2024/07/14 のログ
■武知 一実 >
「ハッ……良い貌すんじゃねえか」
十代の女子がするには獰猛すぎる笑みを浮かべる緋彩。
それが向けられていると思うと体が熱くなる。
そうだ、見ろ!
オレをもっと見てくれ――! 異能の性能じゃない、数値じゃなくてオレ自身を! 身体の内の何処からか、そんな叫びすら聞こえてくる。
並の相手なら打ちのめしてお釣りが来てる連撃も、難無く捌かれる。
それどころか防戦したのは僅か、すぐに順応し攻勢に移る。
オレの攻勢を凌ぎ切った上で、今度はお前の番だと言わんばかりの猛攻。
――ああ、愉しい。 勝てて当然の異能の性能試行じゃない、オレ自身が試されてる喧嘩。
正直勝てるかどうかなんて考える暇も無く、ぶつかり合う事自体が何よりも愉しい。
「くっ、はは、ははははっ!
緋彩!やっぱアンタ最ッ高だ!……一つじゃ足りねえよ!!」
立場が入れ替わり嵐の様な攻勢を受け、躱し、流す。
一太刀対処するその度に心臓は跳ね、興奮は雷を起こし迸る。
神経を走る信号が無理矢理活性化した状態でも、静まり返った思考で次の手を探る。
――以前も受けた、一発が何発にも感じるアレ。アレが異能でも魔術でも無いんなら――
「――こう、かァッ!?」
鋭敏になった感覚を更に研ぎ澄ませ、緋彩の剣技を一か八かで模倣する。
余計な事をする所為で防御に穴が開き、腕や肩やらを打たれるも極度の興奮状態の所為か痛みは今は感じない。
一振りで三撃、それを一対。結局真似出来たのはその程度、だけれども。
■桜 緋彩 >
「!」
目を見開く。
彼が放ったのは明らかに嵐剣のそれ。
才能が無ければ習得に年単位の修行が必要なそれを、この短期間の打ち合いで見た情報だけを元に再現してみせた。
何よりいきなり三つ、しかもそれを両手で繰り出して見せたのだ。
それ自体はこちらも嵐剣で撃ち返して防ぎきるが、しかし一つずつ増やしていくつもりだった嵐剣をいきなり五つまで引き出された。
「お見事!
やはりいい剣士になりますよ、一実どの!!」
叫び、更に回転を上げていく。
相手も嵐剣を扱えると言うのであれば出し惜しみする理由はない。
自身の木刀と五つの剣閃、都合六つの剣閃を矢継ぎ早に繰り出していく。
彼もそれに対応するのならば、もはや二人が打ちあっているとは思えない連続音が響き渡るだろう。
■武知 一実 >
出来たには出来た――が、素面で同じことが出来る自信はない。
異能により神経が励起している今だからこそ出来るのだろう、と割り切っておくほうが良さそうだ。
それに相手は本家本元、猿真似の技で攻略出来るわけも無い。
「さらっと防ぎ切って褒められても、なァ!」
相手はやっぱり天才か、付け焼刃の更に突貫で真似た剣技じゃ話にもならない。
防がれた上に更に剣閃は増え、どうにかオレも凌いでいるがこのままじゃジリ貧なのは明白だ。
……となると、この嵐を掻き消すだけのものが必要になるか。
どうせなら一発、大博打に出てみるのも悪かない。
「緋彩ォ!今からオレの全力をぶつけるからな!……受けてくれよ!!」
きっと緋彩なら凌ぎ切る、そんな確信めいた予感がある。
それでも試したい。試さずにはいられない。
こんな強い剣士にオレが今、どこまで届けるのかを――
上がる呼吸も無視して、体内の電気で強制的に動かされた心臓は更なる雷を呼び、猛る。
生じた雷を木剣に、腕に、肩に。上体全てに回し帯電させ膂力の向上を図る。
それと同時に、初めの方に緋彩から受けた一閃を思い返す。アレぁ一振りに力をムラなく集めた一撃だろう。
またしても見様見真似の、それも劣化になるのは火を見るよりも明らかだが、――今のオレならそこに、雷も載せられる!
「行くぜ緋彩――」
■武知 一実 >
「―――腕!神堕雷!!」
■武知 一実 >
鼓舞雷の時とは違い、順手で握った二刀による現在出来る渾身の振り下ろし。
一瞬とはいえ当然の様に連撃を身体に受けるが、どのみちこの一発を放てば今のオレにはもう、打つ手なし――だ。
■桜 緋彩 >
まだ何かやってくる。
確信めいた予感と、一瞬の溜めに入る彼。
それでも手は緩めはない。
技を出す前に倒し切ろうと言うつまらない理由ではなく。
単純に、隙を見逃すような甘い性格ではない、それだけの話。
「見せて頂きましょう!
武知一実の、渾身の一撃!」
彼の言葉に呼応し、こちらも打ち込みを一瞬だけ止める。
流石に捨て身の一撃に対しては、こちらも防御を無視するわけにはいかない。
脚を前後に大きく開き、剣を下段に構える。
二刀での全力の振り下ろしに対し、こちらはそれらを受けるために振り上げる。
異能でブーストされ、恐らくは神槍も合わせたそれを、
「神槍・十六閃」
十六束ねた木刀で受ける――否、振り抜いた。
自身が出せる限界、十六もの剣閃を寸分違わず凝縮した一閃。
単純計算でも彼の神槍は片方で六閃、異能のブーストを考慮したとしても四閃は超えていなければ勝負にもならないだろう。
それもまとめる技量が自身と同程度、と言う条件の上。
本数と技量、どちらか一つでも足りていなければ、――
■武知 一実 >
雷を載せた振り下ろしの予備動作に対し、緋彩は下段の構えを取った。
防がずに向こうも最大の一閃で相手取ってくれる心算らしい。
――こんなに嬉しい事があるか!?
バリバリと上半身に帯電した雷が立てる音の中、オレは先の緋彩同様の獣のような笑みを浮かべていた――と思う。
見様見真似で試した、力をひとつに集中した振り下ろし。
一度しか見ていない事もあってか、分散する方よりも扱いをものにし切れず、雷の上乗せを付けても緋彩のそれに勝らないのは明白で―――
「ぐッ……っかァー!遠いな、クソッ!!」
緋彩の一閃によって剣ごと弾き飛ばされたオレは、見事なまでに宙を舞って背中から床に落ちた。
呼吸が一瞬止まるほどの衝撃が身体に走ったが、痛みは無い。たぶん、今までの応酬の分含めて後から一気に来ると思われる。
「――オレの全部出し切ったんだ、もう何も出来ねえ。降参だ」
床に大の字で転がったまま、宣言する。
悔しい。悔しいけれど――それ以上にスッキリしていた。
■桜 緋彩 >
木刀二振りを彼ごと弾き飛ばし、残心を残してびたりと構える。
降参宣言を聞いても剣先を彼に向けたまま戦意は切らさず、び、と血振りをするように剣を振った。
その後納刀するように腰に沿えた左手に剣を持ち換えて、一礼。
「ありがとうございました。
――いえ、何度か結構危ない場面もありました」
結果的に全てを受け切ったわけだが、実際ヒヤッとした打ち込みは何度かあった。
何より見様見真似で嵐剣と神槍を再現してみせた彼の才能は並外れていると言って良いだろう。
「ちゃんと鍛錬すれば五閃、もしかしたら六か七ぐらいは打てるようになりますよ」
倒れた彼に近付き、その横に腰を下ろし、正座。
しこたま打ちこんでしまったから、無理に起こすのも良くないだろう。
■武知 一実 >
本来なら立ち上がってオレも一礼すべきなんだろう。
けど全身怠くて指一本動かすのも全力出して出来るかどうかだ。
異能の反動の一つ――というよりは、異能で無理矢理本来以上の身体能力を引っ張り出し続けた反動、だろう。異能の反動はまた別にある。
意識だけははっきりと保ててるが、その分後から痛みが来ると思うと今から気絶しておきたさがあった。
「――こちらこそ、ありがとうございました。恩に着るぜ。
しかしまあ、しれっとしっかり防ぎ切って一発も貰わなかったのによく言うよなぁ」
まあ真剣勝負、しかも手合わせでない場であれば一発が命取りになる事もある。
実戦とも近い場所に居る緋彩にとっては、そうある事が大前提なんだろう。分からなくは無え。
「ちゃんと鍛錬って……道場でってこと?
あー、そいつは遠慮しとく。今回は異能の補助付きで出来た様なもんだし、何より稽古に出る度に緋彩に見惚れちまって、身が入んねえよ」
どうにかこうにか腕を持ち上げてひらひらと振る。
が、パーカーの肘の辺りが持ち上がり揺れるだけだった。袖口は床に届いたまま。
――そう、これが異能の反動。体内で生成した雷を使いまくったおかげで、今オレの体は縮んでしまっていた。
■桜 緋彩 >
「こう言うと偉そうではありますが、経験に差がありますからね。
貰う訳にはいかなかった、と言うことでどうか一つ」
使うつもりがなかった段階まで使わせられた、と言う意味では彼の勝ちと言える部分もあるかもしれない。
とは言えそれを言ったところでどうしようもないし、言えば彼を舐めていることになってしまう。
「そうですね、鍛錬を積み経験を積めば一角の剣士に――は?
あ、いえ、私などまだそんな域には達しておりませんよ」
見惚れる、と言う言葉を剣士としてと受け取った。
恥ずかしそうに手を振って否定するが、彼の言わんとすることが伝わっていないのは明らかにわかるだろう。
「――待ってください、身体が縮んでおりませんか!?
一体どうしてそんな……い、医務室、医務室にすぐお連れしますので!」
彼の腕が明らかに縮んでいる。
腕と言うか身体全体が。
彼の異能について何にも知らないため、焦りのあまり彼を抱きかかえて走り出す。
神槍の技術を応用した、素の脚力の数倍の速度で医務室まで走り抜け、恐らくはそこでやっと反動に付いて聞かされるのだろう。
そうすれば早とちりと安心の入り混じった顔で謝り、彼の怪我は医務室の先生に任せて訓練場に戻る。
後片付けをして、一応彼の様子を見に医務室に顔を出し、しばらく話してから帰ったのだろう――
■武知 一実 >
「経験……ねえ。ま、確かに剣の経験なら緋彩の方が何倍もあるか。
道場主のメンツってもんもあるだろうしな、正直ちょっと悔しいが納得出来ない訳じゃねえよ」
少なくともそれなりに緋彩の実力を引っ張り出せたと思う事にしておこう。
本気だったかどうかは定かでは無えが、いつかまた剣で手合わせ願いたいもんだ。
「………むぅ。ホントにぶちん。
まあ良いけど、当面は遠慮しとく。1年の内に色々なバイトとかしておきてえんだ」
いずれどうしても剣士として鍛えたくなったら門を叩く……事もあるかもしれない。
けどそれまではオレはオレなりに技術を磨きたくあるから、当分はこのままスカウトマンモドキで納まっておこう。
「え、ああ……縮んでるさ。
別にどうってこたねぇ、異能の反ど……ぅ!?」
心配は要らないと説明しようとする前に抱えられた。
安静にしていたから感じにくくなっていた様々な痛みが押し寄せて絶句する。
いや、ホントに痛みで絶句しただけだから。窒息させられかけてるからとかじゃねーから。
ともかくロクに説明も抵抗も出来ないまま、医務室へと運ばれて、ようやくそこで異能の反動について説明出来たのだった。
その後は治療――というか手当てを受け、訓練施設を片付けて戻って来た緋彩と話しをしてから多少回復した体を引きずるようにして家へと帰ったのだった。
え?話をする時に顔を見れなかったんじゃないかって?……うるせーよ。
ご案内:「訓練施設」から桜 緋彩さんが去りました。
ご案内:「訓練施設」から武知 一実さんが去りました。