2024/10/20 のログ
■ノーフェイス >
「けっこういい音してたケド、そーだね。
……しっかり構えてるの、会ったときよりサマになってるかな」
とんとん、とこめかみのあたりを叩いて、微笑んだ。
「信仰と、日常と、そして……剣と」
唇のまえに、血が滲む指を立てた。
「そのなかから道を選べた、ということ自体が。
キミがいままで歩いてきた人生の、ひとつの証明だ」
たとえ誇るべきことでも、流されてしまったことがあっても。
牢獄のなかでは得られなかった、ここまでの道筋の足跡。
信仰も、日常も、これからのあなたを拒みはしない。
「おひさしぶり」
現在地点に戻ってきたのか。
進んだ先で、また迷路のなかで巡り合ったのか。
次なる証明は、ここでなされる。
「……ボクは、喧嘩に使える異能はもってなくってね」
静かに、手元を開いておく。
「魔術も場所を選ぶから、ここでつかうのはいっこだけ。
キミの攻撃を凌げそうになかったら、『結界』を貼らせてもらう。
――身を守るために、ボクがたのみにしている魔術だ。
そいつにどんだけ迫れるか、いいとこダウンさせられたら――ってのが試練ってコトで」
手札は証しておく。自分の土俵に誘いはしても。
わからん殺しは受けて立つ側のマナーとしては、ちょっとズル。
……そしてこちらは、武人ではない。技比べは、相手の土俵。
相手の準備は、待つつもりだ。
「…………、」
まばゆい。
構えたままに光を放つその姿を見つめながら。
初めて見る、戦いの有り様。魔術のように思える。
それでもまったくの未知ではないのは、かつて聞いた仕業だからだ。
「蓮華座、だったかな?
キミがボクの体をエロい目で見てたあの日に、教えてくれたヤツ。
……七つ開くと、宿命に至って反動で死にかける。
六こは、イケるギリギリの範囲、全力全霊……」
では。
こちらも容赦はできるまい。
相手の実力を、武人でないがゆえに測れないこの肉体はしかし。
それでもどれほど、相手が本気かどうかは、測り違えることはないから。
「……うれしいね」
口元がほころんだ。
それだけの愛を、むけてもらえることが。
喧嘩も、気持ちよくない暴力も嫌いだけれど。
――――強い感情を向けてくれて、向けられる相手にだったら、もしかしたら。
■ノーフェイス >
瞬間。
音もなく、黄金の彗星が奔る。
脱力した無形の位から、一瞬で間合いを詰め、
無動作からコマ落としのように繰り出される杖の打突。
まったくでたらめな構えでありながら、達人――極限の領域に至っている技。
腹の中心を狙う。喰らえば一撃で昏倒。あるいは死すらあるやもしれぬ一撃で。
たなびく紅の頭髪と、獰猛なる黄金の眼光が。
これで倒れてくれるなと。
容赦など要らぬと、語るのだ。
■緋月 >
(速……いっ!)
瞬時に間合いを詰めてからの、杖での打突。
構えは武を修めたとは思えない、しかしながら達人という言葉さえ生温く思える程の「迷いなき一撃」。
鍛えていない者が受ければ、内臓破裂か…最悪、激痛のショックだけで死に至るかも知れない一突き。
(当たってほしくなかったけど…やっぱり、底が見えない!
とんでもない、相手…!)
――だが。
幸い、「視る」事は出来た。
今の状態で「視る」事の出来る一撃ならば、それは「避けられる一撃」である。
たとえ紙一重であろうが、当たらなければそれでいい。
ざし、と布を裂く音がして、白い服の脇腹部分が裂ける。
速過ぎる刺突が生む衝撃が、脇腹を叩く感触。
(痛……っ…だけ、ど……)
(これで、「圏内」――!)
ゆらり、と、手にした白刃が陽炎のように歪む。
何の備えもなく、この日を待っていた訳ではない。
表に出さなかっただけで、激しい訓練と試行錯誤の繰り返しを行っていた。
その結果が、今から現れる。例え如何なる形で終わろうとも、この技で以て総てが決まる。
『――時ヲ経チ、界ヲ斬ル――!』
ひゅん、と、振るわれる刃は――紅き猛禽に掠るどころか、あらぬ方向に振り抜かれる。
奇怪に思うかもしれない、だがこれでいいのだ。
何故なら、これは当てる為の技に非ず。
この場を切り取る為の一刀なのだから。
■緋月 >
瞬間。
周囲の景色が色を失い、白と黒、その狭間の色だけに染め上げられる。
同時に、刀を振り抜く少女の姿がぶれ――――
次の瞬間。
紅き麗人を、幾多の影――否、影のようにしか見えない「実体」が取り囲む。
そう、「取り囲む」。
まるで分身したかのようにぐるりと、幾十、幾百…あるいはそれ以上とも思える、影のような剣士が包囲する。
虚像ではない。影でもない。
それは囲まれた張本人が理解できる筈。
何故なら、それらは全てが等しく「視線を向けている」のだから。
「あなたを斬りたい」と。
「あなたを識りたい」と。
狂おしいまでの視線が注がれているのだから。
時を斬り、その理を乱せば、同じ時に同じ人間が二人、三人、あるいはそれ以上存在できる。
それが、「刻断」。時を斬る技の、極意のひとつ。
界を断ち、一時的にこの場周辺を「隔離」する事で、荒唐無稽は現実となる。
なれば、次に起こるは何事か。
――囲まれた張本人ならば、容易く予想が出来るだろう。
■緋月 >
まずは一人、次に二人。
二人が四人に、四人が八人、16、32、64、128――――次々に、「同じ時にある複数の少女」が
斬りかかって来る!
然してその斬撃も只ならず。
もしも一太刀を受けても、その身には傷も残さず、ただ「斬られた感触」だけが走る、奇怪な一太刀。
斬月・真。
己が望むものだけを斬る、更なる「斬月」。
それを、一刀一撃に絞り、打ち込む。
――無間閃獄。
少女が師より伝えられた剣術の中で、唯一その術理を明確にされなかった技。
ただ無限に斬られ続けるかの如き感覚を味わった、恐怖の象徴のひとつでもあった技。
それを、己の持てる総てと独自の解釈により、自己流に昇華した千撃の技。
『一太刀で届かぬなら――』
『――「届く」まで、斬り続ける!!』
■ノーフェイス >
――閉じ込められた。
色のない世界。外の音が聴こえない。
空間への干渉――そこまでは理解できた。
「……んはっ」
思わず、笑いが溢れた。
「凄……」
剣とは、武とは、ここまでできるものらしい。
色を失った世界を埋め尽くす、見渡す限りの影法師。
千に迫る、あるいは凌駕する数の視線を感じる。
呪いのような熱情が、自分に一身に注がれているのがわかる。
――――ああ、こんなの、
「どっちが試されてるかわかったもんじゃないな」
―――――――まるで、
(―――――血が沸く!)
―――――――――――舞台じゃないか!
無数の剣が、斬撃が、自分に迫るなか――
杖を放り捨て、白い羽織りを脱ぎ捨てる。
肉食獣の如き引き締まった肉体が――異形へと変じる。
■ノーフェイス >
その威容は、翼をひろげた天の御使いか。
あるいは、おぞましき蜘蛛の肢の如き姿。
剣士の文化に近しくは、観音や阿修羅のような多腕像のようでもある。
背から生じるは、左右六対、総計十二本。
魔力によって錬成された、黄金の荊棘。
名工の彫刻のように美しい外形の、一本として同じ形がない。
それらの先端にはすべて、これまた様々な形の刃が備わっている。
闇のなかで燦然と輝くそれは、ゆるりと虚空を撫でた。
膚のうえをたどった、指や、舌づかいとおなじうごき――主の意思で動く触手。
「『荊棘の宝冠』……」
結界の名を呼ばわるとともに、空間を薙ぎ払う、黄金の閃光。
複雑怪奇に、神速の剣光が、異形と化した麗人を中心に踊り狂う。
みずからに迫る危険を、血肉の制限を超越した極限の剣技で薙ぎ払う迎撃結界。
四肢五体と十二の触腕すべてを同時に操る、極限者の肉体性能が成し得た、
これだけで必殺の戦型になり得る魔術の奥義だ。
自分が増えればいいに対するは、これまた腕を増やせばいいの、
単純明快な結論同士の――ぶつかり合いだ。
「――――斬ってみろよ」
身体能力、敏捷性、高次行動予測、空間認識能力。
神に愛された肉体が縦横無尽に駆け回る。
体を前に倒した獣の如き姿勢で、暗澹の世界を疾駆する。
獰猛なる狼の周囲を、数十メートルまで伸長する拒絶の荊棘が暴れまわる様は、竜巻だ。
激しく追いすがり、斬らんと迫るその衝動のすべてに、黄金の剣閃がぶつかる。
本体を斬る?回避してやり過ごす?――バカを言うな。
「十を捌いて百を凌いで、千のすべてを受けてやるよ。
いままでガマンしたぶん、はしたなく全開で暴れて――」
斬撃を、打ち払う。
斬撃を、捌いて逸らす。
斬撃を、受け止める。
「喰い殺すつもりで来いよ、緋月ッ!」
――吼える。
舞台の上で、手なんて抜けるはずもない。
一斬一斬すべてに、彼女の命が燃えていることも伝わるから。
それにぶつかって火花を散らすたびに、自分の命も激しく燃え盛る。
■ノーフェイス >
千でもなお、足りぬかもしれぬと覚悟したなら。
千でもなお、足りぬ存在として輝かなければならなかった。
それが自らに課した、触れ得ざる華としての生き方。
「――――、」
暗澹の世界を駆け抜けて、翔んで、跳ねて、踊り狂う。
いつしか。
「―――、――――♪」
音が湧いてくるほどに、ブチ上がった心地のなかで。
一瞬たりとも、そいつを意識から外さない。
すべてが実像だからって、そこにある真実までは、見逃そうはずもない。
最後の最後にとっておく、至高の果実。
「―――――――、――――♪」
ずぶぬれに汗にまみれながら、やがてたどり着く。
加速に加速を重ねた肉体が――最後のひとりに、一直線に突進する。
ふたりっきり。正真正銘、最後の一合まで、たどり着いた。
折れ、砕け、粉々になった荊棘の破片をみずから突っ切りながら、
「――――ふ、」
振り下ろされた剣を、肩に受ける形になりながら――
それが、自分を切り下ろしてしまうまえに。
「緋月―――」
――激突する。
飛びかかり、組み伏せて――その喉元に、甘く噛みついた。
■緋月 >
『あああああああああ――――ッッッ!!!!』
百、二百、四百――数を増していく剣士だが、それでも決定打は打ち込めない。
腕を増やすという化生染みた、暴力的かつ単純明快な迎撃手段で以て、
次々増える筈の攻撃が悉く無効化されていく。
その様は、正に阿修羅か千手の観音か。
あるいはもっとおぞましい何かか。
あるいは払われ、
あるいは捌かれ、
あるいは止められ、
届かない、届かない。
踊るように舞い、腕を振るう麗人に、あと一歩、あまりにも分厚い「あと一歩」が届かない!
『まだ…まだぁぁぁぁぁっっ――――!!』
それでも尚、出来る事が「これ」なのだ。
身体が軋みを上げ、頭が激しい痛みを訴えて来るが――此処で止める訳にはいかない。
数を減らしながらも、尚も幾多の剣士は無間の剣舞を舞い続ける。
■緋月 >
――幾多の斬撃を放ち、幾度捌かれ、それを幾度繰り返したのか。
あまりにも長い時間だったように思うし、あるいはほんの数分も経っていないのかも知れない。
少なくとも、そんな事を考える余裕は、剣士からは失われていた。
考える事、行動に移す事は、ただ一人、その一人を「斬る」事のみ。
著しく疲弊し、同時に現れた己がその数を減らしていく中で、相手もまた、
強く疲弊している事は、漠然とだが理解は出来た。
刃は届かねども、倒された自分「達」は決して無為無駄の終わりではなかったのだと。
だが、それでも届かない。
今の儘では、一刀が届かない。
それはもう、意地のようなものだった。
無い知恵絞ってかつての恐怖を自分なりに再現して、何としてでも「斬ってやる」と仕掛けた攻撃だ。
このまま斬れずに終わるのは――もう、くだらない理屈とか建前だとか、
そういうものを諸々投げ捨てて、ただひたすら「気に食わない」し「納得できない」。
――ただ一点。
「自分だけ」を狙う意識は、明確に感じられる。
恐らく、このまま自分「達」の仕掛ける太刀は届かずに終わるだろう。
真正面から迎え撃ち、盤面を蹂躙した上での「王手」。
ならば残された機会は、その一瞬。
最後の「王手」をかけてくる、その瞬間にしか、存在しない。
その為には、「今までと同じ攻撃」では駄目だ。
「今までを凌ぐ一太刀」でなければ、届かない。
強い熱を感じる頭で、何とか考える。
今、この場は「時」があり得ざる動きをしている。
其処に、「限界を超えた」攻撃を重ねる事で――何とかするしかない。
理論も理屈もあったものではない、無茶苦茶な結論。
蓮華座開花の反動で、熱で暴走を始めた頭で考えられるのは、そこらが限界だった。
そうして――その時が来る。
凄まじい加速で、「最後の一人」になった自分に、紅の麗人が突っ込んでくる。
それに、合わせる形で、
『ああああああああアアアアアアアア――――――!!!』
じゃきん。
■緋月 >
それは、決着の瞬間に仕掛けられた全霊が呼び起こした、恐るべき偶然。
「斬月」の、新たなるカタチ。
時が乱れた領域の中、幾多の銀色の剣閃が「全く同時に」奔る。
それが、飛び掛かって来た紅の麗人を一太刀だけ巻き込み、
「時の理が乱れた領域」そのものを斬り裂き、蜘蛛の巣の如き亀裂を入れる。
本来は向かって来る「あなた」だけを斬る筈の斬撃だったそれは、
忘我の境地で更なる高みへと達し、「己が作った領域」を巻き込んで、「斬って」しまった。
異能としてみれば、完全なる「暴発」。
だが、それは同時に「限界」を超えた斬閃。
直後、まるで硝子がはじけ飛ぶような音を立てて「領域」は砕け散り、其処には仰向けに倒れ、
喉元に食いつかれた、白い服の少女の姿。
■緋月 >
「は――っ、はぁ………っ…!」
左目が熱い。
涙にしては、少々粘度の高い感触が頬を伝う。
(血だ。これ、やばい。)
七に届かずとも、六の蓮華座開花であっても掛かる負担は相当の物。
恐らく、目の血管の何処かが破れたのだろう。
大急ぎで調息を行い、蓮華座を閉じる。
もう駄目だ、動けない。
その言葉がそっくりそのままの、疲労困憊すら生温い有様。
■ノーフェイス >
どれもこれもが。
一斬一斬が、鋭く重すぎるほどだった。
――だからこそ沸く。だからこそ滾る。
困難への挑戦――それに沸いてしまう、尖った性癖の持ち主であるがゆえ。
(――――なにか、)
――誕ま、れる――――
相対する少女が、非凡なる鬼子が。
みずからをさらなる高みへと押し上げる兆しが。
その身を激しく焦がしたからこそ――激突の瞬間、その歩を緩めず、更に加速した。
ここで退いたら、あまりにダサい幕切れだ。そんなじゃ、極星なんてなれやしない――――!
「――――――ッ」
―――、激突。転倒。衝撃。
(……、あれ)
……死んで、いない。
確かに一度。体を袈裟に通り抜けた感触があったのに。
全身が痛むのに、その痛みがない。
荊棘の破片が、ぶつかった瞬間に体の各所に刺さっていた。
こちらも総身の出血から、押し倒した白い衣を朱に染めてしまいながらも。
一番確かなのは、喉に深めに食い込む、その味と熱――
「…………ぃっ!?」
肩が竦んで背後を振り仰いだのは。
音――自分にとってもっと重要な感覚器を騒がす、けたたましい破砕音に気付いたからだ。
「わぉ…………」
滅多矢鱈、斬られた世界。
赤い空が、白黒の天蓋のむこうに覗き、やがて夕陽が降り注いだ。
「―――――、」
■ノーフェイス >
ぬるり。
あなたの頬をつたう朱を、生暖かいものが拭う。
つづいた、嚥下の音。
「…………きもちいい……」
どこか陶然とした、甘ったるい声。
この状況だと少し不穏な言葉が、気息を整える少女に降り落ちる。
「緋月。
目、閉じてて。いま、つないであげるから」
熱い体温と。肉体の感触と、流れ落ちる血液が、ずるりと。
少女の体の上を這う。知っている構図のはずだ。
神域でするにはだいぶ不敬な体勢だが、致し方ない。
自分も穴だらけの血みどろだ。
「……すっごく、よかったよ。
予想を超えて、じぶんを乗り越えた。……うん、キミがいいや。
本心からそう思わせてくれた、最高の自己証明だったよ」
睦言の調子で、そういうと、唇をふさぐ。
深く――熱く。流れる血潮の味と、魔力。
引きちぎれた筋繊維、神経系、骨肉、血液――それらの生成と治癒促進を行う。
魔力を注ぎ込んで、人智が解き明かした現象を引き起こす。
みずからを癒やすことは不得手だが、他人を肉体を癒やすことは得意とすることだ。
ひとまず動けるようにはなるだろう。護衛には守ってもらわなければならない。
血と肉を分け与えるようにして、鉄錆の味が消えるまで。
「いっしょに、きてくれる……?」
顔を離す。向かい合う。
熱に炙られ、恍惚と蕩けた艶美な笑みが、いざなう。
痛みと苦しみと、快楽が伴う途。……人生を生きるというコトへ。
■ノーフェイス >
―――直後。
どふっ、と少女の体の上に、全体重がのしかかる。
じくじくと染み出す血は、脇腹に刺さった破片も含めてすぐに致命には至らずとも。
触手十二本分に、それだけ消耗した緋月を癒やすために差し出した血肉の分。
ふっつりと電池が切れたように、意識を喪失した。
ここで死んでもいい覚悟で、全力でぶつかった結果だ。
この人間はたったひとつの命で、そうして生きていた。
■緋月 >
「あー……う……?」
ぐわんぐわん。頭が熱で回って、何を言われて何をされてるか、ちょっと理解が及ばない。
何か目を閉じろというのは聞こえたので、目を閉じて置く。
唇が、何か柔らかいもので塞がれる感触。
同時に、身体の痛みが波が引くように消えて行く。
反動で随分な傷を負ったと思うのだが、それが夢かなにかのようだった。
そんな中で、問われた言葉。
いっしょに、きてくれるかという、問い掛け。
(……合格、なのかな。)
まだ熱が残る頭で、そんな事を考える。
兎も角、問われれば、答えはひとつだ。
「――いきます、いっしょに。」
ひどく、はっきりと答えられた。
随分と、身体が治って来た感じがする。
■緋月 >
――そして、その直後。
「うぐっ!?」
ずし、と体重が圧し掛かる感触。
見れば、自分の上に乗っかっているひとの身体からは、じわじわ血が染み出している。
「あ――――
ちょっと、それはないですよ…!
しっかり、してください、―――――!!」
思わず「彼女」の名を叫びながら、まだ熱の残る頭を必死で働かせながら、傷の癒えた身体を動かす。
とにかく、大事なのは止血。これでは動かすのも危ういかも知れない。
少し考え、廃神社の社にぱん、と謝るように手を合わせる。
「軒先、お借りします…ご容赦を!」
こんな所は無駄に律儀な性分。
意識を失った、身体まで紅になりつつあるひとを抱えながら軒先まで移動し、
手持ちを使って必死で応急手当。
「……だめだ、頭がぼやけて、私も動けない…。」
何とか手当が終わるが、熱を持った頭はひたすら疲労を訴え、休息を要求する。
もう、今日は部屋に帰るのは諦めよう。
脱ぎ捨てていた羽織を毛布代わりに、手当てを行った相手にかけると、
自分もぐったりと横になる。
とにかく、今はお休みが欲しい。此処で寝てしまおう。
そう決めれば、落ちるのは早い。
空に星が現れるようになる頃。
白い服の少女も、ぐったりと眠りに就いてしまっていた。
意識を失った、紅の麗人に寄り添うようなかたちで。
ご案内:「廃神社 月の試練」からノーフェイスさんが去りました。
ご案内:「廃神社 月の試練」から緋月さんが去りました。