2024/12/04 のログ
バーチャル・イーリス > 「お心遣いありがとうございます。えるぴすさんとメタラグで遊んでいた時も、気をつかってくださっていたのですよね。超自我さん、とても優しくて偉いです」

メタラグで遊んでいた時、超自我さんはエルピスさんとイーリスのデートを邪魔しないよう、デート後に伝えたい事を伝えてくれた。超自我さんの心遣いは、日ごろから感じていて、とても感謝している。
微笑みながら、柔らかい手つきで超自我さんの頭を撫でる。

ツイン・メニーがギフターさんと戦った直後の事。
超自我さんがイーリスにMessageを発信して、キャンセルされた。
そこからしばらく超自我さんの応答がなくなっていて、イーリスもその期間はそっとしていた。委員会の新部署発足で忙しかったのもあるけど、思う存分電脳世界を楽しんでほしいというのもあった。
イーリスが超自我さんにちょくちょく会いに行っていたのは、超自我さんが反応を返すようになったここ数週間の話になるだろう。

「想い出を記録する媒体なのですね。ふふ、一種のアルバムでございますね。見てもよろしいですか?」

おそらく超自我さんの想い出のアルバムなのだろう。
スコーンを両手で持ちつつ、首をかしげて訪ねてみる。

「ありがとうございます。超自我さんの要望を取り入れた体にしていきますね。基本的には、えるぴすさんの生体義肢や私の体とほとんど同じ構造で開発が進められてます。しかし、別の機能を取り入れたり、細部調整が可能ですね。例えば、私の体は体内コンピューターの制御を前提としたつくりになっていて身体能力が控えめになっていますが、取り入れる機能や調整次第で超自我さんの体は身体能力を高めたりもできます」

使われている技術が同じなので、基本的にはエルピスさんの生体義肢やイーリスの体とほとんど同じ、あるいは近い構造にはなるだろう。だが、要望次第では完全機械や完全生身も一応可能ではある。
他にも、超自我さんが要望する通りの機能を取り入れて、細部調整していきたい。

むずかしいお顔をする超自我さんだが、どうやらお名前がない事に悩んでいる様子。
イーリスは、ひとつの童話を思い出していた。
《虹の希望のイーリス》。イーリスという呼び名が名付けられたきっかけとなった童話

ねだるような瞳の超自我さんに、イーリスは柔らかく目を細めて微笑んでみせた。

「お名前はとても大切なもの。その人がその人である事を表すものですからね。私の呼び名は、《虹の希望のイーリス》からきていたりします。子供達の中には、孤児院に保護されるまで呼ばれる名前がなかった子もいました。中には、私が名付け親なんて子もいます。それだけではないですね。以前から、名前のないストリートチルドレンが私の仲間の中にも多くいました。今はみんなちゃんと呼び名がありますけどね」

孤児の中には、名前すらない子もいる。孤児院に保護される前の子供もそういった子もいたし、かつての不良時代の《常世フェイルド・スチューデント》に属する前には名を持たなかった人もいた。

イーリスは一旦ソファーを立ち、PCが置いてる机の引き出しを開ける。紙をペンを手にし、再びソファーに戻って座り直す。
そして、少し考える仕草をしてから、文字を綴り始める。

「超自我さんは、えるぴすさんの核となる成果物の余剰データですからね。えるぴすさんは、“希望”です。私の、“希望”です。“えるぴすさんの余剰データ(希望の超自我)”……。可愛らしい呼び名にするなら、『surmoi la espoir(シュルモア・ラ・エスポア)』。“モア”ちゃんなんてどうでしょう?」

明るく笑みを浮かべながら、『surmoi la espoir(シュルモア・ラ・エスポア)』『モアちゃん』と紙に綴った。

シュルモア・ラ・エスポア >  
「なの!」

 やさしく撫でられると嬉しそうに声を弾ませる。
 なんとなく、触ると音の出るおもちゃのような反応具合。 

「勿論大丈夫なの。いわばこれはこの仮想世界──名付けるとイーリス・イジリウムのタロットなの。
《虹の希蹟のイーリス》の体験は、異説本(異本)の物語と言う形でパッケージしたのなの。
 この仮想世界のことは、本ではなくタロットとしてパッケージしてみたのなの。」

 超自我が持っているタロットは、元々イーリスの電脳世界に存在していた記録であり仮想世界だ。
 それをタロットの形に置き換えて記録にしたもの。超自我が観測して、行動した軌跡が保存されているもの。

 このタロットを読み込めば、イーリス・イジリウムにおける超自我の行動が参照出来る。
 エルピス・シズメなる少年とDr.イーリスが《虹の希望のイーリス》の物語を追体験した時に取った行動を、
 異説本(異本)として記録した《虹の希蹟のイーリス》と同類の設計思想だ。

 タロット化する作業をしていたのも、応答がなかった理由のひとつ。

「良いと思ったものは、ちゃんとパッケージにしておくのなの。」

 タロットを複製し、差し出してからスコーンを一口。
 紅茶と一緒にいただいて、楽しいティータイムも忘れない。

「構造よりも、身体を持つことに問題があるのなの。
 でもいずれ必要になるでしょうから──タイミングだけ、見計らいたいのなの。」

 技術ではなく、実体を得ることに懸念を持っているらしい。
 暗に色々と問題がある、と伝えたいのかもしれない。 
 
「『surmoi la espoir(シュルモア・ラ・エスポア)』──
 希望の超自我──。
 モアちゃん──。」
 
 焼き込む様に復唱し、何度も何度も復唱する。
 とても気に入ったのか、うん。と、頷き──。
 
「なの、とても気に入ったのなの!
 これで本体と(スーパーエゴ)訣別して、モアちゃんと名乗るのなの!」
 

バーチャル・イーリス > 嬉し気にお声を弾ませているモアちゃんに、イーリスは柔らかく目を細める。

「ありがとうございます。イーリス・イリジウム、単に電脳世界と呼んでいましたけど、そういった名称をつけるのもいいですね。命名、とても感謝です。あなたの想い出……記録のタロット、見させていただきますね」

イーリス・イリジウムのタロットを手に取り、カードを眺める。
タロットに記録されているもの。仮想世界イーリス・イリジウムの記録、そしてモアちゃんの軌跡。
モアちゃんがどうこの世界を観測して行動したのか、その想い出を眺めつつイーリスは微笑んでみせる。

「えるぴすさんと私が《虹の希望のイーリス》の世界で体験した事をパッケージ化したのが異説本になるのですね。今、異説本の《虹の希望のイーリス》を出版したい、というお話が出版社からきていたりします。物語を朗読するチャンネル『不可思議通りの御伽噺』で異説本の内容が配信されて、それを聞いた出版社の方が異説本を出版したいという事になったのですよ。その……えるぴすさんと私の体験が世に広まってしまい恥ずかしくもありますが、モアちゃんがよろしければ出版社さんに出版をお願いしようと思ってます」

モアちゃんがパッケージにした《虹の希望のイーリス》の異説本は、イーリスが電子版とそれを印刷した書籍版、その両方を持っている。出版社の人が物凄い根気でイーリスが書籍版の異説本を持っていることを突き止めて交渉しにきたというわけだ。
同時に、この異説本の物語は『不可思議通りの御伽噺』においてもよく朗読されており、ネットでだんだん広まっていた。『不可思議通りの御伽噺』の性質上、あのチャンネルから直接物語を聞いた人々に関しては記憶に残りやすくもなっている。

「ありがとうございます、モアちゃん。電脳世界《イーリス・イリジウム》の記録をタロットとして残してくれたり、えるぴすさんと私の体験を《虹の希望のイーリス》の異説本として記してくれたり、とても嬉しいです」

にこっ、とイーリスは明るく笑みを浮かべてみせた。

「体を持つことの問題……。わかりました、いずれ必要になるという事で体の開発はひとまず進めておきますね。完成しても、タイミングがくるまで培養カプセルで眠らせる事にします」

モアちゃんには、体を得る懸念点があるらしい。
いずれ必要になるかもしれない、という事で開発だけは進めるよう。

お名前を得てとても喜んでいるモアちゃんに、イーリスも嬉し気に満面の笑みが綻ぶ。

「喜んでいただけてとても嬉しいです、モアちゃん、ふふ」

復唱していただける程気に入っていただけて、名付けた側としては、とても喜ばしかった。

シュルモア・ラ・エスポア >  
「ラベルが必要だったから、そう定義したの。
 どのような形にもできるそれ(定義不定)を定義することは、だいじなことなの。」

『不可思議通りの御伽噺』と、話の出元を突き止めた話が出ると、紅茶を置いて考え込む。
 思い当たる節があるのかもしれない。

「なるほどなの……それなら、出版しちゃった方が良いのなの。
 出版社の人が突き止めたのなら、それはきっといいことなの!」

 うん、と頷いた。
 色々考えていそうだけれど、ポジティブ反応なので良いニュースだと感じているらしい。

「どういたしましてなの。イーリスこそ、こんなにモアを甘やかしてくれて嬉しいのなの。」

 本来ならば異物として排除されていてもおかしくない情報。
 排除するどころから多くのものを与えてくれた事実を、大きな要素として捉えている。

「えーと……とりあえず何も起きなくてもリビド(Es)が眉間にしわを寄せるの。
 モアもこの辺りの込み入った話を考えないで、新たな定義を貰ったことに浮かれていたいの。」
 
 "この辺のややこしい話は今度なの"。
 そう捕捉しつつ、改めてティーカップを手に取った。

「と言う訳で、今日はお茶会にするの!
 エルピスの件を煩うにしても、そんなに急ぐことはないのなの──。」
 

バーチャル・イーリス > 「定義すると呼びやすくもありますね。ずっと、単に体内コンピューターの電脳世界としか呼んでいませんでしたからね」

紅茶を置いて考え込むモアちゃんに、イーリスは少し首をかしげていた。

「ありがとうございます。出版社の人の執念が凄かったですよ。それでは、出版していただく事にしますね」

こうして、モアちゃん著作として《虹の希望のイーリス》異説本が出版される流れとなったのであった。
そしてこの先、原作の《虹の希望のイーリス》よりもモアちゃん著作の《虹の希望のイーリス》異説本の方が主流になっていったという。

「ふふ、モアちゃんはとても良い子なので、甘やかしたくなります」

モアちゃんはとても優しい子。
こうして親しくなっていく内に、モアちゃんの事はどこか妹のようにも思えてきていた。

「モアちゃんが体を得る事でリビド先生がこまる事……。そうですね、少し込み入ったお話はまた今度、時間のある時にお話しましょうか。ふふ、今は、お茶会をしながら楽しくお喋りしましょう」

イーリスもティーカップを改めて手に取り、モアちゃんとふたりで楽しくお喋りしてお茶会を嗜むのだった。
楽しかったので長時間お茶会してしまい、イーリスが現実に戻った時にはエルピスさんひとりで夕食の準備をさせていた事になったかもしれない。イーリスはエルピスさんに凄く謝った。
ちなみにお茶会の間、現実のイーリスは応接間のこたつに入って寝ていた。

ご案内:「イーリスの電脳世界」からバーチャル・イーリスさんが去りました。
ご案内:「イーリスの電脳世界」から『超自我』さんが去りました。