かな。うん、きっとそうですね。」

例え今は帰郷が許されなくても。
その言葉は、声になる前に飲み込んだ。
と、そんな間におにぎりを差し出されれば小さく腹の虫が自己主張。

「あははは…ども、ご馳走になります。」

素直に受け取り、ラップを外すと一口。
鮭と明太子の塩味が空腹に染み渡り、思わず笑顔に。

「……えっ?」

その笑顔が続いたのは短時間だった。
もしかして ご存じ ないんですか。
掛けられた言葉に、つい声が漏れてしまった。

(失敗した…! 常世学園という施設は、この地域に住む人にはあって当然の施設なのか!
やばい、どうする、どうしよう、ごまかす? 正直に吐く?
どっちが最善…?)

冷や汗をかきながら非常に気まずそうな雰囲気が表情に出ている。
具体的にはどこぞのウサギさんのような、口がバッテンになりそうな勢いで。

蘇芳 那由他 > (多分、色々と訳ありっぽいんだろうな…。)

うん、そんな気がするだけだが。
実際訳ありの人なんてそれこそあちこち普通に居るだろうし。
なら、”凡人”としては当たり障りなくただ尊重しておこう。
「水筒もまだ中身がある程度残ってますので、中身は麦茶ですけどいかがですか?」
と、そんな呑気な会話をしつつも…つい、漏れたような声がお隣から。

「………。」

あ、これは触れちゃいけない所だったかもしれない。
非常に、僕でも分かるくらいに気まずそうな感じが緋月さんから見て取れた。
ただ、何となく察しはしたけれど…。

「まぁ、”初めての土地”って色々と気を張りますよね。」

と、そんな言葉を掛ける。別に彼女に対して何かをする事も無い。
僕がしているのは、ただの小休止で偶然出会ったこの人と雑談しているだけだ。

「ただ…余計なお節介かもしれませんけど、一度”あっち”を見てみるのは無駄にならないと思います。」

主に学生区が見える方角を指さす…が、ちょっと方向がズレた。恰好つかないなぁ。

緋月 > 少しの間、冷や汗をかきながら口バッテンのウサギさん状態になってた書生服姿の少女。
が、幸いにも色白の少年が事情を知らなかったのか、あるいは気を利かせてくれたのか。
とりあえず、「知らないフリ」をしてくれたお陰で助かった。

(…多分、知ってて知らないフリしてくれたんだろうなぁ。)

などと思いつつ、残ったおにぎりをむしゃり。

「…はい、そんな所です。
色んな所を旅して、歩いてきたから…「初めての土地」は、色々と。」

と、曖昧にぼやかす。
もしかしたらこちらの事情を察しているかもしれないとは思いつつ。

「…あそこ、ですか。
そうだなぁ…いつまでも野宿って訳にはいかないからなぁ……。」

後ろの方は独り言じみた、ちょっと小さなぼやき。
少年の方に向き直ると、軽く一礼。

「色々、ありがとうございます。
暫く休んだら、あっちに行ってみますね。…あ、麦茶貰えますか?」

厚かましくてすみませんが、と言いつつも、選択肢を貰えた事には感謝の言葉を忘れなかった。

蘇芳 那由他 > 最初、一目見た印象は落ち着いて凛とした感じの人だったけど、結構コロコロと表情や態度に出る疑惑が…。
ただ、自分の推測が正しいなら彼女は【不法入島者】の立場となるかもしれない。

(…”どういう場所から来たか”次第だけど…。)

あまりに本来の彼女の居場所と違っていたら、カルチャーショックとか色々ありそうで。
それよりも、こういう場合は本来、生活委員辺りに通報して彼女の身柄を保護して貰う、辺りが一番だろう。

(…でも、いきなり知らない土地に”流れ着いた”かもしれない人を…。)

そこまで考えて軽く少女に気付かれないように吐息を漏らす。
責任逃れをしたいだけか自分は。偽善でも何でも本来そうするべきだろうに。
彼女の言葉に相槌を緩く打ちながら、取り出した水筒のカップに麦茶を注いで手渡そう。

「…あ、もしもの話なんですけど。本当に”困ったら”あの街の生活委員会、という所を尋ねてみてください。
一応、緋月さんと”似たような事情”を抱えて暮らしている方も珍しくないので、この島は。」

と、通報ではなく手段の一つとして生活委員会に届け出て”保護”して貰う事を控えめに提案。
ただ、彼女の自由を妨げたくはないので、あくまで提案するだけだ。選ぶのはあくまで緋月さん自身であるべきだ。

(まぁ、この島について知っていく必要があるだろうし…。)

でも、僕がやっているのは結局ただの”見逃し”かもしれない、とは思う。

緋月 > 少年の心中を知ってか知らずか、書生服姿の少女は麦茶を受け取るとこくこくと飲み干していく。
一息つくと、お礼と一緒にカップを返し、続く言葉を聞けば小さく思案顔。

「困ったら…かぁ……そうですね、選択肢は多い方がいいし…。
「似た事情」の人がいるなら、多分悪いようにはならない、かな。」

ゆるっと考えて、そう決める。
自分のような、知らぬ間に紛れ込んでしまった人間がいるのならばその例に倣うのも悪い選択ではない。
何より、いつまでも公園での寝泊まりを続けていれば警察機関の類がうるさくなってくる。

「何だか、色々お世話になっちゃって、ありがとうございます。
ナユタ君はいい人ですね~。」

軽く笑顔を浮かべながらそう一言。
裏表のなさそうな笑顔である。能天気気味とも言えなくもないが。

蘇芳 那由他 > 「ですね…ただ、”このまま”だと身動きが取り辛くはなってくるかもしれません。」

自分も記憶喪失で保護された時がそうだったが、戸籍や身分証が無いと色々と制限もある。
勿論、落第街みたいな場所もあるから案外どうにかなるかもしれないけど…と、少し悶々と悩む。
あくまで今後どうするかは彼女次第なので、自分が思考を巡らせても余計なお世話過ぎるのだが。

「いえ…良い人かどうかは何とも。正直”逃げ”であるとも思ってますので。」

本当に親切とか良い人なら、真っ先に生活委員会とかに通報して彼女の身柄を保護。
そのあと、事情を聞いてもらって学生に取り敢えずなる、というルートもあった筈だ。
学生になっておけば、少なくとも公的な場所は動きやすくなるだろうし…でもなぁ…。

(…と、僕が堂々巡りしてもしょうがないかぁ。)

実際、お隣の少女は裏表のない良い笑顔だ。能天気…いやポジティブなんだと思いたい。

「…もしよろしければ、僕も休んだら学生区に戻るつもりですので途中まで一緒に行きませんか?」

と、そんな提案をついでに。別に変な魂胆などは無く、単純なこれもお節介だ。
一応、学生である自分と歩いていれば風紀委員会とかにも目を付けられ難い…筈…。

緋月 > 「んー…流石にそれは困るかなぁ…。
都会って所は、ホントに大変だなぁ。」

心当たりがあるのか、ついしみじみと口にしてしまう。
身動きが取り辛くなるのは、正直困る所ではある。

「逃げでも何でもいいと思いますよ。
実際、私の事をその…えっと、生活委員会?に話してしまうって選択肢も取れた筈なのに。」

そういう意味では、あまり猶予はないにせよ、自分で見て回って判断する時間が得られたことは有難い。
一度、学生区という所を見てみるのは悪くない選択だろう。
勿論、自分の現状を悟られないよう気を付けつつ。

「いえいえ、そこまでお世話になる訳にもいかないですよ。
もし何か揉め事があったら、ナユタ君にも迷惑がかかりますし。
それにこう見えて私、足とか速いですから!」

ドヤァ、と言いたげな態度。
態度は兎も角、何か問題が起こった時に目の前の彼の立場が悪くなるのは避けようとはしているようだ。
態度は兎も角。

蘇芳 那由他 > 「…まぁ、僕も実は昔の記憶が抜け落ちてる記憶喪失なので、最初は色々戸惑いましたね…。」

都会云々とはまた全然違うあれだけど、いきなり保護されて数か月は色々気まずかった。
まぁ、今は時間も経過してそこはそれ、割り切れるようにはなってきました。

「…それが最善だったり義務だとしても、緋月さんの”選択肢”を狭めたくはないですから。」

その選択肢すら無い人たちも居る事を考えたら、尚更に自分が人の選択肢を狭めたくない。
それこそ偽善かもしれないが…なんて。
ともあれ、彼女自身に”この島”を見て貰って今後の身の振り方を考えてもらうのが良いと思っている。

「……確かに、緋月さん僕より全然動けそうというか体力ありそうな。」

刀袋にもちらっと視線を向けつつ。おそらく腕に覚えもあるんだろうな、と。
喧嘩レベルの戦闘行為がおそらく限界の自分には想像つかないものだが。

「分かった、じゃあ白状しましょう。…僕、方向音痴なので正しい方向感覚ありそうな緋月さん居てくれた方が無事に帰れそうなんです。」

その場で正座しつつ。土下座もした方がいいかな?
実際、ここで別れて一人で帰宅しても多分余裕で半日とか掛かりそうな気がする。

ご案内:「青垣山 廃神社」に蘇芳 那由他さんが現れました。
緋月 > 「あー…記憶喪失…聞いた事はありますけど…そっか、ナユタ君も大変なんですね…。」

ちょっと悪い事を口にさせてしまったかな、と反省。
後悔は引き摺るものではないが、反省はするべきものです。

「それ。そういう所が"いい人"っていう事です。お人好し、なんていう人もいるだろうけど……。
でも、頭ばっかし回る嘘吐きと騙されやすいお人好しなら、私はお人好しのが好きです。」

そう言いながら、またふわりと笑顔。
少年のお陰で得られた選択の為の時間を無駄にはしたくない。

「……ホント正直者ですね。
分かりました、そういう事情があるなら――えっと、あっちの遠い方が学生区、だったっけ。
そこまで送って行けばいいんですね。」

正座してお願いしてくる少年に、ちょっと困った笑顔を浮かべながら、刀袋を手に取り立ち上がる。

「分かりました!
じゃ、あっちまでお送りしますね。方角は……今、太陽があそこだから…うん、大体分かります!」

任せろ!と言いたげな表情でとん、と軽く胸を叩く。
自信満々だ。

蘇芳 那由他 > 「あー、僕の場合、失った記憶についてはもう気にしてません。
それはそれとして、今の僕がどう生きるかの方が大事なので。」

過去が無いからと悲観しても、マイナス思考になるだけでいい事なんて何一つ無い。
幸い、言語機能やら最低限の知識は記憶を失ってもあったのが幸いだ。
だからこそ、こうして今は学生の一人として生活できているから問題ない。

「…ありがとうございます。」

こそばゆいのか、ちょっと視線を逸らしつつ礼を述べる。
視線を逸らしたりして少しぶっきらぼうに見えてしまったら申し訳ない。
あまりそういう事を言われたことが無いので、どうしても照れ臭さが拭えない。

…まぁ、でも。緋月さんの笑顔を見るとこの人も十分に良い人だと思えるけど。

「…最近自覚したんですけど、僕一人だと本当に数時間とか余裕で掛かるので。」

少し遠い目になりつつ。方向音痴はもう認めるしかない。
彼女の言葉に頷きつつ正座をいそいそと元の姿勢に戻しつつ。

「ええ、それで十分助かります。」

ほっとした様子でこちらもリュックを背負って立ち上がる。
そうか、太陽の方角とかで位置関係を探るのもありか。と、納得しつつ。

「じゃあ行きましょうか。小休止もしたので体力も回復しましたし。」

彼女に比べたらアレだが、街まで帰るなら十分だ。
ともあれ、彼女と一緒に歩き出しつつ。

「――色々”見て”緋月さんの納得行く落とし所が決まるといいですね。」

と、そんな言葉を。彼女が評してくれたように、この少年はやっぱりお人よしの類なのかもしれない…

緋月 > 「…それもそうだね。
うん、ちょっとだけごめんなさい。今が大事なのは私もおんなじ。
自分で分かってる筈なのにね~。」

少し曖昧な笑顔で、少年の答えには謝罪とどこか自身を顧みるようなぼやき。

「数時間か…確かにそれ位歩くと、普通は体力とかかなり使うよね…。
問題なく帰れる方法があると良いんですけど。地図とか。」

携帯端末の地図アプリ、という言葉ではない所にカルチャーギャップがつよく横たわる。
書生服姿の少女の頭にあるのは間違いなく紙製のアナログな地図だ。

「うん、そうですね。
ナユタ君のお陰で折角貰えた猶予だから、大事に使わなきゃ。
――それじゃ、出発しましょうか!」

と、少年の方の準備ができたのを確かめてから、軽く腕を回して先導するように歩き始める。
様子を見ながら時折小休憩も挟みつつ、無事に学生区まで帰り着く事が出来る筈だ。
学生区まで辿り着けば、笑顔で別れの挨拶を交わし、別の道を行くことになるだろう。

ご案内:「青垣山 廃神社」から緋月さんが去りました。
ご案内:「青垣山 廃神社」から蘇芳 那由他さんが去りました。