2024/06/18 のログ
■緋月 > 「あはは…今の私には、途轍もなく遠い道のりだと思いますが。」
泣きそうな顔で、それでもおどけたように笑って見せる。
「考えることは、あったんです。
斬れないものを斬る事は出来ても、斬れてしまうモノを斬らずに振るう事の出来る業は、実現できるのか、って。」
それは、己の収めた技に対する大いなるアンチテーゼ。
あるいは、新たな境地と呼ぶべきか。
子供の願いと笑うは容易い、が、挑んでみなくては始まらない。
かつて、風を斬ろうとした、大いなる馬鹿者のように。
「条件、ですか? はい、なんでしょうか?」
提案には、小さく首を傾げる。
■ノーフェイス >
「剣理はよくわかんないんだケドね」
なにせ、武術体術――と呼べるものは、必要に迫られて会得したもので。
その道や、深奥に迫る心得なんていうのは、さっぱりわからないので。
「――――ボクがイイと思うのは。
キミが理想の自分を持っているというコトのほう」
ふに、と頬を優しく撫でた。
演奏者の、硬い指が。
「目指すべき自分の姿がある……キミの語るそれは、かなり、確かだ。
……それに対して、自分が劣り、欠けた、醜い者だと自覚している。
心にたしかな飢えを感じながらも、それに身を任せずに、逃げずに。
理想も、飢えも……得られないまま生きて、死ぬ人が、たくさんいるんだ。
こんな平和な世界では、特にね……」
目を閉じる。洗礼を与えるかのように。
それはきっと、社会としては正しい姿なのだ――でも。
「社会と折り合うことを目指し……途方もなき、荊の道を歩むなら。
ボクは、キミの前途を心から祝福する。踵を破られて彩る、朱色の足跡を。
もし惑い、苦しむことがあれば、理想の自分に問いかけるといい。
きっと叱ってくれるだろう。奮い立たせてくれるだろうから」
それは、途中で折れることを赦さぬ、あるいは呪い、戒めでもあった。
人間は、誰しも欠けて生まれる。
あまりにもみにくく、未完成に。
ゆえに、誰かとふれあい、自分を磨き上げ、断片を得ていって――完成に近づくために、生きるのだ。
この存在は、そう考えていた。
■ノーフェイス >
「……でも、ね」
目を開けた。
悪戯っぽい姿が戻って来る。
「ボクは、ほかのひとといっしょじゃヤなんだよ。
なんてったって一番星なので。やすやすと、がんばったからって。
いちばん深いところにあるヒミツまで、剣を迎え入れるほど安くない」
だからさ、と笑って。
つつつ、と腹筋を、返した手首、指先がなぞりあげた。
「どうしても、どうしてもと。
ボクを識りたいと求めてやまなくなるくらい、好きになって欲しいかな。
それだけキミにとって、至上の特別なる想いだと、たしかに至ったときになら。
喜んで、完成したキミの魔剣にこの身を委ねよう」
ほかのだれかと変わらない目的になんざ、なるつもりはないからな。
「とうぜん、ボクもキミのことはもっと識りたい。
その生き方をみていたいというのもあるし――
いろいろ、ふしぎな人生を歩んでいるようだ。
……どうだろう?ひらたく言うと口説いてる」
■緋月 > 「理想の、自分、ですか……。」
そのような言葉を返されるとは、思わなかった。
不斬の一刀。理想どころか、御伽噺と笑われる方が当たり前だろうと。
刀は斬る為に存在する。それで以て、「斬らぬ」技を振るうなど、大いなる矛盾。
だが、目の前の麗人は、それを笑うどころか、真剣に背を押してくれている。
例えそれが、折れる事許さぬ堅き鎖であったとしても。
「――はい。
例え六道廻る遠く険しき道行であろうとも、
必ずや、"理想"に辿り着いて、見せまする――!」
こちらが素に近いのか、少々堅苦しい言葉。
そして、「条件」を切り出されれば、
「――――――は、はぁぁぁぁ!?」
ぼふ、と顔を真っ赤にしながら、素っ頓狂な叫び声。
「そ、その、ノーフェイスさんの仰る、好き、というのは、つまり、その、"そういう"事、でございましょうか!?
で、ですが、ノーフェイスさんは女性では……いや、偶然拾い見た絵物語に、女同士でそういった事に
及ぶ物語もありますし、今の時代珍しくない…?」
顔を真っ赤っかにして大混乱。
変に知識だけあるせいで余計混乱に拍車がかかっている。
「――そ、その…私、色恋の経験がないものでして。
そういった感情がどういうものか、よく分からぬ粗忽者ですが……
――分かりました! その暁には、然るべき気持ちを以て、望みたいと、思います…!!」
視線がぐるぐるし始めている。
初心な少女には、今の所これが精一杯。
目の前の麗人の事をより知って、他の人の事も彼女なりに知って。
そうして、目の前のこの人しか見えなくなる程の想いを、抱ける時が来るのだろうか。
■ノーフェイス >
「んン?いや、そういうでもどういうでもいいケド……
……へぇ~?思ったよりそういうコトに興味あるタイプ?
ほんとに偶然?エロ本拾ってそこまでの情報得てるのってわりと決断して読み進めてなあい?
あ、ていうかもしかして思ったより脈ある?このまま押しちゃおっかな~……?」
にやにや。意地悪そうな笑みを向けて、彼女の言葉尻を掴んでしまう。
なんともまあ、面白い反応。とっても嬉しい限りのこと。
「あ、ちなみにボクは全然女の子スキだから。
そーゆーのに偏見もございません。すべての垣根は情熱の前に壊れるべきだと思ってまーす」
するり、体を離して。
もう必要のなくなった熱が、初夏の風に溶けるように。
「とりあえずは……じゃあ、おトモダチになろ。ひとまずは」
余計な後押しは、もうない。あとは、彼女の自己実現と証明を――見届けるのみ。
さて、とその場を辞そうとしたところで。
「あ――できれば、そうだね。ボクの音楽を、きいてほしい。
しらべれば、ききかたはわかるはず――無料できけるようになってるからね。
キミの剣にまつわる想いと、非なるものでも似たものを、そこに置いてきてる。
会えていないときでも、ボクがいつでもキミの傍にいれる、優れた方法なのさ。
フフフ。こうしてファン獲得に余念がないのもボクという人間なんだよな……」
じゃあ、と。
顎にそっと手を添えて、みずから歯を食い込ませた彼女の唇――拭われてもなお。
滲んだ血を、そっと親指で拭って。
■ノーフェイス >
「――ンじゃ、またね。緋月」
ちろり。
朱に染まった親指を、目の前で、赤い舌先で舐めてみせて。
そのまま、身を翻して石段を辞する。
蠱惑に、謎に、甘く、紅く。
しかして試練の権化は、彼女の心に荊を這わせて――その行く末を祝福する。
■緋月 > 「え、あ、はい! またいずれ!」
蠱惑的な仕草にどきりとさせられながら、ぶんぶんと手を振り、少女は麗人を見送る。
その姿が見えなくなり、そっと唇の傷に触れ、その言葉を思い返していたら、また顔が熱くなった。
「ぅぅ…何だか、殆ど手玉に取られてしまったような気持ちです…。
――ええい、煩悩退散! 煩悩退散!!」
煩悩を打ち払うように、激しく素振りに打ち込む。
無駄に力が入ってしまい、大振りなものになってしまったが、それでも刃筋の修正は無意識に行っていた。
「は――ふ…。」
思い切り動いて汗を流せば、雑念と煩悩も流れて、頭が明瞭になって来る。
麗人の言い残した言葉が、甦って来る。
「うた…と言っておられましたね。
後で、どなたかに訊いてみましょうか。
……興味も、湧いてきましたし。」
丁度良い区切りである。
身支度を整え、帰宅の準備。
帰ったら同居人に訊ねてみようかと考えながら石段に足をかけた所で、一度振り向く。
「――理想は、理想にて終わらず。其は唯の幻想也。
実現してこその、理想也。」
ふ、と短く息を吐き、己を戒める。
漠然と捜し歩いていたものが、形を持って見えてきた。
それを逃してはならないと心に刻み付け、少女もまた廃神社を去っていく――。
ご案内:「青垣山 廃神社」からノーフェイスさんが去りました。
ご案内:「青垣山 廃神社」から緋月さんが去りました。