2025/03/15 のログ
銀の狼 >  
銀の狼の立っている耳が、また小さく動く。
姿勢からして寝ているようにしか見えないが、女生徒の言葉はしっかり聞こえているらしい。
確りと綺麗に後片付けを行う女生徒の様子に、また少し雰囲気が穏やかになったような気配がする。

特に大きな反応を見せる事もなく、銀の狼は丸まっている。
犬のように、人間に向けて尾を振ったり様々な鳴き声を発したり、そんな行動を取る事はしない。
狼とは、本来野生に生きる獣とは、そういうものだから。

それでも、恐れるでもなく接してくる人間に対し、攻撃的な雰囲気を見せないのは、
人と獣の間の…目に見えない壁を、あるいは溝を、超えようとして来る姿勢に対する…敢えて言うなら「敬意」だろうか。

人と狼の間に横たわるモノは大きい。
狼は人を襲い、人は狼を狩る。
どちらが正しいとも、間違っているとも言えない。
そうしなければ「生きていけない」事情があったから。

やがて、西洋からやって来た犬が同時に運んできた災い…伝染病が、狼の数を減らす一因になった。
更に、人間が住む土地を、あるいは農地を拓く為に行った開発が、住処を奪っていった。
地域によっては、魔除けや憑き物落としの祈祷の為と言う理由で乱獲された事もあった。

そうして、狼という生き物は日本からその姿を消した。

散発的に「それらしい生き物」の目撃談が上がってはいるが……「絶滅」という判定を覆すには、あまりに頼りない。

もしも、そんな生き物が人前に現れて、人の言葉を口にする事が出来たら…
出て来るものは「生きる場所」を奪い、追い立て、同胞を駆逐して回った、人という生き物への怨嗟だろうか。
あるいは、住処を奪われ、逃げ続け、姿を消さざるを得なかった過去への諦念であろうか。


だが、少なくとも、今この獣は、そんな事を口にはしなかった。
喋っても仕方がないと思ったのか、口にするような事でもなかったのか、あるいはヒトの言葉を持たないのか。

いずれにしろ。
銀の狼は、歩み寄ろうとした女生徒に尾を振るような真似をする事はせず、
しかし牙を剥いて追い立てるような真似もしなかった。

この程度の距離感で、充分なのだと。
そう思っているのかは…狼ならぬ身には知る由もないが。

都姫うずめ > 「んふふ」
自分の声を聞いているのだろう。獣耳が動いている。
けれど、何かしらのアクションを取ったりはしない。
それが嬉しかった。

この場所には、自分と氏の一人と一匹がいる。
そのふたつの存在は、揉めるわけでも、友人として中がいいわけでもない。
ただ、同じ空間に一緒にいるだけ。 そういう距離感が心地よいときだってある。
そういう意味では、この廃神社と…デカケモ氏は、その距離感を提供してくれる場所と存在だった。

何をするわけでもなく、静かに時間を過ごす。 空を眺め、たまに氏を眺め…思索に耽る。
友人のこと、委員会のこと、自分のこと、そして音楽のこと。
ゆったりと時間を過ごした後、そっと立ち上がった。

「よし、それじゃ帰るね。 デカケモ氏、ありがと。 またね。」
友達というわけでもなく、愛玩物に接したわけでもない。
同じ場所にいたというだけも、ゆるやかな連帯。
そんな気持ちがこもった気持ち短い挨拶を告げてから、小さく頭を下げた。

銀の狼 >  
別れの挨拶に、また小さく耳が動く。
ほんの軽く頭を上げ、挨拶と共に頭を下げる女生徒の姿に視線を投げ。
そして、銀の狼はまた頭を小さく下げて元の姿勢に戻る。

女生徒が境内を去り、石段を下りて。
銀の狼が見える範囲まで、幾度か振り返る機会があったとして。
相変わらず、銀の狼は丸まっているままだろう。

そうして、山を下り、街への帰路に就こうかと言う所で。


『――――――――』


青垣山の中腹辺り…あの廃神社のある方向から、尾を引くような、長い遠吠えがひとつ。

たった一度だけのその遠吠えを残して、銀の毛並みの狼もまた、寂れた廃神社からその姿を消していた。

――ある満月の夜の出来事。
誰に話すも、話さぬも自由。
それを信じる者が居るかは、また別の問題なのだから。

都姫うずめ > 少しだけ足取り軽く、廃神社の階段を降りる。
学生寮の方に帰ろうと歩き始めたところで……聞き慣れぬ”声”が廃神社から響いた。
振り返って廃神社を見やるけれど、流石にそれなりに離れているのもあって声の主はわからない。
わからないけれど……声と方向からして、きっと氏なのだろう。

「挨拶なのかな。 いいね。」
今度作る曲は狼の曲にしよう。 媚びないけれど牙も剥かない、そんな狼の曲だ。
メモにつらつらと書き記しながら、鷹揚な、言葉もかわさぬ顔見知りのことを考え、
学生寮へと戻るのであった。

結局帰るのが遅くなり、寮長に怒られるしルームメイトに心配されるしで散々だった。
どうも自分の身の回りは、あのデカケモみたいに静かに平然と構えてはいられないらしい。

ご案内:「青垣山 廃神社」から銀の狼さんが去りました。
ご案内:「青垣山 廃神社」から都姫うずめさんが去りました。