2024/05/30 のログ
シャンティ > 『「――」そういって、少女は困ったように頬を掻く』

謳うように女は唱える。

「ぁ、は……そう……困っ……て、しま、う……の、ねぇ……?
 ね、え……あな、た?」

くすくすと女は笑う。
ほんのわずか、三日月に唇が歪む

「雨、きら、い……なの、ね? ふふ。
 話、が……あう、わ、ねぇ……ええ、ええ。
 雨、だぁい、好きな……人、も……いる、の、だけ、れ、どぉ……」

くすくす、くすくす、と笑う。

「あら……あら、あら……
 そう、そう、なの……ね、ぇ……
 素敵、ねぇ……かわい、らし、い……わ、ねぇ……あなた?」

言い過ぎてしまってなんとか訂正する少女。
その様子を笑顔のままに受け入れて

「あぁ、ちが、った……わ、ねぇ……あな、た……だ、なん、て。
 ゆる、され、ないわ――ねぇ……アリシア?アリシア・アンダーソン……?」

どこか意味ありげに、名前を紡ぐ
しかし

「……」

少女の繰り出す本の感想に、しばし黙り込む。

「あ、は……ふふ、あは、は……ふふ……」

先程までの含み笑いのような小さな笑いではなく、
この気だるげな女にしては珍しい、笑い声が漏れる

「ぁあ……いい……いい、わぁ……
 そう……そう、なの、ねぇ……アリシア。
 そう、見る……の、ねぇ……あ、はぁ……」

気だるさではなく、笑いで息切れしたような苦しそうな呼吸で口にする。

「ほか、に……も、読んで、る……の?
 それ……お姉、さん、に……教わった、のぉ?」

アリシア >  
「うん?」

相変わらず突然、流麗な言葉遣いで話し出すことがある。
そうか、これが緩急。
話術の秘奥と聞いた。なるほど……日本語が上手い。

「ああ、困ってしまうんだ」

と笑顔で答えておいた。

「そうなんだ、雨が降るとアレだからな」
「って……雨が好きなヒトもいるのか?」
「……参考までに、だが…雨が好きなヒトはどれくらいの割合でいる?」

眉根を寄せてそれを聞く。
もしかしたら、雨が好きな人の前で否定の言葉を言ってしまうかも知れない。
それはとてもはしたないことだ。

「ああ、私はアリシアだ。アリシア・アンダーソン」
「可愛らしいだろう? 私は姉様たちと同じ顔をしている」
「つまり完璧な美を体現しているんだ」

相手はどうやら笑っているらしい。
そして彼女の笑い声は、密やかでとても綺麗に感じた。

「他には、金太郎だな。なんと飴からのスピンオフ作品だ、物語性があるな」
「いや……姉様が図書館で借りた本をこっそり調べてみたんだが」
「……木乃伊の旅だとか、スラッシャーズ!!とか」

「ライトノベルが多かったな……?」

ライトノベルを読めばきっと私も姉様の精神性に近づけるに違いない。
今は借りられていたが、次に図書館に行くのが楽しみだ。

シャンティ > 「ん……ふ、ふふ。
 そう、ねぇ……私、も……正確、に……調べ、た……わけ、じゃ、ない……け、どぉ……」

少し、考える。
どう、応えたものか。否。
どういう応えを与えるべきか。

「……2割、とか……そう。少な、い……よう、な……気も、する……わ、ね?
 うん……で、もぉ……別、に……人、に……あわせ、なく、ても……いい、の、よぉ?」

好みなどは違って当然。
あとは趣味の問題でしかない。
わざわざ合わせに行くほどのことではない。

「……姉さまたち」

ぽつり、と小さく繰り返す。
小さな違和感を更に増させるそれ。

「そう……いっぱ、い……いる、の、ねぇ……
 何人、兄妹……なの、か、しら……?」

笑いを収め……静かに聞いた。
なんとなく、先が思いやられる気が、少しだけした。

「う、ん……いい、わ……ね、ぇ……アリシア。
 とて、も……興味、ぶか、い……感想、よぉ?」

常人ではない視点や解釈、目線は。
正直、凡百な回答よりは面白いと感じ取った。

「えぇ……お気づき、のとお、り……あなたの、お姉さん、は……
 本を、読む、の……好き、だった、わぁ……?
 そし、て……ライト、ノベル、も……ね?」

あなたも読むといいわ、とアリスから教わったタイトルを伝えた。

アリシア >  
「ふぅむ………」
「しかし、ヒトに合わせることを辞めたらヒトはただの動物だ」
「協調性、という言葉で表現されるらしい」

ゴミ袋を中身ごと分解してトングを片手に考える。
雨が好きなヒトを傷つけずに雨に対する感情を表現する方法。

「ああ、12人姉妹なんだ。ワン姉様はとても異能の使い方が上手くて」
「スリイ姉様はいたわしくも体が弱く培養槽から出られないが、とっても優しくて強い」
「シックス姉様は砂を作って戦うのが得意で……」

「あー……」

自分でもわかる。とても困った『あー』だった。
どうしよう、今からそういう設定のごっこ遊びですと言って通じるだろうか。

「そ、そうなのか。じゃあ私は今後も読書を続けようと思う」

教わったタイトルを聞いて頷いた。

「ポストヒューマン軟ガンマ線リピーター童話集…」
「なるほど、姉様はとても知的だ、選ぶ本までカッコいいな!」

「そしてキツめのヤバいという漫画か……」
「刺激が強そうだが、読んでみようと思う」

「姉様も本を読んでいたのか……なんだか、本を読む時に誇らしい気分になりそうだ」

うん、と頷いていたが。
ふと、視線を横にずらすと。
空き缶をポイ捨てするヒトが見えた。

「すまない、美しい人よ」
「私はゴミを拾い、ポイ捨てしたヒトに注意をしてみようと思う」

「教わってばかりですまない、また会おう」

そう言ってトングを手に猛ダッシュしていった。

シャンティ > 「あ、らぁ……
 ふふ……ヒト、なん、て……一皮、むけ、ば……動物、なの、は……かわ、らない、の、だけ、どぉ……」

少し首を傾げて

「で、も……そう、ねぇ……それ、なら……
 ……違い、を……わかち、あう……という、のも……いい、もの、よぉ……?」

互いに異なることなど、ヒトには多くある。
そうであれば、お互いにお互いを認め合う。
もしくは、その違いを分かち合い、わかり合う。

そういう道も協調ではないか

「……あ、ら……あら……個性、豊か、な……姉妹、さん、ねぇ……?」

くすくす、くすくす、と

「ふふ……いっぱい……みんな、と……考え、た……設定――ね?」

そして、先回るように、そういった。
本気で信じているか、は……伺い知れるだろうか

「……ふふ。
 あなた、の……読書、と……生活、に……幸、が……ある、ことを……祈る、わ……ね?
 お姉さん、みた、いに……いっぱい、いろいろ……たのし、んで……ね?」

ほんの少しだけ、また。
不思議な笑みを浮かべ……

「ええ、さような、ら……また、ね。アリシア。
 あぁ……そう、ね。わたし、は……シャンティ。
 その、気が……ある、な、ら……覚え、て……おい、て、ね?」

慌ただしくさろうとする少女にひと声かけた。
なんとも騒がしく、そして微笑ましい少女であろうか

ご案内:「路面バス/停留所」からアリシアさんが去りました。
シャンティ > 「……ん」

去りゆく少女を見送り、女は一息つく

「……いい、目覚め……だ、った……わ、ね?
 そう、ね……私、も……すこ、し……体、を……うごか、さ、ない、と……か、しら……ね、ぇ」

そう、つぶやき……女もまた、どこかへ去っていった

ご案内:「路面バス/停留所」からシャンティさんが去りました。