2024/11/28 のログ
ご案内:「常世島環状道路:一般道」に挟道 明臣さんが現れました。
■挟道 明臣 >
「……あ?」
“心臓を届けて欲しい”
AIに要約された差出人不明のメッセージに怪訝そうな声がヘルメットの中で漏れた。
ホロディスプレイの運転用の拡張表示を表示外に追いやって全文を表示させて、ため息。
5年以上も乗り回してきた黒の愛馬を道路の脇に止める。
ログを辿れば送信元こそ分からないが、経由された回線は椎苗の物。
気分屋なあのチビっ子の事とはいえこんな内容でイタズラはしてこない。
まずもって本人に心臓の話はしていないのだから。
「複数の人格ねぇ……」
4つの人格、と鳴火は綴った。
一般的に記憶の格納されるはずの脳と、星核を宿した心臓。
それらを合わせて、とも。
彼女の言うところの同期を行ったとしても目覚める人格はそのどれか、と言うわけだ。
目覚めるというのは、解離性同一性障害に於ける主人格の話か?
あるいは━━
■挟道 明臣 >
「消すことに、なるのか」
ポーラ・スーという初等教育担当員を俺は知らない。
ホシノモリアルカという鳴火の友人を俺は知らない。
あるいはそのどれでも無い彼女らを、俺は知らない。
ノーフェイスは肉体の代替品にアテがあるとは言っていたが、
そうして目覚めるホシノモリアルカが何者であるのか。
鳴火が言うように意識を回復させることが叶ったとして、
ノーフェイスの語った少女を彷徨わせる結果を招きはしないか?
「どうすっかね……」
頭を掻いたところで、答えは降りてこないのだが。
■挟道 明臣 >
求められたこと自体はシンプル。
心臓を病室の頭の傍らまで持ち込む事、たったそれだけ。
ただ出てきた問題点は二つあった。
ひとつはホシノモリアルカの人格の問題。
そして、鳴火の述べた安全の期日。
「……クリスマスが終わるまで、な」
指折り数える間でも無く、ひと月を切っている。
明確に述べるあたり、なんらかの接触があったという事なのだろう。
アクセスを掠め取っておいた彼女の塒付近のカメラに妙なログは無かったはずだが。
その期日を境に、彼女の頭を欲する人間からの再接触があるという事だろう。
勿論、言葉通りに受け取ればの話だが。
鳴火がなんで悠長にそんなもんを受け入れたのかは、まぁ想像は付く。
近しい誰かを巻き込んで傷つけるよりは、なんてそんな所だろう。
「━━反吐が出る」
ツギハギにした身体の回収だ?
適合値を示したから素材として連れて行く?
何様だと、言いたくもなる。
鳴火もポーラとかいう奴も、他人と繋いだ縁を容易く切れると思っているのか。
死んで、居なくなってそれで終わりなのは手前だけ。
■挟道 明臣 >
自分が動けなくなった時には、とノーフェイスは言ったが
そうでなくとも緋月という子には会う必要があるかもしれない。
酷く傷ついているであろう彼女にとって酷な事を強いるだけかもしれないが、
自分の預かり知らない所で、全てが終わるのを良しとする娘にあの女が期待を置くとは思えない。
最良の結果を手繰り寄せるための時間なんてものはそう残されていないのかも知れないが、
雑に片を付けて良い問題でも無かろうというもの。
「ってなると結局また人探しからだな……」
ノーフェイスのもう一つのお願い、藤白真夜の安否確認の事もある。
吹きつけてくる風はここ数日でより一層の冷たさを齎したが、
暖かい研究室に籠っている訳にもいかないと思うと頭が重い。
想定以上に鈍った勘と、丁寧に掃除されて使えなくなった情報網も多く、
サクッと短日でとはいかないだろう。
定点に張り付いて待っていれば一日そこらで見つかるかも知れないが、
この島の風紀委員は存外良い仕事をする。
■挟道 明臣 >
「最近の若い子って何処にいんのやら」
山ん中から落第街まで、何処にいても可笑しくない。
いずれにせよ、直近の動向や息災を知るのであれば、まずは聞いて回るしかないか。
友人や同じ所属の人なんかが都合よく見つかれば良いが、
緋月の所在も所属も聞かされていなければ、
祭祀局に真夜の事を聞けば余計な所に目を付けられかねないか。
ともあれ、だ。
「直接頭ひっぱたくでも良いが、鳴火の奴今どこに居んだ……
そっちは椎苗に伝えてさせるか……」
心臓を持って行くの自体は構いやしない。
預かっているだけのものだ。
ただ、その為に鳴火が死ぬつもりなら━━後からだろうと握りつぶす、と。
まぁ、実際にそんな事をするつもりは無いが。
自身の命を軽く見ている節のある亜麻色には、針の一本くらいは刺してやるくらいがちょうどいいだろう。
やる事を決めたのなら、バイクを止めている理由も無い。
音声認識で書き上げさせた短い文面を椎苗に送る手はずを整えて、緩やかにエンジンをふかせる。
街灯の少ない通りを、ヘッドライトで裂くようにして男の姿を消えていく。
ご案内:「常世島環状道路:一般道」から挟道 明臣さんが去りました。