2024/07/08 のログ
ご案内:「翼は未だ羽ばたかず」に橘壱さんが現れました。
ご案内:「翼は未だ羽ばたかず」に伊都波 悠薇さんが現れました。
橘壱 >  
風紀本庁、格納スペース。
所謂車両等と言った風紀委員が使用するマシンが此処には格納されている。
個人用の車両もそうだが、移動用の大型車両に装甲車。
また、極度の前線で使われる兵器なども置かれているスペースだ。
ライトの交換が微妙にされていないのか、鉄臭い空間はまばらに照らされて薄暗い。
そんな格納スペースのシャッターが開くと同時に、蒼白の鋼人が火花をちらして滑り込んできた。
Assault Frame(アサルトフレーム)。橘壱の扱うパワードスーツだ。

<目標に到着。システム、通常モードに移行します。>

COM(コンピュータ)の音声が響くと同時に、フレーム全身から白煙が排熱される。
程なくして、まるで脱皮するかのように背中から少年が吐き出された。
全身汗だく、息も絶え絶えに仰向けのまま薄暗い天井を見上げている。

「ハッ…!ハッ…!リハビリに、しては……ハード、だったか……。」

病み上がりの瞬間から自ら前線を張り、無茶な機動をした結果だ。
全身にかかったGの衝撃で全身がまだ痛む。肺が押しつぶされる苦しさだ。
こういう時に限って誰もいないのか。我ながら、運がない。
内心自虐しながら、張り詰めた表情は苦々しいものだった。

伊都波 悠薇 >  
風紀委員の、危ない仕事から離れてみることにしてから数日。

荷物の運搬を手伝いしていて、通りすがったのは偶然だった。

「あれ?」

点いている灯りに誘われて。

「誰かいるんですか?」

覗き込むように顔を出して。
気づいたときには、走っていた。

「だ、大丈夫ですか!?」

橘壱 >  
視界はぼやけるが、赤く(レッドアウト)はない。
どうやら少しは体が慣れたようだが、高機動戦闘で此のへばりよう。
当然、橘壱という少年はついこの間まで引きこもりだったのだ。
マンガやアニメのようなスーパーマンではない。
血を滲む訓練を今も続けているとは言え、数年程度でそんな事が出来るなら誰でも軍隊でエースになれる。

「ッ……ハァ……!スゥ……!」

とは言え、意識を失うのは拙い。奥歯を噛み締め、強引ながら呼吸を整える。
かすれるような呼吸音。意識の涅槃の反復横跳びを引っ張り上げてくれたのは、聞き覚えのある声。

「ッ……ぁ……?いと、わ……はる…か……か。」

よりにもよってか、と力なく苦笑した。
全身の汗が気持ち悪く感じるくらいには、少し意識が戻ってきたらしい。

「ほっとけば…どうにでも、なる…っ…ハァ…ハァ…!…フゥ…、…。」

伊都波 悠薇 >  
放っておく? 今の状況を?
無理に決まっていた。

「と、とにかく、呼吸。整えないと……えっと……」

うろ覚えの知識で、ビニールを取り出した。
ビニールの中から駄菓子を全部ぶちまけて。

「これ、これで呼吸!」

過呼吸みたいなものだろうと、判断したから。

橘壱 >  
「ぶっ!?」

だばーっ。壱少年は日頃の行いが悪い(当社比)。
別にそんなつもりは彼女になくてもなんと真っ逆さま!
インガオホー。駄菓子無惨!お菓子まみれだ!

「はっ……僕を窒息させるつもりだったのか???伊都波 悠薇……。」

喧嘩売られたのか僕は?と青筋立てた笑顔でお応え中。
駄菓子に埋もれてるから迫力はそこのおばあちゃんのマスコットにかき消させる。あはれ。

「大丈夫、だって……!無茶な操縦をした、だけ……。
 ……Fluegele(アイツ)を乗りこなせない、僕の責任だ……。」

実際少しずつ落ち着き始めている。
呼吸を整えながら、横目で見やった鋼人は悠然と立ち尽くしていた。

「……そういうお前は、何しに来たんだ?こんな所まで。」

伊都波 悠薇 >  
「そんなわけありますか!?」

大慌て。姉なら、ちゃんと出来るだろうが、妹には出来ることをひとつひとつ、合っていないかもしれないことを確認するしかないのだ。

「私は片付けの手伝いを。そしたら、灯りが見えたので……無茶、なんて。ひとりでいるときにしたら、危ないですよ」

それは、この間自分が痛感したことだったから。そう、口にした。

橘壱 >  
「ッ…ふぅ…冗談だよ……。」

馬鹿言ってたら落ち着いてきた。
なんだかんだ、人間っていうのはコミュニケーションをとると気が紛れるらしい。
何とも現金なものだ。軋む体。痛みに顔を歪めながら上半身を起こした。

「つつ……、……何?無茶……?ふん……まぁ、結果としてそうなったかもな。
 別に、デッドラインは弁えてたから死ぬことはない。心配なんて無用だ。」

「それに……無茶でも何でもしなきゃ強くはなれない。
 機体の問題じゃない。操縦者の問題だ……。」

非異能者であるからこそ、未熟である事を痛感したからこそ、急く気持ちもある。
白衣の懐から取り出した眼鏡をかけて、彼女を見上げた。

「人の心配するほど、余裕はあるんだな。」

そういう少年の口から出た無意識の嫌味が、彼の余裕の無さを物語っていた。

伊都波 悠薇 >  
「……?」

首を傾げた。
以前、言葉には荒さがありはしたが、トゲは見えなかった。
でも今は。

「弁えているから、100%なんてことはないです」

あの、姉ですら間違いはあるのだ。

「余裕って、なんのことですか? 確かに、怪我をしているアナタと比べたら余裕はありますけれど。そういう話ではない、気がします」

少し、対話が必要な気がした。

橘壱 >  
数回の深呼吸。呼吸をゆっくりと緩めていけば、漸く落ち着いた。
視界はまだ少し霞んでいる。自らのひ弱さに、少し唇を噛んだ。

「絶対はないかも知れないけど、此れでも前線には出るんだ。
 ……人に心配をされるほど、ヤワじゃな……、いんだけどな……。」

立ち上がろうとしたが、まだ腕に、足に力が入らない。
Gの衝撃がまだ全身をひしひしと残しているらしい。
言った傍から此れでは、流石の少年も苦い表情を浮かべる。
感情的になるよりも、理性が働くから失言に気づけば尚の事、眉間に皺が寄った。

「……なんでもない。放っておけばそのうち治る。」

眼鏡を上げて、視線を逸らした。

伊都波 悠薇 >  
「なんでもなく、ないですよね?」

ずいっと、顔を覗き込んだ。

「まるで、敵意むき出しの獣のよう。自分以外は、全部敵に見えているような言い方でした」

一方的な、決めつけだけれど。
追い詰められたときにそういう言葉がでてくるということは。

「……なんでですか?」

橘壱 >  
「……っ。」

顔を覗き込まれたら、思わず視線は逸らした。
失言した手前の気まずさもある。
表情もまさしく、申し訳無さに眉も下がるというもの。

「……そういうつもりはない。余裕がなかったのは認める。
 僕の失言だったのはそうだし……、……いや、まぁ、そうだな。」

どいつもこいつも気に入らない。そういう気持ちも、なくはない。」

伊都波 悠薇 >  
「……気に入らないのは、なんでですか?」

すとん、と覗き込むのを止めて。
隣に体育座りをする。

本当に大丈夫そうだし、自分がなにかすることで悪化させるのはもう嫌だったから。

地面に転がった駄菓子を集めながら、尋ねる。

橘壱 >  
此の体では距離を取るのも拒否することも出来ない。
隣に今座れるのは、少し嫌な感じだ。いや、自分が勝手に気まずさを感じているだけだ。
なんともいえない(アンニュイ)なまま、視線は自らの愛機に向かう。

「……そんな事聞いて、何になるんだ?僕の身の上話なんか……。」

「こんな"くだらない話"、聞いたって面白くないぞ?」

それでも、自らの事を話すのにはやや抵抗があった。

伊都波 悠薇 >  
「敵意を、勝手に抱かれるほうが面白くありません」

だいたい自分の回りにあった駄菓子を集め終えて。

ふぅと一息。

「ーー私が、過ごしやすくなります。納得できる形のそれであるなら受け入れろれますが、そうじゃないなら、不愉快に近いですから」

だから。

「なんで、ですか?」

繰り返した。

橘壱 >  
思わず吹き出すように、笑みが溢れた。

「思ったより自分本位な理由だな。けど、理解は出来る。
 結局のところ、人間皆そんなモンだよな。なんだ、思ったよりもそういう女なんだな。お前。」

結構人に流されやすい印象はあったが、そうではないらしい。
ちょっとからかうように言ってやれば、繰り言には少し顔を引き締まる。
数秒の沈黙の後、観念したようにため息を吐いた。
碧の瞳は、横目で彼女を見やった。

「……なんてこと無い、嫉妬だよ
 非異能者(しょうがいしゃ)異能者(けんじょうしゃ)に抱く憧景みたいなものさ。」

少年はポツリと、語り始める。

伊都波 悠薇 >  
「まぁ、割りと」

対して、地面に視線を向けたまま。
いじいじと、駄菓子を弄る。
ぶちまけた駄菓子のうちのひとつ、ヒモグミを取り出して、ぐーっと切れないぐらいのちから加減で引っ張った。

そうでもしてないと『落ち着かない』。

「……嫉妬?」

誰が、誰に、と。

「アナタが、私に?」

橘壱 >  
なんか普通に駄菓子食い始めたな、コイツ。
思ったよりも食い意地が張っているらしい。
それでいて、想像より度胸があるのか。彼女という存在を少し誤解していたのかもしれない。

「……正確には、アンタにも、他の連中にも。大体顔を合わせた奴に嫉妬心も、反抗心だってある。」

「だってそうだろう?何も無い僕と、初めから才能を持っている周り。
 妬みくらいするさ。尤も、それで腐る位なら、世界一なんて目指したりはしないけど。」

妬み、嫉み。人間誰しもが大小持ち得るものだ。
非異能者(もたざるもの)であるが故の嫉妬。此の世界では案外、ポピュラーな悩みなのかもしれない。
それでただ腐っていくだけではなく、それがバネであるからこそ、今の今まで戦ってこれたのもある。
自分の身の上話とは、何ともこそばゆい。思わず苦虫を噛み潰したような苦い顔になってしまった。

「……アンタの両親とは仲良かったか?世話になった、って気持ちはある?」

徐ろに問いかける。

伊都波 悠薇 >  
「才能?」

自分が?

と、思ってしまうが、じっと話を聞くことにした。

彼なら、そう思う、そういう話だ。
テンタクロウが、社会の抗議を骨でするように。
自分が、学校に通うことでそうするように。

彼は、態度で、そう示すのだろうと解釈する。

「うちは、家族の仲はいいほうですね。ありがたい、ことに」

橘壱 >  
「才能。異能かな。アンタもそうなんだろ?
 ……別に、全部の異能が人に正しく機能しないことは知ってる。」

「時には"病"に分類されることだって。けど、僕からすれば全部羨ましいさ。」

少なくとも異能者ではあるはずだ。
どういうものかは想像は付かない。
マイナスなのかも知れないけど、無いものからすればそれですら羨ましい。
何故なら、そう────…。

「そうか。僕は仲が良くなかった。……正確には、腫れ物みたいに扱われた
 それもそうだ。異能者であった両親から生まれたのは、何の取り柄もない非異能者(ぼんじん)。」

「けど、親として無責任も出来ない中途半端な親だからこそ、当たり障りなく接された。
 他人行儀?っていうのかな。まぁ、おかげでわがまま放題には暮らせたけどね。」

別に突出した家庭環境と言うわけではない。
そして、非道な両親という訳では無い。ただ、あるはずのものがないだけ。
此の世界では寧ろ珍しい異能者から生まれた非異能者二世。忌避もされる。
捨てられるほど非道ではなかったからこそ、家族としてみればより辛かった。
そんな気持ちがあったからこそ、ずっとその反骨心にはついて回ったのだ。
自嘲気味に語る少年は、ただじっと自らのAF(ツバサ)を見据える。

「けど、AF(コイツ)があれば僕でも戦える事に気付いた。
 ……一度"楽しい"と思ったことは、頂点を取らないと気がすまない。」

「だから、僕は此れで誰よりも強くなって、一番に成りたいんだ。
 何時かソイツ等は一番になるためには蹴落とすだけの存在……だと、"思ってた"。」

「……そんなつまらない、何処にでもある嫉妬心だよ。聞いてて面白い話じゃないだろう?」

伊都波 悠薇 >  
「異能がないから、ですか」

この少女にとって、その価値観は新しいものだ。

同時。
そんな、大したものを自分は持っていないと否定したい気持ちになったのも確かだ。
それもそう。病、で他人に迷惑をかけず朽ちていくならまだしも。

ーー人に過負荷をかけているのだから。

「いいえ。知れてよかったです。アナタの行動『も』、自己証明。抗議、なんですね」

面白くないと言わない。面白いものでもない。
ただ、話す、関わる上で知っておくべきことだったと感謝した。

「でも、身体を壊しては、いけません。我が儘に感情を振り回しても。経験者からの助言です」

使わないと判断したビニール袋に駄菓子を詰めなおして、立ち上がった。

橘壱 >  
「充分な理由だ。そう言えるのは、"持ってる"からだよ。」

例えそれが病であっても、身に余る者だとしても。
そんな悩み除けば充分すぎるほどの才覚なのだ。
非異能者の自分としては、どれほど羨ましかったことか。
無いからこそ必要とされず、証明の為にどこまでも食らいつく努力をしたことか。

……比較するものではない、わかっている。

それでも、そう思わずにはいられない。

「…………。」

手足は、漸く動く。続くように、少しよろめきながら立ち上がった。

「待ちなよ、伊都波 悠薇。僕は話したぞ、わざわざ話したくない事を。
 今度はアンタの番じゃないか?……僕は、"アンタの事を知りたいと思ってる"。」

「何時か蹴落とす相手になるかもしれないし、他人に興味はないつもりだったけど……色々あってね。
 少しは他人に、アンテナを向けることにした。特に、前々から少しばかり気には掛けていた。」

僅かに震える指先で、眼鏡の位置を直す。

「……なんだか弱気なクセに、ヘンに頑固で僕に対してそうやって啖呵を切ってくる。
 妙に気になるやつだ、とは思っていた。僕は、僕の身の上を話したし、アンタも話すべきなんじゃないか?」

伊都波 悠薇 >  
「では」

立ち上がり、見据える。

「アナタは過負荷であることを理解した上で、羨ましいといいました。それは持っているからだと」

だから、嫉妬するのだと。

「では、それがあるから、『成長』できない、私も、羨ましいですか?」

くすり、笑みが零れた。

「私はとある、異能があります。それがある『おかげ』で、どんだけ努力しても、どれだけ時間を費やしても結果が、出ません。テストで0点を取り、運動テストでは最低点をとる結果だけが生まれます」

それは。

「姉のおかげで、私は生きています。姉がいなければ、生きてません。

ーー誰かを頼らなければ生きていけない、姉がいなければ、努力が実らない私を、本当に羨ましいと思うのですか?」

橘壱 >  
「…………。」

全てがプラスに働くわけではないと知っている。
異能とは、得てして全てが才能と言うわけじゃない。
そう勉学で学んだ。そして、何と因果なことか。"目の前の彼女がそうだという"。

異能のせいとは言わないんだな。
 そういう異能だって言うなら、少し位自分の異能に文句とかいいたくならないのか?」

何かしらの枷になるタイプなのだろうか。
全貌がわからないが、それを疎ましいような言い方はしていない。
不思議な物言いに、訝しげに眉間に皺を寄せた。
そう、まるで何かに対する皺寄せを受けるような言い方だ。
異能学。学園で習った知識が脳内で駆け巡る────。

「……何かに対して逆の結果が起こる異能、とかか?」

思い当たるとしては、その辺りだ。
笑う彼女とは対象的に、難しげな仏頂面の少年。
それでも羨ましいと思うのか?その問いには、僅かに間を開けた。

「此れは、"キミ"の立場を考慮しないでの物言いだ。
 多分、それでも僕は羨ましいと思う。おかしいと思うか?」

それは実際の立場になってみれば答えは変わるかも知れないが、今だけを言えば変わらない。
例えそれが泥でも、空いた穴を埋められるならそれでもいい。

伊都波 悠薇 >  
「いいえ」

それでもそう思うのは、きっと。
この異能で、家族と仲良くなれているという事実があるからだ。
彼の心に根差していることが、そうであるなら、そう、思っても仕方がない。

そう、納得『させる』。

「文句を言ってなんとかなるなら」

それで、姉が喜ぶのなら。
迷惑をかけた友人や、両親の苦労が報われるのなら。

「でも、そうじゃないですから」

どんな異能であるかは、言わなかった。
言ったら、矛先が向いてしまう可能性があるから、それを忌避して。

「ひとりで、ってすると、余計に心配をかけます。私が姉に、そうし続けたと同じように。

アナタも、その自身が飼っている『嫉妬』に狂うのは良いですが。

ーー心配する同級生などがいることは、覚えておいたほうがいいと思いますよ」

橘壱 >  
「……言っただろう。妬みもするし、嫉みもあるけど、それで腐るほどじゃないって。
 結局はある手札でしか戦えない。幸い、異能以外の事……特に、AF(アレ)を操る才能はあったらしい。」

嫉妬に狂っているのなら、多分此の学園にこれてもいない。
今でもずっと、あのゲームの玉座に収まっていたのだろう。
此の気持ちだって自らの一部であり、此の反骨心があるからこそ戦ってこれた。
醜い気持ちだからこそ、ひけらかす真似はしたくなかったが、言ってしまった。
けど今は、そんなことよりも癪に障ることがあった

「……なんで。」

レンズの奥の瞳が、彼女を睨んだ。

「なんでそう言える?違うんなら、納得はしてないじゃないか。
 自分が損をしてるのに、納得してない。根っこはそう思ってる。」

「生憎だが、友達のいない僕と違ってキミには家族も姉もいる。
 ……よっぽど心配してくれる人間がいるじゃないか。なのに、なんだ。その"言い草"。」

そう、何よりも許せなかった。
自分が持ち得なかった才覚、そして家族の愛情を持って尚自らを押し殺す彼女が、許せない

「そんなに自分の家族が頼りなく見えるのかよ…!?」

思わず声を、張り上げてしまうほどに。

伊都波 悠薇 >  
「そう、『見えますか』?」

首をかしげた。さらりと左目が覗く。

「なら勘違いです。

ーー大事な人達に『心配をかけたくない』。そういう我が儘なだけですよ。

アナタが今していた、無茶と一緒」

声はとても穏やかで、静かだった。

「それと」

首を二回横にふって。

「友達がいないと思ってるの、アナタだけかもしれませんよ。

ーー人は意外と、ひとりじゃありませんから」

橘壱 >  
交差する左の視線。
腹が立つほどに言い切られたそれは同じだと言われた。

「……いいや、違うな。余り僕のことを買いかぶらないほうがいい。
 知り合いやルームメイトはいても、心配する人間はいない。」

「こっちからも言わせて貰えば、そういうのは余計に心配かけるんだよ。
 ……愛されている自覚があるなら尚の事そうさ。同じだなんて、良く言えたな。」

残念だがそう呼べる関係の人間hが17年の生涯に存在しない。
あるのはそれこそ、当たり障りない人間関係だ。
孤独とは言い切らないが、そこまで心配をかける人種がいるとは微塵も思わない。
今少年の中に友情と呼べる架け橋を結んだ人間関係はない、それだけは言い切れる。
だからこそ吐き捨てた。此れの何処が同じなんだっていうんだ。

「それとも、キミが心配してくれるのか?」

フン、と不満げに言い放った。
それこそ一人で潰れる無茶と、誰かが気をかける無茶。
どれほどの違いがあるかは言うまでもない。

伊都波 悠薇 >  
「はい。心配しますよ」

なにを今更と、目を丸くした。
出会ったときから、だから、こうして話を重ねているというのに。

「自分が知り合った人に聞いてみたらどうですか。ぼっち、だとおもっていたら、いつの間にかなんて、よくある話しですから」

自分が、そうであったように。

「心配しちゃいますから、あまり、無茶しないでください。

訓練するなら誰かをつけてください。姉にも言っておきます」

話しはおわり。
体調が直っていることに安堵して、端末から時計を見た。

まずい。ひとりでここにいすぎた。

心配の連絡がきていた。

「それでは。橘くん。『気をつけてくださいね』」

また、と手を振り、引き留めがなければ去っていこうと歩を進めた。

橘壱 >  
「はっ……。」

思わぬ返答に豆鉄砲食らったような顔をしてしまった。
それこそ心配されるような関係などありえない。
ただのお為ごかしだ。だって言うのに、此の女はさも当然のように言う。
思わず言葉に詰まって、何を言おうとしたか忘れてしまった。

そう思考がグルグルしているうちにいい時間だ。
ようやくはっと意識を戻せば軽く首を振った。

「冗談……、……あ、いや、……そっちも"気をつけて"……。」

……なんてすっかりしおらしく返してしまった。
何をしているんだ自分は。思わずそう返してしまった。
こんなもやもやした状態では引き止められない。ああ、くそ。
自らの頭を掻きむしれば踵を返す。何を照れているんだ、僕は。

「…………にしても、そうか…………。」

そういうわけでもないと、彼女は言った。
自らのAF(ツバサ)と向き直り、独り言ち。

「……クソ、ついムキになったな……。」

はぁ、ため息混じりに空をなぞれば出てくるホログラムコンソール。
AFの調整の為に指を這わせるも、思考が悶々。

「……ああ、クソ……!」

何だ此の気持ちは。何だって言うんだ。
そんな知りもしない気持ちを抱えながら、一人マシンと向き合い過ごすのだった。

ご案内:「翼は未だ羽ばたかず」から伊都波 悠薇さんが去りました。
ご案内:「翼は未だ羽ばたかず」から橘壱さんが去りました。