2024/09/17 のログ
■バーチャル・イーリス > 多分という言葉はやや気になったけど、ちょっとした保険的なものと解釈して。
「エルピスさんが大丈夫なのでしたら安心です。あなたは《囚う心》の余剰データとしてではなくて、また別にエルピスさんには超自我が存在しているのですね。分かっています。エルピスさんと私は同い年でございますからね」
そう口にして、にこっ、と笑みを浮かべてみせた。
エルピスさんの実際の年齢を考えると話がとてもややこしくなる。だからエルピスさんとは同い年のカップル。
特に意識する事もなく、同い年としてイーリスはエルピスさんと接している。
「あなたが押さえていたエルピスさんの欲求でございますか。エルピスさんのプライバシーもあるでしょうから、具体的な欲求については今は聞かない事にしますね。さすがに殺害欲だったとしたら、教えてほしくはありますけどね」
押さえている欲求が殺害欲だった場合は申告を求めた。あれについては、元々エルピスさんにあるものではなく、元々《紅き月輪の王熊》がイーリスに植え付けたものだ。イーリスに植え付けられた殺害欲、その想いが継がれてエルピスさんのものとなった経緯がある。
それ以外の欲求については、エルピスさんのプライベートを優先しましょう。
ただ、超自我さんがエルピスさんがいなくなったという事で、これからはその欲求を押さえるものがなくなったという事にはなるのだろうか。
「ふふ。エルピスさんはエルピスさんでございますからね。別の自我を己が力に出来る程に、エルピスさんの自我がとてもしっかりとしているのでしょう。私は、そんなエルピス・シズメさんをずっと見続けています。ロッソルーナ・エミュレイタになっても ワイルドハントになっても、虹の奇蹟になっても、正義のロボットさんになっても、エルピスさんはエルピスさんですからね」
そう口にして、柔らかく目を細めた。
超自我が自我を管理しているという言葉から、エルピスさんに秘めている自我の管理と想像してしまったけど、そもそもその秘めている自我というのは冷静に考えれば超自我さんの仰る通り想定外のもの。
「シンギュラリティ……懐かしい言葉ですね。わりと昔に達成してましたけど、そのシンギュラリティに到達したAIを、人間の自我を電子化した電子頭脳の補助に使う方がさらに知能を伸ばせるという結論に至りました。あれは基本的に単なる道具になりさがった技術です。尤も、シンギュラリティに到達したAIをそのまま発展させたスーパーなAIも世の中にはあります。そういったものはその限りではありません。あなたはシンギュラリティからさらに発展させたすーぱーAIちゃんのように思えます」
そうしてイーリスの体は改造されたのだった。自分で自分を改造。
AIにより自我を形成する技術は、イーリスの自我を電子化した技術の応用で出来る。
シンギュラリティは夢があるという言葉ではなく、既に過去の言葉というのがイーリスの基本的な認識。
「リビド先生のお知り合いなのですね。ならあなたも人造神だったりするのでしょうか、なんて。リビド先生と会えないご事情があるのですね」
冗談気にそう口にした。
リビド先生は人造神でそのお知り合い。超自我さんもとてもテクノロジーが進んだ存在なので人造神なのかもしれない、という誇張はあんまりしてないので冗談半分。
「ふふ、分かりました。歓迎致しますね。では、あなたの住みやすい世界を構築しますね。興味があるようでしたら、ゲームなども用意しましょう。勇者となって魔王を倒したり、銃でゾンビを撃ったり、ガチャを回してキャラを増やし自分だけのパーティを結成してボスに挑んだり、様々なゲームをまるで実体験できるかのように、この世界に設置しましょう。退屈しなくなると思います」
トン、と右足で軽く床を叩くと、今いるお城を中心に、この電脳空間に一つの世界が形成されていく。
ファンタジーな世界、常世島のような雰囲気の地域、大変容前の日本の景色など、この世界には様々な風景がある。
人々も住んでおり、その方々はみんなAIである。
「ひとまず世界を構築してみましたが、別にあとで超自我さんの希望を受けて世界を変える事もできます。遠慮なく申し上げてくださいね。この世界があなたにとって住み心地がいいものである事を願ってます。私もちょくちょくあなたに会いに来ますが、何かあれば私のお名前を呼んでみてください」
イーリスの中には複数の電脳世界がある。
今いる電脳世界を丸々全て、超自我さんのために貸す形となる。
「猫さんぱじゃまのエルピスさん、とても可愛らしいではないですか。ふふ、かっこつけた結果が猫さんぱじゃまなのでしたら、愛らしさが全然抜けておりませんよ」
柔らかく目を細めて、抱き合うエルピスさんと自分を眺める。
ちょっとお顔赤くなった。
(エルピスさんと抱き合っている自分を見るの……すごく…………はずかしいです……)
エルピスさんの寝顔を眺めて癒されながら、恥ずかしがっている。
「そう、ですね。ちゃんとエルピスさんの“親”を埋葬しました。エルピスさんの自我はあの時にとても強固なものになっていますからね。正確には、エルピスさんはバーチャルの世界に一歩踏み出す、その勇気に頑張られたのですね」
黄泉の穴でエルピスさんが、故エルピスさんを親、自身を子と認めた時点で既に電脳空間では安定していたんだ、と思うとイーリスは嬉しくなる。
「酷使、忘却、不要……。そうならないよう、私の方でも気をつけなければですね。エルピスさんを不要になる事はありません。しかし、私が死にかけた時には、随分とエルピスさんに無茶させてしまいました……」
エルピスさんをこれからも愛し続けるし、一緒に居続ける。忘却と不要はその過程で回避できる。
酷使は……今後も気をつけなければいけないかもしれない……。
「エルピスさんの愛情を感じられるのが、とても幸せでございますからね。ふふ。えへ。エルピスさん……。電脳空間にいてすら、あなたの温かさを感じます」
この空間の桃色が濃くなって、イーリスのハートのエフェクトが増える。
現実で抱きしめてくださっているそのぬくもりをバーチャル・イーリスも感じていた。
「エルピスさんは、私にとっての希望で、英雄です。オリオン座の英雄でもあるのですよ。十年間想い続けてきた英雄ですからね。幾度も私を助けてくれたエルピスさんの勇姿、凄くかっこいいのですよ。えへ。ふふ」
頬を赤らめて、頭の中いっぱいにエルピスさんを思い描く。
映像に映るエルピスさんに、ハートのエフェクトがとんでいく。
■『超自我』 >
「ふふ、ならエルピスから聞くといいの。あるいは、エルピスの『好き』の変遷を思い出すといいの。
ちゃんと抑えてるようで、案外、殺害欲よりも……あついけど、かわいいものかもしれないの。」
手を扇子代わりに口元で覆いながらも、にやにや笑っている。
そんなに悪いものではなさそうなような、からかい気味の笑み。
少しだけヒントを漏らしたのは、超自我らしからぬ行動。
(厳密には、超自我すら抑えきれなかったもの、なの。)
「……ここまではっきり認識していれば、ばらばらにならないのも納得なの。」
余す所なく認めている。
その情報を認識すれば、超自我の中で何かが計算され、定義された。
「イーリスの技術系統は、少し独特で面白いの。そっちに舵を切れる人間は、そうそう居ないの。
既に過去のもの──そこまで言い切れるのも、伸ばし方も、貴重なものなの。」
緩い幼女の瞳から、理知のある機械の瞳に代わる。
択んだ技術の先に、興味を示した。
「私の瞳では、超自我の在り方はAIも神も変わらないの。
無意識からすると、そうでもないかもしれないけど……。」
人が造った、人ではないもの。
超自我の瞳では、定義が混合されるもの。
どうでもよさそうな所作が見えるが、イーリスの質問とあったので真剣に答えた。
「……どうして、そこまでしてくれるのなの?
ただ外の視界と、貴方の技術があれば退屈はしのげるけど……でも、お言葉に甘えるのなの。」
眼を丸くする。理解に苦しみながらも、理解しようと思考を回す。
エルピスへのそれや、技術は理解を放棄してもいい。
ただ、自分へ与える──自分が関わることは、理解を放棄できずにいた。
「見飽きたものでも、イーリスの技術なら少し別なの。
でも、ガチャは遠慮しておくのなの。たぶん、イーリスが用意してくれたそれに、触ると……
触れると危ないものに、繋がってしまいそうなの。」
このAIは、やたらと並行世界や時間に触れる事を避けている。
超自我の本体が用意した成果物も回りくどく、倫理に欠けたものではあるが、
徹底的に運命のゆらぎや並行世界へのようなものを避けている。
そうではない可能性を理解しながらも、先回りするように触れた。
「……そして、イーリスにいっぱい神様がいる理由はちょっと分かったのなの。
これは神様も絆されちゃうし、御伽噺の魔法使いもカボチャの馬車を用意しちゃう。
良いも悪いも、中立に寄っているものなら矜持を曲げて味方しちゃうの。」
いずれにせよ、変わった世界に、興味深そうに触れる。
ぺたぺた。てくてく。もちもち。
「たぶん、あの子はこういうものを好むのなの。
あの子の血筋と、器が女の子に変化するものだったから、その名残。
いずれ消えるかそうでないかは、定めてないかはわからないの。
未来は『大人にならない』ぐらいしか、定義されてないの。」
指でなぞって、装飾多めのルームワンピースを描く。
ほんの少しだけ、器と過去に触れる。
未来を定義していないことにも、言及した。
「そうなるのなの。『親』には思うところはあるけど、良いものがみれたからまあ良しとするの。」
そもそも分体であるので、固執もしない。
本体であっても、恐らく固執しないしこっちを優先する。
「そんな感じなの。あの時から安定したの。
同時に死にたくなくなって、継がせないだろうなのは……まあいいのなの。」
言外に、成果物が半ば本来の機能を果たせない。
遠回しだが、そう告げた。
「酷使はエルピスの選択で、不要もないなら……忘却だけは注意なの。
……特に感情や空想のまほうは、忘却を呼びやすいのなの。」
恐らく、相当に絆されているのだろう。
AIとして、聞かれた事に答える性質も相まって、エルピスについての情報を漏らす。
(Esだと多分、滅茶苦茶遠回しな言い方するから先に言って好印象を与えておくなの!)
そんな打算も、ちょっとある。
電脳空間なので感情パラメータが妙な動きを示す。
下心はバレバレかもしれない。
「エルピスはやっぱ14歳で正解なの。16歳や17歳ぐらいのままだと、
ここまでポテンシャルを発揮しないし、優しさをすぐに捨てるの。」
惚気るイーリスの姿にも慣れたのか、どや顔気味。
どこか成果物としてのの選択は間違ってなかったと自慢げだ。
「パジャマパーティーとおやすみを邪魔するのも悪いの。
あと一個ぐらい、あるいは他に聞きたいことが無ければわたしは用意してくれたものに専念するの。」
興味が用意された世界に行っているらしい。
超自我のAIである自覚より興味のパラメータが優先されて、
あっちいったりこっちいったり。
■バーチャル・イーリス > 「エルピスさん自身から聞くのがいいですね。ありがとうございます。エルピスさんの好きの変換……。あつくて、かわいらしいもの……」
からわれているような笑みだけど、でもエルピスさんの欲求とは悪いものではないのだろう。
「お褒めいただきありがとうございます。私の思いつくままに、知識を身に着けて技術を発展させてきました。技術は日々進歩していくものですからね。あなたに賞讃してくださるなら、自信になりますね」
超自我さんもまた、おそらく凄く知識と技術がある方だと思える。
お褒めいただけるのはとても嬉しい。
機械の目に変わる超自我さんを見て、イーリスは猶の事、超自我さんの知識の深さや技術力の高さを察する。
「超自我の在り方は、AIも神様も変わらない、でございますか。ふふ、なるほど、発展しすぎたAIは神の如き存在だとも捉えられるという事ですね。シンギュラリティはもはや過去の思想ですが、そのさらに先にあるのには興味を抱きます」
冗談のつもりの問いだったけど、とても興味深い返答で、とても好奇心に惹かれる。
まんざら超自我さんが人造神なる存在がはずれでもなさそう。そしてシンギュラリティを超えていきつく先は、全知のAI神といったところ。
研究テーマとしてはとても楽しい。
「叶うならば、いずれ開発したくもなってきます」
手を伸ばして、全知のAI神なる存在に辿り着くかは分からないし、そう簡単な話ではない。
だけど、イーリスの底のない好奇心が、ただひたすらに知識を求めてしまう。
「あなたはエルピスさんの《囚る心》の余剰データである超自我さんなのでしょう。私はエルピスさんの想い人でございますから、そんなあなたとも親しくありたいです。こうしてお話してみても、もっと仲良くしたいと思いました。私と友達になってくださればとても嬉しく思います。外の視界ですね。そこのテレビからいつでも、私の見ているものを映し出せるようにしておきますね。それとあなたがこの電脳空間から操作できる撮影用のドローンも用意しておきましょう」
そう口にして、にこっと微笑んだ。
《囚る心》の余剰データ、という事でエルピスさんの想い人とすれば、あまり他人という気もしない。
「私の技術に興味を示してくださるのはとても嬉しいですよ。確かにガチャは、同じキャラの色んなバージョンが排出される可能性はありますね。……過去や未来、並行空間に繋がってしまうのは危険です。分かりました、ガチャ要素は控えますね」
イーリスがテーブルを軽くコツと叩くと、この世界のガチャ要素が自爆した。お城の外で、いくつか煙があがっているが数秒でその煙が消える。ただのエフェクトとしての煙である。
「神様……? ああぁ!? 思えば、あの時のファミマ様の巫女さんは、もしや超自我さんだったのですね!」
スコーンおいしかったというセリフ、あと口調が変わっている時があったのを思い出して、今思うと超自我さんだったと理解した。
「あの時、駆けつけてくださった神々には凄く感謝ですね。優しい方々に囲まれて、私は良き縁に恵まれているとは感じますね。嬉しき事ですね。ふふ、ありがとうございます」
お城のお部屋はそのままなので、主にそのお城のお外に世界が広がった感じである。
触れてみると、本物と変わらないような感触。
「エルピスさんが可愛らしいお洋服を好むのは、とてもよく分かっています。ただ、やはりあまり可愛すぎるものは抵抗があるようですね。それでも、この前は私とお揃いでセーラー服を着てくださった事がとても嬉しかったです」
目を細めて微笑んで見せて。
「エルピスさんは、大人にならないのですね。私も、もう大人になれないのでその辛さは分かりますが……それでも、体が成長しない私でしたので、エルピスさんも大人にならないというのは凄く嬉しかったりもします。エルピスさんと私、片方だけが大人になっていくのは悲しいですからね……」
ずっと一緒のままいられる。イーリスはその事に、嬉し気に笑っていた。
一方で、エルピスさんは大人になれない事、気にしないだろうか……という心配もあり、複雑な心境はある。
「……“親”は、壮絶な最期でございますからね……。エルピス・シズメさんを誕生させてくださった事は凄く感謝しています。せめて、お墓参りに行って、“子”の事をよく聞かせてあげたりしていますね」
視線を悲し気に落とした。
“親”の死は凄く悼む。悼むけど、だから、エルピス・シズメさんを誕生させてくれた事にいっぱい感謝したい。
「エルピスさんには生きてほしいと願います。それに、エルピスさんを凄く助けもします。命を賭けても……」
エルピスさんには生きてほしいから、もしエルピスさんが危機に陥ったら、命懸けで頑張る。
危機に陥らない事をまず願いたくもあった。
「感情や空想のまほう……。それが、エルピスさんが覚えられそうなまほうという事なのですね。エルピスさん、とても素敵な才能があるではないですか。助言ありがとうございます! エルピスさんが感情や空想のまほうを覚える際は、忘却が呼び起されないか注意を払ってみますね」
微笑んでお礼を述べ、助言してくださった超自我さんに好感を抱く。
エルピスさんが覚えられそうなまほうが感情や空想と聞けば、とてもしっくりくるもの。
エルピスさんが使うなら、きっととても、夢のある素敵なまほうになる。
「16歳、17歳のエルピスさんもそれはそれで気にはなりますね。どのようなエルピスさんだったのでしょう。ふふ、どちらにしても私は今いるエルピスさんのものです」
テレビの映像のエルピスさんを眺めて、またにこっと目を細めて微笑んだ。
「お心遣いありがとうございます。私はそろそろ、エルピスさんが抱いてくださっている私の体に帰りますね。この世界を心行くまで楽しんでください」
超自我さんに笑顔で手を振り、そしてイーリスは光子となってこの世界から消えた。
そうして現実に戻り、エルピスさんに抱かれて、その温かさで幸せに包まれながら眠っていくのだった。
ご案内:「イーリスの《体内超高性能コンピューター・イリジウム》内にある電脳世界」からバーチャル・イーリスさんが去りました。
ご案内:「イーリスの《体内超高性能コンピューター・イリジウム》内にある電脳世界」から『超自我』さんが去りました。