2025/01/02 のログ
ご案内:「青垣山 廃神社」に橘壱さんが現れました。
ご案内:「青垣山 廃神社」にクロメさんが現れました。
橘壱 >  
寒空を切り裂く青白い炎。
冷たい鋼鉄が突風を突き破り、
さっそうと青空に描くは一条の軌跡。
さながら流星のように急降下しては徐々にスピードを落とし降り立った。

『予定時刻より少し早いけど、無事到着、と……』

僅かな土煙を上げ、全身から白煙を排熱する蒼白の機人。
冷たい鋼の中、装着者(パイロット)である少年が周囲を見渡す。
巡回ルートで何度か通ったことはあるが、相変わらずと言った様子だった。
かつては此処にも、初詣に人が来ていたのだろうが、今やその面影すら無い寂れた廃神社。
青白い一つ目(モノアイ)がモニターに移す景色には、なんとも言えない寂しさを感じる。

『どう?此処なら言った通り、誰にも合わずに初詣出来るでしょ?』

まぁ、見ての通りだけどねと苦笑し、隣の少女に語りかける。

クロメ > 矢のように空を裂く
少女の姿をした”それ”は鋼鉄の翼と並んで飛翔()んだ
吹きすさぶ風を物ともせず、空を駆ける

「……」

到達する先は、山の奥地
まるで隕石が落下するかのように、しかし静かに降り立つ

「……そもそも、初詣、などという儀式自体……するつもりはなかったが?」

冷たい言葉とともに、辺りに視線を向ける。
寂れきった神社。
かつては賑わっていたのであろう、そこはしかし。
見る影もなくなっていた。

「それで?」


橘壱 >  
鋼鉄の機人に、亀裂が走る。
まるで脱皮するかのように背から出てくる少年。
僅かに白衣を靡かせ、懐から眼鏡を取り出せばカチャリと掛ける。

「何言ってるのさ、せっかく"衣装"があるなら使わないと。
 ……うんうん、やっぱり良く似合ってるね。笑顔でもあれば完璧だった」

自らの監督する要監視必須の怪異の少女。
相変わらず冷たい雰囲気にも慣れたものだ。
ふ、とはにかみ笑顔を浮かべれば少女の正月衣装に満足気に頷いた。

「絶対にキミは人混みなんて行かないだろう?
 今はきっと、常世神社は大賑わいだろうしね。
 せっかくだし僕も一度くらいは行ってみたいと思ったからね」

隣に佇む機人をコンコン、と叩く。
あっという間に縮んでいけば何時もの抱えるトランクへと早変わり。
トランクを拾い上げればさて、と正面に視線を向ける。

「まずはお参りじゃない、かな。
 実は僕も初めてなんだよね。……まだ(だれか)残ってたりする?」

碧の双眸に映る荒らされきった本殿と壊れた賽銭箱を見てふと思った。
神様でさえ当たり前の時代、そういう(ヒト)がいるのも珍しくはない。

クロメ >  
「……」

じっと、鋼鉄の人形(ヒトガタ)を見る。
眼の前で"それ"に亀裂が入り、中身がでてきた。
しかし、その目は変わらず鉄を見ていた。

「……大した人形だ」

ぽつり、と口にして

「風習そのものに罪はない。
 ……とはいえ、別に参加するつもりもなかったのだが?」

普段の闇のような黒の衣装から、白に近い服へ。
ただ、ロリータ服に近いそれはあまり変わらず、しかしどことなく和の香りをさせる。
そんな服装であった。

「おそらくは、居ないだろう。
 ……このような有り様だしな」

ちらり、と廃れきった社を眺める。
そこには、今のところ気配らしきものは感じられない。
見渡すまでもなく、荒れ放題な様子を指し示す。

「仮に居たとしても、頼る気はない。
 お前たちのようには、な」

ほんの一瞬だけ、眉が動く。

橘壱 >  
「人の技術の結晶、努力の形ではあるからね。
 キミの目にそう映るなら問題ない進化なんだろう」

「皮肉で無ければ、だけどね」

人があるべき姿、変わりゆく時代への進化の象徴。
自らの生きであるこの鋼を褒められるのは悪い気がしない。

「そう言う割には付き合ってくれるじゃないか、何時も。
 まぁ、年の初め位は参加するのもいいものだと思うよ。
 自分で言ったじゃないか、"風習そのものに罪はない"ってね」

相変わらず人間嫌いはそうだが、妙に律儀な所がある。
無礼講とまで言う気はないが、こういう気分も味わって欲しい。
まぁ、自分のわがままでもある。少しでも良い方向になってくれたらいい。

「神様も流石の住居は選ぶ、か。
 そっか、いないのか。"安心"した」

「それなら神頼みをしない記録は継続だね。
 ……まさかキミは、僕まで皆みたいに神頼みしてるとでも?」

そういう壱の顔は何処か自慢げだった。
誰もいない、神もいない空っぽの本殿(入れ物)への感謝。
効果はともかく、形だけでも充分だ。先ずは先に本殿の前に移動した。

「……近くで見ると、より酷いな」

自然の風化か、或いは"荒らし"でも入ったのか。
神社としての風体どころか、建物としての体をなしているか怪しい。
なんとも言えない気分に、思わず小さなため息を吐いた。

クロメ >
「問題の有無は、私の語ることではない。」

肯定とも否定とも取れる言葉を返す。
その顔は、いつもの凍りついたままの表情。

「……多少は世を知っておく必要があるからな。
 別に、付き合いたいわけではない。
 ふん、賢しさだけは増していくな」

風習そのものに罪はない
確かに、それはそう思っている。
最も、それを生み出した人間そのものに対しては別ではある。

「初詣、とやらは神に願いを託すものだろう?」

この男は、何者にも頼らない、と豪語していたのは確かだ。
だが、自分が伝え聞いた初詣という風習は神頼みではなかったか。
そうでれば、話が矛盾する気がするが――

相変わらず、考えていることがひねくれた人間だ

「かつては崇め奉った相手でも、何かあればこの様だ。
 度し難い」

酷い、という言葉に応えるように口にする。

「しかし、だ。どうするつもりだ?」

神も居ない、社も荒れ果てている。初詣の体は最早なさないのではないか。
そう、問いかけるようだった

橘壱 >  
「それはどうも」

敢えて礼として返しておいた。
曖昧な返事は、凡そはこっちで咀嚼する方が好ましい。

「キミならそう言うだろうね。
 だから、わざわざ此処をチョイスしたのさ。
 ……少なくとも、キミと付き合う以上は色々考えるさ」

思えば彼女の担当をして新年を迎えられたわけだ。
思えばこの島に来て激動に次ぐ激動だった。
色々悩みもしたが、今はもう御覧の通り。
はにかみ笑顔を浮かべたまま、本殿を見上げていた。

「だから、初めてって言ったのさ。
 小さい頃にも初詣には連れて行ってもらえなかったし、
 両親と疎遠になった時は凡そ自分の力で生きてきたからね。
 神様に頼るくらいなら、自分の努力で何とかしてたつもりさ」

物心ついた時にはそうだった。
非異能者であるがゆえに、異能主義の両親と疎遠になり、
必要とされた世界で、自らの力で栄光を掴み取った。
勿論運もあるだろう。だからこそ、
今の今まで、神に頼る事なんてなかった。
訪れなかった、と言うべきかもしれない。

「僕の初めて……に、なるつもりだったけどね。
 いないなら結局、今まで通りかな。……ん、そればかりには同意するよ」

酷いものだ。全くもってと肩を竦めた。

「時代の流れ、って奴なのかな。
 場所を変え、世代を変え、何時しか伝える人もいなくなってしまった。
 ……本当に何かが死ぬって時は、誰からの記憶からも消えた時って、奴かな」

恐らく此処に人(ヒト)もまた、そうなのかもしれない。
この荒れ果てた境内が、信仰が、人の無さが"殺した"のかもしれない。
どうするつもりだ。そう言われると笑みを浮かべ、両手を上げる。ハンズアップ。

そこまでは考えてなかったな

クロメ >  
「小賢しいことだ。
 ……以前よりは頭を使ったと見える」

初めて会ったときから、この男もだいぶ変化をしている。
定命であり、終焉も早い人間ならでは、の変化の早さだろうか。
……何事にも変わりやすく、染まりやすい

「疎遠、か……」

そういえば、身内の話など聞いたこともなかった。
あえて聞くようなことでもなし、興味があるわけでもなし。
ただ、ふと漏れ聞こえたことで少し思考がそちらに向く

血を分けた子でさえ、粗略に扱う
それが人の度し難さであり――
あやまちである

「今更に、臨んだのか?
 矜持を曲げてまで」

今まで何者も頼らず来た、というのなら貫徹すればいい。
わざわざ今日、此処を以て決別する理由もあるまいに。
まさか、自分を連れてくるため、なんて馬鹿馬鹿しい所以でもないだろうが。

「死んだ、という事実だけだ。
 感傷など、残った者の勝手にすぎない」

捨てた、殺した。それは事実起こったことだ。
そこに思うことがあって然りだろう。
ただ、それは捨てられたもの、死んだものには自身には関係のないことだ。
もう、終わったこと、なのだから。

……そう、終わったことだ

「……先程までの小賢しさはどうした」

いきあたりばったりすぎるだろう、とその目が咎めるようだった。

橘壱 >  
「お褒めに預かり光栄ですお嬢様。……なんてね」

一つ意趣返しっぽく言ってやった。
ある意味此れくらいの軽い態度が本来の素なのかもしれない。

「そう、疎遠。両親が異能者で、僕は非異能者。
 どうにも異能主義だったみたいでね、以降は"腫れ物"として扱われたのさ。
 後は自分なりに腐ってくとは思ってたけど、運が良くてね。
 所謂趣味を仕事にして生きて、此処まで来た。笑える話だろう?」

恐らく、何か一つ罷り間違えて居れば此処にはいない。
たった一つの才能がなければ此処までこれなかった。
ある意味運が良かったと自負しているが、それを手繰り寄せたのが自分だ。
己の力で確かに手繰り寄せた。それが何よりの自信の表れ。

「まさか。別に曲げようと思っちゃいないよ。
 ただ、キミが来るって言うなら一回くらいはいいかなと思っただけさ」

風習に罪はない。
つまり彼女がそこまで俗世と付き合うのなら、自分も付き合う。
たった一度きり位なら、それ位の事をしていいと思っていただけ。

「まぁでも、僕は嬉しいけどな。
 残った人が覚え続けてくれるっていうならね。
 それこそまだ、その人達の間では生きているってことだろうから」

それが勝手なことでも、少しでも誰かに証を残せた。
特に何時死ぬかもわからない立場からすれば、勿体ないほどの幸せだ。

「いやぁー、予想外ってワケじゃないけど、本当に不在とは……」

ついつい、なんて苦笑い。
そんな目をしないでくれよ、と肩を竦めた。

「けど、元々はいた場所なんだろう?
 生憎僕は、どんな(ヒト)かもわからないし、届くかは知らない。
 形だけになってしまうかもしれないけど、風習ってのは行いに意味があるんじゃないかい?」

因果的に逆になってしまうかも知れないが、それこそが記憶になるはずだ。
今は無き、形もなきもぬけの殻。せめて何も知らぬものの祈り位でも、それなりにはなるはずだ。

クロメ >
「……そうか。笑えんな」

黙って昔語りを聞き、それだけを応える。
非異能者であり、そこに色々と思うところがあったようなことは聞いていた。
そこにある思いの一つがこれか。

少しだけ、理解した気もする

「安い話だな」

自分に付き合う程度で曲げるものか。
その程度でいいのか、と。

「事実として、死んでいる。
 ただの自己満足にすぎない……人間らしいことだな」

どこか乾ききったことを口にする。
自己満足に意味などない、とでもいうかのように。

「風習に意味がないことは、確かにあるが、な。
 何にしても、神に祈る言葉は私にはない。
 お前もだろう? 何を祈る気だ」

橘壱 >  
「……意外だな、キミの嫌いな人間の話だっていうのに……」

鼻で笑い飛ばされるとは思っていたが、思いの外思う所あり。
そんな雰囲気を彼女から感じる。なんだかんだ思うけど、
意外と彼女はセンチメンタルなんだな、と見てて思う。
ほんの少し、嬉しさに口元が綻んだ。

「そうかな?
 人間嫌いのキミが、人間一人と付き合って、人間の風習に付き合う。
 僕から見れば、充分な価値はあると思うけどね。それに……」

「キミの言う自己満足だってそうだ。
 確かに自己満足な行いではあるけど、
 風習自体も、その行いをした事に意味があると思っている」

「そういうキミだってどうだ?
 口ではなんだかんだ言うけど、時々キミは遠くを見ている気がする。
 そこに思いを馳せるのも自己満足にはなるけど、キミ自身には意味がある」

「仮に意味はなくても、じゃあそれが"感情"って事になる。
 キミだって冷たそうに見えて、立派な"感情"があるじゃないか。違うかい?」

そうやって冷笑することは簡単だ。
ただ、行う側にとってはそれなりの理由がある。
それはきっと、万人に当てはまるはずだ。そう簡単に馬鹿にするものじゃない。

「それはご尤も。……そうだなぁ……」

自らの顎を撫でて、一思案。

「────それなら、キミに祈るとかはどう?」

クロメ >  
「話くらいは聞く。それだけだ。」

それだけだ。断じてそれ以外の意味はない。
そう、いいたげな口ぶりだった。

それだけ、なのだ。
怪異の脳裏に、何かが過ることなど、ない

「小賢しく、口が回る。
 それに――感情のないバケモノのように言う。
 いや、そうだな。バケモノだ。」

声はいつもの冷え冷えとしたものであり、顔も変わらない。
しかし、ほんの少し。口数が増える。

「いいだろう。少しだけ、乗ってやろう。
 私は、弁えている。それだけの話だ。」

自己満足だと理解したうえで、あえて語らない。
自己満足に過ぎないのだから、と。
他者に語るまでもないことなのだ、と。

クロメ >  
 
「やめろ」
 
 

クロメ >  
"────それなら、キミに祈るとかはどう?"
男の提案に、普段よりも更に深く、冷たい声が返ってきた。
山の冷たい空気が震え、底冷えして凍りつくかのような。
そんな、冷え切った声だった。

橘壱 >  
何時もより口数が回ると思った途端、
より一層冷えた否定が、声音が空気をより凍らせた。
先程まではにかんでいた少年の素顔も、自然と引き締まる。

「…………」

彼女の全てを知っているわけではない。
断片的にその在り方を知っている。
悠久の時を生きて尚、過去に囚われた超越者(少女)
そうあれかし、そして人がそれを忌避し、少女もまた人を嫌う。

「……先ずは謝るよ、悪かった」

無遠慮だったことに対する、謝罪。
ただ、同時に此れは彼女の本質に近づいたと確信した。
じ、と碧の双眸が離さないように、少女の姿を映したままだ。

「キミが人間にどう扱われたかは、キミの口から聞いた。
 ……いや、それでもキミの事はわからないことだらけだ」

少なくともその拒絶は、されたことのあるものの慟哭に聞こえた。
民衆に忌避され、超越者としての在り方を望まれ、何を祈られたのか。
一歩、彼女の中へ踏み込むように、近づいた。

「何故そこまで拒否するか、聞いてもいいかい?
 いや、キミの口から聞かなきゃいけない

クロメ >  
「……ク」

小さく呻く。
やってしまった、とでも言いたげであろうか。
無礼を咎めるというよりも、内省のような呻き。

「……気にするな」

小さく吐息をはく。
これ以上の失態をするものか、という意思が宿るかのような物言いであった。

「無遠慮だな」

質問に対する答えは、にべもない。
そこに、壁がそびえているようでもあった。

「分かる必要など、ない。
 ……が。そうか。言ったのだったな」

それそのものが過ちだった、とでも言うように吐き捨てた。

「……知りたければ、それこそ此処の神にでも問え。
 答えを持っているやもしれん」

荒れ果てた社を一瞥しながら、答えた。

橘壱 >  
「いいや、気にするね」

一蹴するかのように拒否をした。
それで"はい、そうですか"とは言えない。
わかっている。他人の傷跡に踏み込む行為が、どれだけ危険なのか。
それでも必要なのかもしれない。この、"分からず屋"には。
自らの身を省みる位なら、とっくの昔に適当な付き合いにしている。

「直しているつもりだけどね、ノンデリなの知ってるだろ?
 ……それに、僕だって言ったはずだ。今の今まで、神頼みはしなかった」

一歩、また一歩と近づいてくる。
今までずっと壁ばかりの人生だったのだ。
それがどうした、と言わんばかりだ。

「キミから知りたいんだ。
 わかってるよ、今まで結構はぐらかされてきたしね。
 けど、今度言う今度は悪いけど、引く気はない。クロメ」

その名を呼び、目前。
手を伸ばせば簡単に届く距離。
目をそらさず、姿勢を屈めて目線を合わす。

「改めて知りたいんだ、キミの事を」

クロメ >  
男が眼の前に迫る。
その程度に威圧されるようなことはない。
しかし、だ。
 
「………」

この男がだいぶ頑固なのは大体わかってきている。
それにしても、今度という今度は面倒なことに拘るものだ。
小さく、吐息を吐く。

「いうべきことは、ない。
 答えたとおりだ。"此処の神にでも問え"。
 小賢しい人間」

冷えた目が、男を見返した。

「"知りたい"? お前の自己満足に付き合う理由はない」

橘壱 >  
威圧する気はない。
それこそスタンスは変わらない。
自分なりに真っ直ぐに、彼女の元へと。

「そうだ、僕の自己満足だと言うことは否定しない。
 そうだな。見てみたいよ、キミが笑うような姿もさ。
 それこそ、普通の女の子のように振る舞うのも、可愛げがあっていいと思う」

望みとして自己満足が混ざっている事は否定しない。
ただ、凡その事はそうやって片付ける事は簡単だ。
けど、存外そういうものじゃないと彼女だってわかっているはずだ。

「但し、自己満足であっても、意味はあるさ。
 結果的には"キミの為"になるとは思っている。
 キミだってわかっているはずだ。もう世界はとっくの昔に変わってる」

「もう、キミが思うような人も、世界もないってわかってるはずだ」

彼女は決して愚かではない。寧ろ聡明だと思っている。
それこそ理屈ではないとわかっていても、問わずにはいられない。
じ、と視線を見据えたまま、不意にふ、と表情を崩した。

「別にいいよ、僕は我慢比べだって得意だ。
 百年でも千年でも、ずっと問いかけ続けるぞ?
 殺されても、その耳元でずっと這いずり回ってやる」

生半可な気持ちで問いかけてはない。
それだけの覚悟を以て問うている。

クロメ >
「くだらない」

実に、くだらない。そう吐き捨てた。
笑顔。そんなものは、とうの昔に……
ああ、昔に、だ。捨て去った、のだ。

「人は変わった。ああ、そうだ、人は変わる。
 だが、根は変わらない。
 それを、私は知っている。」

冷え切って尖っているが、どこか吐き捨てるような言葉。
その矛先は、どこに向かっているのか。
人への怨嗟か。はたして。

「今、お前に言えることは、もうない。
 "此処の"神に問え。」

こちらも、譲らぬ、という顔をしている
冷たく、変わらぬ表情でもそれが伝わるだろうか。


橘壱 >  
「……確かに変わらないものもある。 
 だけど、全部がそうじゃないし、世代が変われば比率も変わるさ。
 勿論、その結果失われるものもあるのは、わかるけどね」

忘れ去られ、風化していく。
今まさにこの土地がそうだった。
くだらないというのはきっと、何よりも思うことがあるはずなんだ。

「…………」

じ、と見据えたまま視線を外さない。
根比べなら負ける気はしない。石の上にも何万年だっていてやる。
ただ、埒が明かないのは事実だ。
はぐらかすための冗談か。或いは本気で言っているのか。

「(既にいない(ヒト)のはずだが……、……。
 ……"困った時の、神頼み"、か。まさか、ね……)」

トランクの底を押し、地面に置いた。
そして軽く本殿の方へと向き直った。
荒れ果て、朽ちて、疾うの昔に信奉は失われた。
此処に訪れるの者もほとんどいない、忘れ去られた未開拓地。

「───────……。」

静かに目を閉じ、事問うた。
いるかもわからない(ヒト)に、彼女の在りようを。
何も起きなければ、それこそ"サムズダウン"で上等だ。

クロメ >
 
世の中は変わる。変わらないものもある。
だが、すべてがそうではない。
そんなことは自明である。
しかし

「……そんなものは」

自分が一番よくわかっている。
そうは、言わなかった。
言うわけには、いかない。

「………」

本殿であったであろう場所に向き合おうとする男。
目を閉じて、おそらくは見えもしない"何か"に問いかけているのであろう様子を黙ってみる。

「言葉通りだけと思うな。
 ……小賢しい頭で、考えろ。
 神を考えろ」
 
小さな吐息を吐く

「……今は、お前にはそこまでしか言わん」

橘壱 >  
当然、アリもしないものに帰って来るはずもなかった。
全く、我ながら藁にも縋る思いというか、
普段やらないことをやるべきじゃないな。

「……ハッ」

思わず、失笑。
ゆるりと立ち上がり、トランクを蹴り上げキャッチする。

「いや、わかってる。
 流石にちょっと必死過ぎたな。
 やりもしないことを曲げようとしたけど、ノーカンかな」

だって本当にいなかったんだし、仕方ない。
やれやれ、と困ったかのように頬を掻いて少女に向き直る。
そして、思わず肩を竦めた。

「難しい事ばかり言うな、キミは。
 いや、いいんだ。困難な方が燃える性質だしな。
 それにキミは何時も突っぱねてばかりだけど、
 進展してるのはわかるしね。どう?少しは信用できるかい?僕は」

寧ろ、自分からそういったのだ。
それだけでも寧ろ今は充分なくらいだ。
たまには少しばかり調子に乗ったように、はにかんだ。

クロメ >  
「……ただの人間、だな」

失笑する男に、呟く
ひどく、平坦な声だった。
冷たくも、温かくもなく。
ただただ、平らな。

「小賢しい割に、わからない男だな。
 それなら、それでいい。」

小さく、本当に小さくだけ肩を竦める。
解への道は示した。

解けないのは本人の資質か……さもなければ視野の問題か。
解かれないのなら、それでもいい。
解かせたいわけではないのだから。

「それに。
 ……いずれ、わかることもあるやもしれない。」

少しだけ、あらぬ何処かを見ているようであった。
この先の、いずれだろうか。

「お前か?
 胡散臭い笑い、頑固者、意気がり。
 実に度し難い。」

淡々と、感情を交えずに口にする。
実に散々であった。

「そして、お節介でもある。
 度し難い、が。それくらいは認めてもいい」

橘壱 >  
「そう、ただの人間さ。
 地球生まれの、地球育ち。
 異能も無ければ、水の上を走ったり、空も飛べない。
 多分、何処まで行ってもきっと変わらない、とは思う」

何が起こるかわからない世界だ、絶対はない。
ただ、神秘が当たり前の世界で少年は神秘に愛されなかった。
何の適性も持ち得なかったが、唯一の取り柄がある。

「だからこそ、足掻いてるのさ。
 足掻いて、足掻いて、(そら)を羽ばたいてる。
 その生き方だけはずっと変わってないよ。今も、昔もね」

諦めない、前に進む力。それでも言い続ける、意志の強さ。
それを補強する鋼と、少年の意思。
人間性は変わっても、それだけは変わりはしない。
軽く手をヒラヒラさせると、徐ろに少女の頭上に乗せた。

「胡散臭いってなんだよ、こう見えて嘘は吐けない方だよ」

ワシャワシャと髪が乱れる位撫で回してやろう。
せめてもの"仕返し"ってやつだ。

「……全く、キミも大概頑固者だろうに。
 まぁ、でも、そうだな。そう、僕の寿命は多分人間一人分だ。
 キミに比べればそれこそ一瞬の時間かも知れないけれど、敢えて言うさ」

僕は、キミの事を忘れてやらない

それだけは、伝えておこう。

クロメ >  
「……人の想いは。欲は、きりが無い」

ぽつり、と零す。
温度の感じられない、奇妙な声だった。

「只人のまま、足掻がいい」

「言葉通りだ。気色の悪い笑いだ。
 番ってから、余計か?」

ワシャワシャと撫でられながら、冷えた声でいう
皮肉なのか冗談なのか。その声の調子からは読み取りづらい。
手については、意にも介してないのかそのままにさせて

「忘れろ。いいことはない」

男の言葉。"忘れてやらない"
それに心底面倒そうに、応えるのであった。

橘壱 >  
「……それは、否定しないよ」

自分のこの戦いへの欲求だって欲望だ。
高みを目指すということは、飽くなき欲望だ。
一介の人間だからこそ、身に沁みてわかっている。

「けれど、何時だって始まりは"善意"だって、僕は信じてる」

過去のことを全て見透かすことなど出来やしない。
全ての事象を理解できるほど超越的な存在でもない。
ただ、そうであったように、きっと物事の始まりは、善意だと信じてる。
それこそきっと、彼女の近いにいた人も、
或いは最初に"祈り"を捧げた人も、もしかしたら───────……。

「失敬だな、そういうのじゃないよ。
 まぁ、イケメンって程じゃないけどさ」

整ってはいる、気はする。
全くと、困ったような表情を浮かべて今度は軽く頬をつついてやった。

「イヤだね、"僕の勝手"だ。
 それに、いいことなら充分あるさ」

今がそうで、あるように。

クロメ >  
「その"善意"を持つ人間が……
 いや……信じるなら、好きにしろ」

小さく息をつく
どうせこの頑固者は、それを信じるのだろう
それが裏切られたとしたら――

そのときに、男が考えることだ
それでも信じ抜くのか、それとも――

「……言っても聞かないようだな」

何かを想起する。
そういうものこそが……いや、考えるまい。

「後悔しても、私の責ではない」

あえて言うことでもなかったが、口にした
何事も、自分が背負うしかない。
……背負うしか、ないのだから。

橘壱 >  
その善意を持つ人間が、するんだろう
 ……知ってるよ。僕が今、何処の委員会にいるか忘れたのかい?」

そう、例えどんな人間でも小さな悪意を持っている。
悪意、という意味なら小さい頃身近で感じてもいた。
そして、親としての最低限の"善意"も。
只々盲目的という訳じゃない。そう、だからこそ─────……。

「だから僕は、信じるさ。
 自分の選択と、自分が信じたものを。
 例え、裏切られたとしてもね。後悔はしないよ」

それこそ真っ直ぐに、何処までも高く羽ばたいて見せる。
その時暗い気持ちに陥ったとしても、羽ばたくことを止めはしない。

「もしかして、"心配"してくれたのかい?クロメ」

「後悔なんて、後からでも出来るさ。
 ……そう言えば結局、お参りしてないなぁ。
 どうする?キミも、僕にでも"祈って"くれるかい?」

なんて、からかうように言ってやった。

クロメ >  
「……なら、言うべきことはない」

人は度し難い。
何処にでも悪意はあり、悪意の芽はなにかのきっかけで巨大に芽吹くことがある。
なんであろうと、その可能性は潜んでいる。
……たとえ、自分自身であろうと、信じられるものではない

それでも信じるというのなら、好きにすればいい
いくらでも打ちのめされればいい
  のように

「放任だ」

度し難い人間を心配したところで無駄だ。
心配などしてはいない。
投げ捨てただけにすぎない、とそういった。

「……」

僕に、などという軽口に、軽く顔を眺める。

「益ではなく、厄がつきそうだな。
 そういう空気だ」

そう言い捨てた

「参じただけで十分だろう。神に対する義理くらいは果たしたのではないか?
 私は、何にも祈る言葉は持ち合わせていないからな。
 それは、お前もだろうが。」

橘壱 >  
わかっている。それこそ闘争を生き甲斐としている以上、
何かの拍子に自分はただの殺戮者に成り下がる可能性だってある。
だからこそ、信じなければいけない。自分の可能性を。
自分の善意を、人の善意を。

「そういう台詞って僕が言う側じゃあ……。
 まぁ、別に放任するってことはないだろうけどさ」

無責任なことはしない。
仕事でなくても、そうすることはない。

「そこまで言う!?酷いなぁ……もっと褒め言葉とかないの???」

棘があるのは相変わらずだが、直球言われるとクる。
おかしいな、愛してくれてる女性は一人くらいいるのに。
トホホ、流石にちょっと肩を落とす。

「──────いや、あるよ」

ふ、と笑みを浮かべて淀み無く答えた。

「けど、今のキミに祈ることは出来ないからね。
 だから、"今は"言わないさ。それに、全く酷いな。
 これから長い(短い)付き合いになるかも知れないのに、無事位祈ってくれてもいいのにね」

此処に祈りの言葉はある。
そういうように、自らの胸元をトントン、と指先で小突いた。
但し今は何も言えない。もし言えるときがあるなら、その時だ。
それこそ、初めの時と比べれば随分と会話もはずんだ。
なんだか、それがおかしくてふふ、と吹き出した。

「じゃあ、義理は果たしたし帰ろうか。
 また来年も来れるといいけどね、お互い」

クロメ >  
「褒めるところがあるか?」

今度は冷たく言い放つ。
しかし、底冷えはない。ただ、温度が低い。
いくら冷たくしても無駄だ。
といっても温かくする理由もない。

「……臭いな」

手をパタパタと振る
まるで本当に匂いが漂っている、とでもいいたげに。

「祈っても無駄だろう。
 せいぜい、気張れ、というだけだ」

無事を祈っても、という言葉
それこそ、そんなものを神に祈ったところで……と思う。
しかし、本人に祈ったところでもっと意味がない。
なんとかしろ、と丸投げするだけだ。

「……そうだな。」

ちらり、と荒れ果てた社をみる。
ここは一体、どれだけの人が祈ってきたのだろうか。

「来年……か。
 どうなることか。」

もし、アレが成るなら……いや、今は考えても仕方がない

「……行くか」

そうして、帰路につく

ご案内:「青垣山 廃神社」から橘壱さんが去りました。
ご案内:「青垣山 廃神社」からクロメさんが去りました。