2024/06/21 のログ
緋月 > 「――恐縮です。」

信頼に値する、と言われれば、小さく一礼。
――信頼、されてはいるのだろう。
そうでなければ、わざわざ回りくどいやり方でこうして話している彼女を紹介はされなかった筈だ。

「何をしようとしているか、ですか。」

小さく、瞑目する。
迷いではなく、己の言葉を過不足なく伝える為の思慮。

「――私は、正義の味方などという、大それたものではございません。
無論、官憲のような秩序を守るような身分でもない。
精々が…偶然居合わせた誰かを助ける事が精一杯の者です。

何より、私は――普通に暮らす方とは、決定的に、ズレているのです。
誰かや何かを、強く「知りたい」「理解したい」と願う程に、斬りたいという衝動が強く襲ってくる。
理解したく(知りたく)なる程…斬りたくてたまらなくなってしまう。」

つい先日まで、誰かに話す事すらおぞましかった己の性。
それが、今では――相手を選びはするが、話す事に以前ほどの恐怖は感じなくなっていた。

「だから、でしょうか。
武者修行の旅に出て、自分の異常を知って、それでも切り捨てられないで――そんな矛盾を抱え続けて。

命を斬らぬ技、を、求めるようになったんです。
知りたいモノを、人を、殺めぬ為に。」

ふ、と、幻のような微笑み。
今は届かずとも、届く日の為に足掻き続ける者の微笑み。
それを厳しくとも、肯定してくれた者がいるから、足掻ける。

「――先ほども言った通り、私は正義の味方などではありません。
それに、あの怪人を「斬る」理由を、誰かの為…いえ、「誰かのせい」にはしたくない。
それは、烏滸がましいにも程がある。」

遠くを見るような赤い瞳が、真っ直ぐに隣に座るひとに向けられる。

緋月 > 「故に、私は、私の意志で、あの鉄腕の怪人を斬る(理解する)のです。
以前に戦った時、私は奴を知る事を拒んだ。
そのままでも、よいのでしょうが……このままでは、私はあやつを理解せぬまま、取りこぼしてしまう。
それはきっと、「理想の私の姿」から、遠ざかる行いです。

――その上で、奴を生かして捕え、然るべき場所に引き渡します。
悪因には、悪果在るべし。
如何に理解はすれど、奴は多くの悪を為しました。
それはきっと、正しきやり方で裁かれねばならない。

それをするのは、私では、ありません。
だから、奴を殺さずに斬ります

――勿論、そんな機会が訪れれば、ですが。」

長くなってしまってすみません、と、隣に座るひとに、小さく頭を下げる。

伊都波 凛霞 >  
彼女の語る言葉を邪魔はしない。
時折小さく頷いて、そして、彼女の言葉を、想いを最後まで聞いて。

「だったら──」

「何も気にせず、立ち会えばいいと思うよ」

彼が何故、凶行を続けるのかに関わらず。
彼の正体がもしかしたら風紀委員に関わる人間かも知れない、ということも気に留めず。

「"誰かから聞いただけの情報"なんて、本質には程遠い。
 もっと深く斬り合って、立ち合って。
 それで納得の理解を得るほうがよっぽど、彼の本質に触れることが出来ると思う」

立場を背負わないからこそ、責任を背負わないからこそ、迫れる筈。

「──ま、実のところはっきりとは言えないんだよね。
 私達の持ってる情報も所詮は机上のものだから。──ただ」

そこで一拍、言葉を切る。

「──知ったとて、貴女で彼を捕まえられる?」

緋月 > 「――あはは、これは手厳しいですね。」

ストレートに返って来た返答に、頭を掻きながらばつの悪そうな苦笑い。

「確かに、誰かから聞いた物事が真実に至るとは限らない。
むしろ、仰る通りに本質から遠のくものであるかも知れません。
それでも、事前に知る事で見えて来るものもある。
そう思いましたが…所詮は未熟者の浅知恵ですね。」

語られた事も、確かに道理である。
斬り合ってこそ見えて来るものが、命をかける以上は余程本質に迫り得るものだろう。

「…やはり、誰かしら疑ってはおられたのですか。
いえ、それを詳しく訊くつもりはありませんが。」

一拍を置いての、文字通り斬り込むような鋭い質問。
それに対し、真っ向から、怯む事無く答えを返す。

「捕まえて見せます。
時間稼ぎに逃げ回っていた先日とは、状況が違う。
次の機会が許されれば、出し惜しみはしません。」

その答えは、同時に先日の戦いでは札を総て切ってはいなかった事の素直な自白であった。

伊都波 凛霞 >  
「出し惜しみをしなければ、やれると思う?」

───鋭い言葉が続く。

じっと見る鈍色の瞳は、真っ直ぐに。
貴女を見定める、──そんな雰囲気を隠そうともしない。

自身もまたあの機界魔人とは接触し──拿捕に至れなかった。
完璧に近い作戦と包囲、彼の戦術と武器、そして逃走を封じ──それでも失敗した。
──掃滅ならば結果は違ったかもしれないが。

「───」

再度の問いへの答えを待たず…瞬間的に、"威"を放った。
それは、要約すれば所謂"殺意"であるとか──"攻性"の意志。
それが本物か、偽物か。それを判断する時間は恐らくない。
なぜならば互いの距離──手を伸ばせば、即全ての急所に"手"が届く距離感でそれが放たれるから。

緋月 > 「――――!」

答えを待たず放たれた威圧――否、"殺意"。
瞬間、膝の上に置かれていた手が反射的に動く。
傍らに置かれた刀に? 否、人差し指と中指だけを立てて、まるで抜き打ちのような恐るべき速度で、
威を放った者の頚を目掛けて、神速の一閃。

「――――っ!!」

その指が目の前の相手の頚に達する前に、何とか停止させようとする。
指の軌跡は、「斬る」つもりで放った。
それが振り抜かれれば――己の異能で、彼女の頚を掻き切ってしまう所だったろう。
避けられたりしなければ、寸前で指は止まり、軌道にあったものは――真剣でやられたように斬り裂かれる事だろう。

伊都波 凛霞 >  
神速(おそ)い」

その腕の動きの"起こり"を、その肩口に掌を添えて、抑えた。
抑えによって留められた軌跡、ベンチの裏の草葉がするりと切れ、落ちる。

「──咄嗟となれば得物も選ばず"斬れる"ってことね。
 私が知ってるモノ(雨月流斬術)とよく似てる」

眼の前で淡々と言葉を紡ぐ、その視線は徐々に細まる。
掌にかかる力で理解る。寸前で、止めようとしたこと。

「"反射を留める"…そんなことをしてる"間"に。
 私なら貴女の全身の骨を粉々に折れる」

「──ごめんね。変なことして。…少し、不安かな」

緋月 > 「っ…いえ、手心を入れようとした私が未熟だっただけです。
――お見事。」

故郷での修練で、ひたすらに高められた速度。
無手であっても即、相手を仕留める為の一指。
それが、完全に止められた。

(加減をしなければ――いや、そんな事をしても、当たったかどうか。
この人、強い――――!)

ぞわ、と湧き上がる剣気を――より目の前の強者を「理解したい」という感情を、何とか抑える。

「…厳密には、少し違います。
「斬る」意志を籠めて振るう事で、斬撃に異なる特性を載せる。
例えば、斬撃を飛ばす。例えば、斬撃を手元に留める。
――斬月と、呼ばれています。この街や学園でいう所の、「異能」なのでしょう。
指や竹刀で「斬る」事も出来ますが。」

ふぅ、と一息。小さく、頭を振る。

「…いざという時に迷ってしまうとは、不安に思われても仕方がありませぬ。
こればかりは、私の未熟と不徳のせいでありましょう。」

伊都波 凛霞 >  
数瞬前の殺気が嘘のように、ふわっとした笑みを浮かべて、笑う。

「それが貴女の、…ってコトね」

彼女の持つ、異能の力。
情報に補正を与えてくれるあたりは、その性格の実直さ、生真面目さが受け取れる。
…だからこそ、なのだろうけれど。

そして、彼女の弁に小さく首を左右に振った。

「今、私は"貴女が反射的に相手を攻撃するだろう"と予想して、仕掛けた。──だから止めることが出来た」

つまりは、誘い。
そして反射的に動くことを予測して、脳神経伝達速度のラグにつけ込む───。

「私が危惧したのは、貴女の甘さや未熟ではなくて…。
 貴女が反射的に(テンタクロウ)を斬ってしまうことへの危惧──それは、貴女の望むところではないんでしょう?」

──彼の殺意は、負の感情の血溜まりは…きっと私が放った殺意なんかとは比較にならない。

そんなものに反射的に動いてしまったら。

踏みとどまれば、致命的な隙を晒す。
振り切ってしまえば、彼女の意に反する結果を呼ぶことだろう。

「貴女が強く、そして優れた武人で在るからこそ…私は危険だと思う」

緋月 > 「……………。」

無言で、目の前の彼女が語る言葉に耳を傾ける。
確かに、反射的に斬り殺してしまう危険は、どうしても付き纏う。
自身の力を認めて貰えるからこそ、危険だと。

「――そう、ですね。仰る、通りです。
反射的に斬り殺す危険は――付き纏う。
これでは、危険と思われるのも無理はないかも、知れません。」

小さく目を伏せ、息を吐き出す。
小さい頃から重ねた鍛錬が、裏目に出るとは。
今の自分で駄目ならば、それこそ――「理想の自分」を、先取りするしかない。

「……………。」

長い、沈黙。
おずおずと、声を上げる。

「……恐らく、「理想の私自身」に至れれば…斬って命を奪う事は、ないかも知れません。

ただ、それを今実現出来るかというと……

――命を賭ける覚悟がないと、駄目だと、思います。」

「無理だ」とは言わなかった。
ただ、「それ」を行った際に、自分が無事でいられるかは、分からない。

伊都波 凛霞 >  
「──貴女には、それをする"必要"がない。
 私達はね、風紀委員だから…彼をどうにかする必要があるけど」

「貴女はそうじゃない」

ゆっくりと、穏やかな。
諭すような論調で。

ベンチから立ち上がる。
空を見れば、西の空には暗い雲が立ち込めていた。

「彼との再戦を貴女が望んで、彼を理解することを望んで」

「彼が生き長らえることも望んで、当然、自身の勝利も望まなきゃいけない」

「──そりゃあ、それくらいしなきゃね」

…そうでなければ、
命どころか…己の全存在を賭けるかのような怪物とは渡り合えない。
彼女の望みは、きっとそれ程に──重い。

「貴女が私に聞きたかった、貴女の危惧していることはきっとその通り。否定しない。
 それも踏まえて……貴女の望みと覚悟と、(テンタクロウ)の全て…釣り合うか、無視するか。」

「考えてみてもいいんじゃないかな」

もちろん、その結論に異を挟むつもりなんてない。
これは、飽くまでも"私闘"であり……風紀委員としてなら兎も角、伊都波凛霞という個人の人間が介入すべき話ではないから。
『見てみぬふり』が何よりも苦手なために、ついつい…こんな余計なお世話を焼く。
こればっかりは、直らない。

緋月 > 「私の望みと、覚悟と――――あの鉄腕の怪人の、総て――。」

思わず、両の手を眺める。
穏やかな声が、耳と、それ以上に心に沁みる。
立ち上がる気配に釣られるように目を向ければ、いつの間にか暗い雲。

まるで、自分の今の心を映したような、空の色だった。

「――わかりました。少し、考えてみます。」

一礼をすると、自身もふらりと立ち上がる。

「…その、結論が出たら、聞いて貰えますか?
えと、緋彩さんの口利きで…携帯、でんわ?というものを持たせて貰えましたので。」

何かあった時の連絡先位はあった方が良いかも知れない。
懐を探って取り出したのは、どう見ても子供用のスマホだった。
恐らくは居場所の把握も兼ねて持たせたのだろう。
あるいは、機械類が苦手なので出来る限り簡単な操作のものを選んだのか。

伊都波 凛霞 >  
「ん…いいよ。あ、でも──だったら、ついでに」

「私からも要求! なんか、今後の約束をしよう」

笑顔で向けられる事は彼女にとって意外なものだっただろうか。
それとも、そんなことを言いそうだと思われていただろうか。

自分も携帯端末を出して見せ、操作が拙さそうならば手伝いもして…互いの連絡先を交換する。
そして……

「緋月さんの無事も約束してもらわないと困るからね~…。
 色々が片付いた後に、何でも良いよ。私にして欲しいことでも。ご飯の約束でも、なんでも!」

生真面目で、実直に見える彼女。
もし、(テンタクロウ)との再戦があったとしても…その後に控える"約束"があれば。
それはいざという時の踏み留まりや、力になってくれるかもしれない。
浅はかといえば浅はか…、そんな提案を、最後にしよう。

緋月 > 「や、約束、ですか??」

ある意味突拍子もないお話。
何でもいい、といざ言われると中々に困ってしまう。

「うーん、う~ん……突然何でもいいと言われてしまうと、何を要求すればいいか、悩んでしまいます…。」

肝心な時に限って、煩悩が働かない。
困った、してほしい事、ご飯の約束――――あ。

「――あ、そ、それでは…その、商店街に、とても沢山の具が載ったラーメンのお店があったのを見かけて…
その、其処に一度、言ってみたいな、と。
ええと、その、野菜やお肉が山のように――」

以前に空腹を抱えていた際、偶然見つけたがお値段が中々よかったのでやむなく候補から外したラーメン屋。
身振り手振りで何とか説明する。

上手く伝われば、それが日本である時期から大きなブームになった、ひたすらに大盛りの具が載った
ラーメンであると理解が及ぶだろう。
女子二人で向かうにはどうかという代物だが、食欲には比較的正直という一面が見える。

伊都波 凛霞 >  
「(アレかー)」

説明だけで十分想像できる。
あれ系のラーメン店だ…。
生死を考えた後の約束としては…いや、妥当だ。
それぐらいのほうが、きっと良い。

「ん、おっけー。じゃあ色々が片付いたら私が連れてってあげる!」

──重い話も、物騒な話も、…少し横暴な話もした。
でもおかげで彼女という人間をよりよく知れた気もする。

…本音の本音を口にすれば、この件に首を突っ込むのは危険過ぎる。
これ以上関わらないで済むならばそれが一番だと思う。
けれど、私の想像が確かなら──風紀委員"以外"の力も、必要かもしれない。
なんとなくだけど、そう感じているところがあったから。
力を視て、覚悟を視て、彼女を視て。
偉そうなことは言えないけど…背中を押すことにした。

「…それじゃ、降ってきそうだし私はこのへんで。
 約束、ちゃんと守らないとダメだからねー!」

またね、と再会前提の別れの挨拶を手を大きく振るとともにすれば、駆けてゆく。
気づけば曇天。季節柄珍しくもないが…間もなく、一雨来そうだ───。

緋月 > 「おお……ありがとうございます!
いやぁ、気になってはいたんです。あれだけの量、さぞ食いでがあるでしょうなぁ…。」

じゅる、と口から煩悩が垂れてしまう。
いかんいかん、気を引き締めなくては。
取らぬなんとかの皮算用はよろしくない。

「あ、確かに雲行きが…。引き留めてしまい、申し訳ございません!
約束は、必ず守ります!!」

駆けていく背中に別れの挨拶を投げ掛ければ、書生服姿の少女は傍らの刀袋に目をやり、僅かに考える。

「……もし、戦いとなった時は、あなたも最後までついてきてくれますか、月白――?」

袋に収められた刃鉄は、何も語らない。
それでも少女はそれを手に、雨に降られる前にと、帰路を急ぐことにした。

ご案内:「常世公園・ある日」から伊都波 凛霞さんが去りました。
ご案内:「常世公園・ある日」から緋月さんが去りました。