2024/10/19 のログ
ご案内:「廃神社 月の試練」にノーフェイスさんが現れました。
■ノーフェイス >
秋は夕暮れという。逢魔時。
澄んだ空気は光を阻むことなく、世界を朱の光に染めていく。
かつては広々として多くの参拝客を募っていただろうここも、
今やこうした怪人の跳梁を赦すばかり。
聖域にこそ、この存在が相応しいというのは、悪い冗談のように聞こえよう。
「『苦鳴と悲嘆で、我が星を呪った』……」
吹き込まれていたあの声が、変わらず英語で詩吟する。
ひとつひとつ石段をのぼった先、鳥居をくぐる先で。
「『あの星が私の愛を昂らせて』」
小さな拝殿の入口に座し、手した重厚な詩集に視線を落とす。
その腕に、深い黄金の、優美な彫金が施された身の丈に勝る杖を抱いて。
「……『また、堕とすから』」
訪客が端境を越えるとともに、ぱたん、と閉じられる。
表情の失せた顔が、静かに燃える焔の双眸が、そちらを射抜いた。
ご案内:「廃神社 月の試練」に緋月さんが現れました。
■緋月 >
軽く、風が吹く。
その風に導かれるように、あるいは背を押されるかのように。
小柄な人影がひとつ。
小さくブーツの足跡を鳴らしながら、その場に姿を見せる。
現れたのは、グレーのポニーテールの少女。
だが、その装いはいつもとは異なっている。
書生服ではなく、漢服を思わせるような造形の白い上着と袴。
其処に、鳳凰のような鳥の刺繍がされた、黒い羽織を羽織っている。
変わりがないのは、手にしている刀袋位のものだ。
「…………。」
かつ、と足音を鳴らし、所々色の剥げた鳥居の前に立つ。
その表情に、迷いや憔悴といった不純物は見られない。
ただ、何処までも静かな表情。
既に座している者には、羽織の質感などに見覚えを感じるかもしれない。
それもその筈、その本人から借りた部屋にあった上着を仕立て直して作ったものなのだから。
■ノーフェイス >
その出で立ちに、眉根を寄せた。
そっと掌を握り込む――本は何処かへと消失した。
不滅の書、その断片。扱うことを許された、教会の内側の人間。
「……立会人を許した覚えはないケド」
その、ほんの僅か……残滓のような仮面の気配に。
歓迎の言葉もなく、針のような声が飛ぶ。
静謐の表情に向けたのは……どこか、悲しげな色ですら、ある。
立ち上がる。
その堂々とした佇まいに、しかし、武の練達を思わせる研ぎ澄まされた鋭さはない。
引き締まった肉体の在り方を、知ってはいようとも。
武人とは交わらない道にいる、未知なるものがそこにある。
「その格好は、なんのつもり?」
上等なシルクやレザーを使って――という話ではなくて。
なぜその装いでここに来たのかと、諌める声が問うた。
■緋月 >
針のような声には、小さくため息。
相変わらず、表情に動きはない。
「始まったら、暫く静かにしてて貰います。
本人も「いないものと思え」と言っていますし。」
言いながら、しゅるりと刀袋の紐を解き、その中身を手に取る。
その刀の白さもまた、変わりはなく。
何のつもりかと問われれば、軽く羽織を翻し、
「――これから寒くなる時分ですからね。
お借りした部屋にあったものを使って、仕立て直させて貰いました。
「こちら」でなく、下の方についての意味なら、」
しゅるり、と黒い羽織を脱ぎ去れば、その下からはぐるりと袖を縛り付ける布帯が巻かれた両腕。
普段の書生服とは異なり、袖が邪魔をしないようになっている。
「試練に臨む上での、私なりの身支度です。
里ではこんな服で、毎度叩きのめされていましたから。」
羽織は寒さを避ける為/日常の中に在る為。
白い上下は戦いに臨む為/非日常に向かう為。
白い服は、容易く血に染まる。
己の物でも、相手の物でも関係なく。
自他問わず、血に塗れる事を厭わず。それが、戦いとなる場への作法。
■ノーフェイス >
「そぉ。器用なんだ」
ことん、と首を傾げた。血の色の絹糸が流れる。
刺繍なんざそうそうできるものじゃない。
描かせたら、案外才覚を見せるのかもしれない。
「熱烈な恋文を送りつけてきてたから、てっきり――
結婚式でも挙げるつもりなのかって、ちょっと身構えちゃった」
心の準備がね、と肩を竦めた。ジョークにも笑顔は追従しない。
でも、そこに続いて少しだけ、表情が和らいだ。
未だ手に下げられた杖――六尺の間合いを持つそれは構えられることはない。
「……白がいいよ。よく似合ってる。
いつもそばにいる、その剣といっしょの色だ」
贈った浴衣の色でもある。あの夜を追想しても。
赤い唇に笑みは上らず、静かに声がつづいた。
「黒はもう、要らないだろ」
――静かな、断罪の音が寄せられた。
いましも続く、彼女が……捧げてしまった信仰に。
終わりを告げる鐘のようにして。
■緋月 >
「新しい服を際限なく用意して貰えるような立場でもなかったですから、
直せるところは直して、使えるようにしないと不便だった…位です。」
そう返事を返し、さらに続くジョークには軽く瞑目。
「――無粋な話ですが、カンニングはしませんでしたよね?
こちらも、詩の和訳を取った以外は其処から調べたりせず、無い知識を絞って頑張ったんですよ?」
そうして、服の話から「その話題」に移れば、
「――――そうですね、もう要らない、と言ってしまえば、その通りです。
「先輩」からも、もう信徒ではないから禁忌を守る必要はない、と言われてしまった訳ですし。」
ふぅ、と一息。
――それが何を意味する言葉か。
果たして断じた者は考えて発言したのか。
それは、「己の罪」を背負っていた者に、「それを確かめるモノなど捨てろ」と言い放つと同義であり、
「だから、」
■緋月 >
「――――殺す気で、斬りますから。
死なないで下さいまし。」
鈍らになった刃を凶器に戻す一言に、他ならなかった。
瞬間、場の空気を殺意と剣気が満たす。
長らく、鞘に封じていたモノが溢れ出した事に他ならない。
■ノーフェイス >
髪を揺らすほどの殺気を浴びても。
静かな表情は、揺るがない。怖じる気配もない。
それを受容するほどの、武人としての器量がないのか。
動じるほどのものではないと、構えているだけなのか。
「……………」
ただ、ただ、そう。
目を瞑って。
「……意地悪いっても、キミを惑わせてしまうだろうから」
頬に伝い落ちた一筋の涙を、拭うことはなく。
杖を提げてはいない手に、ふっと現れたのは一枚の金貨だ。
魔術で編んだもので、貨幣価値はない。
「古語辞典を引くのとはちがって。
……はっきり、キミに求めることを伝える」
肩が、一度上下した。
「もう、許しを乞うためだけに信仰にすがりつくのはやめろ。
誰かに"禁を守る姿"を見せびらかしたところで、キミが使徒に戻ることはない。
…………絶対に、ない。それはもう、喪われたものだから。
キミは、それにけじめをつけられてないだけだ。餞別をもらっても、なお」
――違和感が、ずっとあった。
自分に、私心で殺害を禁ずと告げた、その言葉に。
贖罪する様を、他者に見せるかのような――有り様に。
「御前様を、キミを悩ませてしまった重責から解放してさしあげるべきだ」
……見ていられなかった。
緋月を歪まされてしまったようで。
しかし、誰を責めればいいかもわからない。
「…………ほんとに、忘れちゃったの?」
つづいた言葉は。ただ、どこか。
彼女を責めるようなものだった。
■ノーフェイス >
「ここでボクと出逢ったときのキミは、そんなじゃなかったろッ!」
破裂するような声が、激情が、木立を震わせた。
――求めたもの。
戻ってくれと、願ったもの。
「鬼子と蔑まれながら、人間であろうともがいてたキミはどこにいった?
安易な誘惑を断って、ボクを斬ってみせるといったキミは……?
あの葛藤も、結論も、……誓いも!
親の顔色伺うような心持ちと、居心地のいい日常のまえでは、
不要で、邪魔で、切り捨てていいものでしかなかったってのか?
権能をお情けで借り受けただけの分際で、どこまで行ったつもりになってんだ!」
ずっと、ずっと。
抑え込んできたものだ。
感情を戒めるなかで、伝わらなかったもの。
――その人生を阻むまいと、抑え込んできたものが。
「ここで誓ったキミに、ボクは勝手に期待した。
……あの雨で啖呵を切ったキミを、ボクは信じてた。
あんな啖呵も、所詮は雨でできた、水たまりにかいた約束だ。
逢うたびにどんどん歪んでって――理想から遠ざかってくキミを見て、
ずっと裏切られたような気持ちを重ねていって……、
ただ、……重ねて、触れて、まだいるのか、確かめて……」
こいつに敗けぬように。刃を逸らされぬように。
ひときわ張り合いを得たばかりの、その待つ日々は。
夏を終えて、ただ、ただ。落胆を重ねるばかりになって。
そのうえで、更に要求を重ねられて、ついには爆ぜた。
きつく奥歯を、杖を握る手を、軋ませた。
■緋月 >
「――――――」
殺気と剣気の塊と化した少女は、その叫びにも動じず。
大きく、ひとつ息を吐き出す。
「……言いたい事、やっと言ってくれましたね。」
放ち続ける殺気と剣気を隠さぬまま、やけに穏やかな一言で、そう返す。
「…ずっと、「貴方」を測りかねていた。
貴方という存在が、ひどく大きな、全景の見えぬモノに見えて。
色んなモノを、何もかも知っているような、そんな高い所にいるように思えて。
だから――あなたを「斬る」事はおろか、「殺す」事さえ儘ならない存在だ、と。
楽な方に流されるな、と、声が聞こえる度に――「これでは駄目だ」と。
その思いが、頭と心を満たして――「其処」に向かう為には、「殺す」心算で向かわなくてはダメなのか、と。」
また、ひとつ息を吐く。かつてを振り返るように。
「――――今更ですが、思い知りました。
あなたも、「一人の人間」だったんですね。」
そう声をかける。
同時に、撒き散らされる殺気と剣気が、静かに収束していく。
――殺気は、薄く。
剣気は、より鋭く。
――斬りたいという意志と、識りたいという意志の、鬩ぎ合い。
それが、均衡を生み、収束に向かわせていく。
「しっかり言葉にしなければ、伝えたい事も伝わらない。
今更ですけど、身に沁みました。ええ…それは本当に、ごめんなさい。」
そうして、ゆら、と赤い視線が向き、
■緋月 >
「――――伝えたい事があるならしっかり言葉にしてくださいよ!
こっちは神仙か何かじゃないんです、裏を読む程機微に優れてる訳でもないんです!!」
放たれたのは、こちらも空気を破る程の怒声。
「ええ、もう戻る事は二度とないでしょうね!
それだけの罪を、私は犯しました!
――後悔はしていないとはいえ、「流されてはいけない」方向に向かってしまった!」
もう戻れはしない。声にして、改めてそれを己にまで刻み付ける。
後ろ髪引く未練じみた気持ちを断ち切るように。
「切り捨てていいもの?
そんなわけないでしょうが! この島で、色々なひとに出会って、その度に自分が
どれだけの位置に居るのか分からなくなって――私という刃が、どれだけあなたに
届くものになっているのか、それだって自信がなくなりそうにもなった!」
怒りの叫びは己にも向く。容赦なく、己を断罪するように。
「それでも――ただ、「楽な方には流されない」ように、刀を振り続けて――命を断たずに、
相手を「斬る」技に、手を伸ばし続けて――!
……ああもう、こんな事を言いたいんじゃない!!」
がしがし、と乱暴に頭を引っ掻く。
強く掻き過ぎたのか、少し血が出た。
「あなたは言いましたよね!?
「自分を識りたいと求めてやまなくなるくらい、好きになって欲しい」って!
それがどれだけ大変か、分かります!?
言葉にした途端に嘘みたいになりそうな思いを――それでも言葉にしないと伝わらないのに…!」
夜もすがら、契りしことを、忘れずは――――
「――もしも私が其処に達する事も出来ずに死んでしまったら、あなたは泣いてくれますか!?
私は泣きますよ…! あなたを忘れられないで、あなたを知る事が出来なくて…あなたが…!」
我が命の、全けむかぎり、忘れめや――
「あなたのことを、もっと知りたくて…
だけど、そこに届いているのか、そうでないのか、自分でも分からないのに…
それでも――――あなたが、好きなのに――!!」
それは、恐らく呪いなのだろう。
いつの間にか、自分が自分でかけてしまった、目標を目指すうちに、果てがわからなくなって、
「これでは足りない」という思いに縛られてしまった、呪い。
その呪いに知らずに縛られている中でも、
叫ぶように、己の思いを口にする事だけは、出来た。
■緋月 >
――全てはできないにしろ、己の思いをを叫びきり、
白い服の少女は、ぼろぼろと涙をこぼす。
己の不甲斐なさを嘆くかのように、唇を噛み締め、口の端から血の糸を垂らしながら。
■ノーフェイス >
睨みつけるような眼差しのまま、言葉の斬撃を受け止めた。
逃げようはずもない。目を逸らそうはずもない。そのすべてを飲み込んだ上で。
大きく息を吸って――――ふぅ、と、吐いた。
「……『迷い路に』、」
苦い唾を飲み込んで、一言。
「『明け渡る音あかあかと』」
ただ呟くように告げる諳んじ方は、和のそれとは違う。
先のように、英詩を紡ぐそれではあったが。
「『朽ちず咲くなら、君を照らさむ』」
■ノーフェイス >
即興の返歌。宣誓のようにして、初心のようでいて。
ただその刃の目指す先の星となるべくして。
……世界中のすべてに対してそうなろうとする、ひとりの人間はしかし。
いま、向き合うべき人間をまっすぐみつめた。
手元で弄んでいた金貨は、髑髏の彫金が刻まれている。
黒き神の、偶像。すなわち偽り。
「…………その衝動も剣も、すべてボクに捧げてよ。
いつか人間になれるまで、日常のなかで人間のフリをしやすいように」
どこまでも貪欲に、相手の中核に根を張り、支配しようとする人間は。
白い指を、咥えて、軽く噛んだ。
滲んだ朱を白い喉元に沿えて、そっと横一文字に伸ばす。
「…………ごめんね。
ずっとしょげっぱなしの、しおれた花みたいなキミをみて。
燃え尽きてしまったといってた、新月のようなキミをみて。
キミのことが、どうでもよくなってしまいそうでいやだった。
おしまいにしてさっさと忘れようって、さっきまで思ってたんだぜ。
その想いが残ってる、いまは……いなくなったら寂しくて、泣くよ。
いまでもボクは、ボクの世界からいなくなっちゃった……
パパとママを、……姉さんを……想って泣いてる人間だから。
すぐアクセル踏みしめて極端なほうに振り切れる困ったお嬢なんて、
いなくなったら、そりゃさみしいだろうな」
肩を震わせて、久方に笑った。
■ノーフェイス >
「死を視る能力を得て、仮面越しにキミがなにを視てきたかは知らない。
どれほどの死にふれてきたか、想像もつきやしないケド」
そう、たとえ罪を犯し、破門されたところで。
そこに歩いてきた道も、なくなったわけではない。
「……いまは、目の前の生者を見て」
死ばかりに惹かれず。
「どうしたって、キミの剣士としての評価は、将来性が全振りになる。
でも、なんでそんなキミに願ったかっていえば。
……世界で一番を獲れるのは――
ボクとおんなじ、ひたむきで滑稽な挑戦者だけだから」
――そう。
遠い、遠い話だ。
世界で一番の星を目指す者は、当たり前のように、世界一の剣になることを望んだ。
そうなれなかったら、斬られてあげない。
「他のものを、捨てろなんて言わないよ。
でも、キミの生きる道はどこか――――それはいま、定めてもらう」
髑髏のコインを、澄んだ金属音とともにトスした。
夕陽に向けて翔ぶそれは、偶像、いつわりだ。
「…………信仰を歪めるのは、いつだって人間だ」
高く、高く――――それは、緋月の眼前で落ちる軌道だ。
「抜きなよ。バットウジュツじゃなくて、中段構えが中心なんだったな。
……まぁ知ってたケド、ボクのことが、そんなにスキだってんならさ」
断ち切って見せるがいい。それが試練の始まりとなる。
「……キミがいいって、言わせてみせてよ」
金貨の向こうで、たったひとつ。
燃える命を宿す人間が、獰猛な狼のように――牙を剥くかのようにと笑った。
■緋月 >
「――――」
落ちて来る、髑髏の金貨。
それの軌道を目にして、腰に刀を差し、手を添え、
「…………ふっ!」
敢えて、居合で以てコインを目掛けて一閃。
ちりん、と音を立て、真っ二つになったコインが地に転がるか。
「使えた方が便利かと思って、居合も勉強してはいますが…やはりまだまだダメですね。
此方の方が、性に合っている。」
すちゃ、と刀を中段の構えに。
よく見れば、転がる金貨は中央から両断…とはいかず、目に見えて分かる程度には、
微妙に真っ二つにはなり切らなかった。
気合と共に、惰弱な涙は振り払い、目の前に立つひとに、その双眸が向けられる。
――強いか、と訊かれれば、答えは、「分からない」だ。
強いか弱いか、それ以前に「底が知れない」という気持ちが先に立つ。
強さを測り切れない相手は、強いと分かる相手より、ある意味恐ろしい。
だが、恐れてばかりでは先には進めない。
何より、それは「楽な方に流される」…逃げる選択。
逃走という選択は時と場合に寄るが、少なくても今この時、この瞬間に立っては、
悪手中の悪手以外の何物でもない。
(……長期戦には、ならない。一撃の攻撃…其処が、全力を出し切れる、限界か…!)
ホォォ、と、奇妙な呼吸があって、更に直後。
口から、鈴のなるような、奇妙な音と共に、少女の身体から六色の光の蓮が咲く。
赤・橙・黄・緑・青・藍――立て続けに開く、蓮華の華。
同時に、その剣気が更に高まる――!