2024/07/19 のログ
ご案内:「青垣山」にゼアさんが現れました。
■ゼア >
なつやすみ。
人間にとってこの五文字には、どうやら特別な感情を想起させる力があるらしい。
少し前の話。ゼアが商店街の服屋(本当にいろいろとお世話になっている)の親切なおじさんに、夏用の麦わら帽子を見繕ってもらっている間、こんな会話をした。
『ゼアちゃんは、もうすぐ夏休みだろ。何か予定はあるのかい?』
『なつやすみ? ってなあに?』
ノータイムでゼアがそう返すと、おじさんは驚いて、しかしすぐに表情を緩め、夏休みのなんたるかを教えてくれた。
話を聞けば、まあ楽しそうなこと。海水浴夏祭り魚釣りキャンプバーベキュー――――なぜか乱入してきたお客さんたちも交えて、とてもとても賑やかに。
喧々諤々の議論の最中、ゼアの心は浮き立ってしょうがなかった。
やったろーじゃない。
脳内の『やってみたいことリスト』に次々と項目が追加されていく。
決意。今年の夏、ゼアは人間の夏休みを満喫する。
――ゼアのなつやすみ。
■ゼア >
「いやああああっ!」
ゼアにしては珍しい、大きな悲鳴を上げて転げまわる。
夏の青垣山の青空を切り裂く甲高い叫び。
「これが……人間の虫取り……すっごくハードな遊び……」
"それ"にブン投げられたところをすぐ立ち上がって、ゼアは己を転がしたその存在を見据える。
――トコヨオオカブト。
全長5m近くにも及ぶ、虫……というよりは、一種の怪異である。
でなければこんなクソデカいカブトムシがいるものか。
なんてことはない、普通の虫取りのはずだった。
虫がいるところといえば、山。山といえば、青垣山。
そんな単純な思考で出かけた山に、まさかこんな存在がいようとは。
■ゼア >
だが、これは逆にチャンスでもあった。
――でっかいカブトムシ! 捕まえれば自慢できる!
単純な思考。とりあえず町中に連れ込むのだけはやめてほしい。
「ちぇすとーっ」
カブトムシの頭部に虫取り網を叩きつける。
「いやあああっ」
カブトムシ、意に介さずゼアを投げ上げる。
そりゃそうだ。
ご案内:「青垣山」に橘壱さんが現れました。
■橘壱 >
常世島 青垣山
インドア派の少年はこんな所に来るのは基本的に無い。
夏季休暇の時期であれど、風紀委員に休みはない。
この島は広い。こういう場所にこそ、紛れ込んだ生徒が危険に見舞われることは多々ある。
特に此処は未開拓地であり、自由に出入り出来るからこそ事故だって起こる。
「……とは言え、早速かよ。」
悲鳴。山道を登る最中に聞こえてきた。近い。
顔をしかめて即座に駆け出した途端、自身の頭上に影一つ。
女の子が、落ちてくる────!
「うおっと……!?重……!?何詰まってるんだよ……!」
咄嗟にナイスキャッチ…にはならない。
生憎少年は鍛えてはいるが超人ではない。
なんとか飛んできた少女を両腕でキャッチしましたが衝撃でガニ股になる始末。
おまけになんと失礼な言葉まで出てくる。育ちの悪さが垣間見えた。
「まったく……おい、大丈夫か。一体何が────」
彼女が飛ばされた方向にはカブトムシ。
「デッッッッッ!?!?!?」
デカァァァァァァァァァイッ!!説明不要ッ!!
余りにもでっかいカブトムシがいる!!
■ゼア >
「いやああああ……あっ?」
吹き飛ばされた身体は、再び地面に直撃――とはならず。
何かに抱き留められる感覚がして、その勢いは突然に殺された。
「うわぉー、ナイスキャッチー。助けてくれたの? ありがとー。よっこいせ」
投げ飛ばされたばかりだというのに、なんとも暢気な声色だった。
そのまま着地。
「あはは、楽しかったーっ。ねえねえ、でっかいカブトムシ。あれ捕まえたいんだけど、どうしたらいいかなあ?」
初対面の少年――しかも白衣という、山には似つかわしくない服装にもかかわらず。
どうやってあの巨大カブトムシを捕まえてやろうかと相談するのは、何故か高いテンションのせい。
思いっきり投げられたのもなんだかんだ楽しかったらしい。
■橘壱 >
「そうだよ、まったく……打ちどころが悪かったらどうする気なんだ?」
ケロっとしているが此処は整備されていない山だ。
雑草に紛れて岩が紛れてもおかしくはない。
案外、生き物は頑丈に出来ていない。簡単死ぬ。
最も、飽くまで凡人の観点なので頑丈な種族だって山程いる。
とはいえ、危険には変わりない。
危険性とは裏腹に陽気な彼女にはちょっと呆れ顔で忠告しておいた。
「僕は全然楽しくないけどね???かなりハラハラだったけど???」
コイツ恐怖心ないのか?思わず少年も顔を顰めた。
そんな少年の腕には風紀委員の腕章、そして重厚なトランクを持っていた。
やれやれ、と思いながらレンズの向こうはでっかいカブトムシ。
「デカいな……5メートル級か?カブトムシ。
トコヨオオカブトの成体か?……え、アレ捕まえるの諦めてないの???」
見た目通り博識な少年。生物学だって勤勉だ。
当たり前のように捕まえる前提で話す少女に目を丸くしたが、すぐに気を取り直す。
「虫だからな……動物のようにはいかないけど……
まぁ、"不可能"じゃない。僕と"コイツ"ならね。」
とは言え、少年は自信満々に答えて見せた。
手元のトランクを見せびらかすように揺らしているそれが、自信の源のようだ。
■ゼア >
「んー? ……あー、そっかぁ。人間って結構簡単に死んじゃうんだもんねえ。
気を付けます。ごめんね」
素直……とはいえ、少しズレた答え。
まあそこそこな怪我をしてもあまり簡単には死なないのがゼアという存在である。
だから危なっかしい場所にも臆せず突っ込むのだが。
「え、捕まえないの? 自慢できるよ? 今度の商店街虫相撲大会でも絶対優勝できるし」
多分その大会は怪異(あるいはそれに準ずる存在)の参加を認めてないのではないかと思うのだが果たして。
「なあにそれ、秘密兵器? すっごい虫取り網みたいな?」
さて少年が見せびらかすトランクに目を向けて、その一言。
思考は虫取り一色に染まっていた。
■橘壱 >
「……、……まぁ、そうじゃなくても怪我するかもだろ?
女の子の肌とか、大事じゃないか。そういうのさ、気をつけなよ。」
その言葉からして異邦人か人外。或いは異能者か。
なんであれ、そう簡単に死なないほどに頑健な生命力らしい。
思うところはあれど、種族間や価値観の齟齬はこの世界じゃ日常茶飯事だ。
不器用ながらも少年の気遣いが垣間見える。
「お前のせいで大会壊されそうな商店街側の気持ちにもなってほしいな???
せめて、自慢するだけにしよう。な?商店街の大会はもうちょっとちっさいやつにしよう。」
このままでは商店街虫相撲のレギュレーションが破壊されてしまう。
何処となくこのほわほわふんわりな雰囲気に翻弄されつつも
少年は少女の肩を掴んで必死に説得を試みる。全てが虫相撲大会の為……。
さて、とりあえず気を取り直してカブトの方に向き直った。
とりあえず逃げる気配がないのはまるで王者の佇まい。
無傷で捕まえるのは骨が折れそうだが、やる価値はある。
「虫取り網より"凄い物"さ。」
そう言うと同時に、トランクを地面へ放り投げ踏み潰す。
ひしゃげた金属が液体のように広がり、瞬く間に少年の全身を包んだ。
その姿はあっという間に鉄機兵。蒼白の鋼の機人となった。
青い一つ目が光り輝き、カブトムシを見据える。
『Assault Frame。ご覧の通りの僕の翼さ。』
鮮明に映るモニターの向こうで、少年は自慢気だ。
■ゼア >
「ん、はい。きをつけます。心配してくれてありがとー」
人に混じって生きていると、色々な人から怪我を心配される。ゼア自身は特に問題はないと思っているのだが。
ともかく、それが気づかい、というわけだった。目の前の少年もそうらしい。
「えー? どっかんどっかん投げるの面白そうだったのにー」
とはいえ目の前の少年があまりにも必死だったので、多分いけないことなんだろうなと思って。
とりあえず常識的なサイズのカブトムシで大会には出ることにした。よかった。
目の前でトランクを踏み潰した少年が――変身する、ように見えた。
白衣を着た人間から、青白二色を持つ機械の体へと。
「おお? おおー!
えー、すっごいすっごーい。変身? かっこいいねぇ」
どうなってるのかはわからないが、とにかく凄いことだけは感じる。
瞳にきらめきを灯して、少年が身に纏う機械の体を眺めた。
■橘壱 >
『ふ……そうだろう、カッコいいだろう?
コイツは僕専用のAF、Fluegele。
そもそもAFというのはパワードースーツの一瞬でね。これを装着することにより────……。』
オタク、褒められると調子に乗る。
それこそ鉄仮面の奥では自慢気に頷き腕を組んでいます。
おまけに説明までしてくる始末。オタク、好きなことにはめっちゃ話が長い。
それこそ15分位みっちり続いた。ぶっちゃけ凄いパワードスーツという見解で間違いない。
そんな長い説明も露知らず、オオカブトは樹液を舐めてのんびりしていました。
『まぁ、とにかくアイツを捕まえたいんだろ?
ペットにするか知らないけど、そうでないならちゃんと逃がすんだぞ。』
『さて……それはそれとして、女の子のお願いなら聞くしかないのも男だな。』
自然の大事な命だ。無碍に扱う事は出来ない。
勿論このAFなら無傷で捕まえることも可能だ。
右手をオオカブトに向けると同時に
ボシュッ、と射出されたのワイヤーネット。
頑丈性と柔軟性を持った特殊な異界の材質を使ったワイヤーだ。
どんな生物の肌にも食い込むコト無く、優しく包みこんで逃さない。
本来、違反者を無傷で捕縛するための兵装だがあのオオカブトなら相違ないだろう。
事実、キッチリとオオカブトを包みこんだ。
もう逃げ場ない。但し、問題は……────。
『……!』
大自然の力。侮ることなかれ、大きさは伊達ではない。
当然オオカブトも抵抗する。予想以上の力でネットを引かれ、アームが軋む音を上げて拮抗状態。
バーニアを使えばその加速で引っ張れるが、整備もされていない山だ。
そんな場所で吹かしてしまえば、あっという間に山火事だ。それは出来ない。
だが、しかしこのままでは引きちぎられるかも知れない。
『思ったよりも……力があるな……!
おい、アンタ……!実は力に自慢あったりしないか?』
『或いは、何かデッカい重しとかその辺にあったりしないか?』
■ゼア >
「んー、あー、なるほどー」
頭の作りがあまりよろしくないゼア。後半は半分くらい生返事で聞き流していたような気がする。
早く捕まえたいなー、あれ。でも途中で遮るのも悪いなあ。なんだか楽しそうだし。表情わかんないけど。
さて、そんなこんなで15分。説明が終わったらしい。
そして何やら右手をカブトムシのほうに向けたかと思えば、網が射出されて、カブトムシの体を包み込む。
言ってしまえば、これも"すっごい虫取り網"みたいなものだろうか。
「おおー」
と、感嘆の声を挙げたのも束の間、流石に体格差によるものか、機械の腕が軋む音。
今でこそ拮抗してはいるが、数秒後にもどうなるかわからない。
――そこで、"力"、"重し"の言葉。そりゃあもう、やれることなんて決まっている。
「――自信、あるよーっ。どうすればいーい?」
"大きくなる"準備は万端。さあどうする。
■橘壱 >
ギリギリギリ。アームの耐久力は問題ない
この程度で壊れるほどヤワじゃないが、問題はワイヤーの方。
虫というは人間サイズになると化け物みたいな力になると何処かで聞いた。
まさにそれだ。それも5メートルの化け物サイズ。
大自然の王者の力は伊達ではない。このまま引っ張り合えば切れる。
『そーか……!じゃあ、ワイヤーを…!持ってくれ!
そしたら自慢のパワーで抑えて、くれるか……!』
『そしたら僕が、大人しく……ぎぎ……!するから……!!』
パワードスーツなので引っ張るのは少年本人。
力に引っ張られてギリギリと奥歯を噛み締めて喋るのも大変そう。
やはり、力には自信があるらしい。ならば、それに掛けてみよう。
こういう遊びだからこそ全力を出すのは、ゲームチャンプの矜持だ。
ピン、と張り詰めるワイヤーを必死に顎で差した。大分余裕がない。
■ゼア >
「あいあいさーっ。
そー……れっ!」
光と共に、《巨大化》。
身長約8m、力自慢のモード。
「はいっ……とと」
顎で示されたネットを、片手で掴む。
流石に《巨大化》をしているといえども、余裕綽々とはいかない。
何度もぶん投げられたそのパワーは伊達ではない。ゼア自身よく知っている。
――だけども、今ならそれにだって負けない。
「よっこいせー!」
片手でしっかりと掴んだ網を引っ張れば。
拮抗していた力の天秤が、間もなくこちら側に傾くだろう。