2024/07/01 のログ
ご案内:「ねこカフェ「モザイク」」に宇賀野 実さんが現れました。
■宇賀野 実 > 異能の暴走からしばらくするも、ショックが抜けなかった。
頭に、身体に触れられ、”求められる”感覚は、
自分の本能に重低音のように響く歓びとして未だに刻みつけられている。
とぼとぼと学生通りを歩いている最中、ある店舗の前でピタリと足がとまった。
「あれ、こんなお店あったっけ…?」
ねこと触れ合える、いわゆるねこカフェであった。
『極限まで猫ちゃんに近い』というゴシック体での文言に
なにか怪しいものを感じるが、少しだけ考える。
たまには動物でも撫でて、癒やされてもいいかもしれない。
優しく撫でる感覚を得ないと、自分が”撫でられる”存在に
成り果ててしまうかもしれない。そんな思いが駆け巡る。
幸い、時間はまだあった。
こんこん、と扉をノックする。
■宇賀野 実 > 『はい、いらっしゃいませ。 ねこカフェ『モザイク』へようこそ。』
表れたのは、仮面の男であった。
ちょっと驚いた自分を見てか、男は続ける。
『驚かせてすみません。 猫ちゃんたちにお客様の顔を覚えてもらうため、
あえて自分の顔を隠しているのでございます。
「いつもご飯をくれるのはこの人だ」と覚えられては困るので』
「なるほど…。」
店員さんに猫が集まってしまっては困るのだろう。
店内に入って様子を確認する。
広い室内に、まだねこはいないようだった。
「あの、ねこがいないようなのですが…?」
『ご心配なく。すぐに呼びますが…その前にお願いしたいことがございまして。
お店のルールというやつなのですが。』
「お店のルール…あっ、はい、わかりました。」
伝染病とか、猫の呼び方とか、触れ合う際のルールとか、
そういうものの話なのだろう。 このあたりをきちんと守っているのなら、
ヤバそうなお店ではないはずだ。 少しだけ胸をなでおろす。
■宇賀野 実 > 『ねこちゃんに近づくために、これを身に着けてもらいたく…。』
差し出されたのは猫耳だった。 自分の髪色に合わせた白いものである。
「…あの…えっ、ああ~、そういうことですね!」
雰囲気出しとしてやっぱりこういうのは必要なのだと理解し、
ちょっと恥ずかしがりながらも猫耳を頭に乗せる。
その瞬間、びりっとしびれるような感覚が脳に走った。
「あええ?! あっ、えっ…あ、あれ…? これ、えっ…?」
耳の感覚が”生えた”。 大慌てで猫耳に触ると、自分で触っている感覚がある。
縁をなで、軽く手のひらで触れ、撫で回す。 ちょっとつまむ。ちょっと痛い。
混乱しながら店主を見る。 店主はさらに別のアイテムを差し出してきた。
『次はこちらです。』
先ほどと同じように差し出されたのは尻尾である。
片方の切り口がぬらぬらとした赤色であり、あからさまに怪しいものだった。
「あの、ちょっと嫌だっていうか、その…えっ、何なんですかそれ!?」
『猫ちゃんに近づくためには必要ですよ』
問答をしているうちに、男の手が自分の後ろ…おしりと腰の付け根に回る。
服の上から押し付けられたそれはぴったりとくっつき、
猫耳と同じようにしびれるような刺激とともに…尻尾の感覚が”生えた”。
■宇賀野 実 > 「にゃに、を……」
舌がうまく回らない。立っているのが辛くなり、その場に手と膝を付く形で
四つん這いになる。 尻尾をゆらゆらと動かしながら、相手を見上げる。
『だいぶ猫に近づいて来ましたね。 あとは…』
男が持って来たのは、立体的な肉球を備えたグローブ、そして首輪だった。
今の段階でも、自分の身体は猫耳と尻尾に支配されている。
あの2つまで身に着けてしまったら……。
「にゃめ、あっ、ぁ―ー―」
男の手が近づいて来たところで、意識が途切れた。
■宇賀野 実 > 「……はっ!!!」
気がついたときには店の外に立っていた。
すでに日は落ちて長く、夜の闇の中を学生通りの明かりが煌々と照らしている。
「おじさんは一体…なにを…?」
『極限まで猫に近づく』というのが、距離ではなく存在だとは思わなかった。
はっと我に返って店の方を見るも、建設予定を示す看板が立っているだけだった。
「狐に化かされるってのは聞いたことあるけど、猫に化かされるってのもあるのかな…。」
釈然としない気持ちのまま、学生通りを後にするのだった。
ご案内:「ねこカフェ「モザイク」」から宇賀野 実さんが去りました。