2024/09/10 のログ
ご案内:「青垣山 廃神社」に緋月さんが現れました。
■緋月 >
「――――っ、はぁっ、はぁ…っ……!」
夕焼けも近い、青垣山の廃神社。
その境内に、暗い赤色の外套に書生服姿の少女の姿があった。
大きく肩を上下させ、荒い呼吸を繰り返す。
顔からは、汗が滴となって落ちていく。
「……ここにも、いない……!」
昨晩から、島中を駆け回り続けていた。
食事も最低限、碌に睡眠も取っておらず、目の下にうっすらと隈が出来上がっている。
今は、時間も惜しい程だった。
「いったい、どこに……!」
探しているのは、昨日の夕方に忽然と姿を消してしまった――友人。
もう一度会わねばならないと、島の主だった所はひたすら駆け抜けていた。
一緒に遊びに向かった所は既に当たった。
危険地帯である落第街やスラムも、可能な限りの範囲を探し回った。
……それでも、見つからない。
思わず、涙がこぼれそうになるのを、歯を食いしばって堪え、顔じゅうに
浮いた汗を乱暴に拭い取る。
「次……何処を、探そう…。」
■緋月 >
「……いこう。」
眠気と空腹で、思わずよろけかけた所を、何とか踏ん張る。
此処に居ないなら…危険だが、突っ切って来た転移荒野を少し念入りに
探して回るべきだろうか。
それとも、此処から少し距離を取って、立ち寄った覚えのない研究区を当たってみるべきだろうか。
ふらり、と踵を返し、一歩を踏み出そうとした所で――――
■投刃 >
――轟、と風を斬り、少女の行く手を遮る形で、
鈍い音を立てて一本の刀がその直前に突き刺さる。
■緋月 >
「…!?」
突き刺さった刀に、思わず冷や汗が首の後ろを伝う。
もし一歩間違っていたら、自身に直撃していたかも知れない。
(殺気が、感じられなかった…!
いや、私の方が鈍っているのか…!?)
兎も角、仕掛けて来た以上は何らかの害意を持っているから、だろう。
「……何者だ! 姿を見せろ!」
叫びながら、刀が飛んできた方角に目を向けるが――誰も、いない。
■くぐもった声 >
「――何処を見ている、未熟者が。
気配を探る事も満足に出来ない程に鈍ったか。」
■緋月 >
「!?」
声がしたのは――背後!?
素早く後ろを振り向けば――其処に立っていたのは、能面と思しいが、見た事もない
デザインの面を身に着けた、黒いコートに赤いマフラーの男。
その素顔を隠すのは、所々が金で装飾された、白灰色の狼を思わせる面。
篭手と思しき防具と肩当で固められた右腕が、小さく金属音を鳴らす。
「………。」
その姿を目にして、書生服姿の少女が感じたのは、
(………この男……強い……!)
――純然たる実力の差。
疲弊した体でも分かる程の、隠していて尚感じ取れる強大な剣気――!
■狼面の剣士 >
「――ほう、実力の差を感じ取れる位には、判断力が残っていたか。
さんざあちらこちら駆けずり回って、体力も尽きかけだと思ったが、思ったよりはやるようだ。」
そう言いながら、狼面の男は小さく地を蹴る音と共に姿を消す。
書生服姿の少女がその姿を見失い、混乱している間に――その姿は
いつの間にか、忽然と地面に突き刺さった刀の傍に。
ざ、と刀を引き抜く音でその存在を感知した少女の顔が、驚愕の色を浮かべる。
■緋月 >
「――――!!」
速い。
書生服姿の少女の背に、更に冷えるような汗が流れる。
……一体、目の前の男――声からして男だろう――は、何をしたのだ。
移動手段は、縮地法を思わせる。
だが、あれだけの剣気を持ちながら、刀を引き抜く音がするまで、
全く気配を感じ取れなかった――!
「……っ…!」
思わぬ脅威の出現に、呼吸が浅くなる。
心臓の鼓動も、ひどく速くなった気がする。
…いけない、睡眠不足が祟って、脚がふらつきそうだ…!
「………何者か、知りませんが……私は、先を急いでいるのです…!
用がないならば、失礼――!」
精一杯の虚勢と、剣気を放って、強引にその傍を通り過ぎようとした、次の瞬間。
■緋月 >
「――――え。」
ぐるん、と、視界が狂い、天と地が回転する。
一瞬、脚の自由が利かず、宙を舞うような感覚があったと同時に、
どすん。
「か――っは……!」
受け身も取れず、仰向けに地面に叩きつけられる。
頭は何とか守ったが、背中をしたたかに打ったせいで、咳が止まらない。
そんな間に、狼面の剣士は――少女の眼前に刀の切っ先を突き付けていた。
■狼面の剣士 >
「……全く、大した勢いの良さだ。
お前が何を探しているのか、何のために駆けずり回っているのか。
そんな事は俺にはどうでもよい。」
ひゅん、と、腰に鞘を戻す音。
理屈は簡単。刀に気を取られていた少女の足を、素早く鞘で払い上げただけ。
万全ならば、脚を取られても姿勢を正す位は何とかなっただろう。
それが出来ない事が、少女自身の焦りと、疲労による注意力の不足を物語っている。
「だがな、その無様な姿で、今のお前に何が出来る。
碌に食事もせず、睡眠も取らず、気も乱れ放題だ。
全く――――」
■狼面の剣士 >
「仮にも九天無骸流を修めた者の取るザマか、未熟者め。」
■緋月 >
「…………え。」
今度こそ。
心から、少女が驚愕する瞬間だった。
「なぜ、その名前、を――」
そう、何故、
己の修めた剣術の、真の名前を知っている――!?
大きく咳き込みながら、何とか少女は立ち上がる。
この男――九天無骸流の名を知り、尚且つそれを平然と口にするという事は――――
■狼面の剣士 >
「そんな事は今はどうでもいい。」
狼の仮面の男は、少女の疑問を文字通りに斬って捨てる。
すらり、と、刀を鞘に戻し、改めて少女の行く手を、黒い剣士が塞ぐ。
「――そんな無様な有様では、此処から先に行かせる訳にはゆかんな。
先に進みたければ、実力で納得させて見せろ。
その刀袋の中身は、只の飾りか?」
辛辣な挑発の言葉と共に、す、と体を落とす。
――見まごうこともなき、居合術の構え。
■緋月 >
「こっ、の……!」
焦りに加え、挑発を受けた事で、書生服姿の少女の頭に一気に血が上る。
素早く刀袋の紐を解き、中にしまわれていた愛刀――月白を抜き放ち、構えを取る。
「……命は取らない。
だが、大怪我を負っても恨んでくれるな…!」
ハッタリだ。そうに決まっている…!
願いにも似たその一念で、書生服姿の少女は刀を振るう――。
「空ナルヲ断ツ――!」
空を裂くという事は、即ち空間の断裂。
まともに受ければ、防ぐことも儘ならずに両断される、必殺の一太刀――――
■狼面の剣士 >
「――甘いな。」
書生服姿の少女が放った一刀を見て、其処から狼面の剣士が動く。
少女の斬撃は、疲労を差し引いても充分に速かった。
それを確かめてから放ち、尚且つ上回る、後の先の太刀――。
『……界ヲ斬ル。』
瞬間、狼面の剣士の姿が消える。
「界」を斬った事による、世界のズレ。
其処に紛れ込んで、姿が一時的に見えなくなったのだ。
――空を斬る一太刀であっても、その空が在る「界」を断たれれば、
空間断裂の太刀筋であっても容易くずらされる。
更に、狼面の剣士の界を断つ斬撃はひとつに非ず。
複数回の閃きが、ずるりと「界」を斬り、ずらすという怪奇を見せ――
容赦なく少女に叩き込まれる。
幸いにも、打撃のような痕だけで、切り傷を負うには至らなかったが。
■緋月 >
「う、そ――――」
苦悶の声を出す間もなく、書生服姿の少女は手酷く叩きのめされる。
命を奪う気はなかったとは言え、必殺の覚悟で放った斬空は容易く斬られて
太刀筋をずらされ、相手には届かず。
逆に、「界」を斬る複数の斬撃が、自身に叩き込まれた。
不思議な事に切り傷こそ負わなかったが――それでも、とんでもない痛みが身体に走る。
(私の、界断チより――ずっと、鋭くて、速い…!)
身体を支えきれず、今度はうつ伏せで倒れ伏す。
事、此処に至って、少女は認めざるを得なかった。
型こそ、居合重視という違いはあるが、目の前の黒い狼面の剣士は、
自分と同じ流派の技を用いる者。
のみならず、その実力は――――
恐らく、自身のはるか上を行く、強者。
■狼面の剣士 >
「――どうした。
随分と気炎を吐いていたと思ったが、まさかそれで終わりか?」
再び、狼面の剣士は居合の構えに移る。
その姿に、余裕じみた物こそ感じられても、油断も、慢心も、
凡そ不利になるであろう精神の乱れが、まるで感じられない。
実力差があろうとなかろうと、関係はない。
ここで、少女を容赦なく叩き伏せるという明確な意志だけが伝わる――!
■緋月 >
「っ……うぅ…!!」
容赦のない言葉に、苦痛を引きずりながらもよろよろと少女は立ち上がる。
残された精神力を絞り尽くし、再び刀を八相に構え――
「…っあああぁぁぁぁ――――っ!!!」
――最早、頼みの綱は己の精神力のみと言わんばかりに、
黒い剣士へと目掛けて、斬りかかる――――
■狼面の剣士 >
――――十数分の後。
「……気合だけは充分だったが、生憎気合だけで何とかなる程、
世の中は甘く出来てはいないものだ。」
廃神社の拝殿、その階段に腰を下ろした狼面の剣士が独りごちる。
視線を向ければ、其処には拝殿の軒下に横たわる書生服姿の少女。
外套を毛布代わりに、気絶同然で睡眠に入っていた。
「――疲労困憊の状況で、あそこまで粘ったのだけは、買ってやろう。」
そう、聞く者のいない呟きを宙に放る。
空を眺めれば、既に日は落ち、空には星が見える。
「今は精々休むがいい。
起きた後は食事だ。
――精神だけで何かが通る程、世の中は優しくない。
行き付く所が何処であれ――身体の調子は整えておく事だ。」
ご案内:「青垣山 廃神社」から緋月さんが去りました。