2024/07/19 のログ
■ノーフェイス >
――余韻がひいて。
雨が、戻ってくる。
「……あなただけ、なんていうなよ」
きつく抱きしめる。
歌い終わった唇が、どこか恨めしそうに。拗ねたように、告げた。
「そういうの、ない娘だと思ってた。
出会う誰もにそうです、って、言うんだとおもってた。
…………しょーじき、ちょっと嫌い……」
誰もに言わない言葉だった。
あなただけ、という言葉に。言われ慣れているはずのものに。
……あっさりぐらりときてしまうなんて。
不覚だ。ただ自分と似ていたから。その道を見守り、目標となる。
……それだけの相手でしかなかったはずだった。
重ねた胸に響く、緩やかに大きなはずの鼓動は、乱れ、高鳴っていた。
もぞり、と顔を離して、間近に向かい合う。
「ボクは、ただしく生きている人間じゃないよ?」
そして、それを恥じることもない。
業――十の悪業。意の、貪欲。
理想の実現。飽き足りることがない。そこへ向かうこと。
いつでも死を選べるからこそ。生きて、生き抜こうとする。
「どこまでも、悟りを開けない、天に帰ることもない。
欲望のままに生きる人間……我執の徒だ。
底の抜けたカップのような。そう、気も多いし。……自分勝手。人に合わせらんない。
見せたい虚構だけを見せる。肝心の自分は識られたくない人間」
理解も共感も望んでいない人間。
歌で存在を証明し、受け止めてくれるひとで成り立つ娯楽。
「それでも?」
覗き込む。……近づく。もっと、近づこうとする。
はねのけてくれたっていい――そう、迫って。
――まだ。さっきの、あなただけ、という感情が。
嘘であることを……期待していた。
■緋月 > 「心外です。
そりゃ、色恋沙汰とは無縁の日々を送ってきましたけど、私だって女です。
心動かす物事に微塵も興味がなかったなんて、流石に嘘になります。」
主に外界に降りてから得た知識のせいだが。
そんな事は些事にしておく。
「――ただしい、って一体何でしょう。」
そんな禅問答のような、あるいは自分への問い掛け。
「善く生きる事は、難しい事です。いつか誰かさんが言ったように、楽な方に流される人の方が
もしかしたら当たり前なのかも知れない。」
ふぅ、と息を吐く。何だか、以前とは正反対の立場になってしまっているような気がした少女。
「悟りを開く、天に至る、それもただしい生き方のひとつだとは思います。
では、悪に生き、悪である事を貫き通したら、それはただしくない生き方なのでしょうか?
世間一般ではそう思われるかも知れません。
ですが、決してそれを覆さなかったら、それもまた求道のひとつのカタチだと、私は思います。」
勿論、褒められた形ではないだろうけど。
そんな事を言ったら、この時代に刀の道に生きている自分もあまりヒトの事を言えない。
「あなたがそうであるのなら、それを貫き通してみるのも、ひとつのやり方ではありませんか?
尊敬されるかは兎も角、驚嘆に値すると、私は思います。」
何より、と、一つ瞑目。
「不本意ながら、私…ろくでもない事に、どうも色々と人を惹きつけるみたいでして。
あんまり不甲斐ないようでしたら、他の魅力的な方に目移りしてしまうかも知れません。」
だから、
「私の興味を、他所の方に持っていかれないようにして下さいね。」
勿論、紅音がそれを望んでくれるのでしたら、ですが。
そう、最後に言い添える。
赤い瞳が、炎を見返す。あるいは、挑戦的に。
■ノーフェイス >
視線があちこち彷徨う。
それって、
「絵物語……?」
じぃ。
そんなこと、言ってたな……とは、思う。
そういえば、最初から興味がある側の人間だった。剣に印象を持っていかれてた。
「……間違っていようと構わない。
お釈迦様にも、使徒の皆々様にも、悪いが人生は委ねない。
ボクは……キミも。だれがなんと言おうと……
それが曲げる時はきっと……、そう、楽に流れた……
理想から遠のいた自分に、負けてしまったとき。
きっと、幻覚の散弾銃に……」
口蓋から、脳髄を撃ち抜かれて。
あるいは、きっと――大切な人の斬殺体の眼の前で。
だから――貫き通す。そうでなければ、意味がない。
自分が望んで、自分で決めて、ここまで歩いてきた。
なにより――そう在りたい、と思っている。淀みなく、迷いなく。
「そんなヤツだから……弄んで捨てられるかもよ、って話なんだけど?」
悪と分かって、我とわかって、それでも識りたいと願うなど。
絵物語のようには、きっとうまくもいかない話。
「夢見る乙女ごときが調子乗んな。
さっきから、ほかのだれかを持ち出してアオるくらいならさ」
歯の浮く台詞が、出てこない。イライラする。
よりにもよってこの自分に、挑もうとするこの痴れ者に。
代償は、払ってもらわなければならない。
――瞑目?ここで?いい度胸。
「なまえくらい、呼んでみせてよ。緋月」
長い睫毛が、影を落として。
………
――奪ってやった。
■緋月 > 「――――紅音。」
刹那の一言。
その直後に襲い来るのは、
――――奪われちゃいました。
「――ふふ。」
顔が熱を持ったように熱い。
だが、それ以上に、達成感と、勝ったような気持ち。
■緋月 > 「絵物語。上等ではないですか。
絵物語を笑った連中は、それが現実になった途端、歯軋りして難癖つけずにはいられなくなるんです。」
また随分と過激な言葉。
あるいは、跳ね返り根性の現れか。
「弄ばれて捨てられるなら後ろから刺しますよ?
――まあ冗談ですが。其処まで魅力の無かった自分の不甲斐なさに怒る位です。」
と、口元を袖で隠しながら小さく笑う。
「ええ、誰がなんと言おうが関係ない。自分の人生ですから。
それに――理想から遠のいたとしても、負けを心から認めてしまうまではまだ負けてないんですから。
お互い、みっともなく足掻きましょう。理想から遠のいた自分を叩き潰す為に。」
中々の暴論。それを受け取る者がどう取るかは分からないが。
「――もしダメだった時は、私に声位はかけて下さい。
介錯の一つくらいは、請け負いますから。
そんな事にはならないと、思いますけど。」
などと言葉を交わしている間に、雨も止んだだろうか。
元より夕立。去る時もあっという間だろう。
■ノーフェイス >
奪って。
「…………」
……離れて。目をあけて。ああ。
「………………」
勝ち誇った顔してやがる、コイツ。
「…………………xxxx」
口を抑えて、赤くなって顔を背けた。
経験値は圧倒的にこっちが上なのに。
■ノーフェイス >
「――――ああーっ!うるさい!ムカつく……ッ!
それも!それも!それもそれも!
ボクの台詞!……っだよ、もう……!」
ばっと立ち上がって、がしがしと紅の髪をかき混ぜた。
似ている、とは思ってた。
――それでもまあ、ずいぶん未熟な歩みと思っていたのに。
なるほど、ひょっとしてすぐ後ろまで来てるのか。
「同属嫌悪ってやつか、これ……ああ、もう……うぅ……~っ!」
小説より奇なる現実を降ろすことも。
みずから導いたはずの、理想の呼び声のありかたも。
一言一句同意だと、こんな気持ちになるのか……、歯噛みしたくなる悔しさと。
新鮮味に、心が踊ってもいて。
「…………その時には声かけろ、だぁ?
目を逸らしてる暇なんて与えるかよ。キミが言ったんだろ。
それに、ボクの首は速いもん勝ちなの。うかうかしてたら盗られるよ」
白い首に、指を横へすべらせて。
宣誓でもあった。
「キミの剣で、ボクは死なない」
――だろ?
最初に会った時の、宣誓のように。
目を奪われるような刃であってくれと。
挑んだからには――徹してもらう。
「……あ゛ーっ!ダメ!なんかひどいコトされた気分!
ホラ緋月。晴れてる。行こ行こ!」
我先、濡れ鼠で晴れ間に踏み出す。
すぐ乾くほどの暑さが戻って来る。雨と暑さのせいだと、恨み言も言いたくなる。
死はいつも身近に、しかしまだ選ぶ理由のない、夏の日。
■緋月 > 「ふふふ…それじゃ、盗られないように私も気を張らなくては。」
楽しそうに、口元を隠してくすくすと笑う。
最初は自分が手玉に取られていたばかりだったが、何と言うべきか、こんなこの人の姿を
見られたことに、不思議と嬉しさを感じる。
成程、上手く手玉に取れる方はこんな感情を覚えるものなのですね。
そんな事をこっそりと思いつつ。
恐らくは違うだろうが。
「ひどいコトって何ですか、先に迫ったのは紅音じゃないですか。
――っと、本当だ、また降られる前に行かないと!」
後を追いかけるように、書生服姿の少女も外套を抱えて走り出す。
流石に、今は外套を羽織るには暑過ぎた。
気温も、日差しも、きっと心も。
そんな、夏の日の情景のひとつ。
おそらくはよくある、そんな光景。
ご案内:「私営路面バス/停留所」からノーフェイスさんが去りました。
ご案内:「私営路面バス/停留所」から緋月さんが去りました。