2025/02/21 のログ
ご案内:「青垣山 廃神社」に神樹椎苗さんが現れました。
ご案内:「青垣山 廃神社」に緋月さんが現れました。
緋月 >  
廃神社への道を、ゆらりと歩む人影がひとつ。
黒い合皮のマントをなびかせつつ、ブーツの足音を鳴らす、ライトグレーの髪の少女である。

「……随分とまた、季節外れですね…。」

そんな事を呟きながら、オモイカネ8を確認。
突然の「先輩」からのお呼び出しのメッセージが入っている。

「鍛える、ですか…。」

ちょっとだけ、不安。
随分と以前…自分は抵抗する気がなかったとは言え、大変な目に遭った記憶に、
今更ながらちょっとだけ寒気。

「…それにしても、随分此処は暖かいですね。」

冷えるかと思い、普段よりも耐寒性の高いものをと以前に買った防寒型のマントを着て来たのだが、
廃神社に通じる慣れた道を歩む内に随分と気温が上がったのを感じる。

「花も咲いてますし…向こうに着いたら、脱いでもいいかもですね。」

――そう、現在歩いている道は、まるで春先のように様々な草花が行く先を彩っている。
まだ春には暫し遠いというのに、実に季節外れだ。

最も、そんな事を気にしても仕方がない。
ブーツの音を鳴らし、ライトグレーのポニーテールを揺らしながら、廃神社への道を歩くのであった。

神樹椎苗 >  
 神社までの道のりだけでなく、境内の中も花畑のように季節外れの花が狂い咲いていた。
 春の陽気のように暖かな境内は、くすぐるようなそよ風が花々を揺らしている。

 そんな境内の真ん中。
 大きな花の花弁の中に包まれて、丸くなっている、小さな娘の姿。
 心地よさそうに眠っているその身体からも、全身至る所から花が咲いている。

 待ち人が来ても目を覚ます様子はなく。
 むしろ、待ち人に起こされてるのを待っているかのように、花に包まれて眠っていた。
 よく見れば、その全身――肌の下にも花々が根を張って、花弁を開いている。

 呼吸音もほとんど聞こえず、人であるかも疑わしい。
 けれど、安らかな寝顔と幻想的な花に包まれている様子は、一枚の絵として完成されていると言ってもいい様子だった。
 

緋月 >  
「…………。」

実に静かに眠っている、本日お呼び出しを受けたお相手。
遠目から見ればお昼寝中にも思えるが…こうして見ると、まるで休眠する植物のようにも思える。
肌の下を走る根と、其処から開く花が更にそのイメージを加速させる。

(半精霊……でしたっけ。)

メッセージで送られて、調べられるだけ調べてきたお相手の情報を思い出す。
「神木」による精霊化、それに伴う「神木」が健在である限り不滅である、という身体。
神木といえど植物である以上は、植物らしい動きなどもある…のだろうか、と考えつつ。

「――椎苗さん、来ましたよ。起きて下さい。」

もう少し眺めていてもいいか、と思ってしまいそうな光景を少し我慢して、崩す事に。
軽くゆさゆさと揺すり、眠り姫を起こしにかかる。
生憎少女は王子様などではないので、体を揺すっての起床要求であるが。

神樹椎苗 >  
 後輩の手で体をゆすられると、はらはら、と身体から咲いていた花が零れ落ちていく。
 そして薄っすらと目を開くと、普段と違った色鮮やかな色彩の瞳と花の形の瞳孔が、後輩を眠たげに見上げる。
 するする、と花のツタが伸びて、後輩の頬をそっと撫でた。

「ん――もうそんな時間でしたか」

 そう言って大きな桜色の花の花弁の中で、身体をもぞもぞと動かす。
 そのたびに、身体から生えていた花々は、まるで生きているかのように椎苗の身体から、するりと抜け出すように落ちて行った。

「んぅ――後輩」

 そう言って、椎苗は目を擦りつつ、寝返りをうって。
 両手を少女に向けて広げた。
 抱き起こせ、の要求だ。
 

緋月 >  
「はい、もうそんな時間です。」

冗談半分でそんな言葉を返しつつ、頬を撫でる蔦に軽く目を向ける。
ちょっとだけ驚くが、流石にそれを表に出す程未熟者ではないつもり。
もぞもぞと、何だか億劫そうな調子…少なくとも和服の少女にはそう見えた…で身体を動かす様は、

(……猫…。)

何となく、炬燵で丸くなっていそうな雰囲気からそんな不埒なイメージを。
口にしたら十倍位になって返ってきそうなので、こっちもぐっと我慢。
花の少女の身体からするすると抜け落ちていく花を眺めつつ、起こせと言外に要求されれば、

「分かりました、それではちょっと失礼。」

黒いレザーのマントに隠れていた片手を出し、其処に握られていたビニールの袋を、近くに置いておく。
そうして両腕が自由になった所で、両手を広げる少女をよいしょ、と慎重に持ち上げる。
重くはない。むしろ体格もあって軽い方だと思うので、振り回さないように慎重に抱き上げる形だ。

尚、少し離れた所に置かれた白いビニール袋からは、ほのかに暖かく、香ばしく、甘い香りが漂って来る。

神樹椎苗 >  
「んにゃぁ」

 まるでお見通しだぞ、と言わんばかりのタイミングで、甘ったるい声で鳴いて見せたり。
 抱き上げられれば、満足そうに、少女の腕の中で頬を摺り寄せて見せる。
 イメージ通り、子猫のようで。

「にゃぁ。
 くるしゅーないにゃー」

 なんて、戯れるような事を言いつつ。
 珍しく少女へ、無防備に甘える姿を見せながら、お猫様らしくちょっと偉そう。

 とはいえ、そんなお猫様もいつまでも抱っこされてるほどおとなしい訳でもなく。
 ベッドになっていた桜色の花が、今度はまるで椅子のように花弁を傾ける。
 そして、伸びてきた花の蔓が、少女の手からお猫様を奪って花弁の中に抱きかかえた。

「んん――ふぁ、ぁふ。
 ん、美味そうな匂いがしますね。
 貢物を持ってくるとは、殊勝な後輩です」

 などと、いつもとは違う瞳で少女を見上げたまま、いつものように偉そうな態度。
 そんな椎苗が指先を振れば、少女の足元から大きな紫色の花が花弁を広げて、これまた椅子のように咲く。
 寄り添い合うように、桜色と紫色の花が並ぶと、その目の前に薄青い花が咲き。
 その花弁の中からは、大きな重箱が現れた。

「そんな殊勝で、頑張った後輩に、先輩からご褒美です。
 お前が好きそうな和食を、思いつくだけ作ってきました。
 満足するまで食べると良いですよ」

 そう言うと、青い花の蔓が重箱の蓋を開け、後輩の少女にお箸を差し出す。
 蒼い花はテーブルのように丈夫で、少女が食べやすいように花弁を傾けたりと、まるで気遣ってくれているよう。
 椎苗はそんな様子を眺めながら、何度か小さく欠伸をして、楽しそうに微笑んでいた。
 

緋月 >  
「う゛っ。」

ばれてる。そんなに顔に出やすいかな、などと思いつつ、暫しの間の抱っこと色々の時間。
甘えられれば、陽気と気温のお陰もあってこちらの雰囲気諸々も概ね緩んでくる。

「――おっと。器用ですね…。」

お猫様タイムが終わり、椅子のようになった花弁へと花の少女が運ばれていけば、思わずそんな一言。
実際、随分と器用だし、人ひとり持ち運べる位の強さはあるのだろうとも見当が付く。

「ええ、お腹を空かせてこいとは言われましたけど……折角なら甘味もあった方がいいと思いましたので。」

メッセージには「腹を空かせてこい」という言葉もあったので、恐らく食事が出るのだろうとは見当がつく。
しかし、折角なので一緒に甘味位はよいだろうと思い、少し考えて道中で買って来たものだ。
はい、と、手近なお花に渡す形に。

「お、おぉ……これは、また結構なお手前で…!」

重箱の中身を覗けば、思わずそんな言葉が。
一食抜いてきた事もあり、食欲は充分である。
いただきます、と箸を取り、まずは伊達巻に手にした箸を伸ばす。

尚、ビニール袋の中身は三色団子の入った包みと、更にもう一つ、「常世焼き」と書かれた紙袋だ。
三色団子はよくスーパーなどで売られているような味気ないものではなく、和菓子店から買って来た
紙包み入りの本格的な代物である。
常世焼きと書かれた紙袋の中身は――分かる人には分かるだろう。
小麦粉からなる生地にあんこを入れて円筒形ないし分厚い円盤状に焼成したあの和菓子である。

神樹椎苗 >  
「――む、大判焼きじゃねーですか。
 気が利きますね」

 なんて、論争が起きそうな名前を出しつつ、遠慮なく紙袋からほかほかのお菓子を取り出して、小さな口でちまちまと食べ始める。
 頬を膨らませながら食べる様子は、子猫というより、子リスのようでもある。

「料理はそれほど得意じゃねーんですが。
 まあまあ、食べられる程度には練習しましたからね。
 ついでに、けんちん汁もありますよ」

 そう椎苗が言うと、太い水筒が、花の蔓によってはこばれてくる。
 少し大きめのカップに注がれるのは、温かいけんちん汁。
 なお、よく豚汁と混同されるが、けんちんは地球産の日本本土の郷土料理であり精進料理だったりする。

「んー――しかし、お前も少しは着るものに気を使えるようになったみてーですね。
 今日の装いは、まあまあ及第点と言った所です。
 褒めてやります」

 そう言いながら、むふーと鼻をならして、小さな手を伸ばして色の変わった髪を撫でます。
 頭までは手が届かなかったので妥協したのは秘密。

「いい色じゃねえですか。
 これはまた、コーディネートの甲斐がありますね」

 少女の髪を、食事の邪魔にならない程度に弄びつつ。

「まあ、今日はお前の労いが一番ですからね。
 たっぷり食べて、栄気を養うといいです。
 ――まあちょっと、気が抜けてて花畑を作っちまいましたが」

 花の匂いが強すぎないだろうか、と、ちょっとだけ気にかかる子リス様でした。
 

緋月 >  
「まだまだ肌寒い季節ですし、暖かいお菓子の方がいいと思ったものですから。
…それにしても、このお菓子、色んな名前で呼ばれてますよね。
あ、けんちん汁も頂きます。」

はふ、と軽く息を吐きながら温かいけんちん汁を少しづつ口に運ぶ。
此処はともかく、来るまではまだまだ冷える温度。
温かい汁物がまだ少し冷え気味の身体に染み渡る。
名前が多岐に渡るあのお菓子については、敢えて名前の名言を避ける事で
特に呼び名に拘りや呼ばれたくない名がない事を示す。

「それは、もう……随分着せ替えをさせられましたから。
稽古だと言われてましたし、普段の服とどっちがいいか悩みましたけど、折角選んだ服ですから。」

今日の服はあの着せ替え人形事件より後に、自分で見つけて買ったものだった。
曰く「旬」を過ぎてしまったとの事で、割と安く購入出来たのである。
旬とかそんなものは特に気にせず、自分の感性で買ったので安物買いとは思っていない。

「…「雇用主さん」には、複雑な顔をされてしまいましたけどね。
幸い…と言っていいのか、元には戻らなくなってしまいましたが、それ以外に害や後遺症はないと。」

変わってしまって戻らない髪と瞳にも、何とか慣れて来たと言う所。
あの日から暫くは、鏡を見る度にぎょっとしていたのだが…時間と言うものは、変化を慣れさせてくれる。
撫でられるままに髪を撫でられつつ、食も進む。

「有難くご馳走になります。
しっかり一食抜いてきましたから、全部食べ切れますよ。
随分と早いですが、お花見も出来ますし、食も進みます。」

相変わらず食欲旺盛。
餅巾着を取り上げ、もしゃもしゃ。
花の匂いについては、特に不快や気になったりと言う所はない様子であった。

神樹椎苗 >  
「まあ名前で出身地がバレるくらいには多いですね。
 しぃは大判焼きと言い張りますが」

 場合によって口論になりそうな発言でした。

「あの女からすれば、そりゃあ複雑でしょう。
 詳細は知りませんが、ま、無事で何よりですよ。
 ――しぃと『非凡人』の調査が無駄にならなくてよかったです」

 などと、ちまちまお菓子を食べつつ、ちょっとだけ言葉にしては不満顔。
 なにせ、椎苗にとって星核と星骸は天敵と言ってもいいのだ。
 逃げ帰るしかなかったのが、本人としては非情に悔しい所ではあった。

「うむ、くるしゅーない。
 たらふく食べるといーのです」

 とはいえ、やはり偉そうなのは変わりなし。
 今日はお花の精霊さんだが、結局は傲岸不遜のお姫様なのだった。

「しかし、アレを倒したって事は、お前が斬ったって事でしょう?
 しぃの見立てじゃ、アレは少なくとも不死に近いもんだったはずですし。
 単純な破壊なら、あの女だけでも余裕でしょうけど、それで片付くなら一人でやったでしょうからね」

 髪を弄っていた手を伸ばして、元気よく食べている少女の頬をもちもちつんつん。
 後輩の剣技が『概念』すらも斬る技だと知っているからこそ、詳細に興味津々らしい。
 どうやら推測が主で、正確な情報まで握っているわけではなさそうだった。
 

緋月 >  
「下手したら口論になりそうですね…。
あ、中身、カスタードとチョコクリームもあります。」

カスタードはまだ何とか分かりそうだが、チョコクリームは一瞬餡子と区別がつかないかも知れない。
匂いを嗅げば、分かり易そうな気もするが。

「――アレは、思ってたより大変な相手でしたね。
情報がなかったら、多分私たちも逃げ帰るしかなかったと思います。」

そんな事を真顔で言いながら、重箱の中身をむしゃむしゃ。
気が付けば、もう随分と中身が減っている。
相変わらずの健啖ぶりだった。

「うーん…斬るには斬れました、けど、完全に斬れた訳ではないです。
一番「斬る」目的だった「(標的)」は…結局、私の認識の間違いで、
斬る事は出来ても滅するまでは届かなかったですし。
そもそも、お膳立てまでしてもらっての結果でしたから…。」

少しばかり残念そうに、そんな事を口にする。
つんつんされると、ちょっとばかり心残りが喉に引っ掛かったような、そんな情けない顔。

「不死…といえば、不死なんでしょうね、アレの「核」だったものは。
より具体的には…聞いた言葉を借りる形ですけど、「甦生不滅」。
死んでも生まれ変わる、という性質らしいです。

だから、一度は斬って滅する事は出来た…けれど、その性質までを把握できなかったので、
結局はまた復活されてしまいました。
幸い、その一撃で「核」を切り離す事には成功したので…目的は達成できたけど、「戦」に負けた、感じです。
あの時、「神威」ではなく、別の技を使っていれば……と、これは無いものねだりですね。
気が付いていても、「輪廻」まで斬れる技はあの時の私の引き出しにはなかったですし。」

ほぅ、と息を吐けば、もう重箱の中身はほとんど残っていない。
好物なのか、最後に残した栗きんとんに箸を伸ばし、味わって食べている。

神樹椎苗 >  
「しぃはカスタードが好きだにゃー。
 なんて、もちろん全部頂きますが」

 片手を猫の手にして、少しだけ茶目っ気を出してみたり。
 勿論、お菓子の目利き見分けはお手の物。
 大事にカスタードだけ後回しに食べていたりと器用な子リス。

「――ふむー」

 話を聞けば、椎苗はなぜか考える顔。
 ただの不死ではない――となれば、それは椎苗にとっては朗報とも言える。

「つまり輪廻転生の概念、都度、転生するようなものですか。
 そうなると、その循環そのものを斬る必要があったという事ですね。
 輪廻、循環――現世との繋がりを斬るようなものですか」

 それは死神の使いたる、椎苗の得意な分野である。
 とはいえ、少女の剣技とは全く異なり、死神の権能と神器によるものなのだが。
 しかしそれ以上に。

「悪くねーですね。
 それなら、しぃがお前の巻き藁になってやれそうです」

 あむ、と精一杯おおきな口で焼き菓子を頬張ると。
 ゆっくり噛んで、飲み込みます。

「お前、しぃの不死の仕組みはわかりますか?
 黒き神でも殺せない理由と仕組みです」

 少女があっという間に平らげてしまった重箱を眺めつつ。
 その脇腹を指先でつんつんと。
 

緋月 >  
「以前に食べた時は和菓子なのにカスタード?と思いましたけど、随分合ってたのでびっくりしましたね。
あ、お団子もご自由にどうぞ。」

と言いながら、ようやく本文に入って来た雰囲気。
綺麗に食事を終え、ごちそうさまでした、と手を合わせると、改めて顔を合わせる姿勢に。

「はい、凡そその理解で間違っていないと、自分では思っています。
一度は確かに手応えがあった。それは間違っていない筈。
あの時のやり方では「復活する」事までは止められなかった――というだけです。」

それを断ち切るのが、随分と難問になりますが、と軽く頭を掻く。
脇腹をつつかれると少しだけくすぐったそうな表情を見せて。

「……今日までに、調べられるだけの範囲は、調べてはきました。

「神木」の、「端末」。
神木が外部の情報を収集、蓄積するための外部装置。
機能を停止した場合、即座に端末は再構築される。

……その端末が、椎苗さんだから…ですか?」

つまり、滅びても「大元(神木)」が健在ならば即座に「新しい身体」が用意されて復活する。
それが、神樹椎苗という少女の、不死のからくり。

調べられるだけのデータを調べて、着物の少女が出した結論はそれであった。

神樹椎苗 >  
「うむ、満点をやりましょう」

 そう偉そうに言いつつ、お団子を頬張った。

「んにゅ――ようするに、複製(エフェクト)本体(バックアップ)です。
 あのクソ樹木がしぃの記録を保存している限り、理論上、無限に複製が可能。
 つまり、実質的な不死、という事になるわけです」

 完全な不死ではないのは、あくまで今の端末(しいな)は、『神樹椎苗』の複製でしかないから、と、椎苗自身はそう解釈している。
 複製の椎苗が、本物なのか生きているのか、という点に関しては、スワンプマン理論のように思考実験的になってしまうので、本人からは言及しないが。

「要点は、そんなしぃと神木の繋がりを斬る事。
 複製を生み出すループを断絶出来れば、しぃは不死性を失う――はずなんですが」

 その辺りは、実際に起きた事のない現象のために不確定。
 そうなった時の仮説はいくつかあるものの、今回に限って、その結果はあまり重要ではなく。

「単なる不死ではなく、不死の根幹となっている現象、概念そのものを断ち切る。
 その無茶苦茶な技の練習には、ちょうどいいんじゃねーかと思いまして」

 そう、気軽そうに提案するものの。
 当然、それが成功してしまえば、目の前の『複製』がどうなるのかは分かったものではないのだが。
 そこに関しても、あえて言及はしなかった。
 

緋月 >  
「………………。」

着物の少女はだんまりのまま、花の少女の言葉に耳を傾ける。
確かにその理屈で考えれば、神木との繋がりを断ち切る事で「神樹椎名(端末)」の不死性は失われる筈。

当然、それを行った結果……何が起こるかは、ある程度推測は出来ても、確たる予想は出来ない。
出来ないが…決して無事では済まされない、何事かが起こってしまうだろう。

成功してしまった場合、彼女に何が起こるのか。
それを行って、取り返しのつかない事態に及ばないか。

敢えて、そこは口に出さなかった。
花の少女も口には出さない事から見て、実際に何が起こるかは予想もつかない、のだろう。

だから、此処で訊ねるべきことは、ひとつだけだった。

「――――椎名さんは、

本当にそれでいいんですか?」

巻藁代わりになって、実際に「成功」してしまったら。
その結果を、承知の上での提案であるのか、と。

二度、同じ事は訊ねない。
自身も刀振るう者だ、相応に覚悟は決めるつもりでいる。

(…まあ、失敗してしまったら大言壮語も良い所なんですが。)

神樹椎苗 >  
「構わねーですよ」

 間髪入れずの即答だった。

「しぃはそもそも、『死ぬ』ためにこの島に居ますからね。
 まあ便利な身体ではありますが、それだけです」

 どんな無茶をしても、多くの代償を伴う神器をほぼ無制限に使えるとしても。
 椎苗としては、それは多少便利である、だけでしかなかった。

「『神樹椎苗』は、すでに故人です。
 黒き神の慈悲によって、救われたはずの人間です。
 ですから、たとえどうなったとしても、それはあるべき形に戻るというだけの事ですよ」

 そう肩を竦める。

「とはいえ、お前が成功しなければ意味がねーんですが。
 練習台としては丁度いいでしょう。
 他に、わざわざ『斬らせて』くれる相手なんていないでしょうし?」

 そう言って、椎苗は食事を終えた後輩に手を差し出す。
 カスタードの焼き菓子は、紙袋に入ったまま、花のテーブルに置いて。
 

緋月 >  
「――――わかりました。」

即答を受ければ、最早否はない。
大きく息を吸って吐き、着物の少女は改めて花の少女に顔を向ける。

「……こんな時でもなければ、とても言えないので。
先に、言っておきます。

椎苗さんには、本当に色々とお世話になりました。
色々なお話を聞けましたし、時にはお叱りも受けましたけど。
新しい服を買いに連れ回された時も…今、こうして思えば、とても楽しかった。

何より、「この子」と、会う事が出来た。」

片手を右目の近くに軽く当てると、青白い炎と共にその瞳はやや緑を帯びた青へと。
手を放せば、その瞳はまた血の色に戻る。

「御神にも――私は、決して良い信徒ではなかったでしょうが…本当に、言葉にはなりきりません。
……お世話になってます。ありがとう、ございます――!」

そうして、差し出された手を両手でそっと握り締めるように。
そのまま、祈るように握った手を額に軽くつける。

大きく、深く息を吐き出す音と共に、そっと顔を上げれば、


「――――お申し出、有難く受けさせて貰います。
私は、あなたを――斬りたい(識りたい)。」

血の色の瞳は今までにない輝きを持って、花の少女へと向けられる。
己が業、識りたいと思う相手を「斬りたい」と思わずにはおられぬ衝動。

それを隠さず、真っ直ぐに向ける事が、着物の少女なりの「誠意」であり、「感謝」でもあった。

神樹椎苗 >  
「まったく、くすぐってー事をいいますね」

 苦笑を浮かべつつ。
 今度こそ少女の頭を撫でた。

「まるで愛の告白みてーな台詞じゃねーですか。
 まったく、しかたねー後輩ですね」

 そう笑いながら、椎苗は花の蔓に抱かれるようにして、花畑の中に立った。
 その姿は装いも含めて、確かに精霊のようにも見えなくはない。

「とてもいい瞳です。
 さ、お前の剣で、しぃの無限ループを斬ってみせてください」

 そう笑顔のまま、花畑の中をひらひらと踊る。
 その姿は今から少女に斬られようとしているとは思えないほど、自由で軽やか。
 花のような笑顔と、色彩豊かな瞳に浮かんでいるのは、少女への期待だった。
 

緋月 >  
頭を撫でられれば、微かに微笑みを浮かべ。
そうして、いざ事の始まりとなれば、着ていた皮のマントを脱ぎ捨て、腰の刀袋の封を解く。

「…駄目だった時は、情けない後輩だったと弄り倒して下さい。」

仕方のない後輩だという言葉には、そんな軽口で、悲愴感などないように見せつつ。

刀袋の紐を解き、現れるのは白い刀。
柄巻も鞘も真っ白な――あの黒水の龍との戦いを潜り抜けたとは思えぬ程の白さを見せる刀。
それをすらりと抜き放てば、硬く鋭い白刃がその身を露とする。

「知っている事と、実践との乖離は随分と味わってきましたから。
もし、無作法(しくじり)を行った時は、申し訳ありません。」

一太刀で斬れる程、実際に「理解」は届いていないだろうし、実際に斬らねば分からない事もあるもの。
恐らく、何度かの失敗で斬撃の苦痛は及ぶだろうと推測し、先に謝罪は済ませて置く。

(…勿論、無駄な斬撃を放つつもりは、ありませんが…!)

ひどく軽やかな雰囲気で笑顔を浮かべる花の少女が、いつもよりも大きく…高く険しい「壁」に思える。
これを斬るのは、中々に…難しいだろう。

(――先ずは。)

刀を構え、同時に軽く目つきが変わる。
「見えぬモノ」を斬る――「不視斬り」の構え。
無論、そんなもので不死の根幹、複製を生み出す機構を斬れるとは思っていない。
飽くまでこれは「視る」ための構え。

ただ「見る」だけでは気付けない「何か」が視えるかもしれない、という、仕掛けの一手。

神樹椎苗 >  
「挑戦を笑うほど、器のちいせえ先輩じゃねーですよ」

 くすくす笑い、構える少女を見守るようにしながら、ゆったりと花畑を歩く。

「でもそうですね――あんまり失敗するようだったら、ちょっとした罰ゲームでも考えておきましょうか」

 そんな、とても気楽な調子の椎苗。
 そんな椎苗――『端末』を視れば、その体を幾重にも取り巻く、糸のようなものが感じ取れるだろうか。
 周囲の草花、そして『端末』自身と同じ気配、種類の無数の糸。
 そして、それに微かに混じる、黒い色。
 また、色とりどりの様々な糸も混じり、その一つは少女へと繋がっている。
 少女が感じ取るのは、恐らくは『縁』というもの。

 その無数の縁の中から、斬るものを厳選し、不死(コピー)の根幹に繋がるものだけを斬る。
 もしも余計なものまで斬ってしまえば、なにが起こるかわからない。
 それは確かに、少女にとっては十分に訓練となるだろう、複雑怪奇なものだった。
 

緋月 >  
「――お手柔らかに頼みますよ。」

罰ゲームについては軽く苦笑を浮かべながらそう返す――が、早くも少女の額には小さな汗の玉。
疲労からではない。怪奇なものを見た事による緊張の汗。

(これは…「縁」、と言えばいいのか。
まるで、多数の糸がごちゃごちゃに絡まったような…!)

あまりにも多数の糸。
ただ「視る」だけでこれなのだ、理解度を上げるとなれば更に負担は増すだろう。
だが、そうしなくてはよりはっきりと「視る」事は――つまり、「斬るべきもの」を判別する事は、出来ないだろう。

(黒い色の、糸……多分ですが、これは御神との縁…?
少なくとも、下手に手出しはできない、か。)

他の糸も、何が何に繋がっているか…こうして一見しただけでは判別が難しい。
最も可能性が強いのは、花の少女自身へと繋がっている糸、だが。

(……これは、素直に白状した方がいいでしょうね。)

見えたモノを告げた上で――「試し」に向かう。
あまりやりたくない方法だが、いきなり大勝負に出てしくじる事は止めたい。

「――今、私は、見えないモノを斬る…「不視斬り」の構えで、椎苗さんを見ています。」

語るは、見た儘を。

「椎苗さんの身体に、幾重にも、取り巻くように。「糸」のようなものが、見えます。
辺りの草花、椎苗さんと同じ気配と種類の、無数の糸。
その中に…黒い色も、混じって見える。

多分、これは椎苗さんの「縁」ではないかと思います。」

大きく息を吸う。汗の玉が頬を伝い、顎まで滑り落ち、地面にこぼれて小さな染みを作る。

「……ひとつ。椎苗さんに「繋がっている」糸が視えます。
私個人の予想ですが、この糸が怪しいかと。

ただ、どの糸がどう働いているのか…これだけでは分かりません。

ですので…少し言い辛いですが、一度。
椎苗さんを「斬って」、どう動くのか、確かめたいと思います。
嫌ならば、他の手段を考えますが。」

つまり、一度「斬られて」貰って、これらの糸がどう動くかを確かめるというやり方。
人の感性では気が進まないが、「衝動」としてはどう動くのか、非常に興味深い。
その二つが、鬩ぎ合う。

神樹椎苗 >  
「――ふむ」

 後輩の話を聞いて、興味深そうな視線を向ける。
 椎苗もまた、どちらかと言えば探究者の側だ。
 未知を体感する機会があるとなれば、是も非も無い。

「遠慮なく斬っちまってください。
 しぃもそれでどうなるか、気になりますし。
 なにより、面白そうじゃねーですか」

 花々の色を映した瞳が、好奇心に彩られる。
 猫すら殺す好奇心だが、この小さな精霊はどうなる事か。

 椎苗に繋がる『縁』。
 その中でもひときわ目立つ、太く大きなもの。
 それが何と繋がっているのか――斬る事で何が起きるのか。
 視た、だけではやはり予想が着かないだろう。

 ただし、その『縁』の大きさから、斬ればなにか致命的な結果――もしくは、予想しえぬ結果になる事は間違いない。
 それだけは、『縁』を視た少女に確信を与えるだろう。
 

緋月 >  
「――承知。」

花の少女の返答に、ふう、と息を整える。
同時に、不視を見る事は解かず、不視斬りの構えだけを解き、ただの斬撃を放つ為の準備に。

(…可能な限り、情報は多く集めたい。ただ見てるだけじゃ、駄目ですね。
――第六まで、開く必要があるか。)

蓮華座――俗にはチャクラと呼ばれる器官。
主に身体能力強化の目的で開く事が殆どだが、霊視能力の強化などの効果も存在する。
見えぬモノをよりはっきりと視認するには…第六蓮華座。
七つあるうちの、六つ目までを開かなくてはならない。

(しっかり、見ておかなくては――!)

ホォォ、と奇妙な呼吸音。直後。

-第一、第二、第三、第四、第五、第六蓮華座…開放-

しゃん、と着物の少女の口から鈴のような音が漏れ、直後、6色の光の蓮が少女を中心に開花する。
同時に、身体中に一気に熱が走る。
神経、血管、身体を巡る総てに氣が満ち、奔るような感覚。
あまり長くは持続できない。長時間の開放は、相応の反動が来る。
花の少女にあるいは取り巻き、あるいは繋がる糸のようなものを、ブーストされた感覚で注視しつつ……

「――――御免!!」

正眼の構えから、一閃。
花の少女の身体を、袈裟懸けに斬り裂く一刀が閃く。
踏み込みは深い。動かず受けたならば心の臓を斬り割り、確実な致命傷となる一太刀!

神樹椎苗 >  
 ――後輩の答えから構え、その後の斬撃は一瞬だった。

 椎苗は戦士でもなければ、武を修めてもいない。
 となれば、その斬撃にも斬られてから初めて気づくのだった。

「む――なるほど」

 視界が傾いて、軽い音で地に落ちる。
 当然、致命の一撃なのだが、脳が死ぬまでに僅かの時間が残る。

「斬られた事に気づけない、とは、こーいう――」

 興味深そうに顎に手を当てながら呟いてるうちに、椎苗の身体は衣服と共に、塵となって消える。
 そして、その塵が風に攫われるよりも早く、少女の隣にそれまでと寸分違わない『複製』が現れていた。

「――事ですか。
 痛みも苦しみも感じないのは、斬られる側としては楽でいいですね」

 噴き出したはずの血も、滴すら残っておらず。
 目にしていなければ、それが『二人目』だとは気づけないだろう。

 そして、少女が『複製』が消えてから現れるまでを見逃していなければ。
 一つの大きな『縁』だけが『複製』が消えてもその場に残り続け、新たな『複製』の現れる場所へと先んじて動いていたのを確かに視るだろう。
 それ以外の『縁』は、どれもが新たな複製が産まれてから、『復元』されたと言ってもいいだろう。
 視る者によっては、その『復元』の様子は不気味にも映るかもしれなかった。
 

緋月 >  
「………ッッ!」

思っていた以上に、伝わる手応えは滑らかで…生々しい。
「先輩」と慕う相手に致命の一撃を与えた事による罪悪感と、「不死」という埒外の存在を「斬る」事の高揚感。
相反する感情が入り混じる、何とも形容し難い精神のざわつきに、しかしそれでも少女は目を放さない。

(ここで目を放したら、何も得るものがない…!
目を離すな、変化を、異常を、些細な事でも見逃すな――!)

ぎり、と歯を噛み締めながら――少女は、それを目撃する。
致命打を受けた花の少女が塵となり…それでも尚、その場にひとつだけ、大きな『縁』だけが残り続ける。
消える事もなく、ひとりでに動き始め、その動きを必死で追えば――

「……!?」

その移動先に、新たな「少女」の姿が現れている。
其処に引き寄せられたかのような動き――否、

(どちらかというと…移動先で、椎苗さんが「現れた」ような――っ…!)

少し頭痛がする。
鼻に痛みを感じて手を伸ばせば、小さいがはっきりと分かる血の赤。

(まずい――!)

得られる情報は、概ね得られた。大急ぎで蓮華座を閉じれば、六色の光が集っては消える。
同時に感じ始めた頭痛も収まった。
大きく息を吐き、少しお行儀が悪いが鼻に残った血を懐紙を取り出して全て出し尽くしてしまう。

「――すみません。動きをはっきり見たくて、蓮華座を開いたので…ちょっと、鼻血が。」

視力…つまり頭部に力を集中したので、その中でもやられやすい所から軽く出血したのだ。
懐紙をぐしゃりと握り潰すと、気を落ち着け、改めて見たモノを告げる。

「……ひとつだけ。
大きな「縁」が、椎苗さんが消えた後に残っていました。
それが、突然動いて…動いた先で、椎苗さんが「復元」された、ように、見えて。

…他の「縁」は、みんな…「二人目」が現れた時に、一緒に「復元」されたように、見えました。

多分、ですが…この「縁」が、椎苗さんの「不死」…「復元」に関わっている繋がりだと、思います。」

突然の復元は、何の経験もなければ取り乱していたかもしれない。
予め、調べた事で「情報」を持っていた事…そして、「浮生」の星核の見せた、現象。
斬っても尚甦るその在り方を見ていたお陰で、予想よりも取り乱さずに済んでいた。

神樹椎苗 >  
「なるほど――複製に復元と。
 まったく、不愉快になる仕組みを作りやがりますね、あのクソ樹木は」

 生まれた時から人為的に培われた、強固な『縁』。
 それがあったからこそ、『神樹椎苗』が端末として選ばれたのだろう。

「――しかし、お前の方はコスパが悪いですね。
 トライ&エラーをし続けるには消耗が大きそうですが」

 椎苗の手元に、黄金の四角形が現れる。

「『虚空蔵書、第三定格出力(模倣-疑似神器)』。
 ――ほら、こっちにきやがれですよ」

 黄金の四角形は、杖の形に姿を変える。
 近づけば、少女の消耗――内部的な怪我から疲労感まで、癒されていくのが感じられるだろう。

「このへんに挿しときますか。
 そうすりゃ、多少の怪我や疲労なら問題ねーでしょう」

 そう言って花畑の中へ、雑に杖を立たせる。
 すると、花々が蔓を伸ばして、杖を支えた。
 即席の回復ポイントだった。
 

緋月 >  
「あ、ありがとうございます……。」

お言葉に従い、素直に杖の方へ。近づけば、頭痛と鼻の奥の痛みが嘘のように消えていく。
一通り落ち着けば、小さく一息。すっかり体調は元通りだ。

「今回は見るのに集中したので…頭の方を中心に負担がかかったのだと。
必要な時に、時間を可能な限り区切って開放するのが、本来の蓮華座の開放の運用方法なので。」

言ってみれば、瞬間的なブースト。それが本来の、適切な使い方なのだろう。
長時間使えば、経絡系にどんどん負担がかかっていく、諸刃の剣と言える術技だ。
その分、扱いこなせれば得られる恩恵は大きいのだが。

「最後のひとつ…第七蓮華座までは開いていないので、普段使わない使い方をした無理を考えても
これ位ならまだ負担が小さい方です。
恐らく、あの大きさと太さの「縁」だけを…他を傷つけずに、的確に狙って斬るとなったら、
第七まで開き切らないと、集中と力が届かないと思います。」

代わりに、成功した手応えを得られれば、それを参考に反復訓練が出来るので、
その内に蓮華座を開き切る必要はなくなるだろう。
最も、それも対象の規模次第だが。

「……正直に言うと、あれだけ大きな「縁」です。
容易くは斬れないでしょうし、斬ったらどんな事が起こるか…私にも分からないです。

――再確認になる形ですみませんが、「斬って」いいんですね?」

斬れない、とは言わなかった。
己の身に着けたありったけを、考えて使えば――あの目立ちようである。
狙って斬る事は、恐らくは不可能ではない。

神樹椎苗 >  
「なにをいまさら――いえ」

 そこで、悪戯げに、挑発するような笑みと視線を向けて。

「――まさか『斬れない』んですか?」

 そう揶揄うように笑いながら、手招く様にしつつ、花畑の中でステップを踏む。
 その姿には、決意や覚悟のような強固なモノは感じらず。
 ただ、奔放で自由な、自然体とでもいうべきモノだけが感じられるだろう。
 まさに、斬られる事を心から楽しみにしているかのように。
 

緋月 >  
「――――それこそ、まさか。」

大きく息を吐き出す音と共に、とん、と手にした刀を肩に担ぐような形で動かす。
揶揄うように笑う花の少女に向くは――獣じみた、獰猛な笑顔。

「「斬ります」。
私が身体に叩き込まれた…そして、この島にやって来てから身に着けた、そのありったけを使って。
「斬って」みせます、とも。」

挑発には、不敵な返答を。
無論、ただのフカシではない。

(――これで、もう後戻りや言い訳は出来ない。やりますよ、私…それと、朔!)
《全く、自分を追い込んで限界を超えようとする癖は改めた方が良いぞ。》
(いいじゃないですか、この位ハッタリ効かせて、自分から逃げ道を塞ぐ方が。)
《――我は知らんぞ。まあ良い、負担の分散を行う位の思考補助はやってみせてやろう…!》

内なる友に声をかければ、もう後戻りの道はない――否、先に進むという意志がより固まるだけ。

「――次は、あの大きな「縁」だけを狙って、斬りに行きます。
斬れた時、どんな感覚が襲って来るか分からないので、心の準備はしておいて下さい。」

呼吸を整え直しつつ、再び着物の少女は刀を構え直す。
その右目が、青白い炎をちらつかせながら緑を帯びた青色へと在り方を変える――。

神樹椎苗 >  
「いい返事です。
 いつでも構いませんよ」

 笑いながら、くるり、と翻って、スカートを摘まんで一礼。
 これから、『神樹椎苗の願い』を叶えてくれるかもしれない相手への、敬意の表現だった。

「お前こそ、半端に躊躇したりするんじゃねーですよ」

 そう言って、見た目相応に無邪気な笑みを向けた。
 

緋月 >  
「――無論。」

半端はやるな、という声には、ごく短い了承の声。
同時に、その頭で如何なる斬撃を放つべきか。それを友人の力も借り、高速で弾き出し始める。

(「縁」…とはいえ、新しい「椎苗さん」を創る以上、何かがあれを「経路」に流れていると考えるのが自然。
となると、「流斬」…流れ断ちの一撃は必須。)
《仮にも「神」という樹の力だ、「神威」も必要ではないか?》
(確かに。当然、常では見えぬモノを斬る以上は…「不視斬り」もなくてはいけませんね。)
《それでいて、狙った「縁」だけを斬るか。……やはり無理難題では?》
(無理だと決めれば、その時点で可能性は途絶えます。出来る事全てを絞り切ってからでも、遅くはないでしょう。)
《――となると、だ。》
(ええ……「あの」斬月を使わざるを得ないでしょう。)
《………覚悟は出来たか、盟友よ。》
(今更でしょう。――始めますよ。)

それを火蓋代わりに、再び響く奇妙な呼吸音。
当然、その後に続くは――開花する光の蓮。

『蓮華座開花……第一、第二、第三、第四、第五、第六…第七、開放!』

「試し斬り」の際には開かなかった、最後の蓮華座。
七色の光の蓮が開き、全身に活力を回す。
これを開くという事は、出し惜しみなど到底出来ないという最後の決意。

『――流れを断ち(流斬)、』
《――神を斬り(神威)、》
『――見えずを斬る(不視斬り)。』

常では斬れぬを斬る魔剣術。
されど、その技を三つも同時に重ね、更に狙った一つのみを斬るなど狂気の沙汰。
――なれども、

(斬れぬものに向かって刃を振るうからこそ、不可能を可能とせんと愚直に刀を振るうからこそ――)
(――歓喜せずにはいられない。)

その歓喜さえも――七つの蓮華座を開いた事による極限の集中の中に、解けて消え去っていく。

邪念も、歓喜も、罪悪感も、意地も――全てを呑み込む、深い集中。
あるいは、それは一種の悟りにも近いものか。

やがて、周囲の景色までも消え去っていき…ただ、暗い空間に残るのは、微笑みながら己に向き合う少女のみ。
否、その少女から伸びる――長く、太い『縁』。
それこそが、真に向き合う相手。

ゆらり、と、まるでせせらぎ響かす清流の如き穏やかさで刀を振り上げ――――





             『――――斬月・無窮。』

 

緋月 >  
先程放った、鋭い一太刀とはまるで異なる、穏やかな一太刀。
総ての激情を置き去りにしたかのような一刀が――花の少女を取り巻く幾多の「縁」をすり抜けて
ただ、花の少女へと繋がる大きな縁のみに向かい、振り下ろされる。

流れという繋がりを、神の力を、何より見えぬモノを、悉く断ち割る一太刀が。
激しくもない、速くも思えない程の穏やかさで以て――その縁のみを狙い、閃く――。
 

神樹椎苗 >  
「――ふむ?」

 信頼する後輩の振るった剣を受けてしばし。
 椎苗は腕を組んで首を傾げた。

「奇妙な感覚ですね。
 なにか、しぃの中で決定的な何かが失われたような、そんな気がしますが」

 後輩の意気込みや集中、そこに込められたまさに無窮の技までは感じ取れず、それを勿体ないとだけ感じる、そんな事を考える余裕があった。
 試しに、草花を操ってみれば、それまでと変わらず、椎苗に従って花弁を揺らす。
 ならばと黄金の神器を見てみるが、黄金の杖は建材だ。

「ふーむ――どうなんですか?
 しぃに繋がってた、あのクソ樹木との『縁』は切れましたか?」

 椎苗の見た目には何一つ変化こそないものの。
 少女の視る『縁』の形からは、太く伸びた『縁』だけが途切れて彷徨っているのが視界に映ったかもしれない。
 まるで、それまで繋がっていたはずの物を探すように、けれど、まるでソレを認識できないかのように、巨大なツタがうねるように彷徨っていた。
 

緋月 >  
「――――――」

ホォォ、と、あの奇妙な呼吸音と共に残心を行い、無我の境地からゆっくりと引き戻る。
最初は景色が、続いて色が、ゆっくりと視界の中に戻って来る。
そして、その中に見える奇怪なもの――敢えて例えるなら、頭を失った蛇、だろうか。

(聊かひどい表現ではありますけど。)

と思った所で、花の少女からの問い掛けの声。
は、と気が付くと、一度少女を、今度はうねる「縁」を交互に確かめ――

《盟友よ、限界だ! 蓮華座を閉じろ! これ以上は鼻からの出血では済まぬぞ!》
(痛っ…ありがとうございます、朔!)

精神からの友の声、直後に頭痛を感じたと同時に、大急ぎで蓮華座を閉じる。
そこでまずは一息。そして改めて、花の少女へと向き直る。

「……敢えて、見たままを伝えます。
狙って斬った、あの大きく太い「縁」は、途切れて彷徨っている状態です。
ちょうど、その辺りを…うねるように。
何かを探しているけど、その「何か」を認識できないような様子です。」

そこ、と、先程までうねうねとのたくっていた「縁」が見えた所を指差す。
最も、今は不視を見える状態を解いたので見えないのだが。

神樹椎苗 >  
「なるほど――見事な剣技ですね。
 およそ、完全な縁切りと言っていいでしょう」

 後輩からの言葉を聞けば、ゆっくりと頷く。
 椎苗(今の個体)に影響を与えず、神木との繋がりだけを斬って見せたのだ。
 椎苗を認識できない、というのが何よりの証拠だろう。
 『縁』という繋がりを復元する事すらさせない、見事な概念斬りだったと言っていいだろう。

「――とはいえ、アレの気配を感じねーわけじゃないですね。
 繋がりが消えた、そんな感じはしますが」

 実感はあるが、現実感がない、という所だろうか。
 果たされてみれば、こんなにあっさりと出来てしまうのか、と不思議な気持ちにも成った。
 ――のも束の間だった。

「「さすがはしぃの後輩ですね――?」」

 少女の挟んで左右から、まったく同じ音、呼吸、声で、同じ言葉が聞こえる。
 そして、そこには寸分変わらない姿かたちをし、驚いたように目を見開いた、『神樹椎苗の複製』が二つ並んでいた。
 

緋月 >  
「あ、はぁ…ありがとう、ございます――??」

途中から、何か声が奇妙だ。
「先輩」の声が両方から聞こえて来る、ような――――

「――――なぁっ!?」

思わず両方見て、そんな奇妙な悲鳴を上げてしまう。
ふたり。ふたりいる。何か分からないけど、双子みたいに、花の少女がふたり。
どういうことなの。確かに、「縁」は斬った筈――――??

(………あ。)

思い至ったのは、非常に単純な結論。
そう、「縁」を斬る事は出来た。確かに、「切り離す」事は出来たのだ。
だが、その「大元」――「供給源」である神木は、恐らく健在。
つまり、何らかの異常で、「縁が千切れた」事を認識したなら、神木は――その齟齬を解消にかかる筈。
つまり。

「……あぁぁぁぁぁ~~……ご、ごめんなさいぃ~!!」

そんな情けない声をあげて、着物の少女はへたり込んでしまう。

大元が健在で、端末との繋がりが切れたなら。
当然、「新しい端末」を創り出しにかかるだろう。

そこまで、全く頭が回り切っていなかった。
半べそになりながら、二人に増えた先輩に推測の説明と全力の謝罪を向ける事になるのだった。