2025/02/22 のログ
神樹椎苗 >  
「「あ~――いや、お前はわるくねーですから、気を落とさねーでいいです。
  これはもう、しぃの予測が不足してましたね。
  そりゃあ、バックアップがあれば、新しく作るでしょうね――はあ」」

 二人の複製は、額を押さえて全く同じリアクションをする。
 そう、椎苗は『複製』される事による、疑似的な不死性である。
 大本である神木が残っていれば、理論上、無限に複製をつくる事が出来るのだ。

「「――で、この場合消えるのは。
  不具合が起きた方、と相場は決まってますね」」

 そして、縁を切った方の複製は、枯れるように塵に還ってしまう。
 むぅ、と残った複製は、眉根を寄せるしかない。

「幸い、記憶の途切れもなければ、感じられる気配も感覚的なモノにも、不具合はありませんね。
 ――一応、確認ですが」

 難しい顔をしたまま、へたり込んだ後輩に手を差し出した。

「お前の剣技で、『縁』を遡って『神』を斬る事は出来ますか?」

 そんな、とんでもない無茶を言い出した。
 要するに、どこにあるかもわからない『神木』を、『縁』を頼りに遠隔で斬れるか、と訊ねているのだ。
 

緋月 >  
「ああ……。」

縁を切った方――片方の花の少女が塵になって消えていく様を、着物の少女は申し訳なさそうに眺める。
そうして、今度は。

「……神殺し、ですか。」

差し出された手を前に、へたり込みながらそう口にする。
少しの思考の後、着物の少女は改めて言葉を紡ぐ。

「――先程、縁を切った時。
「神」と云われる木から繋がる「縁」を相手にしたので、「神を斬る」技を練り込んで斬りに掛かりました。
縁を切る事に成功はしたので……恐らくですが、本体にも通ると思います。
斬った結果、神木が枯死するのか、それとも「神性」を奪われてただの木になるのか…そこまでは分かりません。」

誤魔化しなしに、そう告げる。
「縁」を斬る事は叶った。ならば――本体を「斬る」事も、不可能ではない筈だろう。

「……縁を遡るとなれば、また違った斬り方で臨まないといけません。
今使える技で……理屈としては、「出来る」と思います。」

そう答えながら、そっと差し出された手に己の手を重ねる。

「――今度は、本当に何が起こるか、分かりません。
それでも――「斬れ」と言うなら、」

ぐ、と、今一度、不屈の眼を見せる。

「椎苗さんの望みの通り。斬ってみせます。」

神樹椎苗 >  
「――『出来る』」

 その言葉が聞けると、満足そうに笑って、手を引いた。

「ほんとに、いい瞳になりましたね、後輩。
 ただ、今はその『出来る』という言葉で十分ですよ」

 理屈として『可能』であるのなら、今はそれでよかった。
 これは危急の問題ではないのだ。
 後輩の剣士が、物理現象でなく、概念を斬る為のトレーニングが目的なのである。

「さて――それだけの気合があれば、まだまだやれますね?
 今日の本題は、お前の技のトレーニングです。
 あのクソ樹木との縁なら斬りたい放題ですよ」

 くすくす笑い、背伸びをして後輩の頭を撫でる。

「疲れても癒してやりますし、何度でも練習できます。
 ――こんな機会、しぃ相手以外じゃ、滅多にであえねーですよ?」

 そう言って、視線で『どうする?』と訊ねた。
 

緋月 >  
「――――――。」

手を引かれ、ゆるりと着物の少女は立ち上がる。
そうして、続く「先輩」の言葉に二度、三度と目をしばたかせ。

「………得難い機会、ありがとうございます!」

一度。深々と一礼。
同時に、右の瞳も青白い炎を少しだけ上げ、まるで謝意を伝えるかのように軽く揺らめく。

「では、お言葉に甘えて……遠慮なく、行かせて頂きます――!」

呼吸を整えると共に、再び七色の光の蓮が鈴のような音と共に開花する。
そして…一刀、また一刀、更に一刀。
「縁」を斬る度に、掛かる時間は少しずつ、だが確実に短くなっていき――
次第に、「無窮」の斬月の力を借りる事も少なくなっていく。

それはつまり、「神」に等しいモノとの「縁」を斬る斬撃が、ひとつの「技」として形を得ていく事に他ならず。
「無窮」であるが故に形なき異能は、其処から「形ある技」さえも生み出す事が出来る。
最も、それはこんな常識外の環境だからこそ叶うものであるのだが。

「――――もう一太刀、お願いします!!」

そんな調子で、ひどく生き生きとした…縁を斬る度に一時花の少女が二人に増え、
斬られた方は塵となる光景を除けば、充実した稽古の時間は過ぎていく。

互いの気が済むまで刀を振るい終えれば、最後に少しだけ余計に買っておいた三色団子を
二人で軽く歓談しながら食べる事になるのだろうか――。

神樹椎苗 >  
「――いい返事です」

 それから、日が暮れるまで貴重な時間は瞬く間に過ぎて行っただろう。
 後輩の生き生きとした姿に、先輩は楽しそうな笑みを浮かべながら応える。

 戯れというには激しすぎる時間だったが、後輩の助けとなり糧となる、有意義な時間にはなっただろう。
 二人が境内を去ると、一面に咲いていた花々は、その背中を見送るように花弁を散らして。
 後に残るのは、荒れた境内の姿だけだった。
 

ご案内:「青垣山 廃神社」から神樹椎苗さんが去りました。
ご案内:「青垣山 廃神社」から緋月さんが去りました。