2024/10/12 のログ
ご案内:「青垣山 廃神社」にノーフェイスさんが現れました。
■ノーフェイス >
夜中の拝殿跡に、ひとり。
座り込んでは手元で多面体を弄ぶ。
色々と、甘い時間に耽るには多すぎる問題に拗ねているのはほんの僅か。
どうしようもなかった寂寞が埋まる期待を前にして、
自分のほうにも超えなければならない課題があることを、直視せねばならなくなった。
「確かに使えはするだろうケド」
適合値66%。しかし、単純な数値が大きければ神山舟の使用者足り得るわけではない。
ポーラ・スーしかこれを使いこなせなかった理由は要するところ、
この兵器が宿す概念に纏わるところが大きいのだろう。
「―――――」
いつもなら。
やるだけやってみよう、と望んでみるものだけれど。
■ノーフェイス >
常に、払ったリスクとリターンが釣り合うとは限らないものの、
これが宿す権能の片割れ――《不滅》の性質を考えれば、
悪用の方法しか思いつかない。様々な魔術で必要になる煩雑な行程を省略し得る。
だが、もういっぽうの権能が――問題。
おそらくはこれが、扱いづらい神器である所以と推察できる。
使い方は――わかる。
「………………」
――――怖い思いをしたんですね。
脳裏に過った聞き慣れた声に、思わず舌打ちをしながら、
組んだ脚の上に肘ついて、頬杖。
困ったものを預けてきたものだ。
とはいえ神性に対する対抗手段を、今のところは持ち得ないのも確か。
関わり続けるなら、使う時が必ず来るがゆえだろう。
■ノーフェイス >
まぶたを閉じる。深呼吸。
闇のなかに、立方体に押し込められた星空が瞬く。
……ぱき、と音を立てて亀裂が入る。
ルービック・キューブのように等間隔に入った切れ目から、
展開。組成変化。まずはもっとも扱いやすい形――槍に。
伸長――質量変化――立方cmあたりの重量も考慮に入れて。
ここまでは問題ない。魔術を編む時と似た感覚だ。
むしろそれよりスムーズですらある。使いこなせば、指先を動かすように形状を変えられるはずだ。
――問題は、
「――――ッ」
無条件に、力を与えるような代物ではない。
開いてしまえば溢れ出す、もう一方の権能。
ある意味での保安装置とも解釈できる機能が、
神を受容するに適した肉体に、作用し、接続し、交感し――侵食する。
心臓が、大きく跳ねた。
■ >
――沈む。
なまぬるい海に抱かれて、沈んでいく。
穏やかで、ねむくなるような、そんな感覚だった。
すべての苦しみが薄らいでいって、
すべてのいたみが遠のいていく。
底深くに空いた孔に、星空を写し込んだ海が流れ込む。
ごぼ、とくぐもった音を響かせて。
輝く水面を見上げながら、のぼっていく泡を見送って。
沈んでいく――
■ノーフェイス >
「………クソ」
いつしか。
きつく胸元の服を握りしめたまま、体を丸めていた。
倒れ伏していたことにすら気づかぬほどに、溺れかけていた。
いつぞやかのよう、唇を噛んで――流れた血が、床板に新たな染みをつくっていた。
すでに肌寒い秋の夜、総身に滲む汗に、服が張り付いている。
頬に張り付く髪を払う余裕もないほどに、体が重い。
楽なほうに、流される。
魂がぐずぐずに蕩け、腐り落ちていく。
――安息への恐怖。
……認めざるを得なかった。自分は恐れているのだと。
服に皺を作っていた手とはもう片方、我知らず握りしめていたほうには、
立方体のまま沈黙を守る神山舟が握られていた。
「門前払いか……」
第二方舟の時と同じだ。振り払っただけだ。
超克できた、わけではない。
■ノーフェイス >
ずっと、胸のなかに反響している声。
それを直視してしまえば、自分は戻ってこられなくなる。
我が霞み、漂白され、無となったときに、
おそらくこの身は器として完成し得る。
いつか誰かが望んだように。
……だから楔が要る。
自分を現実に繋ぎ止めるもの。この拍動を確かとするもの。
未だ、胸裡にて曖昧に結ばれるばかりの像を確かにしなくてはならない。
冷たく、熱く、激しく、静かに――
この心身をずたずたに切り刻む、痛みの元型が必要になる。
■ノーフェイス >
たった一度で、たった一歩で。
すべてが激変するような、そんな奇跡は求めない。
これを乗り越えても……自分のなかから、すべての弱さが吹き消えるわけではない。
だとしても、目を背けるわけにはいかなかった。
異能を成長させるわけでも、武を究めるわけでも、魔道を修めるでもなく。
どうしようもなく欠けている、唾棄すべき弱い自分から、
理想の自分へと近づくためには、一歩ずつ進むしかない。
ずぶ濡れの体を持ち上げて、お行儀悪く胡座で座り込んだ。
薄曇りの夜空を眺め、目を細める。
どうなってもいいように餞別は渡した。心願成就を込めた紅の色。
……遠回りの果てに、あるいは過剰な期待のすえに。
成さねばならない儀はもう、すぐそこに迫っていた。
近くて遠くに響く、秋の音。
あとは目を閉じて、しばらくは秋の涼気に身を委ねる。
熱の燻る体を冷やして、手元に収まった重みに意識を傾ける。
自分は、自分だけは、試練から逃げるわけにはいかない。
ご案内:「青垣山 廃神社」からノーフェイスさんが去りました。